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精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
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14 悲劇の皇女殿下ララーシャル

 昼食は新しく出来た友達と食べた。他の人達は時間が合わなかったからクリスハルトとオーファンとベルリディアの四人で昼食を取った。

 その後、オレはルルーシャル婆さんの見舞いに行く為に、みんなと別れた。

 婆さんの部屋に入るとララーシャルが先に見舞いに来ていた。ララーシャルがルルーシャル婆さんに果物を渡して食べさせている。……ララーシャルが食べやすいように果物を切ったのか? いや侍女に頼んで切ってもらった気がする。


「あ、トルク。お見舞いに来たの?」

「ありがとう、トルクさん」

「ルルーシャル婆さんは元気そうだ。倒れたと聞いてビックリしたよ」

「ごめんなさい。パトラッシュや周りの人達が大袈裟にしたみたいで。もうすぐ良くなるわよ」

「駄目よ、もう少し休んだほうが良いわ。それからキチンと食事をとって栄養を取らないと!」


 なんだか祖母と孫のような会話だな。微笑ましい。


「初めての御使いのお仕事はどうでしたか? トルクさん。大変だったでしょう。果物食べる?」

「あれが御使いの仕事なんだね。寿命を減らすなんて、ブラックすぎるよ」


 ルルーシャル婆さんからもらった果物を食べながら言う。前世でも健康と精神と睡眠時間を削って働いていたけど、寿命までは削った事なかったぞ!


「今回は難しいお仕事だったけど、いつも難しい事を頼まれる訳ではないわ。初めてのお仕事の成功おめでとう」


 初めてのお仕事って……。初めてのお使いレベルで言わないでくれよ。


「トルクさんが気絶しているときにフローラ達とお話ししていたけど、デックスレムとクリスハルトは帝都に行くらしいわね。それでトルクさんも一緒に行くと聞いていますけど」

「帝都にオレの妹がいるみたいで。帝国に寝返った遺伝子上の父親のアイローン伯爵が帝都にいるそうだから妹を助けないと」


 ルルーシャル婆さんに妹の事を説明する。母親と離れ離れになり、一人で父親のもとで暮らしていた可哀そうな妹。なんとしても助けて母親に会わせないと。


「……御使いの修業は粗方終わったけど、もう少しだけ修業をした方が良いのだけど、そんな事情があるのなら仕方がないわね」

「大丈夫よ、ルルーシャル。御使いの修業なら私も知っているし、トルクにも無茶な事はさせないから!」


 ララーシャルよ、その無茶には寿命を減らす事は入っていないだろう。


「そんなに長い間、帝都に滞在する予定はないよ。ルルーシャル婆さんの寿命が尽きる前に戻ってくる予定だよ。帝都に行って妹を探して親父を半殺しにして妹と一緒にラスカル領に帰ってくるだけだし」

「そうね。あと一ヵ月近く寿命があるから大丈夫ね。でも無茶は駄目よ。帝都では御使いの事を知っている貴族もいるのだから」

「了解」


 ルルーシャル婆さんは父親を半殺しにする事に何も言わない。スルーしたのだろうか? 反対されなくて良かったよ。その後に三人でロックマイヤー公爵領での出来事を話して部屋から退出した。ルルーシャル婆さんは少し寝るみたいだからララーシャルも一緒に部屋を出る。


「婆さんが元気そうで良かったな」

「……そうね。でも一ヵ月くらいしか生きられないなんて。悲しいわ」

「あと一ヵ月もある。それまで婆さんと思い出を作れば良いよ」


 落ち込んでいるララーシャルにオレはこの程度の事しか言えなかった。有り触れた言葉しか伝える事が出来ない自分を少し情けなく思う。


「オレは帝都に行くけど、ララーシャルは婆さんと一緒に居ても良いぞ」

「駄目よ、トルクは私のモノなのだから。それにトルクの方が心配よ。帝都で変な事に巻き込まれそうな予感がするし」


 モノ扱いされているんだけど。……それに予感って。


「嫌な予感は勘弁してくれ、あとモノ扱いも。でも、ありがとう、帝都の用事を済ませてさっさとラスカル領に戻ろうか」


 ララーシャルの想いに感謝して、オレは早めに用事を済ませるようにクリスハルト達と会って話をする事にした。探していると応接室でクリスハルトと公爵さんがオーファンやベルリディアと相談している。何を話していたんだろう?


「デックスレム様達の今後の予定を聞こうと思って。ロックマイヤー公爵領に戻る日は?」

「戻る日か……。三日間も滞在して男爵にも世話になった。そろそろ帰ろうと思っている。トルク殿の体調はどうだ? 一緒に帰れそうか?」


 そうか、オレは三日間気絶していたから滞在時間が短く思っていたが、他のみんなは違ったんだ。ラスカル領でのオレも用事は済んだし、今後の予定は……。


「みんなと一緒に帝都に行く事を考えています。妹の事を調べようと思っているから」

「それからオーファン君とベルリディアちゃんを助けるのよね」


 そうだな。友達として二人を助けたいし。ララーシャルは助ける気満々だし。


「ありがとうございます、ララーシャルさん。よろしくお願いします」


 ベルリディアがララーシャルに頭を下げて礼をする。ベルリディアはララーシャルを好いているから、手伝ってくれる事が嬉しいみたいだ。

 オーファンもオレに頭を下げたけど、オレは「友達だから別に良いよ」と答えた。


「良いのか? 確かにトルク殿の援助があればいろいろと助かるだろう。しかし……」

「大丈夫よ、私にも事情があるから」


 公爵さんが何かを言う前にララーシャルが遮る。ララーシャルの事情ってなんだよ? オレにしか聞こえないように言った。


「ほら、ベルリディアちゃん達って私の姪や甥だから。助けてあげようと思ってね。それに弟にも会いたいし」


 先代皇帝はララーシャルの弟だったな。会いたいと思うのはわかるけど、若いままだしビックリしないか?


「弟も精霊の事を知っているはずだから、理由を言えば大丈夫と思うわ」


 ララーシャルの弟の先代皇帝に会う為に兄妹に協力する。でもルルーシャル婆さんから皇族や王族とあまり関わらない様にと言われているのに良いのか?


「ルルーシャルにはこの件は伝えたわ。トルクと協力して周りに迷惑をかけない様にと言われているから大丈夫よ」


 ……オレが参加する事は決まっているんだな。


「先ほどの話し合いでは私がファーレンフォール伯爵家の兄妹をラグーナ様に会わせる予定でしたが、トルク殿やララーシャル殿にも協力をしてもらいましょう。一緒に来てください。クリスハルトをトルク殿と一緒に行動させますがよろしいですな」


「わかりました」

「一緒にトルクの妹の情報も集めよう。私が居れば城にも入る事が出来るし、アイローン伯爵の情報を集める事が出来る」


 オレを手伝ってくれるクリスハルトに感謝する。


「クリスハルトよ、トルク殿を呼び捨てにするのはどうかと思うぞ」

「クリスハルトは友達だから呼び捨てでも大丈夫ですよ。私も呼び捨てで話していますから。それにオーファンもベルリディアも友達だから呼び捨てですし」


 公爵さんがクリスハルトに注意をするがオレが弁明する。普通は逆でオレが呼び捨てを注意されるのだけどな。公爵さんもオレが御使いだから子供なのに呼び捨てにしない。……呼び捨てで良いと言ってみたがやんわり拒否された。


「トルク殿は上位貴族や、皇族レベルの身分だからな。しかし場所によっては呼び捨てをする場合があるから先に謝っておこう」


 皇族レベルの身分って……、オレ的には平民の気分なんだよな、実際には騎士レベルなんだけど。


「御使い様は何度も帝国を救ってくれた。数代前の皇帝陛下は娘を嫁にしてくれと頼んだくらい御使い様に感謝していたのだ。今では皇族よりも少し下くらいの身分と判断されている。まあ先々代の皇帝陛下が御使い様を利用しようとしたが、精霊の怒りを買い、ハゲ皇帝となったがな」


 ハゲ皇帝って。ララーシャルを見る。


「私は関係ないわよ。確か……お父様が亡くなってその後を継いだ皇帝だったかしら? ジュゲム達が毛根を全部死滅させてハゲにしたってルルーシャルに報告した事は聞いたわ。ちなみに歴代皇帝の即位の順番は、先々々代皇帝が私のお父様、次の先々代皇帝が長兄のハゲ皇帝、先代皇帝が私の弟のルライティールという順番ね。それで合っているかしら」


 公爵さん達は目が飛び出るようにララーシャルを見てビックリしているぞ。皇族だと言ったのか?


「少し待ってください。先代皇帝の姉君のララーシャル皇女殿下は確か、帝国貴族の裏切り者達に殺された方。希少な回復魔法の使い手だったと聞いた事があります。その御方が……、それも数十年以上前に亡くなられた御方が……しかし精霊? トルク殿! 教えてください!」


 だよねー。でもフローラさんにも教えておいた方が良くない? フローラさんを呼んでくる? わかった、待っている。クリスハルトがフローラさんを呼ぶために部屋を出た。

 そういえば普通ならハゲ皇帝の次の皇帝は、ハゲ皇帝の子供じゃないのか? そんな疑問を公爵さんに問いかけたら。


「ご子息は皇帝を継いだらハゲになると恐れて継承権を放棄したそうだ。その為次位の皇位継承権者であるルライティール様が皇帝の座に就いたらしい。そのときも大変揉めたそうだ。詳しく知らないが父が頭を抱えていた事は覚えている」


 ハゲになりたくないから皇帝にならないって、そこまでの事だろうか? ……これは『持てる者の論理』なのか? 確かにオレはハゲた事がないからその心理はわからない。でも若いうちからハゲにはなりたくないよな。


「ララーシャルさんが皇族? 先代皇帝の姉君なのですか、どういう事なのですか! 公爵様!」


 今まで聞きに回ってたオーファンが公爵さんに質問をする。そういえばオーファンやベルリディアにもララーシャルの正体は言っていなかったな。


「ララーシャル殿の事は私も詳しくは知らない。フローラを交えて聞くから少し待ちなさい」


 公爵さんに謝罪するオーファン。そしてオレもオーファンに謝罪した。


「すまない。ララーシャルは珍しい生い立ちでな。人間と精霊が融合して生まれた半精霊なんだ。だから人間に見る事が出来て、精霊の様に姿を消す事が出来る」

「だが、ララーシャル殿が皇族とは……」


 それは言ってなかったからな。女性の情報を広める訳にはいけないだろう。

 隣を見るとベルリディアがララーシャルに謝罪している。


「皇族の方に無礼を働き申し訳ありません」

「大丈夫よ、私は皇族じゃないから」

「でも……」

「ほら、私は人間じゃなくて精霊だし、どこにでもいる綺麗で神秘的な精霊よ」


 ……お前のような精霊がどこにでも居る者か! と心でツッコミをする。

 ララーシャルがベルリディアをなだめて、それにオーファンも参加しているとクリスハルトがフローラさんを連れてきた。


「待たせたかな、おや? ベルリディアはどうしたのだ?」


 ベルリディアはまだ立ち直っていない。そろそろ立ち直ってくれないかな。ほらララーシャル、場を明るくしてくれ。


「無理」


 ……だよな。とりあえずフローラさんと一緒に来た侍女さんがお茶を用意してくれた。

 お茶を飲んで落ち着きを取り戻したベルリディア。そしてまったりしているララーシャル。


「さて、何を聞けば良いのか。ララーシャル殿が先代皇帝の姉君だという話だが。悪意ある貴族に命を奪われた悲劇の皇女殿下、オルレイド王国の策謀で暗殺された皇族、噂レベルでは王国の王子と駆け落ちした皇女で死んだのは影武者だった、というのまであるのだが……。一番有名なのは皇女殿下をモデルとした演劇で王国からの暗殺者を魔法で撃退して、家族である皇族を庇って亡くなったという物語だな」


 物語って、ララーシャルの演劇! 面白そうだから見に行くべきだよね! な、ララーシャル。どうした、顔を隠して? 嬉しいのか?


「嬉しい訳ないでしょう! 恥ずかしいわよ! 私の事が演劇として公演されているなんて! 恥ずかしくて皇都を歩けないわ!」

「姿を消せは、誰にも見えないぞ」

「それでも恥ずかしいわ!」


 真っ赤になった顔を両手で隠すララーシャル。


「私も見た事があります。とても感動的でした!」


 ベルリディアの言葉に更に恥ずかしくなり、耳まで真っ赤になってうずくまる。

 更に公爵さんが話す。


「先ほどの話は第一部で、第二部では何故か死んだはずの皇女殿下が生き返っており、皇女殿下と帝国騎士の恋愛劇となっている。第三部は身分の違いで周りから反対されるが、皇帝の試練を受けて許してもらい結婚して幸せになる全三部作の大作だ。……大丈夫ですか? ララーシャル殿」


 ララーシャルは悶絶している。フィクションだから気にするな。クリスハルトもフローラさんオーファンもベルリディアも見た事あるらしく帝都に居る人間で見ていない人間の方が少ないらしい。……ララーシャルの姿が薄くなる。恥ずかしくて姿を消したな。オレの隣に座ってうずくまっているけど公爵さん達からは見えなくなった。


「恥ずかしくなって姿を消したようです。隣に居るので気にしないでください。とりあえずララーシャルの事ですね。ルルーシャル婆さんとジュゲム達から聞いた話ですが……」


 とりあえず、ルルーシャル婆さんとララーシャルの出会いから話して、死にそうな所を精霊に助けてもらい融合し、記憶を失ったけど、オレと奥義を使って記憶を取り戻した事を説明する。


「そのような事が……」


 公爵さん達はララーシャルが精霊になった経緯を知ってショックを受けている。フローラさんとベルリディアはハンカチを目に当て、クリスハルトやオーファンや公爵さんも悲しんでいる。


「それで私の弟で先代皇帝のルライティールの事を教えてほしいの? あの子がどうしているのか」


 いきなり実体化して会話に加わるなよ! ビックリしたよ。ほら、公爵さんも驚いているだろう。


「ルライティール様は帝位を継がれた後、王国に攻め入りました。ララーシャル殿は王国に暗殺されたという話が主流の時期でしたので。しかし王国の砦が突破出来ず、災害もあって帝国の財政は落ち込み、陛下は財政の立て直しを始めました。そのお陰で帝国は立ち直り、次こそは王国を攻め取ろうとしましたが、病に倒れて現在も臥せっております。そしてルライティール様の御子息が現在の皇帝で、お父上の後を継いで王国を占領しようとしております」


 ララーシャルの弟って賢帝だな。……どうした? ララーシャル、弟が心配なの?


「そうね、今ではたった一人の肉親だもの。会ってみたいわ。それにオーファン君達の事も聞かないといけないしね」

「そうだな。オーファンとベルリディアの件を聞かないといけないよな」

「勿論、ルライティールの子供だから、私達が守ってあげないといけないしね」


 守る気満々なララーシャル。兄妹を助ける事がララーシャルでは決定しているな。オレも兄妹を助ける事は賛成だ。でも人様の家庭事情、それも皇族の御家騒動に首を突っ込みたくないというのが本音だな。だってドロドロしてそうで絶対にろくでもない事が起きるに決まっているのだから。


「という訳で帝都に行ったらルライティールに会って、オーファン君とベルリディアちゃんの事を聞いて、馬鹿な事をした説教をして、子供を認知させて、養育費を請求して、感動的な再会を考えないといけないわね」


 暴走するララーシャルに待ったをかけたのは公爵さん。


「ララーシャル殿、お待ちください。まずはラグーナ様に会って詳しい事を聞かなければなりません。先代皇帝陛下に会うのはその後です。子供の認知なども状況を考慮しないといけませんので、私に任せてください。お願いしますから、勝手な事はしないでください!」

「……感動的な再会も駄目?」

「その辺も私達に任せてください! ラグーナ様と相談しますから! トルク殿もララーシャル殿を止めてください!」


 結局、公爵さんはオレに振ってきた。オレもララーシャルを止める事は出来ないんだけど。


「ララーシャル、お家騒動というモノは傍から見た方が楽しいぞ。まずは見て楽しもう。最後にネタバラシの様に出た方が面白いと思うよ」

「……そうね、確かに面白そうだし、サクラ好みね。とりあえずサクラと相談してみようかしら」


 しまった! 状況を悪化させた! 公爵さんごめん! 説得に失敗した。


「サクラ様とララーシャル殿のフォローは全部、トルク殿にお願いする」

「……クリスハルトも手伝わせても良いですか?」


 道連れにクリスハルトの名前を出す。クリスハルトが何か言っているが聞かなかった事にしよう。

 公爵さんは快く、承諾してくれた。そしてクリスハルトに、


「トルク殿を手伝ってくれ。帝都の平和はクリスハルトの肩にかかっているぞ」


 肩を叩いてクリスハルトを激励する公爵さん。


「トルク、私はお前と友になった事を後悔しそうだ……」

「諦めてくれ。そして友人として、オーファンとベルリディアもオレ達に協力してくれ!」


 オレの言葉に悲鳴を上げそうになる兄妹。蚊帳の外だと思ったか! 二人も道連れだ!


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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