8 久しぶり再会
1/20 10時15分くらい。
クリスハルトとトルクの再会があっさりしていたので変更しました。
馬車に揺られながらオレ達はロックマイヤー公爵家に向かう。
「やっとロックマイヤー公爵家に行けるな。オーファン君とベルリディアちゃんも目的が達成しそうで良かったね」
「そうね、早く手紙を渡してルルーシャルの所に戻りましょう」
「フローラさんと一緒にな。馬車で行くかそれとも飛んでいくか。少し悩むな……。馬車で行くとなると時間がかかるし、空を飛ぶとフローラさんが高所恐怖症に陥る可能性があるからな」
「大丈夫よ、レベルアップしたから上手くなっているわよ。現に上達したでしょう」
ララーシャルと話しているとオーファンが恐る恐る話しかけてきた。
「質問を良いですか? ララーシャルさんが皆さんの言っていた御使いと言う方なのですか?」
「御使いはトルクよ。私はトルクの友人である精霊。御使いとは精霊の友として認められた者の事を言うの。トルクが言った事は嘘だから気にしないで」
ララーシャルが真実を告げてオーファンとベルリディアが驚く。どの内容に驚いたのだろうか。オレが御使いって事? それともララーシャルが精霊だった事?
「精霊? ララーシャルさんは人間ではないのですか!」
ベルリディアちゃんが再度驚く。慕っていた女性が人間ではなく精霊だという事にビックリしている。オーファン君は口を開けて驚いている。……やっぱりオレが御使いである事よりも、ララーシャルが精霊であった事の方を驚いている。
「私は少し変わった精霊かしら。本来精霊は人間には見る事が出来ないけど、私はトルクのお陰で実体化出来るの。ちなみに私の他にもう一人精霊が近くに居るわよ。その精霊が貴方達を助けてくれたし、宿屋破壊はこの街に居る精霊達が私達を助けてくれたの。少しやり過ぎた感はあるけど」
もう一人精霊が居る事を知った兄妹は馬車の中を見る。もう一人の精霊であるサクラはオレの隣に居るぞ。とりあえず認識阻害を解除してもらいカバンを宙に浮かせる。
「驚いたと思うけど、オレの隣でカバンを宙に浮かせている精霊がサクラって名前だ。ララーシャルよりも上位の精霊だよ」
「初めまして、オーファンと申します。よろしくお願いします」
「ベルリディアと申します。助けて頂いてありがとうございました」
兄妹はサクラの方に向いて自己紹介をする。そんな行動が面白かったのか「よろしくね」と言ってオレのカバンに入っている飲み物をコップに入れて二人の前に浮かせる。ついでにオレ達の分のコップも浮かせている。
……オレのカバンには飲み物とコップを入れた覚えが無いのだけど。
「サクラがよろしくねって。そして一緒に飲みましょうって言っているよ」
馬車で飲み物を飲みつつ、オレ達はロックマイヤー公爵家に着いたので門番に挨拶をする。
「ラスカル男爵家の者ですがロックマイヤー公爵夫人に手紙をお持ちしました」
「ロックマイヤー公爵と奥様は先ほど帝都からお戻りになり疲れている。後日来てくれ」
少し門番の言っている意味が分からなかった。……後で来い? 三日間待ったんだよ!
「急ぎの用事でして手紙をお渡ししたいのです。出来れば公爵夫人に伝えて貰って良いですか?」
「公爵様達はお疲れで、今日は来客の予定は無い。出直して来い」
「急いでいるのです! お願いします。私はファーレンフォール伯爵の者です。これが身分証です」
オーファンが話に入り身分証を見せる。オレも身分証を見せた。
「確かに身分は分かったが本物かどうか怪しいな。身分証の売買が多いからあまり信用が出来ん。身分証を持った貴族であるなら前もって訪問の予約をするのが筋ではないのか? 貴族の子供だけで会うのなら尚更訪問を知らせるべきだろう」
確かにその通りだな。でもオレは三日後に会う約束をして……ないな。帰ってくる日は聞いたけど予約はしていなかった。
「ファーレンフォール伯爵家の者がロックマイヤー公爵に用事があるのです! 私達は急いでいるのです!」
「駄目だ。まずは訪問の予約を取ってからだ! オレは門番として今までこの屋敷に入った人間の顔は全員覚えているが、お前達は初めて見る顔だ。賊の可能性がある者は入らせない。文句があるなら訪問の許可を取ってこい!」
「話にならない! 他の者を呼んでくれ!」
「身元が分からない奴に会わせる事は出来ん!」
どうしよう。屋敷に入れない。アポイントを取ってなかったのが失敗だった。門番とオーファン君は言い争って、門番の人達が集まってきた。どうしようか考えていると門番が武器を構えてオレ達に向ける。
「これ以上は敵と見なすぞ!」
その言葉で門番達がオレ達に武器を向けた。オーファンは後ろに後退して離れる。武器を向けられたので、今日は諦めて訪問の予約をお願いしようと思ったが、
「なんだ? なんで御使いさんやサクラの姉御に武器を向けているんだ? お前達は敵か? 敵だな! 野郎ども、御使いさんとサクラの姉御を助けるぞ!」
いつの間にか精霊達が集まっていた。サクラが止める前に精霊達が門番達を襲う。門番が持っていた武器や防具が破壊され、火玉や水玉などの魔法が門番達に当り、突風で門番達が飛ばされ、入り口の門が壊された。……止める暇もなかった。サクラもララーシャルも声をかける事が出来ずに破壊の後を見る。これってロックマイヤー公爵家に喧嘩売った事になるのかな?
爬虫類? ワニが二本足で立っているワニ人間? 赤い鱗のリザードマンの精霊がオレとサクラに話しかけてくる。
「サクラの姉御も新しい御使いさんも無事で良かった。御使いさんは初対面だな。ワシはこの街を仕切っている木と火の精霊のバラバッサラというモンさぁ。よろしく頼むわぁ。しかし今回の御使いさんはよく襲われるなぁ。おっと御使いさんの連れに手を出した輩は若い衆が焼き入れといたから心配いらねぇよ。前に御使いさんの近くに居た精霊がやり過ぎって言っていたがこの程度の事はやり過ぎには入らねえよ。サクラの姉御はそれ以上だったからなぁ。姉御の力はワシなんて比べもんにならんくらいでなぁ。ワシはその破壊力に見惚れたモンだぁ」
精霊達に壊された門の近くで倒れている門番達は生きている様だ。回復魔法を使って癒すべきだと思うが、……どうしよう。オーファンとベルリディアは目の前で起きた破壊現象に混乱して、ララーシャルは兄妹を慰めている。サクラは木と火の精霊バラバッサラと話をしている。
「まったく、相変わらず血の気が多いわね。こっちの話も聞かずに攻撃したら駄目でしょう」
「すいません、姉御。しかしワシは木と火の精霊だけど、どうしてか口より先に手が動いてしまって。短気なのはワシも分っているんですがどうにも性分でして。サクラの姉御に御使いさんを紹介してもらう予定だったのですが、先日は会う事が出来なかったので、こっちから挨拶に行こと思ってですね。そしたら御使いさん達が襲われているじゃないですか! ワシらで助けようと思って若い衆と一緒に突撃かけたって事でさぁ」
喋り方が独特な精霊だな。これがこの街を仕切っている精霊なのか。サクラと話し終えた木と火の精霊がオレの方に来て頭を下げる。若い衆と言われている精霊達も一緒に頭を下げた。
「お初にお目にかかります。新しい御使いさん。ワシはこの街の精霊を仕切っている木と火の精霊バラバッサラでさぁ。サクラの姉御に紹介されるまで待てなくて、ワシの方からご挨拶させて頂いて感謝します。今回、御使いさんにお願いがありましてその件で伺ったのですが……、御使いさん達を狙う敵が来ているようでぇ、ちょっと待ってくだせぃ。焼き入れてきますんでぇ」
門を破壊した音を聞いたのか街の警備兵とロックマイヤー公爵家の騎士が来る。
「木と火の精霊バラバッサラさん、すまないがオレが話すから手を出さないでくれ。これ以上の破壊活動はしないから。サクラも精霊達が手を出そうとしたらを止めてくれ」
この破壊された現場を見たら絶対にオレ達が犯人だとされるよな。どうやって説得すれば良いのか。……普通は出来ないと思う。こんな事なら副ギルド長を同行させれば良かった。
「動くな! 全員動くな!」
「武器を捨てろ!」
武器を地面に置いて、とりあえず手を上げるか。
「ラスカル男爵の騎士トルクと申します。今回はロックマイヤー公爵夫人宛の手紙をお持ちしました。面会を希望したいのですが許可をお願いできますか?」
「お前は現状を理解しているのか? 門を破壊して門番達を倒した者に会わせる事など出来る訳がないだろう」
「……私もそう思います。ですがこれはお互いの悪い偶然が重なった結果なのです。今回の件は不幸な出来事として納めていただければ私達も嬉しく思うのですけど……」
「悪い偶然が重なったら門が破壊されるのか? あり得んだろう!」
オレもそう思う。騎士さん達や警備兵に囲まれる。どうしようか考えていると囲いが割れて奥から人達が来る。騎士に守られて見るからに貴族だとわかった。
……懐かしい顔だな。一年ぶりの再会だな。
「久しぶり、クリスハルト。元気だった?」
クリスハルトは上品な格好で髭もなく金の髪も整えられていて美男子だ。バルム砦にいた頃の薄汚れた格好とは違う。オレはクリスハルトが御使いの事を知っているだろうとルルーシャル婆さんの事を伝えようとした。
「トルク! お前! 生きていたのか! お前がどうしてここに居て! こんな事になっているのだ!」
驚きの声がうるさいな。クリスハルトはオレが死んだと思っていたのか。スレインに聞いているモノだと……、部下達から殺されそうになったけど、逃げた先は獣や魔獣がいる森だったから死んだと判断されたのかな?
「オレはルルーシャル婆さんの後を継いだ。そしてラスカル男爵とルルーシャル婆さんの手紙を持って来ている。それをロックマイヤー公爵夫人に届けに来た」
オレの言葉に驚いて、クリスハルトは言葉を選びながら言う。
「……そうか、ではロックマイヤー公爵家はトルクを賓客として招こう。母上の元へ案内する。いろいろと聞きたい事が有るのだが、お前が生きていてくれて嬉しいぞ」
クリスハルトの言葉を聞いて騎士達は囲いを解いて左右に並ぶ。……騎士達の訓練された動作がカッコいいな。オレ達はクリスハルトの後ろを歩いて、ようやくロックマイヤー公爵家の門を潜る事が出来た。
「トルク、バラバッサラとの話し合いはどうする? まだ待ってもらっているけど?」
サクラの言葉で精霊達の事を思い出す。先にバラバッサラとの話をした方が良いかな? 後になったら勝手に突撃をする可能性があるし。
「クリスハルト、すまないが先に行ってくれ。オレは少し休憩がしたい。出来ればあの庭の大きな木の前で休んで良いかな?」
オレの言葉に考え込む。普通に考えれば客間で休ませるだろうが、何故かバラバッサラが庭の木を指定しているのだ。
「先にオーファン君とベルリディアちゃんを休ませてください。私達は後から行きますから」
ララーシャルの言葉で少し考えてクリスハルトは執事っぽい人を呼んで兄妹を客間に案内させる。……兄妹の目が一緒に居たいと訴えていたが今回は諦めてもらおう。そして庭の木の前にはオレとララーシャルとサクラとバラバッサラとクリスハルトが居る。
「どうしてクリスハルトがいる?」
「トルクはルルーシャル御婆様から御使いを継いで、休憩はそれに関する事なのだろう。私も同席させてくれ」
精霊との会話はクリスハルトには聞こえないけど大丈夫だろう。オレはバラバッサラと話をする事にした。
「時間を取って貰って感謝しますけぇ。御使いさんにお願いがあってサクラの姉御に頼んだのですがお聞きになりましたか?」
「頼み事があるとは聞いたけど内容はまだ聞いていないよ」
「へい、頼み事いうのはぁ、私の元であるこの木を移動してもらいたいのでさぁ」
……この木ってこの大きな木の事かな?オレが五人くらいで輪を作ったくらいの大きさの幹の太さだよ。それを移動?
「実を言うとワシはこの地に四百年くらい住んでいましてぇ、そろそろ跡目に街の仕切りを譲って、ワシは他の場所でゆっくりしようと思っとります。前にジュゲムの旦那に頼んでみたけど、サクラの姉御でないと無理だと言われて諦めていたんでさぁ。ですが御使いさんが姉御と一緒に旅をしていると聞いて、これは頼みを言わないとワシは一生後悔するだろうと思い、お願いしたのでさぁ」
サクラ、出来るの?
「私だけでは無理よ。掘り起こして、少しだけ宙に浮かせる事は出来るけど、空を移動する事は出来ないわ。空を移動するのはララーシャルに任せるとして、距離もトルクの魔力的にもラスカル領くらいかしら?」
「ラスカル領まで飛ばすのは少し大変かも。でもトルクに協力してもらえば何とか……」
サクラとララーシャルが考えながら言う。普通に考えると精霊の力って凄いと思う。樹齢四百年の大樹を数百キロも離れた場所に移動できるとは。
「ラスカル領といえば初代さんが眠る場所ですね。それは良い! ワシをラスカル領の景色が良い場所に移してくだせぇ。この場所も悪くないですが新しい土地でゆっくりしたいのでさぁ。あ、出来れば火事が起こらない所が良いですね、若い頃に火事にあって少し焼けちまったんでさぁ。そのお陰で木と火の精霊になってしまって、気が短くて喧嘩っ早くなったんでさぁ。移動にはうちの若い衆にも手伝ってもらいますから安心してくだせぇ」
どうりで木と火の精霊という珍しい組み合わせだと思ったよ。しかし木を移動させるって、それも他人の敷地の大きな木を。……まずは土地の持ち主に話さないと駄目だよな。
「なあ、クリスハルト。御使いの仕事って知ってる?」
「母上から聞いた事がある。精霊の頼みを聞き、願いをかなえる者だと」
「今回のお仕事はこの木の精霊の頼みで、この土地から移動したいから手伝ってというお願いなんだよ。土地の持ち主のロックマイヤー公爵に許可を貰える?」
オレの言葉を聞いて大きな木とオレを見る。……混乱しているようだね。
「……この木はロックマイヤー公爵家の屋敷がある前から生えている木で、初代ロックマイヤー公爵はこの木を見てこの場所に屋敷を建てたと言われている由緒ある木で私の一存では」
うん、年代物の木だから簡単な事ではないと思っていたけど許可を取れるか難しくなってきたな。
「しかし精霊が願っているのなら……」
「なるべく許可を貰えるようにお願い。それからバラバッサラ、勝手に行動しないでくれ。出来ればオレかサクラかララーシャルと話して許可を取ってくれ。門番気絶させたり、門を壊したりするのは勘弁してくれ」
「へい、わかりました。若い衆にも言っときます」
「待て、トルク。今回の件は精霊の仕業なのか?」
バラバッサラに伝えた内容にクリスハルトが驚愕する。……すまない、オレ達もとっさの出来事で対処できなかったんだ。
「……御使いとしてなんとか精霊を抑えてくれたらありがたい」
「努力しているつもりだが、御使いになって日が浅いから」
でもオレの知らない所で活動する精霊は対処出来ないぞ。
ルルーシャル婆さんが森の奥深くに住んでいたのは周りに迷惑をかけないようにする為なのか?
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




