プロローグ
12月2日により『精霊の友として』一巻発売決定!
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帝国の皇族が住む皇都。先代の皇帝は過激派で王国と戦争ばかりして、災害が起きたときは財政が破綻寸前までに陥り、現皇帝は戦争よりも復興を是として帝国を立て直す。そして次期皇帝候補達は先代皇帝の遺志を継ぎ、王国に攻め入り、難所である二つの砦を奪った。
砦を奪って、その勢いに乗じて近隣の領土を攻め込み、王都まで攻め込む予定だったが、帝都で混乱が起きる。
一つ目は先代皇帝の隠し子がいた事により、皇族・貴族達が混乱した事。
二つ目は皇位継承順の変更の可能性が出たので、水面下で皇位争いに動いていた貴族達を更に混乱させた事。
三つ目は口を閉ざしていた先代皇帝が体調を崩して臥せった事で、変な憶測が飛び交い、帝都が内乱寸前にまで陥った事。
皇位継承をめぐって帝都で争いが勃発しそうな一歩手前で、現皇帝が待ったをかける。
「次の皇帝の座は帝国を誠に思う者に授ける。帝都で争いを起こす者ではない」
皇帝が出したこの声明のお蔭で一旦は帝都での闘争が収まったかに見えた。しかし帝位継承の条件が曖昧なものであった為、皇族や貴族達は、『皇帝の言う通り帝都で争わなければよいのだ』と帝都外で争う事になった。その結果、王国に更に攻め込み戦果を挙げる者達、帝都に居ない先代皇帝の隠し子を獲得しようとする者達、先代皇帝の隠し子を皇位継承戦に参加させようと画策する者達。
皇帝が『次期皇帝は皇妃所生の男子に限る』とでも言えばまだ問題が少なかったのだが、皇妃の長男は病弱、次男は性癖に難あり、三男は女性不信。能力的に一番まともな次男のレンブラント皇子は『トップよりもトップを補佐する方が性に合う』と言い、次にまともな三男は子供時代に中年女性に襲われた事があり、『女性を信頼できないので子供を作らず一生独身を貫く』と言う。長男は体調不良でベッドで寝ている時間が多く、公務を出来る体力が無い。
このように皇妃が生んだ皇子達は継承争いから外れていると噂されているので、彼らより継承順の低い側室の皇子達や皇族の者達が、チャンスとばかりに皇位継承戦を仕掛けてくるのはもはや必然である。
皇妃には女子も居るが、女性は皇帝にはなることは出来ない。長男が回復すれば一番良いのだが、幼い時からすぐに体調を崩して寝込みがちな体では、皇帝の重責を担うことは難しいだろう。
そこに先代皇帝の隠し子が見つかった。男子であったら継承順は上位になるだろう。その結果困るのは継承順の低い側室の子供達だ。だから母親の実家の貴族に誘拐暗殺を頼む。貴族達はその隠し子を利用、又は暗殺する為に動いた。
だが、隠し子の母親と言われているファーレンフォール伯爵家当主の妹は皇族に保護され、子供達はロックマイヤー公爵家に保護されており、どちらも手出しが難しくなった。
帝国の騒乱を止める方法は皇帝が後継者を決める事だ。しかし皇帝は動かず、この騒乱を通して後継者を見極めるかのように静観している。
ベッドの背もたれに体を預けている男性と、ベッドの側に立って報告している女性。
「これが帝都で話されている噂ね。皇帝は騒乱で一番活躍した者を後継者にすると噂されているわ」
「これが帝国の現状とは情けない……」
病のせいで血の気の失せた白い顔色が、自分の報告のせいで更に悪くなるのではないか……と危惧しながらもその恐れを押し殺して報告をした者は、ベッドで寝ている男性に水を飲ませようとする。
「大丈夫だ。本当にどうすればこの騒乱がおさまるのか……」
「お兄様の病気が治って、次期皇帝になればおさまるわよ」
「……それが一番だけど、治る事はないよ。国一番の医者でも、回復魔法でも無理だったのだから」
ベッドでため息を付きながら、差し出された水を飲み、再度ため息を付く。
「せめて、弟達が皇位を継いでくれたら……」
「三番目のお兄様は女性不信で妹の私にも警戒するから、次期皇帝を産む作業は絶対に無理ね。二番目のお兄様は能力だけはあるけど継ぐ気がないから」
「そうだね。側室の弟達は?」
「彼らが皇帝になったら、内乱間違いなし! 味方でない危険分子と同腹の兄妹以外、全員処刑か国外追放ね」
「……せめて、女性が皇帝になる事が出来れば」
「私も辞退するわよ。息を吐く暇もない生活と皇帝の仕事量を見て、継ごうなんて思わないし」
「だったらお爺様の隠し子が、唯一の救いになるのか?」
「叔父なのか叔母なのか、分からないわ。……二人とも私よりも年下なのに叔父叔母か」
「叔母なら継承権は発生しないが、叔父なら……」
「血生臭いお家騒動に巻き込まれるわね。……巻き込まれ済みだったわ」
「父上はこの騒乱を止める気があるのか?」
「……分からないわ。この事に関してだけは答えてくれないから」
「最悪の場合を考えないといけないのかな?」
「最悪の場合になったら、二番目のお兄様を説得して皇帝にするしかないわ」
「……説得できるのかい?」
「人身御供で……。友達なくすけど……」
「……まだ時間はあるから他の方法を模索しよう。大丈夫だよ、父上も何か考えているはずだから」
まだ年若い少女であるのに大人びた顔をするようになった妹の頭を、ゆっくりと優しく撫でる。時間はあると言ったが、事態の解決よりも寿命の方が先に自分に追い付いてしまいそうな予感がしていた。現皇帝の長男は、最悪の場合は自らの命をもって弟妹を救う覚悟を決めた。
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