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精霊の友として  作者: 北杜
二章 下人編
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閑話 男爵家文官の回想録2

「失礼します、クレイン様。ただいま戻りました」


クレイン ルウ ウィール男爵。まだ若いが武術・学問にもたけ、領地を大事に思っている御方だ。先代が戦争で亡くなり、若いクレイン様が後を継いだ。先の戦争でも武勲を上げて領民から慕われている。


「レオナルド、戻ったか。新しい領地はどうだった?」

「はい、やはり前管理者が村々で税を多めに取っていたようです。今年から税を元に戻しました。今年の作物は豊作でしたので来年も期待出来るかもしれません」

「そうか、新しい領地の事はレオナルドに任せる」

「はい、了解しました。それから辺境の村で良い人材を見つけました。文字が分かり魔法が使える八歳の子供です。今から上手く育てれば男爵家の為になるでしょう」

「八歳の子供が魔法を使えるのか?私の子供達も八歳で文字も魔法も覚えているが本当なのか?」

「はい、ここに帰るときも魔法を使っていました。食事の時は火魔法でたき火を作り、馬の世話をするからと言って土魔法で土の桶を作り、水魔法で桶に水を入れて馬に飲ませる等、魔法を使いながら帰ってきました。高等な算術も出来て私が戯れに出した問題にも答えていました」

「ちなみにどんな問題だ?」

「一から十五まで足してからそれを三等分してその答えを五倍にした数字はいくらか?という問題です」

「待て、それは王国学校の高等課程の試験問題ではないのか?」

「はい、私が高学年時に受けたときの問題ですね。それをあの子は正しく答えました」

「信じられんな、辺境の村でそんな教育が出来るわけがない」

「子供の母親は男爵家の養女でその者から文字と魔法の教育を受けていたそうです」

「……それでも頭が良すぎるぞ。しかしどこの男爵家だ?」

「アイローン伯爵領のヴァング男爵家です」

「隣の伯爵領の男爵家か……」

「はい、去年から不幸が続いていると聞いています。辺境の村がウィール男爵領になったのもその一環です」

「アイローン伯爵領は残念ながら不運続きの様だ。しかし我が領内は現在は幸運に恵まれているな」

「そうですね、一昨年から豊作続きで盗賊等の輩も減り、天候にも恵まれています」

「話を戻すがその子供をおまえはどうしたい?」

「出来れば私の右腕にしたいと思います。クレイン様の許可を頂ければ収穫祭の後に男爵家で色々と教えたいと思っています」

「……収穫祭の後か。現在は何をしているのだ?」

「今は農園でゴランに教育を頼んでいます。最初は農園の事を分かっていた方が良いはずです」

「そうか、では収穫祭の時に私もその子を見てみよう。それから判断をする」

「はい、ありがとうございます。では失礼させていただきます」


クレイン様と別れて他の用事をすませていたらもう夕方になり周りも暗くなっている。私は急いでゴランがいる農園へ向かう。


「ゴラン、遅くなってすまない」

「レオナルド様、大丈夫ですよ。どうしましたか?」

「今日連れてきた子供の件で少し話したい」

「トルクというガキですね。なかなか元気なガキですが農園の労働には耐えきれないでしょう。大人の労働力が欲しかったのにどうしてガキを連れてきたんですか?」

「あの子供は文字が書けて計算が出来て魔法が使える。キチンと教育をしたら男爵様の為になるから連れてきた。農園の仕事も教育の一環だ。収穫祭までに農園の事を教えてくれ。収穫祭後はクレイン様の家で勉強をさせる予定だ。クレイン様のお子様達にも良い遊び相手になるかもしれない」

「あー、明日は農園にいますが、その後から一週間くらい労働力を探しに出ますが大丈夫でしょうか?」

「農園の事を勉強させれば問題は無いだろう。とりあえず頼んだぞ」

「はい、わかりました」


よし、これで大丈夫だろう。私もこれからの事を考えないといけないな。




男爵領に戻って数日後、ゴランから面会の連絡が入ってきた。


「ゴランです、失礼をします」

「どうした、労働力は確保できなかったか?」

「いえ、労働力の農奴は確保しました。今回はトルクの件で伺いました」


トルクの件?なにかしたのか?


「私が農園から出ている間に森の近くにある荒地を一人で畑にしたようです」


森の近くの荒地?あの辺の土地は草が生えて石や岩も多くて大変だから農奴に畑にさせる荒地だよな。今の人数では荒地を畑にする事が難しいから、農奴を確保するためにゴランが出て行ったのに、なんでトルクがその荒地を畑にした?


「私が出ている間に農園の勉強をさせるため、私の班に頼んだのですが、何かの手違いでカロウの班になったようです」


……カロウ。たしか男爵家と取引のある商人の子供だ。罪を犯したから償う為に農園で仕事をしているが、性格が悪くて農園の新人を虐めたり殴ったりしていると報告を受けていた。そんな人間の下に付けたのか。


「私が戻って来たら荒地が畑になっていたので理由を聞いたら「命令通り一週間で畑にしました。だから昼飯をください」とカロウの命令であの荒地を畑にしたようです。それも昼飯は取らずに仕事したようです。水汲みから食事の準備等、班で行う共同作業もトルク一人でしていました。それから食事も粗末な物しか食べていなかったようです」


そんな環境で良くあの荒地を畑にしたな。


「カロウの班は罰として農園の作業と森の開拓、荒地を畑にする作業をさせます。よろしいでしょうか?」

「食事の量も減らして監視しろ。それからトルクは大丈夫なのか?」

「体調は問題ない様ですが食事が少なかったので少し痩せたくらいでしょう。これからはきちんと食事を食べさせます」


トルクの事だから森でサウルを捕って食べていたかもしれないな。


「しかしレオナルドさんが連れてきたトルクはすごいですな。あの荒地を一週間で畑にするなんて一人で大人十人分の仕事をしてますよ」

「だがまだ子供だ。あの子は私の右腕にする予定だから農園にはやらないぞ」

「了解しました、では失礼をします」


……今回の件もクレイン様に報告をするか。




季節が変わり収穫祭の時期がきた。今年は去年以上の豊作でクレイン様の表情も明るい。それに他の村々も悪くない出来だと聞いている。トルクがいた辺境の村が少し悪いが領地内は近年稀にみる作物の出来だった。

農園の収穫祭にはクレイン様と一緒に参加をする。クレイン様が乾杯の音頭をとってみんなが飲み食いをはじめる。

その後ゴランがトルクを連れてきてクレイン様に紹介をする予定だ。クレイン様の目にかなえば良いのだが。

待てよ、クレイン様の目にかなったらトルクが私の右腕にはならないかもしれない。それは少しばかり困るな。

おっとゴランがトルクを連れてきたか。


「お前がトルクか?お前の事はレオナルドとゴランから聞いている。なかなか見どころがあるそうだな」

「初めまして、ご紹介に預かりましたトルクと申します。農園の経験等はありませんが皆様にご指導・ご協力をいただきながら精一杯頑張っております。ご迷惑をおかけすることもあると思いますがよろしくお願いします」


トルク、お前は礼儀作法も習っているのか。どんな教育をすればこんな子供が出来るんだ?


「良く教育をされているな、親から習ったのかな?」

「はい、母親や知人からいろいろと勉強をしました、まだ未熟ではありますがご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します」

「うむ、励むように」


クレイン様もトルクを気に入った様だ。まずは合格だな。


「久しぶりだなトルク。元気でやっている様だな」

「お久しぶりです。レオナルド様もお変わりなく、お元気そうでなによりです」

「農園の仕事も慣れたようで何よりだ。お前を連れてきた甲斐があったぞ」


これからは農園の仕事ではなく私の仕事を手伝ってもらう予定だからな。鍛えてやるから覚悟しろよ。


「近いうちにお前の出身の村に行くが伝言はないか?」

「母親に手紙を出したいと思います。村に届けて頂ければ幸いです」

「分かった、手紙を書いたらゴランに渡しておけ」

「ありがとうございます、では急ぎ手紙の準備をします」


慌てて何処かに向かったぞ、たぶん手紙を書くために戻ったのだろう。しかし。


「ゴラン、手紙を書く紙はあるのか?」

「いえ、基本的に紙はこの農園には置いていません」

「母親に手紙を送ってもらえるのがよほど嬉しかったのだろう。やはりまだ子供だな。レオナルド、すまんが手紙用の紙を持ってきてくれ。母親の返信用の紙も一緒にな」


なるほど、トルクの為に返信用の手紙も用意する。クレイン様は優しい方だ。

一礼をして紙を取ってくる。紙を取って戻ってくるとクレイン様とトルクが話している様だ。礼儀作法の様だな。


「なら、礼儀作法を習ってみるかい?トルク。それから紙と書く物を持って来たぞ」


私も話題に入る。この子なら礼儀作法を直に覚えそうだな。


「農園の仕事がありますのでこれ以上は勘弁してください」

「そうか?私は出来ると思うが。農園の者に文字を教えているのだろう?時間は作れるのではないかな?」


ゴランの話だと農園で働く人間たちの為に勉強会を開いてトルクが教師役をしている。「分かりやすくて覚えやすい」とゴランも自慢げに話していたがどんな教え方をしているのだ?


「それは良い考えだ。私の子供達と一緒に習わせてみるか。競争相手がいる方が良いかもしれないな。エイルドもやる気が出るかもしれない」


クレイン様それはトルクを御子息の側仕えにされるのですか?私の仕事を手伝わせるのではなくて。


「クレイン様、トルクは私の仕事を手伝わせる予定ですよ」

「安心しろ、レオナルドの仕事も手伝わせる。トルクはエイルドの良い友人になってくれるかもしれないし、習い事も一緒にしたら成長するだろう。男爵家の為にもトルクを今日から家に住ませて教育をさせよう。男爵家の為に育ててくれ。レオナルドは家に住ませる準備をしてくれ」


……困った事にトルクが優秀すぎたか。


「ではレオナルド、ゴラン。後を頼むぞ。トルクまたな」


今からトルクの部屋を準備しなければならない。私の部屋に住ませるか?まだ早いな。男爵家の事を知ってもらうには私ではなく他の使用人の方が良いかもしれない。私は男爵家にいない日もあるからな。


「はぁ、私は先に戻って準備をする。後の事は頼んだぞ、ゴラン」


どうしてこうなった。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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