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精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
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30 レンブラント・オルネール・ベルンダラン

 レンブラント・オルネール・ベルンダラン。皇位継承権第二位の金髪痩身の男は公爵さんに好意的な態度で話しかける。


「帝都にいる馬鹿者達がロックマイヤー公爵領に軍を派遣すると聞いたので、慌てて止めに来たのだ。しかし荒事は終わった後だったようだな」

「その通りです。なのでお帰りください。ついでに皇帝陛下にお手紙を書くので渡していただけますか?」

「父上に責任もって手紙を渡そう。それよりも今回の件、私も協力しよう!」

「問題ありません。皇族の方の手を煩わせるほどの事ではありませんから」

「何を言うのだ。私が手を貸そうと言っているのに!」

「必要ありません。だから手紙が書き終わるまで客間で休憩してください」


 公爵さん。皇族相手なのに対応が適当じゃないか? そんなぞんざいな口の利き方で良いのか? 必死に公爵さんに話しかける金髪皇族。それを無下に扱う公爵さん。立場が逆転してない?

 クリスハルトは二人のやり取りを知っているのか我知らずという感じでお茶を飲んでいる。そんなクリスハルトに今の状況を聞いてみた。


「レンブラント様は第二皇子で皇位継承権をお持ちの御方だ。宰相補佐の職に就いていて派閥は戦争派。そして……」


 皇子さんがクリスハルトの声を遮るように大きな声で公爵さんに言った。


「未来の義父よ。そんな冷たい事を言うなよ。頼むから娘との結婚の許可をくれ!」

「娘は未成年です。それに子供にしか興味がない変態皇子には娘との結婚など許可できません」

「私の守備範囲は十二歳から十八歳までで、蕾が花開く間を愛でているだけだ。変態ではない!」


 公爵さんと皇子さんとの会話から変な言葉が聞こえた。……なんて言ったんだ?


「私の妹と結婚したいと言っている変態なんだよ。未成年から成年したての女性にしか興味がない、変態……皇子だ」


 ……クリスハルト。本気で言っているのか? 冗談じゃなく? クリスハルトの表情を見る限りでは冗談を言っている顔ではない。それに変態って言いきったな。仮にも皇族だろう? そんな事を言って良いのか?


「守備範囲から外れたら捨てるでしょう。貴方は何人の女性を捨てたのですか?」

「捨ててはいないぞ! 誠意をもって別れた! 公爵ともあろう人間がそんな悪意ある噂を信じるとは!」

「噂ではありません。最初に結婚した女性を! 十八歳の誕生日のパーティーで離婚をされた事をお忘れですか? そして会場に居た十三歳の令嬢にプロポーズをした場面には私も居たのです。あの離婚劇は誠意を持っていたのですか?」

「後日、誠意をもって謝ったぞ。問題ない!」

「その令嬢が十八歳になったらまた離婚しただろう! そんな奴に娘をやれるか!」


 会話を聞いていると、段々と公爵さんの言葉使いが荒くなっている。皇族にそんな言葉使いで大丈夫なのか? しかしこの皇子さんは屑じゃね? 結婚して守備範囲から外れたらポイ捨てって……。そんな奴が皇子で良いのか?


「私の妹は十五歳だから、あと三年頑張ったら変態皇子の守備範囲から外れる。だから妹は女性皇族しか入れない、後宮の第四皇女の元に居るんだ。後宮なら変態皇子も入る事が出来ないからな」


 クリスハルトの妹がこんな奴に狙われているなんて……。


「変態ロリコンってやつ? サクラ」

「変態ロリコンよ、ララーシャル」

「変態ロリコンにクリスハルトの妹が狙われているなんて可哀そうね、サクラ」

「変態ロリコンから体を張って守っている公爵は頑張っているわね、ララーシャル」


 ララーシャルとサクラは変態ロリロリ言って、皇子を汚物の様に見ている。しかし二人は忘れていないか? その皇子はララーシャルの親族だぞ?


「レンブラント皇子は十三歳で同年代の令嬢と結婚をして十八歳で離婚し、二度目の結婚相手も十八歳で離婚した。そして三度目の結婚予定の相手に妹が目をつけられた。しかし父上が猛反対しているからな。もちろん私も反対しているぞ。妹が変態と結婚するなんて不幸だからな」

「それよりも離婚させるなよ。父親である皇帝はなんで止めないんだ?」

「止めたさ、一度目の離婚のときは皇帝陛下が決めた相手だったのだ。それを離婚したから皇帝陛下も怒った怒った。罰としてアイローン砦に行ったが、武功を上げて戻って来た。その武功を持って二度目の結婚をしたがまた離婚した。皇帝陛下もキレて廃嫡するはずだったが、相手の親族が王国に帝国の情報を売っていた事を暴露して、有耶無耶になり廃嫡の話は流れてしまった。二度目の離婚の罰として陛下付きの文官、雑務係をしていたが、才能が認められて、たったの一年で宰相補佐まで昇りつめた。そして三度目の結婚では離婚したら陛下自身が首を切ると言っているのだが……」


 能力はあるけど性格に難がある人物だな。そんな奴が皇族なんて、下の者達の苦労は如何なるものやら……。


「そして運悪く、父上と妹が登城している時にレンブラント皇子に発見されて好かれた。三度目の結婚を陛下と父上に許可を願っているが……」


 二度ある事は三度あるかな? それよりも、


「クリスハルト、そろそろ二人の口喧嘩を止めた方が良いんじゃないか? 拳で会話し始めそうだぞ」

「そうだな。どうしてレンブラント皇子が屋敷に来たのかを説明してもらわないといけないからな」


 そう言って二人を止めるクリスハルト。


「レンブラント皇子、この部屋は私の友が使っている部屋なので、客間に案内します」


 クリスハルトの言葉を聞いて、オレとララーシャルを見る。そして「ふむふむ、なるほどな」と呟いて一人納得していた。


「この場で問題ない。配下の者達も居ないから密談には丁度良い」


 そう言って席に座る。クリスハルトにお茶を注文して、公爵さんも席に座らせた。……いつの間にか主導権を取られている。


「私が訪問した目的の大部分は結婚の許可を貰う事だが、ついでに二つほどある。一つは御爺様、先代皇帝の子供達だ。馬鹿共が公爵領で保護されている子供達を捕まえるという事を聞いたので、両軍を仲介して公爵に恩を売って結婚の許可を貰うチャンスだと思ってな。しかし攻め込んだ馬鹿達が逆に返り討ちに遭って無力化されているとは……。流石は公爵領の精鋭だな」


 流石はロックマイヤー公爵、見事な手腕だ。と公爵さんを褒める。


「責任者や馬鹿共には相応の罰を下す予定だ。私もボルドランの作戦には乗ってやろう」


 この皇子さん、今回の作戦の事を知っている。ただの変態ロリコンじゃないな。公爵さんやクリスハルトの顔色が変わるのを見てニヤリと笑う皇子さん。


「二つ目の用事だ。御使い様に会いに来たのだ。ギルドの者達には口止めをしていたようが、私にもある程度の情報は入る。次代の御使い様に挨拶したくてな。初めまして、レンブラント・オルネール・ベルンダランだ。美しいお嬢さん」


 本当に有能な皇子だな。ララーシャルを御使いと思って勘違いしている変態ロリコンだけど。……でもどうしてみんなララーシャルを御使いと勘違いするんだろう。なんか解せない。


「そこに居る子供は御使いが保護した孤児だろう。公爵よ。少しの間、その子供を外させろ。これから大事な話し合いをするのだから」


 オレが借りている部屋なのに追い出されようとする。皇族に命じられたので部屋を出ようと思い、公爵さんとクリスハルトに許可を得ようとする前に、


「では出て行きましょう。サクラ、お願い」


 ララーシャルがサクラに頼んで認識除外の術をかけてもらう。オレとララーシャルは席に座っているが他の者達からは消えた様に見えただろう。


「どうして、トルクが御使いなのに、私が御使いと認識されるのかしら?」

「ララーシャルが綺麗な女性だからだろう。変な子供よりも神秘的な女性の方が御使いらしいんじゃないか?」


 オレはララーシャルの疑問に答える。サクラはどう思う?


「そうね、……トルクが大人になれば解決するんじゃないの?」


 そうだな。大人になれば少しは変わると信じたい。それよりもいきなり消えたから事情の知らない人達は驚いているだろうな。案の定、皇子さんが混乱しているな。


「消えたぞ! 御使いと子供が消えたぞ! 魔法か? それとも精霊の力なのか?」

「御使い様の御友人である精霊の御力です。ちなみに子供のトルク君の方が新しき御使い様です。」

「ちなみにレンブラント皇子が挨拶をしていた女性は特殊な精霊で御使い様ではありません。御使い様の御友人である精霊です」


 混乱している皇子に説明をする公爵さんとクリスハルト。その混乱状況を見るオレ達。


「楽しいことになりそうね」


 サクラは劇を見るように楽しそうに言うが、オレはサクラの言動に呆れて、ララーシャルは「こんな変態が私の親族なんて……」と呆れている。


「……子供が御使いで、彼女が精霊なのか。それも特殊な精霊か。……公爵よ、聞きたい事がある」


 冷静さを取り戻し真剣な表情で公爵に話しかける皇子。まともな思考回路に入ったか?


「ララーシャルという精霊の歳は?」


 は? どうしてララーシャルの年齢を聞く? 公爵さんも呆然としているぞ。


「精霊という事は生涯あの美しい姿なのだろう。守備範囲内で永遠に変わらぬ美しさであるなら、実年齢などどうでも良い。彼女は未婚か? 好きなタイプは? 趣味は? どんな男性が好きなのか?」


 ……ララーシャルを見る。皇子を汚物の様に見ている。サクラは爆笑しているし、公爵さん達も呆れてモノが言えない様だ。


「ねえ、トルク……」


 低い声でララーシャルがオレに声をかける。怒っているのか? それともとても怒っているのか?


「殺しても問題ないわよね」


 殺意を周りに放ちながら、とてつもなく怒っている様だ。ララーシャルの手を掴んで止める。


「とりあえず、殺す事は後でも出来るから、この道化を見守ろうよ」


 サクラが笑っている横で、ララーシャルを宥めて、オレも変態皇子を眺める。


「精霊なのだから見た目も変えられないか? あと三歳くらい若いのなら精霊に相応しい神懸った美しさだ!」


 下種なセリフを大声で叫ぶ皇子。それ以前にアンタは公爵さんの娘と結婚する予定じゃなかったのか?


「公爵! 質問に答えてくれ! 彼女が欲しがっているモノはなんだ? 四度目のプロポーズするときに渡したい」


 三度目の離婚も決定済みなのか? 離婚したら父親みずから首を落とすって言われたんだろう?


「彼女が欲しがっているのは貴方の命でしょう。告白するときに自らの心臓を取り出して差し上げればどうでしょうか?」


 ブッ、心臓出せって。死ねって事か! 公爵さんも面白い事を言う。


「もしくは千年くらい俗世を断って山に籠り、心身を清らかにすればプロポーズを受けてくれるのではないでしょうか」


 千年後に告白しろって……。クリスハルトも笑わせてくれる。


「……どちらも難しいな。やはり御使いを利用するしかないか」


 ほう、オレを利用するか。どんな利用法だろうな? オレもララーシャルとの結婚否定派だぞ。


「当家の恩人である御使い様を害するのなら、ロックマイヤー公爵家は皇族と敵対しますぞ」

「そこまで馬鹿な事はしない。私も先々代皇帝のようにハゲにはなりたくないからな」


 公爵さんの威圧的な言葉をあっさり流す皇子。そういえば御使いの怒りを買って皇帝がハゲになった事件があったんだよな。


「ではお帰りください。これ以上御使い様と精霊を怒らせないでください」

「……怒っているのか? 御使いと精霊は」


 自分の行動に怒らせる要素が無いと思っていた皇子は、オレとララーシャルを怒らせた事を疑問に思っている。オレはそこまで怒ってないぞ。怒っているのはララーシャルだから。オレがララーシャルを止めてなかったら皇子はハゲよりも酷い事になっていたぞ。


「普通の人間は激怒するレベルです。貴方の頭の毛が抜けても私達にはどうする事も出来ません」

「……困ったな。どうすれば良いと思う?」


 表情的にあまり困ってそうな表情じゃないな。軽く考えてないか? それとも演技なのか?


「帝都に帰ってください。私達で御使い様と精霊の怒りを収めますので」


 公爵さんがオレ達を出しにして皇子を部屋から追い出す。

 帰り際にレンブラント皇子は公爵さんとクリスハルトに「御使いと精霊の怒りを収めてくれ」と言って屋敷を後にした。

 部屋には静寂が戻り、認識除外の術の解除したサクラ、怒りが収まらないララーシャル、ため息をついてお茶の用意をするオレ、三人しか居ない。


「ララーシャル、怒りを抑えて。ね」


 サクラがララーシャルをなだめる。オレもララーシャルの為にお茶を渡して怒りを和らげようとする。


「あんな変態が皇子なんて、どんな教育をしているの? 絶対にアイツには会わないわ!」

「変態が来たら姿を消しておきましょう。それ以前に帝都では姿を消して行動すれば良いわよ」


 帝都に行ったら絶対に変態皇子と会うのだろうな。そして変な事を頼まれるのだろう。配下になれとか、ララーシャルに会わせろとか、御使いの力を帝国の為に使えとか、他諸々……。


「帝都に行きたくねー」

「そうね……」

「行くの止めようかしら……」


 サクラもララーシャルも同じ考えだ。でも行かないといけないよな……。

 はー、気分が重い。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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