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精霊の友として  作者: 北杜
七章 帝国公爵領編
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5 兄妹の正体と勘違い

 はて? 客? 誰? 周りを見ても不思議そうに見返される。サクラだけが「スラムに居たボスよ、ボス」と言う。

 どうしてスラムのボスがここに来る? ボスの他に人が居るのかサクラに聞いたが一人で来たと言っている。仕方がないから武器を準備してドアを開けた。


「失礼する。オレはこの街の傭兵ギルドの副ギルド長を務めている者だ。ラスカル男爵の騎士に話と謝罪に来た」


 ごつい体の怖い顔だが敵意を感じさせない口調で話す。確かにスラムで聞いたボスの声だな。そして部屋に居たオーファンとベルリディアを見て言う。


「今回の件はこの兄妹の件も絡んでいる。傭兵ギルドの代表として話しに来た。どうして私達がこの二人を襲ったのかを話すから、私に説明をさせてくれ」


 兄妹の方を見て、そしてララーシャルとサクラを見る。部屋に入れても大丈夫そうだな。とりあえず話を聞くか。


「改めて挨拶をしよう。オレはロックマイヤー公爵領の傭兵ギルドの副ギルド長で名前をニールソンと言う。本当はもっと早い時間に来るはずだったがトラブルがあって遅くなってしまった、申し訳ない」

「ラスカル男爵家の騎士、トルクです。私達は貴方の部下から兄妹を助けただけです。そしてその部下にお金と身分証を奪われたらしいのですがその件も含んでいるのですか?」


 発端は二人を騙した詐欺師だ。その詐欺師が傭兵ギルド所属とはこの街の傭兵ギルドは信頼できないな。


「……その件もお話します。騎士トルク、貴方は彼等から事情を聴きましたか?」

「二人がファーレンフォール伯爵の親族だって事だけな。後の話は今から聞くはずだった」

「では私からも説明をさせてください。そしてその後に御兄妹から話を聞いてもらえれば」


 込み入った話になりそうだな。ララーシャルや兄妹はそれで良いと言う。そして副ギルド長ニールソンは話をする。


「今から十二、三年前の事です。兄妹が生まれる前の事です。兄妹の母親であるレンリーディア・ルウ・ファーレンフォール伯爵令嬢が皇后様の護衛騎士になった頃の話です。兄妹の母親は護衛騎士に抜擢されるほどに強かったと聞きます。そして皇族の住む後宮で護衛をしていたそうです」


 護衛騎士って兄妹の母親は凄かったんだね。って兄妹も驚いているよ! 知らなかったの?


「母様が護衛騎士だったとは初めて聞きました」

「護衛騎士をしていたレンリーディア様は子供を授かり、産むために後宮を出たそうです。そして一人の子供を産んだと言われています」


 一人の子供を産んだ? でも兄妹だよ?


「レンリーディア様が実家のファーレンフォール伯爵家に戻ったときには二人の子供と一緒に帰ったと言われています。私達が調べた情報では一人は亡くなった同僚の子供と言ったそうです。レンリーディア様は二人の子供を兄妹として育てられた」


 ……一人はレンリーディアさんの子供で、もう一人の子供は赤の他人なのか。どっちなんだ?

 オーファンとベルリディアがショックを受けている。この話は本人達も知らなかったのか!


「ファーレンフォール伯爵も子供の父親が誰なのかを聞いたそうですが、頑なに口を閉ざしたそうです。レンリーディア様は子供達と離れの家で生活をしていた。そうですねオーファン様、ベルリディア様」

「はい、私達は離れの家で生活をしていました。でも勉強や礼儀作法の時間は屋敷で教えてくれました! 当主様も私達に良くしてくださりました!」


 ……父親が分からないけどキチンと教育を受けさせる伯爵家当主は立派な人だな。……裏が有るかもしれないけど。


「そして今から数ヵ月前の事です。皇帝陛下の父君である先代皇帝の子供がいる事が分かったのです。約十年前の出来事で先代皇帝の寵愛を受けた女性は争いになる事を恐れて皇都から姿を消したそうです。そして消えた女性とは後宮で護衛をしていたレンリーディア様ではないかと言われています。二人の子供のどちらかが皇族の血を引いている皇族ではないかと!」


 ……要するにオーファンとベルリディアのどちらかが皇族なんだね。本人達も初めて知ったみたいだね、マジで驚いているよ。


「それを知った皇族と上層部は帝都にレンリーディア様達を呼び出して父親が誰なのかを問い質したが、本人は何も答えない。ただ先代皇帝ではないと否定しています。先代皇帝もどこの貴族の娘か知らないと言って口を塞いでおります」

「質問良いかしら? 先代皇帝のお名前は?」


 ララーシャルが質問をする。どうして名前を聞くの?他に質問があると思うけど。


「先代皇帝の名前はルライティール様だが、どうしてだ?」

「何でもないわ、少し疑問に思っただけだから」

「そうか……。では話を戻すが、レンリーディア様と一緒に帝都に来たオーファン様とベルリディア様は帝都から出てロックマイヤー公爵領に来ました。情報では母親からの手紙をもってロックマイヤー公爵に会おうとしているらしい。私達傭兵ギルドはその手紙を奪えと依頼されている。手紙に父親の事が書かれているに違いないと依頼主はそう思っているのです」


 ……メンドクサイ事になった。いつの間にか帝国の皇族問題に首を突っ込んでいた。どうすれば良い?


「そしてギルドの者が二人を探していたら、事もあろうにウチのギルドの者に騙されて金を取られて、最後には殴り殺されるところだった。騎士トルクが二人を助け出した事には感謝しております」


 感謝している様だけど、オレはお前達の会話を聞いているんだよ。ララーシャルを人質に考えたり、オレの身分証を欲しがったり、脅して手紙のありかを聞き出そうとしている話を聞いているけど、その辺りの事を聞いてみる。


「……その通りです。騎士トルクが普通の騎士なら私もそのような手段を使っていました。ですが昼に皆さんが泊まっていた牛の昼寝亭で部下が襲撃しましたが部下は全滅、宿屋は半壊したと聞き、私も現場に向かいました。そして気づいたのです、ララーシャル様は御使い様だと!」


 え? 御使いの事を知っているの? じゃあ、精霊の事も?


「傭兵ギルドの上層部しか知らない事です。大いなる力を持った精霊を手足の様に操る能力を持った神々が遣わした御使い。その力は強大無比で逆らったら全てを無に帰す。決して敵対するな、敵対するなら全てを捨てろ。傭兵ギルドで伝えられている言葉です」


 ……凄い内容だな。サクラよ、ツボに入ったのか大笑いするなよ。ララーシャルよ、自分が御使いだと思われているのを呆れるな。兄妹は……御使いの事を知らないようだな。


「御使い様のララーシャル様とその付き人である騎士トルクと敵対する事を、私達傭兵ギルドは止めました。依頼も破棄しますから許していただければ」


 ララーシャルに頭を下げる。……どうしようか? 


「あのね、私は御使いじゃなくて……」

「分かっています。内密にしろと言う事ですね。大丈夫です! 私の権限で全てを無かった事にしますし、関係者全員に口外しないように命令しました。だから何卒部下と私の家族の命だけは……」


 とりあえず、兄妹の話を聞こうか。傭兵ギルドの副ギルド長にも話を聞いてもらおうよ。それで良いかな?


「ちょっと待って! 御使いの事を訂正しないと!」

「それはどうでも良いや。勘違いさせておこう。オレには害はないし。それでオーファン、傭兵ギルドのニールソンが言った事でだいたい合っている?」


 ララーシャルの言葉を流してオーファンに話をする。


「私かベルリディアのどちらかが先代皇帝の血を引いている可能性があるというのは初めて知りました。私達は母様からの伝言をロックマイヤー公爵に伝えるだけだったのです。その伝言は公爵様と公爵夫人にしか教えてはいけないと厳命されています」

「私とオーファンと両方の伝言を言わなければ意味が分からない言葉になっています。一人で伝言を言っても分らないそうです」


 オーファンの言葉の後にベルリディアが言う。二人の伝える言葉が揃って初めて意味が分かるって、暗号か? しかし手紙じゃなかったんだな。


「私達は母様の頼みで帝都からここまで隠れながら来ました。お金や身分証を騙し取られて、もう少しの所で公爵様に会えると思ったのですが……」

「現在、ロックマイヤー公爵夫妻は皇都から帰ってきているそうです。明日には屋敷に到着すると聞いています」


 副ギルド長の言葉に希望を見出して明るくなる妹。良かったな。……どうした? オーファン? 考え事?


「トルクさん、ララーシャルさん。どうか、私達を助けてくれませんか?私達は皇族になろうとは思っていません。ファーレンフォール伯爵領で母様と静かに暮らしたいのです。どうか私達を助けてくれませんか? 副ギルド長の話からすると、ララーシャルさんはとても強い力を持った人だと思います。私達を助けてください」


 ララーシャルに懇願するオーファン。……オレを見るなよ、ララーシャル。仕方がないから助け船をだそう。


「すまないがオレ達にも都合がある。二人を助ける事は難しいよ」

「私はファーレンフォール伯爵家の者です。褒美も恩賞も出します!だから助けてください!」

「だから、こちらにも事情があるから……」

「お願いします! 私達を助けてください!」


 兄妹そろって頭を下げているよ、ララーシャルに。この二人はオレよりもララーシャルの方が上だと思っているようだ。副ギルド長からそんな話を聞いたからな。

 しかしどうするべきかな? ララーシャルに頭を下げている兄妹を思うと助けてやりたいとは思う。でもルルーシャル婆さんの頼みが最優先だからな。二人には悪いがまずはルルーシャル婆さんの件からだ。


「そういえばララーシャル様、私達が捕まえた王国の密偵や犯罪者を牢屋の外に出したのはララーシャル様ですか?」


 副ギルド長の言葉で兄妹の話がそれる事を願っていたララーシャルは即座に言った。


「そんな事はしていませんよ。私はベルリディアちゃん達と一緒に居たもの」

「……そうですか。変な事を聞いて申し訳ありません」


 犯人はオレです。でもオレに聞いていないから返答はしません。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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[良い点] ヘイヘイ!傭兵ギルドビビってるよ! ……御使い様って言うか妖精やり過ぎで伝説の災厄に指定されている件ですね…… 勘違いされていますが逆に考えると暗殺されにくいのでこれはこれで良いかもしれ…
[一言] 兄妹を殴ってたチンピラの処遇はどうなったの? トルクが男爵の騎士だと言ったのに、口封じしようとしてた連中をお咎め無しってのは虫が良すぎではないでしょうか? 最低限その辺りのケジメはつけさせな…
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