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精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
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6 依頼主と身分証の買取

 次に兄妹からの話を聞く。話の内容は何処からだっけ? ……まだファーレンフォール伯爵家の事を聞いただけだな。他に聞く事は……。


「お金と身分証の件は?」


 サクラが言うまで忘れていたよ。その件も聞かないといけないよね。その事を副ギルド長に聞いた。


「身分証ですが商人に売ったらしいので明日、その商人の所に話しに行きましょう。そしてお金の件ですが、情けない話ですが賊にギルドの金が盗まれて無い状態でして。申し訳ありませんがもう少し待って頂きたい」


 ……サクラが盗んだお金だね。オレの荷物の横にある袋だよね。伝えた方が良いのか、黙っていた方が良いのか。……黙っていよう。


「ララーシャルは何か聞く事はある?」

「有るわよ!」


 オレが訪ねるとララーシャルは勢いよく答える。何が聞きたいのかな?


「ベルリディアちゃん達を狙った依頼主は誰なの? 帝都では何が起きているの? 皇帝や側近はどんな動きをしているの? 普通に考えたら後継者問題よね。皇帝の弟、もしくは妹だからそれ相応の身分になるわ。でもそれを嫌う者達が居る、……それは皇帝の親族とその側近でしょう。貴方達はそれを知っているのではなくて? というかそれが依頼主でしょう。誰が依頼主なの?」


 早口で喋るララーシャル。確かに兄妹を狙った依頼主を聞くのを忘れていたな。


「依頼主は、……お伝えしないといけませんか」

「当然よ!」


 ララーシャルの言葉に口ごもる副ギルド長。……ここでは言いづらい事なのかな?


「依頼主は……ファーレンフォール伯爵です。ファーレンフォール伯爵家当主からの依頼で私達はお二人を狙いました」

「な! 叔父上が!」

「そ、そんな!」


 驚く二人に副ギルド長は説明する。


「ファーレンフォール伯爵が傭兵ギルドに依頼しましたが、それは帝国の上層部からの命令だと私達は考えています。誰が命令を下したのかまでは調べきれていません。しかしファーレンフォール伯爵の依頼で私達は動きました」


 ……なんかお家騒動にも巻き込まれたな。それもかなり悪質なお家騒動だ。

 どうすれば良いんだろう。兄妹は叔父に裏切られた事がショックで嘆いているし、ララーシャルは考え込んでいるし、サクラは楽しそうに笑っているけど何を考えているのやら。


「皇帝や側近達、先代皇帝の情報は私達にもわかりません。ですが去年バルム砦が帝国領となり、数日前にアイローン砦も落ちました。上層部はこれを機に王国を攻める手筈だったのですが、この件で上層部の考えが少し変わったようです」

「え? アイローン砦が落ちたの?」


 つい、言葉が出てしまった。


「はい、アイローン砦は落ちて帝国領になりました。その王国側の領主であるアイローン伯爵は帝国に寝返って帝国貴族となったそうです」


 ……アイローン伯爵ってオレの遺伝子上の父親だよね。その父親が王国を裏切って帝国に付いただと!

 落ち着けオレ……。オレにはする事がある、まずはルルーシャル婆さんの依頼で、次は……オーファンとベルリディアを助ける? いや王国に戻って母親と再会しないと。でも妹がアイローン伯爵の下にいるのならそれを助けてから王国に戻った方が……。でも時期からすると妹は王国の学校に入学しているかもしれない。……電話が欲しい、メールでも可!


「アイローン砦とバルム砦が帝国領土になったので帝国は少し王国に攻め入る時期を延ばす可能性があります。その間に今回の騒動を収束させるかもしれません」

「事情はわかったわ。とりあえずロックマイヤー公爵に会って詳しい話を聞かないといけないわね。それに二人の母親や先代皇帝にも話を聞くべきね。二人ともまずはロックマイヤー公爵に会って考えましょう」


 ララーシャルが兄妹に言って話を終わらせる。……とりあえず兄妹をロックマイヤー公爵に会わせてから考える事にはオレも賛成だ。情報が少ないからな。


「遅くなったので私も失礼します。今後とも私達傭兵ギルドはララーシャル様に敵対する事が無いように努めます。明日、お二人の身分証がある商人の下へ案内しますので」


 そう言って副ギルド長は部屋を出た。結構な時間を話していたのかな、お茶が冷めたよ。お茶を入れなおして少し落ち着こう。

 入れたお茶を飲みながらララーシャルがみんなに言う。


「今日はもう寝ましょうか。いろいろあって疲れたでしょう。明日は商人の家に行って、その後はロックマイヤー公爵家に行くから疲れを取る為に休みましょう。オーファン君、ベルリディアちゃん、大丈夫?」

「大丈夫です。でも少し疲れたから休ませて頂きます」

「私も休ませて頂きます」


 兄妹はそう言って寝室に向かう。しかし今日は疲れたな。


「オレ達も寝ようか……。そう言えばララーシャル、先代皇帝の名前を聞いたときにだけど、なんかあったの」

「……私の弟なの。ルライティールが皇帝になったのは驚いたけど、その子供がオーファン君かベルリディアちゃんだと思うと考える事があってね」

「あー、なるほどね。おばさんと言われる歳になった事が納得いかないんだろう。若いと思っていても子供からおばさんと言われると少し考えるからな。まあ、慣れたら気にならないよ」

「違うわよ! あと歳の事は禁止って言ったでしょう!」

「それはそうといつまで実体化しているんだ? オレは魔力を供給してないけど」

「私が勝手にトルクの魔力を貰っているから問題ないわ」


 ……害はないからまあ良いか。




 朝になりみんなで朝食を食べる。みんなは美味い食事だと言うけれど普通の味だと思う。高い金を出したわりに料理は普通レベルだったな。半壊させた宿屋の食事よりも美味かったけど。

 チェックアウトをして副ギルド長が指定した傭兵ギルドに向かう。表通りの大きい施設に着いた。裏通りの汚い家じゃないんだな。

 その入り口で待っている副ギルド長とその取り巻き。オレ達を見ると一斉に頭を下げる。


「皆様、お待ちしておりました。それでは商店にご案内します」


 ……ごつい男達に囲まれて子供達は街の大通りを歩く。先頭を歩くごつい男達が通行人にガンを飛ばして横道にずらし、後方のごつい男達は後ろからの敵襲に警戒し、中央でオレ達を囲んでいる副ギルド長とごつい男達は周りを警戒している。

 ……そこまで警戒する理由がわからない。オレ達を警戒しているのか? それともオレ達を狙う者から警戒をしているのか?


「私達はどこかに護送されているのでしょうか?」


 ベルリディアのつぶやきが聞こえたので返事をした。


「一応、周りの人達は警護のつもりらしいよ」

「他の人達から見たら私達は護送されていると勘違いされそうですね」


 まったくもってその通りだと思うよ。でも諦めてくれ。むこうはオレ達が危険人物だと思っているから。主にララーシャルがね。

 そんな感じで黙って道を歩く空気がきついからオレは話しかける事にした。


「裏通りの家は傭兵ギルドじゃなかったんですね」


 念のために敬語で話す。


「あの場所は裏の傭兵ギルドのアジトです」


 裏って何? 傭兵ギルドには表と裏があったのか?


「この街には傭兵ギルドが二種類ありまして、先ほどの店舗は表の傭兵ギルドです。表の傭兵ギルドは護衛任務や戦争の参加、依頼主からの依頼をします。裏の傭兵ギルドは王国の密偵の探し出す任務や情報収集、縄張りの管理や商店の護衛等、そして誘拐や暗殺が主な仕事です」


 ……裏の傭兵ギルドって裏組織の様な仕事だな。だから顔が怖くてごつい大人がいる裏通りにアジトがあったんだな。


「ギルド員はスラムの住人や裏商売の従業員、傭兵崩れや前科持ちが多いですね。しかし安心してください。みなさんの周りの護衛は私が信頼できる者達です。襲撃者が出てきても身を挺して守ってくれます」


 安心できるのかな? ……第一印象が悪いと信頼する事が難しい、顔が怖いと信用する事が難しいという事を実感する。


「ここが目的地の商店です。話はバーンがつけているはずです」


 バーンという奴が兄妹を騙した詐欺師でこの商店の三男坊だという。バーンは商人の息子なこともあって情報収集や誠実そうな口調で他人の懐に入る事が上手いが、本性は裏切られて絶望する顔を見るのが好きな鬼畜で、自分より下の奴を踏みつけるのが好きなクズ野郎らしい。

 そんな鬼畜外道だけど使い道があると副ギルド長は言う。そんな奴を配下にしている組織は大丈夫なのかと本当に思う。

 怖い顔の護衛達は外で待っているそうで、副ギルド長とオレ達は客間で待つ。……待つこと数分、詐欺師のバーンが入ってきた。


「遅れて申し訳ありません。父に急ぎの案件が出て私が対応をします」


 この場で見ると優男で誠実そうな男だな、見た目は。詐欺師だと言われても口八丁でその場を乗り切りそうな自信に満ちている気がする。スラムでは気持ち悪い顔をしていたのに。


「バーン、身分証の件だ。準備が出来ているか? 急いでくれ」

 

 副ギルド長が言うが、バーンは申し訳なさそうに謝る。

「申し訳ありません。お二人の身分証はもう買い手がついていまして、違約金を払う事になると準備した金額では無理なのです」

「それをどうにかするのがお前の役目だろう。急いで持ってこい!」

「しかし私としてもどうしようもなく……」

「黙れ! 早く持って来いと言っている! 違約金など後で払ってやるから!」

「ですが、商店では前払いとなっておりますので」

「金は払うから早く持って来い!」

「ですが……」

「だから……」

 なんだか話が平行線になっているな。前払いか後払いかで争っている。何をしているんだ? 話はついているんじゃなかったのか?

「金貨一枚で売れたので違約金がその十倍なのです。こればかりは信頼出来る傭兵ギルドとはいえルールを守って頂きたいのです」

「金貨一枚だと!」

「一枚で金貨一枚です。二人分なので金貨二枚。違約金を金貨二十枚です」


 ……確か金貨一枚は銀貨百枚分。日本円で百万円くらいだよな。金貨二十枚なら二千万円か……高いな。


「相場の百倍ではないか! 高すぎる!」

「しかし私としてもどうにも出来なくて」


 再度、副ギルド長とバーンの争いが始まる。どうするべきかな?アジトから盗んだ金を出せば問題ないと思うけど、そしたらオレがネコババしたことがバレるし。困ったな。


「我が商店は貴族の方も御利用しているのです。そのルールを破るのはその貴族の方々への背信にも繋がります。そして親交の深いエディオン子爵家が黙っていないでしょう」


 へー……、こいつエディオン家のスレインと繋がっていたんだな。


「そして私達の後ろ盾であるローランド様が黙っていません。あの方に睨まれたらロックマイヤー公爵の耳に入りますよ。だから……」

「おい、バーン。お前はローランドの事を知っているのか?」


 こいつはローランドの知り合いなのか!


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くなってきました 誤解とか保身とか色々ありましたからね 更新ありがとうございます!
[一言] っあ、地雷…
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