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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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閑話 隠居している御使い⑥


あのときの悪夢は忘れる事が出来ない。最初に気づいたのはジュゲムでした。急に険しい表情になり危険を訴えます。


「そこに居る者よ、逃げろ!」


ジュゲムの声は私と父のドライセンにしか聞こえません。急な事で攻撃を防ぐ事が出来ずジュゲムは叫びました。屋敷の外から黒い魔力の塊が飛んできました。その魔力の塊がレローラの夫である騎士とその近くに居た人達に当たり全員倒れてしまいました。

何事なのか?二人が倒れてしまい部屋が静かになりました。レローラが夫の近くに行き呼び起こすけど二人の体からは血が流れていて死んでいます。レローラが夫の名前を叫んでいると再度魔力の塊が飛んできました。今度はジュゲムが防いで対応します。


「何者だ!姿を見せろ!」


ジュゲムが叫び、敵らしき相手からの攻撃を防ぐ。その攻撃は屋敷を壊していく。このままでは危険と判断してみんなを外に避難させた。私は産後で体力がなかったため、父に運んでもらいトルクはラッシーに運んでもらった。

外に出るとジュゲムが敵と相対している。宙を浮いているので相手は精霊の様です。精霊が敵になるなんて!この屋敷に精霊の恨みを買った者が居るのでしょうか?


「あの女が憎い!あの女の娘が憎い!」


そういって敷地内に攻撃をする精霊。私達に当たりそうな攻撃はジュゲムが防いでいますが屋敷が壊れていく。屋敷の中にいる者達は避難が出来たのかしら?


「アーカイラ!どうしてこんな事をする!」

「あの精霊と知り合いなの?お父様」

「あの精霊は私に印を付けた闇の精霊だ!彼女は数年前に私を見限っていなくなったのに。どうしてこんな事をするんだ!」


あの精霊が父に印を付けた精霊なのですね。そして私の方を見るとその顔が鬼の表情に変わった。


「あの女が憎い!あの女の娘が憎い!」

「なんて魔力だ!感情の高ぶりによって能力が上がっている!」


私を狙って攻撃をする。ジュゲムが防いでいたがそれでも全部は防げなかった。私の近くにいたレローラや侍女達、その護衛をしていた騎士達が魔力の塊に当たって倒れてしまった。


「ドライセン!彼女は嫉妬の力で強くなっている。なにか原因は分かるか」

「分からない!数年前に別れたときの原因も分からないのに!」

「死ね!あの女の娘!」


どうやら彼女は私を狙っているようです。彼女を倒すために私はジュゲムに魔力を渡そうと思いましたが、産後の影響で魔力が減っていてジュゲムに渡す事が出来なかった。

父は私を地面に降ろしてラッシーに託すと精霊の許に走った。


「アーカイラ!私だ、ドライセンだ!どうしてこんな事をする!」

「ドライセンの心を奪ったあの女が憎い!あの娘の子供も憎い!」

「殺すのなら私だけにするのだ!他の者には手を出さないでくれ!」

「そんな事を言うドライセンが憎い!」


闇の精霊は父の近くに行き抱きしめる。何をする気なの?


「いかん!ドライセンの魔力を奪っている!このままでは急激に魔力が無くなってドライセンが死ぬぞ!」


闇の精霊は父から魔力を奪うと更に攻撃を強めた。屋敷が崩壊して避難していた者も魔力の塊に当たって死んでしまった。

生きている者は私とラッシーとトルクだけになってしまった。騒ぎで起きたトルクが泣きはじめる。私が出来る事はない。体力も魔力もなくその場に居るだけだった。


「ルルーシャル!逃げるぞ!」


ラッシーが私に言う。そしてその言葉を聞いた闇の精霊が私に向かって魔力の塊を何発も放った。その攻撃はジュゲムが防いだが一発だけが私に向かってくる。


「ルルーシャル!」


ジュゲムが叫び、私は恐怖した。この攻撃に当たったら死ぬ。その直後横から突き飛ばされた。ラッシーが私の表情を見て攻撃されると思って私を突き飛ばしたのだ。そしてトルクを私に投げて渡した直後に魔力の塊がラッシーに当たった。ラッシーはその場に倒れてしまい、トルクの泣き声が周りに響いた。

私はその場で呆然とした。ラッシーが動かない事が信じられなかった。悪夢を見ているのでしょうか?夢なら覚めてほしい。トルクが泣き叫んでいるがショックで何も出来なかった。


「くっ、このままでは倒せないな。嫉妬の力がこんなに精霊を強くするとは」

「憎い!ドライセンの心を奪った女が憎い!」

「そのドライセンはお前に魔力を奪われて死んだぞ!何を考えているのだ。印を付けた者を殺すとは!」

「ドライセンの純粋で優しい心を奪った女が憎い。結婚していても私だけを愛していると言っていたのに!その言葉だけで私は嬉しかった!子供が生まれても女だから世継ぎにはならないと私に言ってくれて慰めてくれた!でもあの女だけは違う!あの女は私と話す事が出来る御使いだった。そしてドライセンの心はあの女に奪われてしまった。ドライセンは否定していたのに心の奥底にはいつもあの女がいた!そんな女が憎い!ドライセンを太らせてハゲにした女が憎い!」

「太ったのはドライセンの健康管理のせいだろう。それにハゲになったのも仕方がないだろう」


アーカイラとジュゲムの攻防は続いた。そして呆然としている私に魔力の塊が当たった。正確には赤子のトルクに大半が当たり、その一部が私に当たった。

先程まで泣き叫んでいたトルクは動かなくなり死んでしまった。私も魔力の一部が当たり倒れてしまった。体は動かないけど意識はうっすらと残っていた。トルクの泣き叫ぶ声が聞こえない。どうしてなのかしら?


「死ね!消滅しろ!」

「マズイな」


そのときに闇の精霊が攻撃を受けた。精霊二人が攻撃した相手を見る。それは先代の御使い。私の母でした。母は父のドライセンが生きている事をジュゲムから聞いて戻ってきました。

でもその場所は精霊が闘い、屋敷も崩壊し、周りの人間も倒れて死んでいる。何事なのかと思ったでしょう。


「魔力をくれ!アーカイラを倒さないといけない!」

「分かったわ!」


ジュゲムが母から魔力を受け取り、アーカイラと闘いを始めました。それでも相手は強くてなかなか勝機を掴む事が出来ません。母は他の精霊に頼んでジュゲムの支援を頼み、その精霊達にも魔力を与えた。

多勢になり闇の精霊は魔力を消耗してこちらに天秤が傾く。そして最後に闇の精霊アーカイラは消滅覚悟で攻撃をしてきたが母から魔力を受け取っているジュゲムや他の精霊達に阻まれてアーカイラは消滅をしました。

ジュゲムや精霊達も魔力を使い尽くした状態です。母もジュゲムや精霊達に魔力を渡し続けて疲労困憊でした。


「この状況はなんなの?」

「闇の精霊であるアーカイラがルルーシャル達に嫉妬して攻撃してきたのだ」

「貴方の方が強いでしょう!どうしてこんな事になったの?」

「……嫉妬の力だな。ドライセンがルルーシャル達を想っていた事に嫉妬して彼女の力が強くなった。私だけでは負けていたかもしれない」

「なんて事なの……。そうだわ!ドライセンは?ルルーシャルは?」

「ドライセンはアーカイラに魔力を奪われて死んだ。ルルーシャルは……もうすぐ死ぬな」

「ルルーシャル!しっかりして!この子は……」

「ルルーシャルの子供のトルクだな。攻撃に当たり死んだようだな……」

「そんな……、どうしてこんな事に。ジュゲム!ルルーシャルを癒して!」


母の呼びかけが聞こえなくなる。子供が死んだ事をジュゲムから聞いて生きる意志が無くなった。……私は意識を失った。


目が覚めた時はベッドで寝ていた。体が重い……きつい。


「目が覚めましたか?ルルーシャル様」


侍女が私に呼び掛けてくれた。ここは?


「ここは城の客間です。ここなら賊の心配はありません。皇帝陛下が守ってくださいます」


……賊?どういう意味かしら?寝ていた前の事を思い出す。……そうでした!私のトルクは?ラッシーは?起きようとしても体が動かなかった。


「ルルーシャル様、まだ体が回復していません。今はお休みください」


でも旦那と子供の無事を確認しないと!


「ルルーシャル、もう少し休め」


ジュゲムの声が聞こえる。姿は見えなかった。疑問に思う前に私はジュゲムに聞いた。


「ジュゲム、ラッシーとトルクは?」

「……まずは寝て体を休めろ」


ジュゲムは私の質問に答えずにいる。再度質問をする前に意識が遠くなり意識を失った。


「すまない……」


最後にジュゲムの声が聞こえたけどその言葉の意味を考える事は出来なかった。

次に起きたときは体調が良くなった。しかしベッドから起き上がらずに枕を背もたれにしてフローラの相手をする。私のベッドで寝ているフローラを見ながら何が起きたのか思い出す事にした。

私は段々と思い出してきた。あのときの記憶が蘇る。生きているのは私とフローラだけ。……最後に母の言葉を思い出す。私は瀕死だった。ジュゲムも魔力がなく癒す事が出来ないはずだ。それなのにどうして私は生きているの?


「ジュゲム。私を癒してくれたのは誰?」


横になりながら精霊術を使い魔力の密度を高めていた。ジュゲムは私の近くにいて難しい顔で言った。


「ルルーシャルが瀕死で私も助ける事が出来なかった。それでララーシャルに治療をしてもらったのだ。お前の母がすべてを使ってララーシャルを覚醒させて人間のララーシャルを起こして回復魔法を使ってもらいなんとか助かった」


……すべてを使う。それって。


「あの場に居て生き残った者はルルーシャルとフローラだけだ。……全員死んだ」


旦那や子供だけではなく、父親も母親もレローラも屋敷に住んでいた者も全員死んでしまった。せめて私の体調が良かったら闇の精霊に対応が出来たのに。


「すまない、私にもう少し力があったのなら」


謝るジュゲムを見てもなんて答えれば良いのか分かりません。ジュゲムが居なければ私もフローラも死んでいたでしょう。ジュゲムが悪い訳ではありません。闇の精霊はどうして私達に攻撃をしてきたのでしょうか?


「分からない。あの闇の精霊はルルーシャル達に嫉妬していた。ドライセンの心を奪った女が憎いと言っていたが、本心はどうなのかはわからない。闇の精霊は消滅して、精霊の事を知っていたドライセンも死んだ。闇の精霊が何を思って私達を攻撃してきたのか……」


あの闇の精霊は父親の事が好きだったのでしょうか?愛していたのでしょうか?そしてその愛を奪った私の母親。父と母が別れる原因になったのは、闇の精霊が父を母から遠ざけたからでしたが、それは父を独占したかったからなのでしょうか?でもどうして闇の精霊アーカイラは父を捨てたのでしょうか?確かハゲでデブな中年は嫌いと言って居なくなったと聞いていたのですが、どうしてまた戻ってきたのでしょうか?

考えていると皇帝が部屋に入ってきました。今回の件で事情を聴くためです。皇帝の弟が死亡してその屋敷も破壊されて生きている人間は私とフローラしかいないのですから。

皇帝に人払いをしてもらって私は全てを話しました。父の友であった闇の精霊アーカイラが襲ってきた事。屋敷を破壊して住んでいた者達を殺して生き残った者は私とフローラで、闇の精霊はジュゲムと私の母が撃退して消滅した事を話しました。


「……精霊が人を襲うとは。嫉妬して人を襲うなんて……。こんな事はよくある事なのか?」

「私の精霊に聞きましたけど初めての事みたいです。精霊が人を愛する事はありますが、嫉妬して人を殺そうとした精霊はいままでいなかったと言っています」

「精霊も人間も根本的な感情は一緒なのだろうか?……今回の件は賊に襲われた事にする。ドライセンが罰した貴族に依頼された賊達に屋敷の者は殺された事にする。精霊を表に出す訳にはいかない。御使いよ、すまんが納得してくれ」

「わかりました」


皇帝は事後処理の為に部屋から出て、私もこれからの事を考えないといけません。レローラの娘は私が引き取って育てましょう。ラスカル家の養女にしてもらっても良いかもしれません。パトラッシュに今回の件を説明しなければいけませんね。父と兄が亡くなった事をどう説明すれば良いのでしょうか。それにラスカル家から来た使用人達も亡くなりましたからその事を言わないといけません。


体調が回復して私は皇帝に会い城を出る許可を貰ってフローラと一緒にラスカル家に行きパトラッシュに今回の件を話しました。パトラッシュは家族の死を悲しみ、ラスカル家当主となった事を嘆きます。


「私よりも兄が当主に相応しかったのに。どうしてこんな事に……。申し訳ございません、私がラスカル家当主として今後とも御使い様を支えさせて頂きます。これからもよろしくお願いします」

「……ありがとうございます、パトラッシュ。これからも私達を支えて下さい。これから私はフローラと一緒に旅に出ます。後の事はよろしくお願いします」

「フローラと一緒に旅をするのですか?私がお預かりしますよ」

「大丈夫です。精霊達も一緒ですから」


そう言って私達は旅を始める。フローラとララーシャルとジュゲムと一緒に。帝国や王国を旅し、隠れ家で生活してフローラを育てたり、街で生活したりしました。

……私はフローラをトルクの代わりと思っていたのかもしれません。でも彼女が成長するにつれて罪悪感が強くなり、フローラをラスカル家の養女にしてもらう事をお願いしました。

フローラは泣いて私と別れたくないと言いましたが、フローラの為と言って説得をしました。フローラは御使いの才能が無くてレローラと同じように付き人になる事を思っていたのですが私には付き人は要りません。

フローラと別れてからも旅を続けました。その後、ラスカル家のパトラッシュからフローラが結婚した事を聞いたり、子供が生まれた事を教えてもらいました。

御使いの付き人にならない方が幸せになれるのですね。ランドやレローラに悪い事をしたのかもしれません。

旅のせいなのか体調が悪くなり旅をする時間が減ってきて休む為に隠れ家で過ごしている時間が長くなりました。私の代で御使いは終わるのかもしれません。そんな事を考えているとララーシャルが飛んできました。


「ルルーシャル!大変だよ!大変だよ!子供と老人があっちで魔獣に襲われていたわ!」


ララーシャルが私に伝えた事が新たなる出会いになるとは思っていませんでした。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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