表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
191/276

24 救う方法

 中庭の大樹の側にある月下草にキャメロッテは座っており、ドンバラッサと首だけの精霊の二人と会話をしているようだ。


「サクラ! 精霊達はキャメロッテ嬢に印を付けていないだろうな」

「まだ付けていないわ。周りの精霊達にも印を付けない様に伝えているわ」


 キャメロッテ嬢はショックの後遺症で一時的に見えている状態なんだから、勝手に精霊から友人認定される訳にはいかないからな。サクラには感謝だよ。


「トルクは彼女に御使いの修業をさせるの?」

「え?」


 サクラ、キャメロッテ嬢を御使いにするの?


「才能があるかもしれないし、御使いの修業をさせてみたら」

「サクラ、その前にキャメロッテ嬢の心を癒す事が先じゃないのか? それに御使いの修業は本人に確認を取ってからだよ」


 精霊達の行動の速さに頭を抱えそうになったよ。本人の気持ちを考えてほしい。


「トルク様! 姉上は大丈夫なのですか? クリスハルト様から精霊の姿が見えるとお聞きしましたがどういう事なのですか? 宙を浮いたり、叫んだり、何が起きているのですか?」


 ごめんね。事情を説明するよ。だから落ち着いて、ね。


「クリスハルトから精霊の説明を聞いたよね。キャメロッテ様は一時的だけど精霊が見えるようになったんだ。目の前に精霊が居て会話をしていたんだ」

「本当に精霊なのですか? 自然の力を行使する人間以上の存在ですよね。物語や昔話とかに出てくる、あの精霊ですか?」

「物語や昔話は知りませんが、その精霊でしょう。キャメロッテ様はショックを受けて一時的に精霊が見えている状態です」

「ショックを受けて? 姉上は何をされたのですか!」


 オレが思いつくキャメロッテ嬢のショックといえば、


「囚われていた屋敷で自殺して死にそうだったから。そのショックで精霊が見えたのだと思う。……他には思いつかないな」

「じ、自殺! 姉上は自殺をしようとしたのですか!」

「昨日、救出したときに手首を切って死のうとしていました。私は回復魔法が使えるので治癒して、怪我を治しましたけど。でも心の傷は治すことが出来なかった」

「あ、姉上、私がモルダーに囚われなければ……」


 囚われた? モンリエッテ嬢の話では誘拐同然でさらわれたキャメロッテに会おうとして、モルダーの屋敷に行ったそうだ。そしてモルダーに勧められたお茶を飲んだら眠くなり、気づいたら檻の中に入れられていたそうだ。侍女達も捕まっており、モルダーの部下に乱暴されていて、その現場を見せられたそうだ。


「護衛兵は殺され、侍女達も酷い目にあって……。私も襲われそうでしたが、モルダーに用事が出来たので襲われずにすみました。でも私の代わりに……」


 マジで屑だな。殺しても問題ないし、死ぬと喜ばれる人間だぞ。

 モンリエッテ嬢の重い告白を聞いて、マジでどうすれば良いのか考える。サクラが言ったキャメロッテ嬢を助ける方法に賭けるか? 記憶操作は全部忘れる可能性もあるし、洗脳とかはキャメロッテ嬢の性格が変わる気がするし。

 もう少しサクラと話し合いをして方法を考えた方が良いな。ララーシャルにも相談しよう。

 サクラに相談しようと思ったけど、今はサクラを含む精霊達がキャメロッテ嬢の側に集まって話しかけているし。ララーシャルもキャメロッテ嬢と話しているな。

 ……って、ララーシャル! いつの間に来たんだよ! 寝てたんじゃないのか?

 オレはララーシャルの所に行く。どうしたんだ? 二日酔いは治ったか?


「目が覚めたら、トルク達が居ないから驚いたわ。だから貴方達を探していたら、風の噂でトルク以外に精霊が見える女性が居るって聞いてね。やって来たの。オーファン君とベルリディアちゃんはポニータ亭で休んでいるわよ。キャメロッテ、この子がトルクよ。良い子だから仲良くしてね」


 風の噂って……。お前は風の精霊だろう。あと精神の精霊でもあったな。


「トルク様。隣に居るモンリエッテの姉のキャメロッテです。よろしくお願いしますね」


 優しそうな雰囲気の綺麗な女性だ。微笑まれてちょっと心臓の鼓動が早くなった。狂ったように笑いながら死のうとした女性には全く見えない。


「よろしくお願いします。ララーシャル、キャメロッテ様とモンリエッテ様に精霊の事や御使いの事を説明してくれ。その間にお茶の準備をするから」

「分かったわ。二人ともこっちにいらっしゃい」


 屋敷の方からクリスハルトがこっちの方に来ているから、説明はララーシャルに任せることにした。姉妹は月下草の近くに座り、おしゃべりを始めた。

 クリスハルトにお茶の用意をしてもらい、オレはサクラと会話する。


「なあ、サクラ。マジに聞くけど、キャメロッテ嬢の心の傷を癒す方法。クリスハルトの事を思い出してもらう方法はないのか?」

「彼女の心の傷は結構深いからね。それにまだ目が覚めて一日しか経っていないし。本来は少しずつ時間をかけて癒すものだから」


 そうだよな。昨日の夜に助け出したんだよな。他の彼女達の事もあるし、少し急ぎ過ぎたかな。


「あと、最後の方法は、トルクが私とフュージョンして彼女の精神に入り込んで、記憶の削除や書き換える方法ね」


 削除? 記憶を書き換える? どういう意味だ?


「私は光と土と砂と精神を司る精霊だから、人間の心に入ることが出来るわ。そして彼女の記憶に私達が介入して、記憶を削除したり、記憶を書き換えるの。たとえばトルクの嫌な記憶、ダニエルに半殺しにされた記憶があるわよね。その記憶に介入して私がダニエルからトルクを守って助ける行動をとって、その記憶に私がトルクを助けたという記憶を上書きするの。そしたらトルクはダニエルを憎む心がなくなってダニエルに対して何も思わなくなるわ」


 悪い記憶を修正して、なんともない普通の記憶に書き換えるって、そんな事が可能なのか? それに記憶の修正って逆の事も出来るって意味だよな? 幸せな記憶を悪夢のような記憶に書き換える事も出来るって事だよな。洗脳や記憶消去よりもマジで最悪な手段だ。


「この場合はモルダーに騙された記憶をトルクが介入して書き換える事になるわ。矛盾が出ない様にいろいろな記憶をトルクが書き換えないといけない。何十、何百もの記憶に介入して全部の記憶を書き換えるの」


 何百も有る記憶に介入して、キャメロッテ嬢の記憶を書き換えるのか……。


「この場合の条件はトルクの正体がばれないようにする事ね。彼女とトルクの出会いはこの場所だから、それ以外の場所で出会う事は矛盾が生じるわ。だから変装したり、陰ながら助けたりするのよ」


 ……記憶を書き換える事にそんなに条件があるなんて、少し疑問に思う。


「記憶に矛盾を感じたら疑問に思って考えるでしょう。その結果、上書きされる前の記憶を思い出す可能性もあるの。そしてどっちの記憶が正しいのか頭がおかしくなって、狂い死ぬ可能性もあるわ」


 マジかよ。そんなヤバい事が起きるのか!


「それにトルクは彼女の記憶を見るから、嫌な思いをするわよ。彼女の嫌な記憶を全部見るのだから」


 屑騎士モルダーをこれ以上なく恨みそうだな。吐き気しそうな奴の行動を見るのだから。


「あと彼女を助けるときに怪我を負ったら、その傷が肉体にダメージを受けるの。彼女もトルクも記憶通りに怪我したら、肉体も怪我をするわよ」


 記憶の修正中に怪我をしたら、肉体に怪我を負うって、死ぬような事になったら死ぬのか?


「トルク、どうした?」


 クリスハルトとスクートさんがオレに近づいてくる。お茶の用意は終わったみたいだな。ララーシャル達は使用人達が持ってきたテーブルと椅子に座ってお茶を飲みながら会話を楽しんでいる。近くにはドンバラッサが大きい口を開けてお菓子を食べたり、首だけの精霊がテーブルに座って、ララーシャルからお菓子を貰って食べている。


「飲み物とお菓子を持ってきた。お茶会には親しい男性以外は駄目だからな。私達はここで食べるか」


 今まではキャメロッテ嬢達と一緒にお茶会に参加できたのに、今は記憶喪失だから参加できないのか。悔しそうな顔もしないで、オレに心配をかけない様に笑っている風に見えるけど、上手く笑えていないぞ。

 スクートさんがお茶とお菓子を用意してくれた。スクートさんに礼を言って、クリスハルトと一緒にお茶を飲む。お菓子も美味しいな。

 二人で女性達のお茶会を遠目で見ながらお菓子を食べる。何を話せば良いか分からず、お菓子を食べる音だけしか聞こえない。


「キャメロッテを救ってくれて感謝する。私の記憶がなくても、幸せであるなら、それ以上は何も望まない」


 痛い言葉を吐くよな。美男子だから絵になってカッコイイけど。……でもそんな顔で言うなよ。

 ……全く、オレは何を考えているんだか。危険な可能性がある方法を使って助けた方が良いって思うなんて。そんな性格だったっけ? 身を挺して他の人を守った事なんて……結構あったな。最初はマリーの代わりに下人になったっけ。ドイル様を助けるために痛い思いをしたな。イーズ達を助けた事もあったし、バルム砦でも敵国のクリスハルト達を助けたよな。

 今回も覚悟を決めるかな。それにサクラが居るし大丈夫だろう。


「決めたのね、トルク」

「決まったよ。面倒臭いし、怠いけどやってみるか!」

「どうした! いきなり」


 サクラに言った言葉がクリスハルトを混乱させた。すまん。


「キャメロッテ嬢を助ける為に頑張ろうって事になった。クリスハルトにも協力してもらうよ」

「で、出来るのか?」

「出来ると思うよ。初代である雷音さんと一緒に行動していた、魔道帝国を滅ぼした精霊のサクラが居るんだ。楽勝だよ」


 サクラは胸を張って「当たり前よ!」ってドヤ顔で誇っている。


「……トルク。魔道帝国を滅ぼしたって、あの魔道帝国なのか! 一夜にして滅んだと伝えられているあの魔道帝国なのか!」

「多分、その魔道帝国だな。ルルーシャル婆さんやフローラさんから聞いていない?」

「初耳だ。初めて知った……」


 オフレコだったのかな? それよりも準備をしないといけないな。クリスハルトも固まってないでいろいろと手伝ってもらうからな。


「じゃあ、私もお茶会に参加してくるわ。治療は彼女が寝たときにするわね」


 待て、サクラ。行く前に教えてくれ。必要な準備は何がある? 


「何も無いわよ。彼女が寝ているときにトルクが無防備になるから、その護衛くらいね」


 その程度ならクリスハルトに頼めば何とかなるな。公爵さんにも伝えておこう。あとはこっちで準備しておくからサクラもララーシャル達の所に行って良いよ。


「そう、それじゃあ、お言葉に甘えようかしら。それから彼女の心を治すのは深夜で良い?」


 分かった。準備をしておくよ。サクラはララーシャル達の所に行き、オレはクリスハルトと一緒に屋敷に戻った。


「……魔道帝国を滅ぼしたのが、精霊と御使い様だったとは」

「いい加減に正気を取り戻してくれ。夜までに準備をしないといけないからな」


 とりあえず公爵さんと相談して、キャメロッテ嬢を治療する事を伝えないといけないな。

 それから魔道帝国の事はクリスハルトには口止めした方が良いのかな? 後でクリスハルトに魔道帝国が帝国ではどのように伝えられているか聞くか。


「オーファンとベルリディアを屋敷に移動させた方が良いかな?」


 吐き気と頭痛でポニータ亭で休んでいる兄妹。そういえばララーシャルがこっちに居るから向こうには誰も居ないんだよな。もし賊が二人を襲ったら……。


「大丈夫だ。宿の周りには護衛が待機している。だけどトルク達が戻ってくるなら二人を屋敷に戻らせた方が良いな」


 一度、ポニータ亭に戻って二人を連れて来ないといけないな。


「私も一緒に行こう。馬車を用意するから少し待ってくれ」


 馬車に乗ってポニータ亭に行く途中でオーファンとベルリディアを襲った賊についてクリスハルトから話があった。


「賊を尋問中だが少し王国訛りの言葉だった。王国側が二人を誘拐しようとした可能性がある。大丈夫と思うがトルクも注意してくれよ」

 そういえば公園で会った王国の密偵がそんな事を言っていた気がする。

 クリスハルトに伝えた方が良いのかな? でも王国出身の人間だから黙った方が良いのか? 密偵に会った事を公爵さん達に言ったらヤバい気がするから、黙っておこう。王国側の密偵にも近づかないし、牢屋にも行かない様にしよう。

 ……隠しきれなくなったら公爵さんに話そう。どんな言い訳にするか今から考えておく。

 言い訳を考えながらクリスハルトと馬車で話しつつ、ポニータ亭でオーファンとベルリディアを回収して、屋敷に帰り侍女さん達に二人の看病をしてもらう。


「トルク、この二人は大丈夫なのか?」

「二日酔いだから大丈夫だろう。ララーシャルが酔って二人に酒を飲ませたからな」

「トルクは平気なんだな。酒に強いんだな」

「逆だな。酒に弱くてあっという間に寝込んだ。オレが寝た代わりに二人がララーシャルの餌食になったんだよ」

「……トルク」

「勿論、二人に謝罪します」


 ララーシャルの餌食になった兄妹に。でもわざとじゃないよ、本当に酔って倒れたんだからね。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の人の良さが出て、復讐や妹、帰国という目標から逸れている様にも思えますが、時間軸としては大して日が経っていない事実があります。率直に自分が主人公の立場なら1日1日がジェットコースター…
[気になる点] 復讐したいと言いながらも、脇道に逸れても平気で居られるのならたいした事じゃ無いように思う。 王国に帰ると言いながらも、妹を見つけにもいかずまた余計な事に手を出す始末。 序盤が面白かった…
[気になる点] 進行が遅い、閑話なんかいらない。 精霊のやらかし話でブレーキかかりまくり。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ