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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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閑話 隠居している御使い⑦

隠居している御使いへ編終了です。



 ラスカル家では宴会がおこなわれています。トルクさんが御使いになる事を決めてサクラ様が宴会を希望したからです。確かにめでたい日なので宴会をするのは良いと思うのですけど。


「ほら精霊ども!カラアゲとテンプラだ!」


 トルクさんが料理を作っている。なんでもサクラ様が精霊の料理という食べ物をリクエストした結果でした。精霊の料理とはトルクさんが考え出した料理の事らしく王国で流行している料理法らしいです。

 トルクさんは私達の過去を聞いて御使いになる決心をしました。初代の思いを受け継いだ子で、歴代の御使いの誰よりも精霊に好かれる子が御使いになってくれました。

 そのトルクさんはサクラ様や他の精霊達に料理を振舞っています。本当に精霊に好かれているのですね。お菓子が盛り付けてあるお皿を持って精霊達の所に運んでは精霊達にもみくちゃにされています。本当に精霊に好かれていますね。


「新しい御使い様は精霊様に好かれているようですね」


 パトラッシュが私の近くに来て話しかけました。


「そうね、歴代で一番好かれているわ。そして宴の場所を提供してくれてありがとう。料理の準備も大変だったでしょう」

「トルク殿が手伝ってくれましたから、それにあの子の作る料理は素晴らしい。王国で流行っている精霊の料理はとても美味ですな」

「そうね、とても美味しいわ。ジュゲム達もお酒に合うって言って食べているし、あら?ララーシャルが実体化したようね。」


 トルクさんがララーシャルを実体化した。部屋に居た者達がその美貌に目を奪われ使用人達がララーシャルの側に行って話しかけている。ララーシャルも人気者ね。……どうしたの、パトラッシュ?


「精霊が実体化するとは。精霊をこの目で見る事が出来るとは……先々代皇帝のご息女、皇女ララーシャル様。昔聞いた事ある話よりも美しいですね」

「あら?見惚れたのかしら?ララーシャルは半分人間だからね。トルクさんの魔力で実体化出来るそうよ」


 確かにララーシャルは綺麗だからね。それに精霊としての気品も付け加わった事もあってみんなから褒められているわ。当人はトルクさんに助けを求めているけど、トルクさんはそれをスルーして私達の所に来て一息ついた。お仕事お疲れ様。

 休憩をしているトルクさんと喋り、ララーシャルを助けるためにパトラッシュが動き、ララーシャルに責められるトルクさん。みんなと同じ時間を過ごせてとても幸せな気分になっています。

 パトラッシュとトルクさんが話しているので、私はララーシャルと話をする。


「ララーシャルもお疲れ様。人気者ね」

「昔もここまで酷くなかった気がする。どうしてかしら?」

「きっと精霊のララーシャルのお陰ね。あの子の話しやすい雰囲気が出ているのよ」

「その私の中のララーシャルがお菓子を催促していてね。食べ過ぎだから注意しているのだけど……食べ足りないようなの」

「あらあら」

「ゆっくり食べるんじゃなくて、お菓子を口の中にいっぱい詰め込んでムシャムシャ食べたいって言ってね、凄く困っているわ。そんな事は出来ないって言っているのに」

「ララーシャルを注意しているのだけど、なかなか上手くいかなくてね」


 あらあら大変みたいね。精霊のララーシャルは好奇心旺盛でお菓子が大好きだったから。……そうだわ!


「だったらこんな方法はどうかしら。トルクさんに嫌われるって言ったら少しは言う事を聞くんじゃない?」

「……その通りになったわ。今度からゆっくり上品に食べるって」

「良かったわね。ララーシャルはトルクさんが好きなのね」

「そうね。……って私じゃなくて、私の中のララーシャルの事よ!」

「分かっているわ」

「トルクって確かに可愛いけど、まだ子供だからね。せめて私と同じくらいの年齢なら」

「あっという間に大きくなると思うわよ。フローラもいつの間にか大きくなって子供もいるのだから。それに成長したらトルクさんはモテそうだから他の子に取られるかもしれないわね」


 あらあら、ララーシャルが難しい顔をしているわね。精霊のララーシャルとお話でもしているのかしら?

 いつの間にかサクラ様が来られてトルクさんとお話をしているわ。精霊の料理って初代様の故郷の料理だったのね。どうりで旅をしていても食べた事ない料理だったわね。


「その研究はオレが引き継ぐ!御使いとしてオレが引き継ぐ!同郷としてオレが引き継ぐ!」


 ……トルクさんの決意は御使いになると宣言した時よりも感情が入っているわね。サクラ様も同じことを言っているわ。


「それよりも御使いの修業が先ですよ」

「両方する!昼に御使いの修業で、夜に味噌や醤油を作る!」


 トルクさんなら修業と研究を気合で乗り切りそうね。喜んでいるトルクさんを見るとやっぱり年相応の子だと認識するわ。


 次の日、トルクさんと精霊術の修業の為に、ララーシャルはジュゲムから精霊の力の制御法を習う為に初代の墓の近くで修業をする。


「トルクさんはどうしたの?少し落ち込んでいるみたいですけど」


 私の言葉にサクラ様が言う。


「昨日、ライの研究資料を渡したのだけど、研究が難しいみたいでね。先に精霊術を学ぶ事に専念するみたいよ」

「そうですか……。初代様が残した研究資料。とても難しいモノなのですね。でもトルクさんなら解決できるでしょう。初代様と同じ同郷の方ですから」

「……そうね、トルクは良いとして、問題はララーシャルね。ジュゲムに制御法を学んでいるけどやっぱり難しいようね」


 ララーシャルはジュゲムに力の扱い方を学んでいる。見た感じでは苦労をしていなさそうだけど……。


「精霊のララーシャルは五十年も生きていないわ。そして融合して属性を二つ持った精霊になったけど、力の制御は年単位で少しずつ自然に覚えるものなの。百年かけて自然に覚える事を、習いながら一年で覚えるのは難しいわ。十年くらいなら覚える事が出来ると思うけど」

「それは……難しいですね」

「ジュゲムは基本的な事と制御に失敗しないようにする事を教えているけど。私が近くに居る時は大丈夫だけど、離れた場所で制御に失敗したらこの辺くらいなら更地になるわね」


 ……ララーシャル、頑張ってね、応援するわ。


「ララーシャルは良いとして、トルクの修行法だけど、ライの修行法で修業してみない?」

「初代様の修行法ですか?」

「ライの書いていた本に修行法が書いてあったの。火の上で座禅を組む、滝に打たれて瞑想する、太陽を浴びて光を克服する、重い亀の甲羅を背負って生活する、腰に長い紐を結んで地面に紐が着かないように走るとかね。それ以外にもいろんな修行法が書いてあったわ」


 トルクさんにその事を伝えたら初代様の修業法は冗談だと言われたわ。だから今まで通りの修行法をしています。

 昼は精霊術の修業をして夜は初代様の残した資料を見る研究をするトルクさんは頑張っています。私も見せてもらいましたが分からない言葉があり、それを読む事が出来るトルクさんはやはり初代様と同じなのだと認識します。

 夜のゆっくりとした時間にサクラ様とララーシャルとお話をしていたときにトルクさんが訪ねてきました。


「おーい、サクラ。この本だけど」

「これ?私もライの書いている本の内容が理解できない部分があるわよ。ライの故郷の字でしょう」

「そうだけどこの本にサクラの事が書いてあってな。『サクラへ バギョラリブンベロ、パカッテ ククガボザミクバ ドラブミブマイガオウア バルペル』って書いてあるんだ。なんて意味?」

「……分からないわ。トルクも知らない言葉なの?こっちの文字かしら?でも聞いた事ない言葉ね」

「暗号かな?」

「なるほど、暗号ね。暗号のヒントがこの本に書いてある?」

「ちょっと待て、……これかな?『サクラの好きな動物は?』……これがヒントか?」

「私の好きな動物?先に言っておくけど、たぬきじゃないわよ。……うーん好きな動物ね。特に無いわね」

「ヒントがこの本の中に隠されているのか?どこに?」

「私も探すわ!面白そうね」


 ララーシャルも二人の話に参加し、私も謎解きに加わる。楽しい時間だったけど寝る時間になり解散。でもトルクさんとサクラ様は徹夜で調べていたみたいね。

 朝起きたら、睡眠不足のトルクさんとサクラ様が本を見て論争している。


「二人とも、どうしたのですか?」

「……暗号が解けたわ」

「……暗号が解けた」


 二人がどうして言い争っているのでしょう。……悪い事でも書いてあったのでしょうか?その後も二人は口論を続けました。要約すると。


「燃やす!こんな本なんてこの世から抹消してやる!」

「こんな本でもライの残した本よ!気持ちは分かるけど駄目!」


 ……何が書いてあったのでしょうか。




 トルクさんとララーシャルが修業を始めてもうすぐ一ヵ月になります。二人の修業は順調です。しかしそれ以外で心配な事があります。

 フローラに手紙を送っても返信がないのです。今までは必ず返信をして、偶に返信の手紙と一緒にフローラは私の所に来ました。しかし一ヵ月経っても返信の手紙が来ない。フローラの身に何か起きたのでしょうか?


「フローラに直接手紙を渡しますか?」


 パトラッシュが考えながら言う。確かにその方が確実ですけど誰が居ますか?


「トルク殿に頼めませんか? 御使い様なら一日でロックマイヤー公爵領に行けるはずです」


 確かに空を飛んで行くなら一日で行けるわね。……そうね、御使いとしての仕事を頼んでみましょう。トルクさんに話したらサクラ様がとても乗り気でした。

 許可を得たので私達はトルクさんの為に準備をする。ランドに頼んでトルクさんの旅支度をしてもらい、私はフローラに手紙を書く。パトラッシュも手紙を書き、トルクさんの身分証を作成する。

 ……そういえばララーシャルには旅支度は必要かしら? ララーシャルに聞いてみるとトルクさんの荷物に入れてと言う。そして何故かサクラ様の荷物も入れる事になりました。ランドと一緒に用意をしていたけど、「それは必要ですか?」という物が多かったです。あの大量の荷物がどうやってトルクさんの荷物に入ったのかは謎です。きっとサクラ様の魔法でしょう。

 出発の日。まずはランドがトルクさんに旅に必要な荷物を渡します。そしてパトラッシュが身分証と旅費を渡しました。身分証はラスカル男爵家の騎士として登録されています。平民よりも騎士の方が良いと判断しました。トルクさんは騎士の礼を言います。正しい礼儀作法をならっているので失敗はしないでしょう。

その後に私とパトラッシュの手紙を渡しました。


「では行ってきます。早ければ三日で帰ってくるかな?帰りは馬車で帰るかもしれないな。でもルルーシャル婆さんが生きているうちに戻ってくるよ」


 そう言ってトルクさんはララーシャルに頼んで空を飛んでロックマイヤー公爵領に行きました。……あっという間に上昇して見えなくなります。大丈夫でしょうか?


「他人と一緒に空を飛ぶ事はまだ早かったか……」


 ジュゲムが独り言のように言う。それを聞いた私はジュゲムに問いただしました。ジュゲムは「見るか」と言って私にトルクさん達の状況を見せる。

 トルクさんは空で回転をしながら飛んだり落ちたりしています。叫んでいるようで「ジェットコースターか!」と言っています。ジェットコースターとは何でしょう?

 そのうち自力で宙に浮くことが出来たようです。風魔法を足から発動させて宙に浮くなんて……非常識ですね。ジュゲムは自力で空を飛べたことに称賛を述べてきます。


「もう見せなくていいわ。……トルクさん達は無事に着けるかしら?」

「大丈夫だ。ララーシャルもそのうちに他人を飛ばすコツを覚えるだろう。……懐かしいな、私もライと初めて飛んだときもあのような光景だった。ヤツも「ジェットコースターか!」とか言っていたな。流石はライと同じ同郷の者だ」


 しみじみ言うジュゲムに私はトルクさんに同情をする。精霊の友人としてこれから苦労をする後継者に告げる言葉は一つでした。


「トルクさん、頑張ってください。歴代の御使いが通る道です。最初は苦労をしますが楽しい事もありますから」


そう言って私達は屋敷に戻りました。


次回は閑話はは王都での出来事です。

誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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