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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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閑話 隠居している御使い⑤


みんなの自己紹介が終わり、サクラ様がトルクさんを初代の墓に案内をします。初代の名前は確か……物忘れが酷くなったわね。思い出せなくなったわ。


「なんて読むか分かる?」

「タナカライオン?って読むの?」

「そう、彼の名前はライオン。ライって呼んでいたわ」


サクラ様とトルクさんの会話を聞いて思い出した。そうだったわ。ライ様だったわ。タナカライオン様。覚えにくい名前で若い頃に苦労した記憶がある。

トルクさんは手を合わせて目を瞑った。この作法はライ様を祈るための御使いの動作で私やジュゲムは教えていない。同郷だから作法も知っているのかしら。

そしてサクラ様は石碑にトルクさんを案内した。御使いも読めないライ様の故郷の文字で書いてある。その内容を知っているのはサクラ様だけ。石碑を読んでトルクさんは困った顔をする。困る事なのかしら?


「これを読んだのなら貴方のするべき事は分かっているわね」


その石碑にはライ様と同郷の者がやるべき事が書いてあるのね。そしてトルクさんはサクラ様に答えた。


「オレのするべき事は王国に行き、家族のもとに帰る事だぞ」

「ちょっと待って!これを読んだのでしょう!ライの遺言を読んだんでしょう!」

「読んだけどオレには関係ない話だよね。それに精霊が人間に虐待されていないじゃないか。だから大丈夫だろう」


なるほど……石碑の内容は精霊が人間に虐待されていた昔の事が書いてあったのね。今では精霊が人間に危害を与える存在なのですよ、サクラ様。

私とジュゲムとララーシャルがそう伝えると、サクラ様は動かなくなった。よほどのショックだったのかしら?

それからトルクさんの質問に答えていく。

トルクさんとララーシャルが奥義を使ってしまい、体が破裂して周辺を破壊する可能性があったから初代の精霊に頼んで癒してもらった事。

今の場所は初代の精霊が住む場所でジュゲムに頼んで空を飛んで来た事。

トルクさんが精霊に好かれやすくなって大変になった事を説明する。

そしてサクラ様がライ様の遺言でトルクさんを守ると約束をする。同郷の者が困っていたら助けてくれとサクラ様に頼んだらしい。ライ様は本当に優しい方ですね。


「ありがとうございます。……ではこの世界に住む人間達を農奴として精霊の国を造り未来永劫の栄光を輝かせる!」


サクラ様に礼を言ったトルクさんだけど精霊とフュー〇ョンされたようですね。……変な格好で喋っている。この精霊は精霊の国というモノを作りたいの?作ってどうするのかしら?サクラ様が棒のようなモノでトルクさんを叩いて精霊を追い出し、ララーシャルがトルクさんに謝る。


「とりあえず残りの御使いの修業をしましょうか。精霊から身を守る術を覚えるのが最優先ですね」


私の発案にトルクさんは叩かれた頭を触りながら真剣な顔で頷いている。そしてサクラ様はトルクさんの体を乗っ取った精霊と話をしています。精霊は……鳥の精霊のようですね。全身青色の鳥って珍しいわね。


「どうしてトルクの体を乗っ取ったのかしら?人間で遊ぶのは駄目でしょう!!」

「だって……あの子供を見ていると、凄く遊びたくなるんだ!あの子を使ってこの周辺の土地を制圧して作物を作り、その作物で軍資金を貯めて打って出る!それこそが男の本懐だろう!戦って!戦って!遊んで!戦いぬいて!そして痛てぇ!」

「早く理由を言いなさい!」


サクラ様とトルクさんに取り憑いた精霊が話をしているんだけど……遊びたくなるって、トルクさんは本当に精霊に好かれる人間になったのね。


「暇つぶし!痛い!棒で叩くのは反対!」

「とりあえず私の印を付けた人間の体を乗っ取った罰を与えるわ。何が良いかしら?」

「お菓子食べ放題の罰でお願いします!」

「……では地中深く埋めて封印する罰はどうかしら?お菓子のかわりに塩を用意しましょうか?」

「ごめんなさい!」


座って嘴を地面に付けて頭を下げて謝っていると思うのだけど……普通の鳥が地面に落ちている餌を食べている仕草よね。サクラ様から折檻を受けた鳥の精霊はとりあえず反省をしたようです。

折檻が終わった後に私達は小山を下りてラスカル家の屋敷に戻る事にしました。ラスカル男爵家の当主であるパトラッシュに会うのは久しぶりです。まだ壮健でしょうか?フローラからの手紙では大丈夫だと書いてありましたが。

山を下り終わるとパトラッシュが出迎えてくれた。


「お久しぶりです。ルルーシャル姉上」

「久しぶりね、パトラッシュ」


ランドと再会をして喜ぶパトラッシュ。そして私はトルクさんをパトラッシュに紹介します。


「初めまして、トルクと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ初めまして、新たな御使いよ」


トルクさんはまだ私の後継者になるかどうか考えているようですね。パトラッシュに新たな御使いと言われたときに少し困った顔をしています。トルクさんには御使いの地位は必要ない事ですからね。でもサクラ様もジュゲムもララーシャルもトルクさんを御使いとして認めています。私は御使いになる後押しをしないといけないでしょうね。

トルクさんを説得する前に私は夫と子供と母の墓に行く事にしました。私と一緒にジュゲムとララーシャルも付いてきてくれます。

墓は綺麗に掃除されており私は墓の前に跪いて三人の冥福を祈った。私ももう少しでそっちに行くから待っていてね。話したい事がたくさんあるわ。だからもう少しだけ待っていてね。

後ろから足音が聞こえた。ランドやトルクさん達だと思って立ち上がって振り向く。


「トルクさん、私の旦那様と子供が眠る場所です。私ももうすぐ此処で眠るでしょう」


そう、もうすぐこの場所で眠る事になる。トルクさんは少し困った顔をして私に言った。


「……オレも参って良いかな?」

「勿論よ」


その言葉がとても嬉しかった。子供と同じ名前の子供が祈ってくれる事が嬉しかった。あの子も生きていればトルクさんのように優しい子になっていたのかしら?

みんなが祈り終えて私は言った。


「トルクさん。私やランドの事、ララーシャルがどうして精霊となったのか、昔の事を教えるわ。聞いて頂戴」


ランドも聞きたいらしく私達は屋敷に戻った。そして最初にランドが今までの事を教えてくれた。トルクさんに教えるように。そして私と別れた後はみんなに教えるように話す。

ランドがトルクさんと出会うまで労働施設に居たことを知ったパトラッシュはとても驚いていた。


「何という事だ!お主は今までそんな所に居たとは!それも冤罪で片腕を切られるとは!」


パトラッシュの言いたい事はわかります。そしてその様な人生を送ったランドに悲しくなります。私に出来る事があったのではないのか?私はもっとランドを探すべきだったのではなかったのか?どうしてランドが死んだと思ったのでしょうか?

ランドは私を責める事もしません。御使いの付き人としてトルクさんと会う為に、トルクさんを私に会わせる為に今まで生きていた。この事が自分の生まれた意味だと言っています。

私はランドにそのような事を言ってほしくはありませんでした。彼にも幸せになってほしかった。でもランドは御使いに仕える事が幸せと感じているのです。私や母はランドの幸せを考えるべきでした。もう少しランドには自分の事を考えてほしかったです。

そして私がトルクさんに私の母の事、先代の御使いの事から私が御使いになった経緯を話した。そしてララーシャルとの出会い、王国や帝国から受けた襲撃、ララーシャルが精霊となった理由を話した。


「懐かしいわね……昨日の事の様に思い出す事が出来るわ」

「私もよ、ララーシャル。貴方との出会いと別れは色あせる記憶じゃないわ」


あの頃を知っている人間は私しかいない。それが少し寂しいと思った。だから私はトルクさんやランドに聞いてほしかったのかもしれない。

そしてパトラッシュがラスカル家の事からパトラッシュの兄と父の事をトルクさんに説明した。そして帝国で私が指名手配されていたから、当時のラスカル家当主が無実を晴らそうといろいろ動いていた事を説明した。しかし皇帝の弟が御使いの私を差し出さないと罰を与えると言った事を知った当主がキレて帝国騎士や皇弟を殴り倒して捕まった事を話す。


「……素晴らしい忠誠心を持った当主様ですね」


トルクさんが言葉を選んで発した言葉でした。……見事な言葉使いですね。


「確かに当主様は強かった……」


ランドが昔を思い出しているようです。ランドは戦闘訓練で当主と模擬戦をした事があったからね。その強さは知っていますから。そして皇弟ドライセンが私の父であり、ジュゲムに本人だと確認してもらいました。


「ルルーシャル婆さんの父親が皇帝の弟。マジかよ!皇族の血を引いていたのか!」


そうよね、驚くわよね。皇族の血を引いているのだから。でもトルクさんはそんなに気にしてはいない。それからお茶を飲みながらトルクさんから質問を受けている。頭を整理するみたいです。少し詰め込みすぎたかしら?

最後にジュゲムが私と父親との出会いから皇弟とラスカル家当主との闘い。ジュゲムは感情をこめてトルクさんに説明をする。

……呆れていると思う。黙って何も言わない。私もあの殴り合いは引いたから。その後の口喧嘩も引いたけど。


「あの当主様と闘えるとは流石はルルーシャル様の御父上ですね」


ランドは感心しているようね。私も父があんなに強いとは思わなかったわ。

そして子供が生まれるまでの短い時間でしたが幸せでした。皇弟である私の父から皇都に屋敷を貰ってそこでみんなで暮らしました。優しい旦那様、姉の様な付き人のレローラ、その娘のフローラ、レローラの夫の騎士、ラスカル家領主が領地の屋敷から連れてきた使用人達。

ラスカル家当主と私の父が屋敷で口喧嘩をして旦那のラッシーが止めようとするが止められず、殴り合いに巻き込まれて気絶した事で私は二人を屋敷の出入り禁止にして反省させました。

そしてお互いに暴力は振るわない事を約束させて二人の屋敷出入り禁止を解除したけど、代わりに口喧嘩が酷くなりましたね。ラッシーが二人の間に入って止めようと頑張っていましたが……あの二人を止める事が出来るのは皇帝か私の母くらいでしょう。

二人は私の目の届かない場所ではいがみ合って最終的には殴り合い寸前まで行くのですが、レローラが魔法の言葉を使って二人の喧嘩を止める事に成功したとラッシーから聞きました。


「先代御使い様に二人の振る舞いを伝えますよ!」


その言葉を聞いた二人は笑いながら力一杯の握手をしたそうです。二人を止める事が出来る人が増えましたね。

楽しい思い出に浸っていたいのですがジュゲムの話が最後の場面に入りました。私の子供は無事に生まれました。男の子で、名前はラッシーがトルクと名付けました。

レローラも喜んで「私の娘を是非付き人に!」と言ってトルクを祝福してくれました。屋敷で働いているみんなから祝福してもらってトルクはとても幸せな子になると思っていました。

トルクが祝福されて生まれた日が悪夢の日になるとは思わなかった。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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