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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
203/276

4 皇女シャルミユーナ

精霊の友としてもうすぐ発売!


一巻は12月2日発売!

二巻は12月28日発売予定!


詳しくは活動報告をご覧ください!


 握手してほほ笑んだ皇女殿下はオレに言った。


「本来なら跪いて手に口を当てるのだけど握手なんて……。本当のようね」

「この世界の礼儀作法は勉強中だからね。試されているとは分からなかったよ」


 跪いて手にキスをするか、握手するか。差し出された手にどう対応するかで日本人かどうかを見極めようとしていたと知ったオレは、皇女殿下がしたたかだと思った。


「この世界で住んでいると嫌でも猜疑心を持つわ。平和な民主主義社会ではなく、絶対君主制で魑魅魍魎の貴族社会だからね」

「という事は、あんたも転生者なのか?」

「そうよ、私も貴方と同じよ。あ! 前世の事は秘密にしているからちょっと待って頂戴。ルルーファル、クリスハルト様、彼と少しだけ会話する時間をください」


 そう言って、ルルーファルさんやクリスハルトの方を見て言う。オレと話しているときよりもお淑やかな喋り方だ。……立ち振る舞いや話し方がララーシャル並みに奇麗だな。


「ですが、レンブランド様がいつ来るか……」

「ほんの少しで良いから! お願い!」


 皇女殿下が頼むと、二人は渋々承諾した。しかしどこで話せばよいか……。今居る食堂は人が多いし、与えられた部屋は遠いし。


「だったら、声を聞こえなくすれば良いのでしょう。音を遮断すれば声は周りに聞こえないわ」


 ララーシャルの提案でオレと皇女殿下は部屋の隅に行った。……音を遮断するララーシャルとみんなには見えないサクラも一緒に移動する。


「申し訳ありませんが、貴方も距離を取って貰えれば……」

「大丈夫だ。ララーシャルはオレが前世の記憶持ちだと知っている。それに精霊だよ、コレは」

「そうよ、私は一般人が見る事の出来る世界に一人しかいない精霊よ。初めまして、皇女殿下。私はララーシャル、御使いであるトルクの友人よ」


 ララーシャルの自己紹介に表情が強張る皇女殿下。……精霊に驚いたのか、それとも見る事が出来る精霊に驚いたのか?


「は、初めまして、シャルミユーナ・オルネール・ベルンダランと申します。精霊にお目にかかれる幸運に感謝します」

「よろしくね、シャルミユーナって呼んでいいかしら?」

「どうぞ、私もララーシャルと呼ばせてください」


 二人の短い自己紹介が終わり、オレの方を見て言う。


「ちょっと! どういう意味? 貴方があの御使い様!? 前世の記憶持ち転生主人公なの?」

「皇女様の言葉遣いではないな。素なの? それよりもそっちは姫様だから転生ヒロインか?」

「そんな事は良いから! 貴方何者なの!」

「王国出身の平民で戦争に参加して、捕虜になったけど脱走して、なんやこんやで御使いになった。あと初代御使いは日本生まれの転移者です」

「突っ込むところ多すぎ! 説明しなさいよ!」


 最初に会ったときの上品な皇女殿下の猫の皮を脱ぎ捨て、怒りながら問いかける。この怒り方は前世のオレよりも年下と見た! だから年長者として冷静に対処する。……今世はオレが年下だけどね。


「六歳くらいの時に日本でサラリーマンだった記憶を思い出した王国生まれの平民です。」

「私の前世は大学生よ。十歳くらいで思い出して、混乱したわ」


 やっぱり年下か。それも一回りも年下の大学生だったのか。


「オレも混乱したよ。殴られて前世を思い出したからな」

「私の場合は、毒を盛られて死にそうになったときね。あのときは死ぬかと思ったわ」

「そっちもハードな今世だな。オレよりもましだけど」

「こっちはいつ命を狙われてもおかしくない世界よ。私の方がハードよ!」


 今世ハード合戦はいったん終了させ、皇女殿下の質問通り今までの生い立ちを説明する。


「父親が伯爵で母親が平民だから母親と一緒に父親から捨てられて、辺境の村で生活して、途中で男爵家に拾われて、回復魔法が使えるから戦争に参加して、負けたから捕虜になって、鉱山収容所で地獄見て、収容所脱走したけど、命を狙われてギリギリの所で先代御使いに助けてもらって、御使いの才能があるから御使いになった。簡単に言うとそんな感じだな」

「貴方、苦労したのね。……そっちの方がハードかもしれないわ。私の場合は毒を盛られて、その苦しみで前世の記憶を思い出したの。思い出した後は凄く大変だったわ。思い出す前の私は、我が儘放題のクソガキだったの。それも権力を持っているからやりたい放題の嫌われ者。そんな子供だったから、信頼を取り戻すのに三年以上の時間がかかったわ」

「そっちも大変だったんだな。マジで……」


 皇女殿下もオレに今までの苦労を力説する。この子も大変だったんだな。


「大変だったわ。勉強に礼儀作法に音楽にダンスに、他諸々の習い事。嫌われている侍女達に信頼されるように振舞い、太った体重をベスト体重に戻すためのダイエット、両親や兄達に不審がられない様に少しずつ理由を考えながら性格の矯正をして、やっとの思いで皆に愛される姫様になったのよ!」

「あんたも苦労したんだな……。オレの場合は昔のオレを知っている人は母親しか居なかったから、その辺はさほど苦労してないけど」


 再度、オレ達は握手で友情を深める。しかしオレ以外にも転生者がいるとは思わなかったよ。


「改めて自己紹介をするよ。オレはトルク。普通にトルクと呼んでくれ。オレはシャルミユーナ様って呼ぶけど良いか?」

「出来れば、シャルって呼んで。家族や親しい人達はシャルって呼ぶわ。でも人前ではシャルミユーナって呼んで頂戴」

「分かった、シャル。それから音を遮断しているのが半精霊ララーシャルで、見えないけど側に居る精霊がサクラ。サクラは初代の御使い、田中雷音さんの友人だ」

「……田中ライオンさんね。初代御使いって確か数百年前の人よね。私達以外にも前世の記憶を持っている人が居たなんて……」

「雷音さんは転移者だぞ。神隠しに遭ってこの世界に来たそうだ」

「そうなの……。三人も前世持ちの転生者がいるなんて……」


 シャルってば勘違いしてない? 二人転生者で、一人転移者だぞ?


「ちょっと勘違いしてない? 転生者は……」

「ルルーファル! こっちに居ると聞いて来たぞ! おや! 我が妹も居るではないか! 久しぶりだな」


 しまった! 変態皇子に見つかった! シャルも失敗したって顔してるし、ルルーファルさんがクリスハルトの後ろに隠れて震えていそうだ。

 変態皇子はクリスハルトの側に行こうとしたが、シャルがその進路を塞ぐ。


「レンブランドお兄様、ルルーファルが怖がっていますので、近づかないでください」

「しかし、近づかないと愛をささやく事が出来ないではないか。……おお! ララーシャル殿、お久しぶりです! 貴方のドギャ!」


 変態皇子がララーシャルに話しかけようとした瞬間、ララーシャルがビンタ? いや掌打を放った! 奇麗に顎を打ち抜いたその一発で気絶して倒れた変態皇子。


「あらら、興奮して気絶したみたいね。とりあえず寝かせた方が良いわよね」


 そう言って窓を開けて変態皇子を浮かせ、外へ投げ捨てようとするララーシャル。


「待て、ララーシャル! お前が動かなくて良いから! クリスハルト! 皇子様を一番遠い客間に寝かせろ!」

「分かった! 任せろ! 責任もって客間に隔離しておくから!」


 そう言って浮いている変態皇子を背負って食堂から出る。……一気に疲れが押し寄せる。ため息が出そうだよ。


「ララーシャル、素晴らしい打撃でした。そしてルルーファルを救って頂いて感謝します」

「気にしないで頂戴。トルクと同郷の友達が困っているなら助けるのは当然よ。トルクの友人だったら私の友達だからね」

 

 シャルが皇女様モードでキレイな御辞儀をしながらララーシャルに言う。それに負けずとララーシャルも皇女様モードの微笑みを返す。

 サクラも「私も! 私も友達よ!」と言っているが聞こえないから後で伝えておこう。しかしララーシャルの掌打は凄かったな。一発KOとは。


「ジュゲムから護身術としてならったの。ジュゲムは初代から教えてもらったそうよ」


 ……毎度の事だけど、雷音さんの特技の幅が広い。どんな人生を歩んだ人なんだ? 


「シャルミユーナ様、ララーシャル様、助けて頂いて感謝致します。私はどうしてもレンブランド様が苦手で……」


 泣きそうな表情で話すルルーファルさん。オレはクリスハルトと変態皇子が出て行った食堂の廊下を見る。クリスハルトは使用人に変態皇子を渡し、客間の用意を指示する。そして公爵さんも来て、状況を説明している。

 ベルリディアはルルーファルさんの所に行き慰めようとする。オーファンはオレと一緒に廊下のクリスハルト達の所に向かった。


「トルク殿、オーファン。今回は災難……と呼んでよいのか分からないが、迷惑をかけた」

「いえ、こちらこそ、ララーシャルが申し訳ありませんでした」

「ララーシャル殿なら問題ないだろう。精霊に文句を言う皇族はいないからな」


 そう言って、食堂の中の女性陣の方を見る公爵さん。皇女殿下を中心に皆でルルーファルさんを慰めている。


「ルルーファルはシャルミユーナ様の保護下で何とかレンブランド様から守る事が出来ているが、シャルミユーナ様が後宮から出たら、ルルーファルを守る事が出来なくなる。後、三年だが、この先どうなるか……」

「そうですね……」


 公爵さんとクリスハルトの会話が聞こえた。シャルミユーナも何かあるのか? その事を公爵さんに聞いてみた。


「シャルミユーナ様もずっと後宮に居る訳にはいかないのです。シャルミユーナ様は十五歳で来年には成人します。成人して結婚したら後宮から出るでしょう。そうしたらルルーファルも学友を辞め、男子禁制の後宮から出て公爵家に戻る事になります」

 なるほど……。タイムリミットは三年だけど、一年後にシャルミユーナが成人して結婚して後宮から出るかもしれないから、変態皇子から狙われ、捕らわれる可能性があるのか。


「……何か良い方法は無いのでしょうか?」

「皇族よりも権力を持った者が婚約者になれば……」

「もしくはレンブランド様の情報網から逃げる事が出来れば……」


 オーファンの呟きに公爵さんとクリスハルトが答える。


「両方難しそうだな。次期皇帝と結婚したらどうだ? 後は王国側に身を潜めるか」

「次期皇帝に娘を嫁がせる事はしない。それからレンブランド様は王国側にも情報網を持っているらしいので逃げる事は無理だな」


 オレも逃げる方法を提案してみたが、公爵さんからダメ出しを食らう。……逃げるのが駄目なら立ち向かう方法を考えるか? ……相手が強いから無理かな?


「とりあえずレンブランド様の目が覚める前に、ルルーファルを後宮に戻さないと」


 ルルーファルさんを慰める女性陣を見ながら公爵さんは言う。確かに変態皇子のほとばしる熱意ならすぐに覚醒しそうだけど……。


「半日は目覚めないわ。しかしララーシャルがマジで放った掌底を受けて半日で起きるなんて。普通の人なら二日は寝込むわよ」


 ……サクラの言葉を公爵さん達にそのまま伝える。クリスハルトが「……半日か」と呟き、ため息を吐く。大の大人が二日間寝込む打撃を受けて半日で起きる変態の熱意は、物理的な衝撃は受け付けないようだな。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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[一言] Kindleで書籍買いました。 応援してます
[気になる点] どの物語でも変態は無駄に高スペック(・_・
[一言] 昔のキャラは3秒で復活したものだ・・・ うる星のあたるとか、八神くんとか
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