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精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
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18 新しい依頼

 帝都から来た騎士ギャンバ率いる兵達は街の外で野営の準備をしている。その兵達の声が聞こえる。


「暇だな。楽しい事はないのか?」

「街に入れないって、面白くない」

「誰か街に入って、女さらって来いよ」

「ついでに酒とつまみも頼む」


 ……本当に国に仕える兵隊なのか? 旅の汚れのせいか山賊や盗賊の類と言われた方がしっくりくる。

 サクラから認識除外の術をかけてもらい、オレ達は騎士ギャンバが野営しているテントに近付く。

 公爵さんは無表情で周りを見回しながら「これが帝都から来た兵達なのか」と嘆いていた。この人達はモラルが低そうだから、嘆くのは無理ないよ。

 騎士ギャンバは兵達がテントを作っているのを見守りながら、屋敷に連れていた騎士達と会話している。


「しかし、騎士モルダーを連絡員として置いておいて良かったのですか? あいつは公爵の御子息の婚約者を寝取った愚か者ですよ」

「仕方があるまい。上の人間がモルダーに仕事を与えろと命令したのだ。連絡員くらい問題なく出来るだろう」


 もう仕事を失敗したよ、屑騎士モルダーさんは。


「上層部もどうしてこんな傭兵崩れの者達を連れて行けと言っているのですか?」

「どうせ、碌でもない事を考えているのだろう。上の人間のやる事はわからん」


 だったらそんな兵達を連れてくるなよ。お前達が最初に街に入れようと考えていたんだろう。責任者が止めろよ。


「しかし先代皇帝の隠し子とは。……上の人間は何を考えているのですか?」

「さあな、私達の任務はその子供を帝都に連れて行く事だ。それ以外は考えるな」


 そんな会話をしていると、兵がギャンバ用のテントの準備が出来たと報告してきた。


「では、私は休む。警護の兵は必要ないからな」


 そういって騎士ギャンバはテントに入っていった。

 テントは広めで十人くらいは楽に寝れるような作りだった。簡単なベッドとテーブル、椅子が置いてある。

 騎士ギャンバは椅子に座ってテーブルに置いてある水を飲んだ。


「……本当に、ロックマイヤー公爵の使者が来るのだろうか? あいつの言う通りに……」


 どういうことだ? オレ達は顔を見渡して、騎士ギャンバの言葉を聞く。


「ボルドランの言う通りに行動したが、……もしも失敗したら家族は……」


 ボルドランってラスカル男爵家当主の息子で、フローラさんの弟で、英雄の右腕と言われる人だよな。そしてファーレンフォール伯爵家の兄妹を避難させた人。隣の公爵さんを見ると考え込んでいる。そしてオレに言った。


「トルク殿。認識除外の術を私だけ解除することは出来るだろうか?」


 サクラ、出来る? 『おk』って雷音さんからの知識だろう。ご丁寧にプレートまで用意して。どこにそんな物を隠していたんだ? ついでにララーシャルも『ガンホー』ってプレート掲げて何をしているんだ? その言葉の意味を知っているのか?


「どうぁ! ロックマイヤー公爵! いつの間にテントに!」

「……ギャンバよ、ボルドランの言う通りに行動したとはどういう事だ? 屋敷での馬鹿にした話し方や、屑騎士モルダーを連絡員にした事もボルドランの言う通りの行動なのか?」


 テントに音もなく入って来た公爵さんに驚く騎士ギャンバだが、それを無視して公爵さんは問い続ける。


「お前があのような喋り方をするのは、なにか理由があるのだろう。事情を説明してもらおうか。ボルドランはお前に何を吹き込んだのだ?」

「……ファーレンフォール伯爵家の兄妹を護衛して帝都に連れて行く件ですが、良からぬ事を考えている者達が居るのです」


 騎士ギャンバは公爵さんに席を勧めて話し始めた。公爵も椅子に座って話を聞く態勢をとる。


「今回の訪問は陛下の依頼というのは間違いありません。しかし兄妹を皇族に会わせたくない勢力があるのです。皇位継承順が変わるのを嫌がる方々なのか、ファーレンフォール伯爵家を嫌う貴族達なのかはわかりません。しかしその勢力の者達が兄妹を誘拐、もしくは暗殺しようとしているのです」


 複数の敵勢力がいて兄妹を誘拐か暗殺かよ。


「本来は陛下の信頼の厚い騎士団長が来る予定でした。しかし騎士団長はファーレンフォール伯爵の先代当主の弟であるので、今回の件を敵対貴族に攻撃されて謹慎をされました」

「陛下が謹慎を命じたのか?」

「いえ、陛下の迷惑になるからと言って、騎士団長が自ら謹慎を申し出たそうです。そして兄妹の母親はラグーナ様に保護されていますので敵も手が出せません。現に皇太子の方も門前払いを食らっているそうです。兄妹達もボルドランの迅速な行動でロックマイヤー公爵に保護されて、敵も迂闊に手を出せない状態になりました。しかし奴らは諦めずに軍を公爵領に派遣しました。皇族を保護するという名目で」

「しかし派遣した軍もボルドランの作戦の内なのだな」

「はい。死んでも問題ない兵達を準備して、兵達の不満を爆発させて領民を襲わせる。そして領民を守る為にロックマイヤー公爵領軍と善意ある皇軍が討ち取る事になっています。責任者の私は罰として階級が下がり、前線に向かう事になりますが、半年以内に武勲を立てて元通りになる予定です」

「……ボルドランの事だからアイツの手の者が兵の中にいるのだろう。そして不満を誘発して、その方向に向かわせているのだな」

「はい、公爵の言う通りです。私の任務はこの件を秘密裏に公爵の手の者に伝える事です。まさか公爵本人に伝える事になるとは……。これが計画書です」


 公爵さんは計画書を受け取ってため息をつく。ボルドランって人、いろいろと酷すぎない?


「それから騎士モルダーを連絡員に命じたのはボルドランの指示です。叩けばホコリが出るだろうと言っていましたが、……出ましたか?」

「……特大のホコリが出た。ボルドランのヤツめ。今度、説教しないといけないな」

「あと、暴動は明日の昼の予定です。傭兵ギルドと魔法ギルドに連絡して、応援を頼んだ方が良いとの事です」

「……ボルドランめ。本当に何を考えているのか、三日三晩かけて、問い詰めなければならんな」


 ため息をつき頭を抱える公爵さん。全部、ボルドランさんの掌の上で動いている事に頭を抱えているな。ラスカル男爵次期当主の頭の中はどうなっているのやら。


「最後に公爵。誰にも見つからずにどうやって此処に来たのですか? 我々に気付かれずにどうやって?」

「……極秘だ。ギャンバよ、先にテントを出てくれ。私も屋敷に戻る」


 疑問に思った騎士ギャンバは、公爵さんの言う通りにテントを出る。その後、オレはサクラに頼んで公爵さんに認識除外の術をかけてもらった。


「お疲れさまでした」

「屋敷に戻ったら、いろいろとする事が増えた。頭が痛いぞ」


 凄く疲れ切った表情だったので、帰りはララーシャルに頼んで空を飛んで屋敷に戻る。

 飛んでいる最中に公爵さんに聞いてみた。


「ボルドランって人、何者ですか? パトラッシュさんの御子息というのは知っていましたが、何というか……」

「トルク殿の言いたい事はだいたい分かる。子供時代はかわいかったのだが、軍に入ってからは性格が捻じれてしまったのだ。捻じれ具合が酷くて、他人を陥れるのが楽しいと笑いながら言っていた。効率的なら味方ごと敵を殲滅するので、帝国の多くの者から憎まれ命を狙われている。最近では英雄の右腕とも言われているが、邪道貴族とか、外道騎士とか、腹黒悪魔策士とか、天上天下永世反社会的人物などと呼ばれている……」


 邪道に外道に腹黒ってなかなかの呼び名だな。まともな人間には付けないようなあだ名だぞ。そこまで酷いのか? 最後の天上天下永世反社会的人物ってなに? 受けでも狙っているのか?


「無理して長名のあだ名を考えた結果だろう。どうでもいい事だ」


 確かにどうでもいいな。どうしたサクラ?


「トルクもあだ名がほしい? 考えてあげるわよ」

「私も考えてあげましょうか?」


 サクラもララーシャルもいらん事、考えなくていいから!




 屋敷の中庭に着地して、公爵さんは明日起こるであろう暴動の鎮圧準備をする為に早々と屋敷に戻った。オレはどうしようかと中庭を見渡していたら、中心にある大樹が目にとまった。大樹の月下草が生えている場所で少しゆっくりしようと思って近付くと、先客が居た。

 クリスハルトが木を触りながら泣いている。クリスハルトの側で大樹の精霊のドンバラッサが慰めているんだけど。……絵的にないわー。どデカいカバが、クリスハルトの頭を撫でている。……手ではなくて指で頭を撫でている。

 あ、落ち込んでいる人間と、慰めている精霊がオレ達のことに気付いた。


「すまない。変なところを見られたな」


 涙を拭い、いつも通りの表情を作るクリスハルト。そんなクリスハルトに何を言えば良いのか分からない。


「オス! お久しぶりです、サクラの姉御、ララーシャル殿、御使い殿。この人間は何故悲しんでいるのですか。オス!」


 直立するカバ。サクラ、ドンバラッサに説明をお願い。オレとララーシャルはクリスハルトと話すから。


「……トルクよ。私とキャメロッテは幼馴染でな、婚約が決まったときは嬉しかった。キャメロッテも嬉しそうに笑っていた。その笑顔が可愛くてこの子と一緒に幸せになろうと誓ったのだ」


 クリスハルトが話しかけてきた。聞いてほしいのだろう。オレは聞き手になった。


「彼女は隣の領地の伯爵令嬢でな。親同士の交流があって子供の時からよく遊んだものだ。お茶会に参加したり、学院の競技大会で優勝した時に一番喜んでくれたのは彼女だった」

「詳しい事は知らないけど。婚約者を寝取られて落ち込んでいたの」


 向こうの話は数秒で終わったようだ。精霊カバさんはクリスハルトに同情して泣いている。


「私が戦争に行くときは気丈に笑顔を見せてくれた。私が帰って来たら結婚式を挙げようと言ったら、泣いて喜んでいた」


 そのフラグは駄目だと思うよ。「そのフラグは禁止よ!」ってララーシャルも言っているし。


「しかし運悪く捕虜になり、死を覚悟した。キャメロッテを不幸にしてしまう事が悲しかった。泥水をすすっても生きて帰ると誓ったのに、牢獄で何もできない日が続いた」


 その頃がオレと会った時期だな。あのときを思い出すよ。……どうしたララーシャル、え、隣の方を見る?


「なんと悲しい事か! 辛かったな! 婚約者と別れ別れになるとは!」


 涙が滝のように流れている。これは絵になるのかな?


「絵にならないわよ。精霊の私でも引くわ」


 ……そうか。引くか。確かにサクラも引いているな。


「そして捕虜から解放され、帝国に戻った時に、夢にまで見た婚約者と再会した。私は彼女が嬉し泣きをしながら出迎えてくれると思っていた。しかし彼女は泣きながら謝罪したのだ! 私は意味が分からなかった。どうして泣いているのか理由を聞く前に男が近づいて来た。そう、モルダーが私達に近づいて、彼女の肩を抱いて言ったのだ。「彼女と結婚をした」と。私は意味が分からなかった」


 精霊カバさんが泣いているから、周りの精霊達も集まってきてクリスハルトの話を聞き始める。どこから持ってきたのかお菓子を片手に、モリモリ食べながら聞いているよ。


「彼女は泣きながら謝るだけだ。モルダーは「婚約者が死んで悲しんでいたのだ。私はそれを慰めようと思って……。すまない。彼女のお腹の中には私の子供が居るのだ」と言った。私は訳が分からなかった。父にも、彼女の父にも話を聞いた。「私が死んだと聞いて彼女は心が折れてしまい、そこをモルダーに付け入られてしまった」と。どうして死んだ事になっていたのだ! 戦争から戻ったら結婚しようと約束したのに!」


 クリスハルトの目から涙が流れる。そのときの事を思い出しているんだな。……でもどうして精霊がこんなに寄ってくるんだよ。みんなでクリスハルトの話を聞いているし。


「サクラやドンバラッサが居るからでしょう。何かあったと思ったんじゃないかしら。その横でクリスハルトが喋っているから、暇つぶしに聞いているみたいね」


 ララーシャルがオレに説明した後に、サクラが更に説明をする。


「ついでにトルクも居るからね。貴方は精霊に好かれているから寄ってくるわよ。好かれている事を忘れてない?」


 忘れてないよ。しかし、クリスハルトの過去話が佳境に入ったな。


「キャメロッテの両親が頭を下げて謝罪し、それから彼女にはもう会うことが出来なかった。私に出来るのは彼女の幸せを祈る事だけだ。しかしモルダーは学院時代の同級生で奴のことは知っている。女癖が悪く暴力を振るう人間だ。噂ではアイツに泣かされた女性や平民はたくさんいる。そんな奴にキャメロッテを取られるなんて……」


 クリスハルトの話を聞いている精霊が指さして笑っている。「取られたー」「奪われたー」「寝取りー」「無様ー」「かわいそー」等々。……同情的な感想が一割くらいで後は笑っているよ。こんなのを聞いたらクリスハルトは発狂して精霊に殴りかかるんじゃないか?


「オス、トルク殿。この寝取られ小僧が哀れで、哀れで……。どうにか出来ませんか? オス」


 精霊カバさんが泣きながらオレに頼むけど、何も出来ないよ。でも、


「婚約者を奪ったモルダーは屋敷に捕まっているから、罰を受けるんじゃないかな? ……公爵さんも罰するみたいだし」

「トルク!」


 オレがモルダーの場所を教えたら、サクラが切羽詰まった表情でオレの名を呼ぶ。精霊カバさんはニヤリと大きい口で笑った。好戦的な笑いだ。


「オス! トルク殿、感謝します。小僧の敵は屋敷にあり! 全員で小僧の代わりにタコ殴りだ!」


 精霊カバさんの呼びかけに、オー! と精霊達が応する。みんなで屋敷に向かって移動する。


「トルク! ヤバいわよ! ドンバラッサ達はモルダーを屋敷ごと消滅させる気よ! ついでに周りの人間もね!」


 ちょっと待った! 屋敷ごとモルダーを殺すな! 急いで先回りして、精霊カバさんと周りの精霊達と対峙する。


「勝手な事はするな! オレが責任をもって、お前達の分まで殴ってやるから心配するな! 絶対に何もするな、これはフリじゃないぞ! 絶対だぞ!」


 なんとか精霊の進軍は止まった。不満に思う精霊達も居たが、サクラの言葉で納得した。


「安心しなさい。二人を幸せにして、馬鹿には相応の罰を与えるから。その結果を待ってなさい」

「オス! サクラの姉御の言う通りにします。オス! 全員解散!」


 精霊達はどこかに行った。……そばに居るのはサクラと精霊カバさんだけだ。


「……クリスハルトと婚約者を幸せにしないといけないのか?」

「約束したからね。頑張ってね、トルク」

「オス! お願いします!」


 二人の為に精霊の願いを聞く羽目になった。どうすれば良いんだよ。……公爵さんに相談しよう。


「トルク、どうしたんだ? 急に飛び出して? ララーシャル殿も答えてくれなくてな」


 大樹の根元に戻って来たら、クリスハルトに聞かれた。話している最中に飛び出し、何故か精霊を説得している事を、ララーシャルに聞いても答えてくれなかったそうだ。


「……精霊から依頼を受けた。その内容を説明するのは少し待ってくれ」


 ララーシャルが答えないから、クリスハルトには秘密にした方が良いと判断した。


「精霊の依頼か。私に出来る事があるなら手伝うからな。それから愚痴を聞いてくれてありがとう。少し楽になった気がする。ララーシャル殿も感謝します」

「気にしないで。……あら? デックスレムさんがクリスハルトを呼んでいるわね。仕事を手伝って欲しいって」

「父上がお呼びか。ララーシャル殿、感謝します。では私は仕事に戻りますので」


 そう言ってクリスハルトは屋敷に戻った。オレは屋敷に戻るクリスハルトを見てサクラとララーシャルに言う。


「今回の任務はクリスハルトとその婚約者のキャメロッテさんを幸せにする事だよな。具体的には二人を結婚させる事になるのか?」

「その考えで良いと思うわよ」

「でもどうすれば良いんだ? キャメロッテ嬢は既婚者だぞ。離婚させて、クリスハルトと結婚させるのか?」

「難しい事は後で考えましょう。私達も屋敷に戻ってお茶でも飲みましょう。またね、ドンバラッサ」

「オス! サクラの姉御、ララーシャル殿、トルク殿。またのお越しをお待ちしております。オス!」


 サクラの提案でオレ達は屋敷に戻ってお茶を飲む事になった。今回の依頼はどうすれば良いんだよ。どうして精霊が人間の色恋沙汰に介入してくるのか。


「それはトルクが居たからよ。トルクに恩を売って、また願いを叶えて貰おうと思ったからでしょう」


 ……原因はオレなのか?


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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精霊の友というタイトルの割には 厄介事しか持ち込まない印象が強いのは 良いのか、悪いのか
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