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精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
174/275

11 夕食

書籍化決定しました!

詳しい報告は活動報告で!

クリスハルトから夕食前に呼び出されて風呂に入れられた。野宿の汚れを落として服を着替える。……凄くいい布で出来た服だな。きっと高い服だな。


「ほう、見違えたな。似合っているぞトルク。どこから見ても貴族の子弟にしか見えないな」

「お世辞ありがとう。久しぶりに風呂に入れてさっぱりしたよ」

「では、食堂に案内しよう。今日の夕食は料理人が腕を振るっていると言っていたぞ」


 夕食の献立に期待しながらクリスハルトと一緒に食堂に向かった。部屋の中には公爵夫妻とオーファンとベルリディア兄妹がテーブルに座っている。クリスハルトに席を案内されて座った。


「ようこそ、トルク殿。食事のときくらい屋敷で取れば良いではないかと思って招待したよ」

「お心遣い感謝します。しかし精霊達の暴走で破壊した部屋の事を考えると屋敷よりも大樹の方が安心できるので」


 サクラとララーシャルがラスカル領に行った一日目の夜。寝ているときに精霊に体を乗っ取られそうになり、頑張って抵抗したら部屋が酷い事になりました。魔法を使おうとする精霊、発動しないように抵抗するオレ。ベッドやテーブルなんかの家具は壊れまくり、しかも少し魔法を使われて火事になりそうだった。バラバッサラが来て助けてくれなかったら、ちょっと危なかった。

部屋の惨劇を見に来たクリスハルト達に謝りオレは大樹の近くで野宿をする許可を貰った。


「あの程度、壊れた内に入らんから心配などしないでくれ」


 ハハハと笑う公爵さん。お心遣い、マジで感謝します。


「トルクさん、精霊術は順調かしら。無理をしないようにね」


「ありがとうございます、フローラ様。ここは環境が良いので順調ですよ」


 フローラさんも精霊術の初歩は習っていたが濃くする事が出来なかったので御使いになる事は出来なかったと話す。


「トルクさんに弟子入りして、もう一度修業をしようかしら?」

「コツくらいなら教える事が出来ると思いますが、ルルーシャル婆さんに聞いたコツとそんなに変わりませんよ」


 今度教えてくれとフローラさんは言う。時間があったら教えてみるかな?


「トルクさん、貴族の子弟と思いましたよ。服がとても似合っていますよ。ねぇ、オーファン兄様」

「そうだな。良く似合っている」

「オーファン様、ベルリディア様、ありがとうございます」


 二人もロックマイヤー公爵家に滞在してからはサクラが持ってきた服から貴族服に変わっている。オーファンはオレ以上に様になっており、ベルリディアもドレスの様な服がとても似合っている。

 二人の姿を見て、これが貴族の子供だと思った。オレが知っている貴族の子供達は、脳筋でよく服を汚すエイルド様、綺麗な服を着て外で本を読むポアラ様、兄に似て汚れても良い格好で腕白に育っているドイル様くらいだからな。典型的な貴族の子供からは外れている。……そういえばバルム砦で従者だったアルさんも貴族令嬢だったな。普段は従者の格好だったけど、最後は貴族令嬢らしい服装だったな。今思い出したよ。

 会話の最中に配膳されて、目の前にはバルム伯爵家でも見た事のない豪勢な食事が並べられた。……凄く美味しそうだな。特に焼き立てのパンの香ばしい匂いがいい。


「さぁ、みんな食べてくれ。今日は我が家の料理人が腕を振るった料理だ。明日からの外出の為に食べて英気を養わないとな」


 公爵さんの言葉で食事を開始する。マナーに気を付けて食べないといけないな。エイルド様やポアラ様と一緒に勉強した事を思い出しながら食べる。


「トルクはマナーもしっかりしているな。どこで習ったんだ?」

「ウィール男爵家です。男爵家の子弟と一緒に勉強をする事が出来たのでマナーや礼儀作法を習いました」


 公爵さんの質問にパンを食べながら言う。


「ウィール男爵か。確か農業が盛んな場所だったな。トルクはウィール男爵領の出身だったのか。……バルム伯爵の騎士ではなかったか?」


 クリスハルトが質問してくるのでパンを食べながら答える。


「男爵よりも伯爵の騎士の方が良いと言われてバルム伯爵の騎士になりました。ウィール男爵夫人の父がバルム伯爵なのでその縁でバルム領の騎士になりました」

「何度も言うが私には敬語は不要だ。トルク」

「分かったよ」


 ロックマイヤー公爵領名産の子羊の肉も美味しいな。ソースをパンに付けて食べると更に美味しい。


「バルム伯爵領? そんな名前の領地は聞いた事ないですが、どちらの領地でしょうか」

「王国の領地だ。難攻不落のバルム砦は聞いた事ないかな? トルク殿は王国出身の騎士だが聞いていなかったかな」


 オーファンがバルム領を帝国領内だと思っていたようで、オレが王国出身だと初めて知ってベルリディアと共に驚く。そういえば二人にはオレが王国出身だと言っていなかったな。


「王国出身なのにどうしてラスカル男爵の騎士の身分を! まさか身分証の偽装をしたのか! ま、まさか奪ったのか!」

「身分証の偽装や強奪は犯罪ですよ! バレたら捕まって死罪か労役ですよ!」


 兄妹はオレが身分証を不正な手段で取ったと思っている。……酷くない?


「ラスカル男爵から直接貰った身分証です。不正はありません」


 スープがしょっぱい気がする。悲しいな。パンに付けてもしょっぱいな。


「しかし悪名高いラスカル男爵の身分証を持った騎士が王国出身とは。罪を犯して国外逃亡でもしたのか? ……罪人の多いラスカル男爵領なら王国出身の騎士でも採用するのだな」


 オーファン君、ディスるな。ラスカル領に恨みでもあるのか? 酷くない?


「ラスカル男爵家を悪く言う噂は多いですけど、ほとんどは嘘や捏造ですよ。今は男爵ですが昔は皇帝陛下から直接任務を受けていたのですから。悪い噂はその逆恨みです。ラスカル家を知っている者達はそんな噂には騙されないですよ」


 ラスカル領を悪く言うオーファンをフローラさんが窘める。フローラさんの実家だと知らないのか?


「……申し訳ありません」


 フローラさんに頭を下げるオーファン。食事時に暗い会話はマナー違反だぞ。しかし焼き魚も美味しいな。何の魚だろう? 淡白だから川魚かな?


「そ、そういえばトルクさんは騎士だから剣も使えるし、回復魔法も使えるのですよね。帝国でも回復魔法の使い手は少ないですから運が良ければ皇族の側近に抜擢されるかもしれませんね」

「ありがとう。でも私は王国に帰る事を希望します。私を待っている家族がいますから」


 ベルリディアが帝国で出世できると言うがオレは王国に帰るのだ。家族を安心させたいからな。そういえばアイローン伯爵が帝国に寝返ったんだよな。その事を公爵さんに聞いてみるか。


「……アイローン伯爵か。私も詳しくは知らないが、アイローン領地の砦に価値があるうちに帝国に売り渡して帝国での爵位を狙ったのだろう。彼が寝返ったお陰で帝国は無用の血が流れずに砦を占領出来たからな。王国の貴族や騎士が捕虜になったそうだ。そして自分の娘を帝国の上位貴族に差し出すと噂されている」


 アイローン伯爵は娘を使って帝国での安全を保障してもらうんだね。……娘って事はオレの妹?


「ちょっと待て! 娘って言ったな! 名前は知っているか!」


 アイローン伯爵の娘って妹の事か! オレの妹か! 妹は王都の学校に行っていて伯爵や母親に保護されているはずではなかったのか?


「名前は知らないが、どうした?」


「アイローン伯爵の娘は。……オレの妹かもしれない。オレの父親はアイローン伯爵だ」


 打ち明けた言葉を理解できない食堂の皆さん。部屋の中がシンとなる。その後一斉に声を上げてみんながオレに問いかける。


「伯爵家の子供!」

「騎士ではなかったのか!」

「ウィール男爵領出身でしょう!」

「それなのに騎士なのか!」


 ……とりあえず簡単に説明をする事にした。


「母親がアイローン伯爵の側室だったけど母とオレは捨てられて、妹だけは政略結婚に使えるという理由で伯爵家に残された。それで離れ離れになった。王国では貴族が十歳になると王都の学校に行くからそのときを狙って助け出そうと母親やバルム伯爵と計画を立てていた。しかし伯爵が帝国に寝返るなんて……」


 パンを食べる。美味いけど、雰囲気が悪くて味が落ちた気がする。やはり暗い話題をした後は味が落ちるな。明るい話題を探してみるか。


「とりあえず、ラスカル領での用事がすんだら帝都に行って妹の事を調べようと思う。クリスハルトも手伝ってくれるとありがたい」

「そうだな。私達も帝都に行く予定だからな。トルクが来てくれると心強い。私もトルクの手助けをしよう」

「ありがとう」


 王国に帰る日が少し遅れるけど仕方ないよな。妹が帝国に居る可能性があるんだから。


「そういえばトルクさんはラスカル領に行く準備は終わっているの?」


 フローラさんが明るい話題に変えようとする。この話題に乗ろう。


「少しの荷物だけですから大丈夫ですよ。フローラさん達は大丈夫ですか?」

「勿論大丈夫よ。久しぶりに実家に帰るのだもの。お土産も用意しているわ」


 明るく話すフローラさんだが、この里帰りがルルーシャル婆さんとの最後の別れになると理解しているはずだ。それなのに悲しみを押し隠してにこやかに会話するフローラさんは心が強いな。


「私はラスカル領に長くいる予定だから荷物がいっぱいなのよ。馬車に載るか不安だったけど大丈夫だったみたいで良かったわ」

「私とクリスハルトは数日間滞在して帰る予定だ。長く滞在するとラスカル男爵に迷惑をかけるからな」


 公爵さんとクリスハルトはルルーシャル婆さんに最後の挨拶をしてすぐに帰るのか。オレはどうするかな。ルルーシャル婆さんを見送った方が良いかな?


「トルク殿には帰りも送って貰いたいのだが……。可能だろうか」


 公爵さんは帰りも空を飛んで帰りたいんだな。……まぁ、別に良いけどね。


「あ、あの、お願いがあるのですが! 私達もラスカル領に連れて行ってくれませんか」


 ベルリディアが公爵さんにラスカル領へ同行したいと願う。オーファンは初耳らしくて驚いている。


「ベルリディア!」

「公爵様達と一緒に居た方が私達も安全だと思うのです。お願い出来ませんか」

「しかし今から準備と言ってもな」

「私達はすぐに準備しますから、お願いします」


 ベルリディアが頭を下げる。そして公爵一家がオレを見る。兄妹が同行するとなると護衛や侍女さんの人数が増えるから馬車二台で行く事になるんだよね。魔力的にも大丈夫なのかな?


「今日の深夜から出発するけど大丈夫?」


 オレがベルリディアに言うと彼女は「大丈夫です」と言う。オーファンにも聞くが「妹は言ったら聞かないからな」とぼやく。


「馬車二台で行こうと思いますが、今から準備は出来ますか?」


 オレが公爵様達に言うと頷いて承諾してくれた。


「では護衛と侍女の人数を増やして二台で行く用意をしよう。私は準備をするので皆は食事をしておいてくれ」


 公爵さんは執事さんを連れて部屋を出る。公爵さんも大変だな。

 その後、夕食を終えてフローラさんとオーファンとベルリディアはラスカル領に行く準備をする為に部屋を出る。クリスハルトはどうする?


「私の用意は終わっているから、トルクと一緒に居よう。お前はどうする?」

「大樹の側で魔力を濃くする」


 そう言ってオレ達は屋敷の庭の大樹の元に行く事にした。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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寿命三週間も取られて、なんでそんな事をしてるわけ? 木の移動は、精霊とやらの都合だろうに。 報酬をもらう方では?
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