3 プリンを作った料理人
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デザートに満足した皆は余韻を味わっている。オレはというと誰が作ったのかを考えて、余韻を味わう余裕はなかった。
「このプリンを作った人は、いや発明した人は誰ですか?」
ルルーファルさんに聞いてみる。
「申し訳ありません。教える事が出来ないのです」
「それは何故ですか?」
「……申し訳ございません」
教える事が出来ない。どうしてだ? オレや雷音さんのような人間が居る可能性があるのに! どうして教えてくれない?
「お願いします! どうしてもその人にお会いしたいのです!」
何度も頼むけど、ルルーファルさんは難しい表情をして、「教える事が出来ない」と言う。
……なら相手からこちらに興味を持ってもらうか。
「でしたら、作った人に伝言をお願いします」
「それでしたら……」
「次は焼きプリンを、それかプリンアラモードが食べたいと、お伝えください」
プリンを作った者だったら意味が分かるはずだ。誰も知らないプリン知識を知っている人間が居る事を!
「焼きプリン? プリンアラモード?」
ルルーファルさんも知らないプリン知識だ。これなら作った人間はきっとオレの事に興味を持ち『どうして知っているのか?』を知る為に会いたいと考えるだろう。
「はい、プリンを作った人には私の事は公爵家の客人と伝えて貰えれば」
念のために、敵の可能性もあるからな。情報は少ない方が良いと思う。御使いとか教えないでと、ルルーファルさんに頼む。
「分かりました。伝えておきます」
「よろしくお願いします」
ルルーファルさんに伝言を頼んで、空になったプリンカップを見る。……相手がオレに興味を持ってくれたら。オレと同じ前世を思い出した人間なのか? それとも雷音さんと同じ転移者なのか? ……どっちだろうか。
「どうしたの? トルク。難しい顔して。サクラもどうしたの?」
ララーシャルがオレに聞いてくる。サクラもオレと同じ表情をしているので疑問に思ったようだ。
「……説明が難しい。後で説明するよ」
「分かったわ」
ララーシャルはオレの言葉に何か感じて承諾する。……オレと同じだったら、精霊が見える御使いの才能もある可能性もあるかもしれないな。食後のお茶を飲みながら考える。
食堂の外が少し騒がしい。……どうしたんだ?
「お待ちください! レンブランド様! 勝手に入ってもらっては!」
「安心してくれ! 公爵に会うだけだ! そのついでに結婚の許可を貰うだけだ!」
「ですから、客間でお待ちください! デックスレム様をお呼びしますので!」
「公爵の所に私の婚約者も居るのだろう! 会って愛の告白をしたいのだ!」
「ですからお待ちください!」
あ~、変態皇子が乱入する一歩手前だな。公爵さんは頭を抱え、ルルーファルさんは動揺し、クリスハルトは席を立って食堂を出ようとするが、オレがクリスハルトを止める。
「クリスハルト、ちょっと待ってくれ。サクラ、この部屋全員に認識除外の術をかけてくれ」
サクラがオレ達に認識除外の術をかけると変態皇子が食堂に乗り込んで来た。ギリギリセーフ。
サクラはオレ達の姿だけではなく、テーブルに載っている食器すらも消して見えなくしている。
「……誰も居ない。どこに行った?」
「ですから客間でお待ちください!」
誰も居ない食堂。テーブルにはオレ達が座っているのだが、変態皇子には見えない。喋らないようにとオーファンとベルリディアは手で口を塞ぎ、ルルーファルさんは何が起こっているのか混乱しているが、公爵さんが小声で説明している。
「……おかしいな。ルルーファルが屋敷に帰ったと聞いたのだが……。公爵にプリンを食べさせると」
「デックスレム様をお呼びしますので、客間でお待ちください」
執事長のポーラスさんに連れられて食堂から出て行く変態皇子。しだいに静かになり、食堂も静寂が訪れる。
「行ったかな?」
「大丈夫だろう。トルク、助かった」
オレの独り言の様な言葉にクリスハルトが肯定する。
「こっちも皇子様に会いたくなかったからな」
あの変態皇子に会ったらララーシャルが不機嫌になるからな。サクラに認識除外の術を解いてもらってため息をつく。お茶を飲んで更にため息。
「トルク殿、助かった、感謝する。すまないがレンブラント様の相手をするからしばらく食堂に隠れていてほしい」
そう言って公爵さんは食堂から出て行った。
「これが御使い様の御力なのですか……」
「精霊のサクラが使った魔法は、変態から隠れる事が出来る認識除外の術です。他にも忍び込みにも使えます」
情けない説明だな。かくれんぼで必ず見つからない術が精霊の御力って。
「助けて頂いて感謝します、トルク様」
「こっちにも事情がありますから。だからララーシャル、……どうした?」
ララーシャルに「変態皇子を半殺ししないでくれ」と言おうとしたけど、窓の外を見ている。
「……誰かが来たわ。シャルミユーナって子が、第二皇子を回収に来たって言っているわ」
「シャルミユーナってルルーファルさんのご学友の帝国の姫様の名前だよな」
「そうね、その皇女様が来ているわ」
「……皇族ってフットワークが軽いな」
オレとララーシャルの会話に驚いているルルーファルさん。クリスハルトも驚いて頭を抱える。……どうすれば良いのだろうか?
「……どうする?」
オレが皆に聞こえる様に言ったが誰も答えない。
「とりあえず、食堂に待機しておくか。お茶でも飲んで落ち着こう」
「そうだな……」
オレがお茶を淹れなおそうとしたら、ルルーファルさんが「私が淹れます」と言ってお茶の準備をする。公爵令嬢に淹れてもらえるとは光栄だな。クリスハルトは食堂の外で待機している使用人に何かを伝えている。きっと皇女殿下に関する事だろう。
公爵令嬢が淹れたお茶を飲みながら、クリスハルトに今後について聞く。
「父上がレンブラント様を追い出すまで待機だな。シャルミユーナ様が連れて帰ってくれるはずだ」
「シャルミユーナ様は私をレンブラント様から守る為に学友にして、男子禁制の後宮で暮らせるようしてくださったのです。何度も助けて頂いて……」
聞くところによると、変態皇子から逃げる為に、初めは公爵領へ身を移す予定だった。しかし公爵領は皇都から近く、皇子の魔の手から確実に逃れられるとは言い難かった為、祖母がいる遠いラスカル男爵領へ身を隠そうとした。が、シャルミユーナ様が学友として後宮に住まわせると言って助けてくれたそうだ。
そしてルルーファルさんはシャルミユーナ様の保護下に入って、変態皇子から守ってもらっているそうだ。
「お父様や兄上が帝都に来るから、シャルミユーナ様がお土産としてプリンを持たせてくれたのに……。却ってシャルミユーナ様に御迷惑をおかけしました」
悲しそうな表情で話すルルーファルさん。ララーシャルとベルリディアが慰めているけど、効果はあまりない。男性陣は何も出来ずに見守るだけ。
「……ならクリスハルト、どうすればルルーファルさんを魔の手から守る事が出来るんだ?」
「皇子の守備範囲である十八歳以上になる事だな。あと三年だけ逃げる事が出来たら……」
オレの質問にクリスハルトが答える。ルルーファルさんは十五歳か。
「レンブラント様以外の方と婚約をされては?」
「二回目の結婚のときは婚約者がいた女性だった。しかし皇族の権力を使って婚約破棄させた」
オーファンの質問に答えるクリスハルト。どうすれば良いんだ? 三年間、逃げ続けないと駄目なのか?
解決策が出ないので沈黙する男性陣。泣きそうになるルルーファルさんを慰める女性陣。
……食堂のドアからノック音が聞こえた。サクラに認識除外の術をかけて貰おうと思ったが、
「ロックマイヤー公爵からこの部屋で待つように言われました。入室して良いですか?」
ドアの外から聞こえる女性の声に、クリスハルトとルルーファルさんの表情を変えた。
「シャルミユーナ様!」
「ルルーファル! 無事ですか?」
ドアを開けようとするルルーファルさんを止めるクリスハルト。クリスハルトがドアに近づいて、
「シャルミユーナ様、レンブラント様は近くにはいませんか?」
「その声はクリスハルト様ですね。レンブランドお兄様はロックマイヤー公爵に説教されています」
変態皇子が近くに居ない事を確認したクリスハルトはゆっくりとドアを開ける。開けたドアには腰までありそうな長い金髪の美少女が立っている。それにララーシャルに似ているな。
「ルルーファル! 無事ですね、良かった!」
「シャルミユーナ様、申し訳ございません」
ルルーファルさんが皇女さんに頭を下げようとしたが、皇女殿下がそれを止め、慰めるようにルルーファルさんを抱きしめる。慈愛に満ち気品あるこの女性が、帝国の皇女殿下か。
「シャルミユーナ様、屋敷に来ていただいて感謝致します。レンブランド様を連れ戻しに来てくださったのですか?」
「いえ、連れて帰るのはルルーファルです! 公爵が時間を稼いでいるので、その隙に私がルルーファルを後宮に連れて行きます。ルルーファル、急いで準備を!」
クリスハルトの質問を皇女殿下は否定した。変態を連れ帰るのではなく、ルルーファルさんを助ける為に来てくれた。ルルーファルさんは涙を拭いて、準備をする為に行動しようとする。
「ルルーファル、荷物は後で届けるから急げ!」
「大丈夫です、すぐに行けます。トルク様、ララーシャル様、オーファンさん、ベルリディアさん、お兄様、お持て成しが出来なくて申し訳ございません。今度はゆっくりお会いしましょう」
「そんな心配をしないでくれ。私達は大丈夫だ! シャルミユーナ様、妹をお願いします」
「ご無事をお祈りします」
クリスハルトやオーファン達が別れの挨拶を言う。オレも挨拶を、
「ルルーファルさん、御無事で、それからプリンを作った人の伝言お願いします」
「はい、焼きプリンとプリンアラモードですね」
オレとルルーファルさんの別れの言葉を聞いて、皇女殿下がオレ達を見る。……どうしたんだ?
「トルクさんと言ったかしら。貴方はどこでその言葉を聞いたのですか?」
皇女殿下の声が震えている。……まさかこの人が作った張本人? いや待て! 皇女が料理なんて……。でも口止めの理由が皇女だから? プリンを知っているならこの言葉を分かるはずと思って皇女殿下に言った。
「コンビニのようにプリンの種類が多いと良いなって思っただけです」
オレの言葉に驚く皇女殿下。確信した! この皇女殿下がプリンを作った人間だと。
「貴方はどうしてコンビニを知っているの? コンビニの意味をしっているの? 何者なの!」
ルルーファルさんから離れて、オレに近づいて問いかける。
「名前はトルク、元日本人だ。あんたは?」
オレの短い小声を聞いて目を見開く皇女殿下。深呼吸して呼吸を整え、オレに言った。
「私も貴方と同じよ。初めまして、トルクさん」
皇女殿下が手を差し出して来たので、こちらも手を出して握手を交わした。そのときの皇女殿下はとても嬉しそうに微笑んでいた。
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