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こんにちは、下男のトルクです。
現在ゴランさんに連れられて男爵家にいます。農園の下人から男爵家の下人になりました。これは出世でしょうか?綺麗な家の部屋で寝泊まり出来るのはうれしいですが大丈夫なのか?男爵家に慣れるまで少し時間がかかりそうです。
中年のスラっとした体格の執事さんっぽい人に部屋を案内されました。この執事さんと同じ部屋で寝泊まりをするそうです。教育係ですか?執事さんの名前はダミアンさん。
使用人達のトップで男爵家の雑務を全部取り仕切っているそうだ。
「慣れるまでは私とこの部屋で生活をしなさい。必要な物も明日に準備をします。着る服も準備させているから心配はない。汚い恰好ではみんなに紹介ができないからな今から髪を切って身だしなみを整えよう」
色々とダメ出しをされたが濡れたタオルで体をきれいにして、ダミアンさんに髪を切って整えてもらって、今着ている小汚い服から男爵家で働く仕事着に着替えた。新しい服を着て髪を切って貰ってさっぱりした。
「ほう、見違えたものだ。これなら男爵家でも上手くやっていけるだろう」
「ありがとうございます」
それから男爵家の仕事の内容や男爵家の決まり事を聞いていたら寝る時間になった。
「では、明日みんなに紹介をする。トルクも仕事を覚えてもらうぞ」
「はい、頑張ります」
「では今日はもう寝ていいぞ。明日から頑張ってくれ」
「おやすみなさい」
清潔なベッドでゆっくり休もう。明日から男爵家の下男として働くからしっかり頑張ろう。
次の日の朝、ダミアンさんに起こされる。今日から男爵家の下男だ。新しい職場だがちゃんと働けるだろうか?出来れば明るくていじめがない職場ならうれしいな。
まずはダミアンさんに台所に案内された。台所では恰幅のよい中年の男の人が一人で食事の準備をしている。
「早朝は何かと忙しい。朝は食事の用意を手伝ってもらう。デカル居るか?」
「おう、ダミアンさん。これが新人か……」
「トルクだ。これから朝は食事の支度を手伝ってもらう。トルク、男爵家の料理を作っている料理長のデカルだ」
「初めましてトルクです。よろしくお願いします。」
「おう、坊主よろしくな」
「デカル、後の事は頼むぞ」
ダミアンさんは忙しそうだな。さてとオレも仕事だ。台所の手伝いならオレでも大丈夫だろう。
「坊主、まずは水汲みを頼むぞ。その四個の樽に水を満タンに汲んでくれ。井戸は台所の裏口にある。急げよ」
「すいません、魔法で水を作っていいでしょうか?」
水魔法の水が不味いって言って嫌いな人がいたから確認をしておこう。
「坊主は水魔法が使えるのか?だが樽四個分だぞ。そんな量を出せるのか?」
「大丈夫ですよ」
樽の方に向かい水を満タンにする。
「……本当に満タンにしやがったぞ。次は薪に火をつけてくれ」
「火魔法で薪に火を付けますがいいですか?」
「……坊主、火魔法も使えるのか?」
「下級ですが火と水と土と風は使えますよ」
「そうか……。火を付け終わったらオレの仕事を手伝ってくれ。料理は出来るか?」
「家ではオレが料理を作っていたので簡単な物なら出来ますよ」
「……どっから拾ってきたんだ?この坊主はいろいろ出来るな」
「どうしましたか?」
小声で聞き取れなかった。何て言ったんだ?
「いや、何でもない。始めるぞ」
オレとデカルさんは二人で朝食を作る。献立はパンと農園の野菜を使ったスープと野菜のサラダかな?オレはかまどの火の調節をしたり、指定された野菜を取ったり、切ったりしていると朝食の準備が終わった。
「坊主のおかげで料理が早く済んだな。後は食堂に持って行くだけだが、まだ朝食の時間には早いな」
「では、台所の事を詳しく教えて下さい。調理道具の場所や調味料を教えてもらってもいいですか?」
デカルさんに台所の使い方、食べ物の保存している場所、調理道具、食器についていろいろ教えてもらっていると、ふくよかな女性が台所に入ってきた。
「デカル、旦那様達の朝食の用意は出来ていますか?」
「おうクララ、用意は出来ているぞ。それからダミアンさんが昨日言っていた新人のトルクだ。なかなか見どころがあるぞ」
「トルクです、よろしくお願いします」
「初めまして、デカルの妻で侍女長のクララよ。よろしくねトルク」
……デカルさんは職場結婚をしていたのか。
クララさんと他の侍女達が男爵様達家族の朝食を運んでいる。次は使用人の食事の用意だ。オレ達は急いで準備をする。次第に使用人が食堂に集まってきた。用意をしていたパンとスープを侍女さんが食堂に持って行く。オレとデカルさんも食事をとるために食堂に向かった。
おや、レオナルドさんもいるな。
「トルク、朝から台所の手伝いか。朝から大変だな」
「いえいえ、農園の仕事よりも楽勝ですよ。おはようございます、レオナルド様」
「レオナルド様、トルクをご存じなのですか?」
「辺境の村から魔法が使える子供がいると噂をきいて男爵家に連れてきたのだ」
「なるほど、辺境からレオナルド様が拾ってきたのですか。良く働く坊主ですよ、こいつは」
「そうか、ダミアンも来たようだな。ついてこいトルク。みんなに紹介をするぞ」
レオナルドさんとダミアンさんに食堂の目立つ場所に連れていかれる。
「今日から働くトルクだ。よろしく頼むぞみんな」
「初めましてトルクです。今日からよろしくお願いします」
四・五十人はいるのではないか?兵隊のような人もいれば侍女や使用人、年配の人もいれば十代位の人もいるがオレと同じ位の子供はいないな。明るくて環境の良い職場の様だ。みんなに迷惑を掛けないよう頑張るか。
自己紹介が終わりみんなで朝食を食べ終えて、オレはダミアンさんに呼ばれて次の仕事に向かう。
向かった所は男爵様の家族が居る所だった。なんで下人を貴族の家族に紹介するんだよ。貴族に目を付けられていじめを受けるのは嫌だぞ。やられたらやり返すぞ。いろいろと考えていたら男爵様家族に会う。
男爵様の奥様らしき女性、あと子供が三人。あれ?男爵様のお子さんは一人ではないの?子供が三人いるよ?オレと同じくらいの男の子と女の子、あと幼児がいる。
「ダミアン、トルクを連れてきたか。紹介しよう。この子はトルク。今日からお前達と一緒に勉強をする。トルクに負けないようにお前達も勉強を頑張れよ」
へぇ?オレが貴族の子供達と一緒に勉強をする?聞いてないですよ男爵様。ダミアンさんを見ると何故かオレに向かってニッコリ笑っている。……はめられたかもしれない。なんで貴族の子供と一緒に勉強をするんだよ。訳が分からない。
「トルクと言うのか。オレの名はエイルドだ、よろしくな」
「私はポアラ。よろしく」
お子様の自己紹介がはじまっていた。エイルド様は男爵様譲りの青い髪でいかにもやんちゃ坊主っぽいな。ポアラ様はオレンジ色の長い髪を三つ編みで纏めている。
「クレイン様よりご紹介に預かりましたトルクと言います。勉強で皆さんの足を引っ張らないように頑張ります。これから宜しくお願いします」
「私は男爵夫人のアンジェよ、この子はドイル。よろしくね」
ポアラ様のオレンジ色の髪は母親のアンジェ様譲りか。綺麗な長い髪でニコニコ笑って綺麗な人だな。ドイル様はオレよりも二つ三つくらい年下かな?父親譲りの青い髪で母親似の可愛い子だ。
「はい、アンジェ様、エイルド様、ポアラ様、ドイル様。よろしくお願いします」
「では、後は頼むぞ」
「エイルド、ポアラ。お勉強を頑張るのですよ」
男爵夫婦とドイル様が退出をする。これから勉強の時間だ。勉強が出来て知識が増えるのは歓迎をするが、貴族の子供と一緒に勉強なんてどうすれば良いのだよ。
考え込んでいたらエイルド様が「勉強の準備をしてくる」と言って出て行った。
ポアラ様に「勉強の準備はよいのですか?」と聞いたが「勉強の準備は必要ない」と言われた。ではエイルド様は何の為に出て行ったんだ?
少し時間がたち教師の人が入ってきた。
「遅れてすいません、あなたがトルクですね。レオナルド様から聞いています。それでは勉強を始めますがエイルド様は?」
ポアラ様が言った。
「勉強から逃げた」
……勉強から逃げた。教師から聞いたらエイルド様は結構な頻度で勉強から逃げているらしい。勉強が嫌いだからオレと一緒に勉強をさせる。逃げない様に勉強に参加してほしい。これが男爵様の狙いだったのか。……無理じゃね。
後日教師から聞いたがポアラ様もよく勉強から逃げ出すらしい。二人とも逃げ出す教科が決まっておりエイルド様は文字や算数、歴史、礼儀作法、ダンスの勉強全般。ポアラ様はダンスや礼儀作法などから逃げ出すとの事。
二人が逃げ出さないように勉強をさせる事がオレに任された任務らしい。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




