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実の父親から家を追い出され、母親と一緒に長い旅をした。
途中まで馬車で旅が出来た幸運もあったが、ずっと乗り続けられるはずも無く、その後は徒歩。体力が無い子供だが母親に手を引いてもらって一生懸命歩く。
やっと母親の故郷の村に着いた。
しかし村人からの腫物を見るような視線が痛い。オレ達はまだ何もしていないよ。母親は村人達から何か恨まれる事をしたのか?
そのうち大きい家に着いた。家の場所や大きさから、おそらく村長の家なのだろう。母親と一緒に家の中に入ると、いきなり物が飛んできて地面で割れた。
飛んできた茶碗と思われる物の破片を見ながら「もったいねー」とつぶやく。
早口で喋る、村長と思われる老人が、母親に向かって罵詈雑言を浴びせている。何を言っているのか分からない、方言?と思いながら右から左へ聞き流す。
どのくらい老人は喋っていただろうか?長い時間喋っていた様だが、簡単に説明すると「村から出ていった娘が何しに戻ってきた。お前の居場所は此処にはない。村の外れに住ませてやるからありがたく思え」との事。
母親に罵詈雑言を浴びせ切った後、村長、母親の親だからオレにとっては祖父がジロリとオレを見る。まるで悪人を見るような眼だ。オレは父親似だから父親の面影が憎いのかな?「おじいちゃん」と呼んだら殴られそうな眼だな。孫をそんな極悪人を見る様な目で見ないでほしいというのが今のオレの願いだ。
とりあえず母親の手を握って怖がっておこう。六歳児だから大丈夫だよね、殴ったりしないよね。
心の中でビクビクしながらおじいちゃんを見ていると祖父はオレを見下しながら「村はずれの小屋に連れていけ」と近くにいた男の人に言った。
案内をしてくれている男の人は母親の弟の様だ。母親を姉さんと呼んでいる。ということはオレの叔父さんか。優しそうな叔父さんで良かった。
村はずれの小屋はもともと狩人の小屋として使われていたらしいが、現在は使われておらずかなりボロかった。
オレは叔父さんと一緒に何とか住めるように家を直す。今が暖かい季節でよかった。冬なら間違いなく壁の穴からの風で凍え死ぬだろうと思われる。それに早く壁の穴を直さないとプライバシーが守れないよ。
とりあえずの応急処置も終わり、さぁ明日から村での生活を頑張ろうと思った矢先に母親が倒れた。
叔父さんが慌てて母親をベッドに寝かせる。「どうやら旅の疲れが出てきたようだ、少し休めばよくなるよ」とオレに優しく言う。とりあえず母親を寝かせ、オレは部屋の掃除を始める。
叔父さんは「明日の朝に日用品を用意してくる」と言って一旦自宅に帰った。
母親が寝言で妹の名前をつぶやいている。肉体的・精神的にも弱っているが大丈夫かな?
妹の事は気になるが、今は生活基盤すら整っていない。後で改めて考えよう。貴族の家だし、将来政略結婚に使いたいのなら、ある程度の待遇は受けられるはず、大丈夫と思いたい。
此処には居ない妹よりも、目の前の寝込んでいる母親の心配をするのは間違っていないと信じたい。
村での生活二日目。
母親は隣で寝ている。起こさないようにゆっくり動いて起きる。
家の外に出ると叔父さんがこちらのほうに向かって来ている。背負った籠には日用雑貨がたくさん入っている。
ありがたいことです。叔父さんに挨拶をしてお礼を言う。叔父さんはオレの頭を撫でながら母親の体調を聞いてくるので「母親はまだ寝てるけど昨日よりも良くなったよ。あと水を汲みたいから井戸の場所を教えてください」と言うと叔父さんは困った顔をしてオレに言った。
「村長、叔父さんの父親の命令で君たちは井戸が使えない、だから川から水を汲まないと。場所を教えるから桶を持ってくるように」
「川は遠いのですか?」
「あの山の向こう側だ」
子供の足には少し遠いようだ。村長の祖父よ、なんて命令を出したんだ。いじめか、いじめだろう、いじめなんだな、ちくしょう。叔父さんと一緒に桶を持って水を汲みに行く。
水を汲んで家に戻るのに昼までかかった。オレが何回か休みをとった事が原因だが、川まではとても遠かった。
水汲みから戻ると母親は起きてオレを探していたようだった。起きたらオレがいなかったから家の周りを探していたらしい。
伝言を残しておけばよかったな。叔父さんと一緒に川に水を汲みに行った事を話したら
「水くらいなら魔法で出せるわ」
母親はそう言うと、あっという間に魔法で桶に水を貯める。頑張って水を汲みに行ったオレの労力を返せ。あと魔法教えてください。
昼からは雨が降り出したので、母親に勉強を教えてもらった。文字の読み書き、算数、魔法の勉強だ。特に魔法は大切だ。川までの距離はきついから先に水を出す魔法を教えてもらおう。
魔法とは魔力というものがないと使えないらしい。魔力を持っている人、もっていない人が居るみたいだが、幸いオレは魔力を持っている。
魔力を感じ、魔力を変化させる事で魔法となる。水・火・土・風・光・闇と属性があり属性に変化して放出するとの事。
聞けば簡単だがやると難しいらしい。特に光・闇は使える人が少なく母親も使えない。
まずは魔力を感じることから始めよう。
前世の知識を舐めるな。丹田に意識を集中して感じるのだ。考えるな、感じろ。
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