表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
187/276

閑話 次期公爵家当主の苦労①

 ラスカル男爵領からロックマイヤー公爵領に帰ってきたら大変な事になっていた。

 ロックマイヤー公爵領に帝国軍が来て、ファーレンフォール伯爵家の兄妹の保護と称して捕縛に来たのだ。そしてその中にモルダーが居た。私の婚約者を寝取って奪った騎士モルダーだ。

 私が戦争で捕虜になっていた時に婚約者を奪った男で、何度殺そうと思った事か! いやただ殺すだけなんて生温い、あらゆる苦痛を与えて、生まれたことを後悔するように殺したい!


 アイツは学院時代、女性と付き合っては捨てる、平民の女は権力で奪いゴミの様に捨てる、を繰り返していた。周りの者達が注意しても「障害・困難が多いほど燃える!」や「愛に生きるのだ!」といった馬鹿みたいな返事が返ってくるだけだった。

 親が帝国の重鎮の一人だから権力があり、モルダーに奪われ捨てられた女性は貴族平民数知れず。こいつを殺そうとした平民も居たが返り討ちにあった。こんな奴でも剣の腕は良く、強い騎士なのだ。

 帝国に戻った時の戦勝祝いの祝賀会で私はモルダーと再会し、謝罪された。どうして謝罪されるか分からなかったが、奴の口から信じられない事を聞いた。


「非公式だが私とキャメロッテは結婚をした。貴方の婚約者を奪った事を許してほしい。しかし私達は真実の愛に目覚めたのだ」


 何を言っているのか理解できなかった。キャメロッテがこいつと結婚をした? 笑えない冗談だと返事をした。


「クリスハルト殿には済まないと思っている。しかし許してほしい、彼女のお腹にいる子供の為に」


 頭を下げて謝罪するモルダー。立ち去ろうとしたモルダーを掴んで詳しい訳を聞き出そうとする。


「許してほしい。しかし私達は真実の愛に目覚めたのだ」


 その言葉は学院のときから何度も何度も聞いたセリフだ。お前の真実の愛は何度あるのだ! その言葉で全て納得できると思っているのか!モルダーを殴ろうとしたが、捕虜から解放された副官のローランドに止められた。

 頭を下げて謝罪するモルダー。そして去って行った。

 詳しい情報を得る為に、私は父上に話を聞きに行った。父上はキャメロッテの父親であるグラデッシュ伯爵と会談中との事だった。

私はキャメロッテの事を聞く為に、会談中の部屋に押し入った。


「クリスハルト様、この度は誠に申し訳ございません。キャメロッテとの婚約は白紙にさせてください」


 頭を下げるグラデッシュ伯爵。そんな事よりも私は理由が聞きたい!


「……クリスハルト様が捕虜になり戦死したという事を聞いて、キャメロッテは落ち込みました。体調不良で寝込んだりしていました。私達家族の励ましもあって、少しずつ立ち直りました。モルダーもキャメロッテを献身的に助けたらしいのです」

「助けたらしい? どういう意味だ?」

「侍女からの報告です。王国側の者と交渉できる者が居るとか、賊に襲われそうになった所を助けたとか、気分転換に買い物に出かけたとか、そんな報告を受けています」

「そんな事はどうでも良い! どうしてモルダーとキャメロッテとの結婚を許可したのだ!」


 私はグラデッシュ伯爵に問いかけた。


「私達家族は許可を与えていません。モルダーとキャメロッテとの結婚には反対しています。しかしモルダーがキャメロッテには自分の子供が宿っていると言って結婚を迫っているのです。私はキャメロッテを修道院に預ける事を考え二人の結婚に反対しましたが、モルダーがキャメロッテを強引に自分の屋敷に連れ去ったのです。結婚を承諾するまでキャメロッテには会わせないと言って」

「誘拐同然ではないか!」

「それが一ヵ月くらい前の事です。私がモルダーの屋敷に行ってもキャメロッテに会う事は出来ません」

「誘拐ではなく、監禁か! どうして私に教えてくれなかったのだ!」


 公爵家の権力があれば、モルダーの屋敷からキャメロッテを救い出す事は簡単だ。どうして教えてくれなかったのだ!


「モンリエッテの婚約者がアイローン砦方面の戦争で捕虜になりました。モンリエッテの願いで身代金を用意していたのですが……」


 確かキャメロッテの妹のモンリエッテの婚約者はグラデッシュ伯爵家に仕える騎士だったな。強くて誠実な騎士だった事を覚えている。アイローン砦方面の捕虜になっていたとは。


「身代金を輸送中に賊に奪われたのです。途方に暮れていたときに、キャメロッテからモルダーを紹介されました。身代金を貸す代わりに領地の一部の土地とそこに建つ屋敷を借りるという約定でしたので承諾しました。その土地と屋敷は別荘としてしか使っていない場所だったのです」


 キャメロッテの結婚と関係あるのか? と思っていたが伯爵は顔を下に向けながら話を続ける。


「身代金を送ったのが遅かったのか、捕虜になった後に死んだのかわかりませんが、モンリエッテの婚約者は戦死していました。身代金は帝国に渡った状態です。返金を願いましたが時間がかかると言って返事はありません。身代金代をモルダーに返そうにも返せず困っていると、モルダーが金を貸してくれる者を紹介してくれました。それで私はその者に金を借りましたが、それが間違いでした!」


 グラデッシュ伯爵は下に向けていた顔を上げて私達に言った。


「金を借りたお陰で領内はなんとかなりましたが、他領の商人が出入りするようになりました。領内で違法ギリギリの商売を始めて、それを注意するとモルダーの許可が有ると言って、私の言葉を聞かない。モルダーに注意しても「商人に話を聞かせるのは金しかない。金を出せば話をする」と返事するだけ。そして借金を盾にキャメロッテとの結婚を迫ってきたのです」


 グラデッシュ伯爵は怒りを堪えるような声で言った。「キャメロッテには私の子供がいるから結婚する。文句があるなら金を返せ」そう言ったそうだ。


「キャメロッテと会おうとしてもモルダーが許可を出さない。屋敷に直接向かってもモルダーの部下が取りあわない。強引に屋敷に入ったらキャメロッテはおらず、屋敷のどこにも居なかった。モルダーにキャメロッテの居場所を聞いても、「金を返すか、結婚の許可を出せば会わせてやる」と言うだけです」


 何という事だ。だが事情をしったのだから私達が手を貸す事が出来るだろう。


「他所から金を借りて、その金でモルダーへの借金を返そうとしましたが、他所から借りた借金の権利をモルダーが買い取ってかえって借金が増え、担保にしていた屋敷までモルダーのモノになっていました。その後、モルダーの代理人という帝都の貴族が来て、領地内でやりたい放題なのです。私達は帝都の屋敷に住まわされて、領地はどうなっているのか……」


 まさか領地を奪われているとは……。モルダーはキャメロッテだけではなくグラデッシュ伯爵領地を我がモノとしているなんて。


「では今回の面会の理由は、借金の立替とキャメロッテの探索なのだな」

「はい、恥を忍んでお願いします。我が領民を助けてください」


 父上は考え込んでいる。どうしてすぐに承諾しないのだ? 何か考えが有るのだろうか?


「……分かった。何とかしてみよう」


 その後、父上とグラデッシュ伯爵は行動を開始する。

 モルダーの後ろに居た貴族は戦争派の貴族で、中立派から和平派に鞍替えをした公爵家は争う事になった。そのせいで借金の返済だけでも半年くらいの時間がかかり、グラデッシュ伯爵領は荒れた。

 キャメロッテの居場所は不明で、モルダーも戦場に向かい本人から聞き出す事が出来なかった。

 グラデッシュ伯爵から、キャメロッテの妹のモンリエッテが侍女や護衛と外出中に行方不明になったと連絡があり、その探索も始める。




 グラデッシュ伯爵の借金の返済が終わって、そして私達は領地に戻った。御使い様となった恩人のトルクが来てからいろいろと大変な日々を送った。

 ロックマイヤー公爵領の屋敷にある大樹の交換、空を飛んでラスカル男爵領に移動、帰りも空の旅をした。そして騎士モルダーとの対峙。トルクと精霊のサクラ様の認識除外の術でモルダーの独り言を聞く。キャメロッテは騙されて、モルダーに奪われたのだ。次期伯爵の座を手に入れ義理の両親になるはずだった人達を馬鹿にし、キャメロッテの事は捨てると言って大笑いしていた。

 限界だ! モルダーを殴ろうとしたが先に父上が動いて殴る。……倒れたモルダーを見て剣を抜いて殺そうとしたが周りの者達に止められた。


「後ですべてを白状してもらおう」


 父上の命令でモルダーは牢屋に放り込まれた。その後、父上とトルクは騎士ギャンバと話すために街の外に行った。私はモルダーから話を聞く為に牢屋に行こうとしたが、


「クリスハルト様、私達が必ず自白させますので、少しお休みください」


 使用人や騎士達に心配されたので、部屋に戻って頭を冷やす事にした。


「キャメロッテ……」


 私が捕虜にならなかったら、キャメロッテと結婚して幸せな生活が出来ていただろう。どうして私は捕虜になったのだ。部屋から出て中庭に来ていた。大樹に触り、キャメロッテとこの場所で遊んでいた事を思い出す。昔この木に登り、途中で落ちてしまってキャメロッテに心配されて泣かれた事を思い出した。彼女を二度と泣かせないと誓ったのに……。

 ……誰かが来た。振り向くとトルクとララーシャル殿だ。きっと近くにはサクラ様も居るに違いない。涙を拭きとっていつも通りの表情を作る。二人は何を話せば良いか迷っている様だったから、私はキャメロッテの事を教えた。彼女をいかに愛していたのかを。

 中庭の木よ、月下草よ。私の行いは正しかったのか。教えてくれ! トルク達に私がいかにキャメロッテの事を愛しているのかを話した。中庭の木に話しかけるように。……途中でトルク達が騒いでいる気がしたが、中庭の精霊に説明する気持ちで話した。

 気付くと聞いているのはララーシャル殿だけだった。トルクは屋敷の方で精霊達と話しているとララーシャル殿から聞いた。


「トルクどうした?」


 戻って来たトルクは疲れた顔で「依頼を受けた」と言う。「私に出来る事があれば手伝う」と言って愚痴を聞いてくれた二人に礼を述べた。みんなのお陰で少し気持ちが楽になったよ。その後、ララーシャル殿から父上が呼んでいると聞いたので私は父上の所に向かった。……トルク、話を聞いてくれてありがとう。




「お呼びですか、父上」


 父上がいる執務室に入って、状況を聞く。


「明日の昼に暴動が起きるからそれを阻止するぞ。各ギルドの面々にも協力してもらう」


 ……意味が分からない。最初から説明をしてください。


「ボルドランの策略で帝都から来た兵が暴動を起こす。それを阻止して全員を捕まえるのだ。その中にはオーファンとベルリディアの命を狙う賊が潜んでいるから、それも捕まえる予定だ」


 ボルドランの作戦か。アイツは何を考えているんだ。……これがロックマイヤー公爵領に良い作戦なのか? 父上から渡された、ボルドランが書いたと思われる計画書を見る。……呆れるくらい効率的だな。帝都から来た兵は死ぬ可能性はあるけど、領地内の者達の被害はほぼ無いだろう。どうすればこんな作戦を思いつくのだ?


「作戦はこうだ。他領の商人の馬車が帝都から来た兵に襲われ、商人は門番に助けを求める。その騒動に加わる帝都の兵の数が次第に膨れて賊と化し、暴動が起きて賊どもが城門へとなだれ込んでくる。城門ではギルドの面々が応戦して賊を食い止め、城門の上で待機している魔法使いや弓兵が援護し、他の門から出た領兵が賊を囲む。最後にはギャンバが降伏する予定だ。ギャンバも我々の味方だ」


 ……私はボルドランと同じ戦場に居れば捕虜にはならなかったのではないだろうか。


「屋敷にはトルク殿やララーシャル殿が居るし、賊が襲ってくるかもしれないから騎士や兵達を待機させる。クリスハルトが指揮を執ってくれ」

「分かりました」


 その後、細かい打ち合わせをしていたら各ギルドの長が来たと、スクートから連絡があったので客間で対応する。

 傭兵ギルドのギルド長と副ギルド長。商人ギルドのギルド長と先代ギルド長。そして魔法ギルドのギルド長だ。父上は五名に今回の件を伝える。


「……なので街を守ってほしい。これは公爵家からの依頼だ。私からは以上だが質問はあるか?」


 傭兵ギルドの副ギルド長が質問をした。


「ロックマイヤー公爵家にララーシャル様という御客人はおられますか?」


 どうしてララーシャル殿の事を知っているのだ? 疑問に思っていると商人ギルドの先代も気になる様子だ。


「我が屋敷に滞在中だが、どうしてそのような事を聞く?」

「いえ、トルク殿とララーシャル様のお手を煩わせないように傭兵ギルドは全力を尽くします!」

「商人ギルドも全力を尽くします。必要な物は全力で集めましょう!」


 傭兵ギルドの副ギルド長と商人ギルドの先代の二人が上司を無視して言う。その二人にギルド長らが「勝手に決めるな」と言うが、「ギルドの為だ!」と言って逆に説得をする。一人で来た魔法ギルドのギルド長が理由を聞くと、「機密事項のゼロ項だ」と言う。その言葉にギルドの長達は「全力を尽くします!」と言って頭を下げる。機密事項とはどういう意味だ? 父上は知っているのか?


「機密事項のゼロ項とは、御使い様がロックマイヤー公爵領に来た場合の暗号として使われているが、二人は知っていたのか」

「はい、馬鹿孫がトルク様にちょっかいを出して……」

「ギルドの者が手を出して……」


 話を聞いてみるとオーファンとベルリディアも関係しているではないか。初耳だったギルド長達は頭を抱えている。


「被害は?」

「宿屋が半壊しました。しかし人的被害はありません」

「そうか……。その程度で済んで良かったと思うべきだな」


 トルクは何をして宿屋を半壊させたんだ? それにその程度の被害で良かったって……。普通なら処罰されてもおかしくない件だぞ。


「クリスハルト、街に広場があるだろう。あれは私が子供の頃に出来た広場でな。もともと大きい屋敷があった場所だったのだ」

「初めて聞きました。しかし父上、どうしてそんな事を説明しているのですか?」

「その屋敷があった場所が広場になった理由に、御使い様が絡んでいたからだ」


 初めて知ったぞ。周りを見るがギルド長達は知っているようだ。知らないのは私だけか。

 父上から聞いたが、あの場所はもともと帝国でも有数の商人で、そのときの商人ギルドの長の屋敷があった場所だったらしい。その商人所有の馬車に轢かれそうになった子供を助けた傭兵ギルド所属の者が、通行の邪魔をしたという理由で罰せられそうになったときに、御使い様が助けたそうだ。そしてその馬車にはロックマイヤー公爵家の親族が乗っており、無礼だという事で御使い様を処罰しようとしたが、返り討ちにあったそうだ。そして公爵家の親族と商人ギルド長が、傭兵ギルドと魔法ギルドに依頼して御使い様を捕まえようとしたが、全員返り討ちにあい、各ギルド施設は半壊。皇帝からの命令で各ギルド長らは捕まり、ロックマイヤー公爵家の親族も捕まって相応の罰を受けた。商人ギルド長の屋敷があった場所は今では緑あふれる広場になっており、屋敷の跡はどこにもなかった。

 公爵領で起きた出来事を知った父上の父上、私の祖父は皇帝に頭を下げて謝罪した。爵位が下がる可能性もあったが、最初に子供を助けた傭兵ギルドの者は数年前に祖父に助けられた事があり、恩ある公爵当主には累が及ばないようにと御使い様に願ったそうだ。

 当時下っ端だった者達は、現在はギルドの幹部や長になっており、御使い様に関しての詳しい内容は極秘情報として各ギルド長と副ギルド長に口伝で伝えられている。


「機密事項ゼロ項は御使い様が領地に来た時に伝える暗号で、御使い様にちょっかいを出さないようにする為に作られたものだ。昔からルルーシャル様が領地に来たときには各ギルドに暗号文を送っていたのだ」


 ……そんな事をしていたのか。私も当主になったらこの暗号文を使うのだろうか。そういえばどうして父上はギルド長達に御使い様が来たのに暗号文を送らなかったのか?


「空を飛ぶ事が出来る嬉しさに、暗号文を出すのを忘れていたのだ」


 副ギルド長と商人ギルドの先代はどうして各ギルドに機密事項を伝えなかった?


「御使い様達が公爵家に行ったのに暗号文を出されていないので、私達は行動する事が出来なかったのです」


 父上のミスか……。他にも報告忘れはありませんよね、父上。





 夕食の時間まで、関係各所と連絡をとり、調整をしていくが、仕事量が多すぎる。屋敷の者達全員で準備しても間に合うかどうか……。

 そんな事を客人に気付かせない様にトルクとララーシャル殿とオーファンとベルリディアと一緒に食事をとる。

 そして狙われているファーレンフォール兄妹を守る為に、トルクとララーシャル殿を一緒にさせる。トルクとララーシャル殿も私達の言葉が分かったみたいだ。兄妹を守ると言っているので大丈夫だろう。

 後は護衛の人選だな。ラスカル男爵領に同行した騎士達を護衛に回そう。それから侍女達は……今まで通りの者達で良いか。急に変わると不審に思われるかもしれない。

 夕食後も父上と明日の準備をして、私は先に休みを取る事にした。

 ……今日は疲れた。空を飛び屋敷に帰って来たら、帝国兵が街に入っており、婚約者を奪った男と再会し、各ギルドとの会談に、明日の為の準備をした。心が疲れていたが、それを感じる事が出来ないくらいにいろいろな事が起きた。トルクがいると大変な事が起きる気がする。しかしトルクが公爵家に来てから、全体的に見ると良い方向に進んでいると思う。疲れるけどな。

 翌日、私達は御使い様の事を軽く考えていた事を知った。

 執事長のスクートから起こされる。急ぎの用件らしい。


「クリスハルト様、トルク殿が部屋に居ません。置手紙があって『朝食は後で食べる』との事です。ララーシャル様に聞いたら「精霊の依頼を受けたから出かけた」と言われまして……」


 寝起きでスクートから聞いた言葉に、脳が覚醒した。

 ……トルクよ。どうして教えてくれないのだ。勝手に動くなよ。バルム砦に居た時も一人で行動していたけど、前よりも行動的になっているぞ! それに周りの迷惑を考えてくれ! トルクが屋敷から抜け出したせいで、お前に付けていた護衛兵が責任を取って罰せられるじゃないか! 頼むから周りを見て行動をしてくれ!

 父上と一緒にララーシャル殿にトルクの行方を聞いたが、


「ごめんなさい。トルクとサクラは精霊の願いを叶える為に外出したの。詳しい事は言えないけど、貴方達の不利になる事ではないわ。どちらかというと人助けだから」


 ララーシャル殿に頭を下げられたら私達は何もいえない。


「それから私もオーファン君とベルリディアちゃんと一緒に居るわ。護衛対象が一緒の場所に居るならその分の護衛を他に回せるでしょう」

「お心遣い、感謝します。ですがララーシャル殿もお気を付けください」


 父上はトルクの事を問いただすのを諦めたようだ。私も諦めよう。部屋を出てため息を吐いた。トルクの行動というよりも、精霊の行動に頭を悩ます。


「トルクは精霊に連れて行かれたと思って良いのでしょうか?」

「そうだな。トルク殿は精霊の頼みで、連れて行かれたのだろう。私達に説明をする暇もなく」


 父上も同じ考えのようだ。御使い様や精霊への認識を改めないといけないな。


「それはそうとして、私は現場に出る。クリスハルトは屋敷を頼んだぞ。トルク殿もそのうち帰ってくるだろう。置手紙には朝食は後で食べると書いてあったから昼前には戻ってくると思うが」

「何事もなければという条件が付くと思いますよ、父上。しかしトルクの事だからひょっこり帰ってくるでしょう。土産に何を持って帰るかは分かりませんが」

「……土産か。我々の事を気にする事は無いから手ぶらで帰って来てほしいな」

「トルクはそこら辺の事を気にする性格でしたよ。頭を抱えるような土産を持ってこない事を祈りましょう」


 トルクよ、お願いだから変な土産を持って帰らないでくれよ。

 しかし私の祈りが届く事は無かった。いろいろと突っ込みたくなる土産だったのだから。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] グラディッシュ伯爵のあまりの無能さに驚きました。
[一言] さすがに話が進まなすぎです。
[気になる点] あと5話くらい閑話が続くんですかね・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ