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精霊の友として  作者: 北杜
二章 下人編
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2

季節は廻り秋がやってきた。農園でも収穫のためにみんな忙しく働いている。

今年は近年稀にみる豊作だったらしい。「踊りのお陰だ」とゴランさんはバンバン俺の背中を叩く。痛いからやめてくれ。

ゴランさんは畑仕事をする最初と最後にどじょうすくいを踊るのが日課になった。

他の皆も真似してゴランさんと一緒に踊っているよ。オレも一緒に踊ってますよ。

農園では毎日踊って豊作を願う事が決まりました。


そして、農園のみんなが待ちに待った収穫祭だ。

収穫祭ではお酒を飲むことが出来るので大人たちは喜んでいる。食べて飲んでとまた来年も頑張る気持ちで。

オレも収穫祭の準備をしていたら声を掛けられた。


「よう、久しぶりだな」


ニヤニヤしながらオレに話しかける奴は一番最初の班の人達だ。確か班長の名前はカロウだったっけ。新人の教育係の一人だ。新人を教育という名のいじめをしている人でよく新人をいじめ倒してはゴランさんに怒られている。なんでも商人の三男坊で下人に酷いことして親から罰としてこの農園で働いているが仕事はサボるし文句は言うし新人をいじめる。

農園で働くよりも重労働な鉱山みたいな所で働いて罰を受けた方が良いと思うよ。親は農園の野菜を卸している商家でゴランさんやレオナルド様も親御さんの人となりを知っている。オレも一回会った事があり良く出来た人でやさしくて子供が好きなおっさんだ。蜂蜜のお菓子をもらった事もある。気の良いおっさんだった。優しい親から人をいじめて楽しむ子供が生まれるなんて、優しさを母親の腹の中に忘れてきたんだな。


「お久しぶりです、今日は新人イジメをしないでお仕事を頑張ってますか?」

「テメェ、誰にモノを言ってやがる」


いきなり、顔を真っ赤にしてキレて殴りかかろうとするが周りの手下に止められる。これが人間瞬間湯沸かし器か。魔法でもここまでは早くお湯が沸かないぞ。


「テメェ!いい気になってんじゃねえぞ!」


ほんとにチンピラだな、だがオレは強気な態度で。


「貴方ほどではありませんよ、商人さんの三男さんが農園に売られて手下作って仕事もせず、弱いものいじめで遊んでいるチンピラさんには適いません。もう少し周りを顧みてくださいよ。自分の行動がいかに滑稽かわかりますよ」

「カエリミル?コッケイ?」


あ、こいつやっぱりバカだった。そしてオレが強気で対応する理由は。


「カロウ、そこで何をしてる。収穫祭の準備はどうした?お前達の仕事場所は此処ではないだろう。さっさと持ち場に戻れ」


ゴランさんが近くにいるから強気で行動できる。あとカロウはバカだからオレが言った言葉なんてすぐに忘れんだろう。


「チィ、行くぞ」


マジでチンピラだな。ゴランさんがオレの所に来る。


「カロウの奴にも困ったもんだ。トルク大丈夫か?」

「カロウさんの親御さんは良い人なのに、カロウさんはダメな人間ですね」

「そう言うな。あいつもきっと解るだろう。さて収穫祭の準備をするか」

「わかりました」

「このあたりに土魔法で見栄えの良いテーブルと椅子を作ってくれないか?」

「ウッス」


こうして収穫祭の準備は進んでいく。

しかしゴランさんはオレを使いまくるな。土魔法でテーブルや椅子を作る他に食材の確認をしたり、広場の周りの掃除や、収穫祭で使う皿の準備をしたり。オレは子供なんだから少し仕事量を減らしてほしいよ。




収穫祭当日は天気も良く穏やかな気候だ。良い祭り日和になったな。そういえばオレは収穫祭に参加するのは初めてだな。村では村八分されて参加は出来なかったからこの世界の収穫祭を見るのは初めてだ。

テーブルには料理が並んでいて、みんな酒の入ったコップを持っている。オレが持っているコップの中身は水だがね。

そしてオレが魔法で作ったテーブルの前には偉そうな人とレオナルドさんがいる。


「それでは収穫祭をはじめる。日ごろの疲れをいやして英気を養ってくれ。乾杯!」


偉そうな人の音頭で収穫祭が始まった。みんな飲み食いしている。オレも負けずと飯を食べているとゴランさんから呼ばれた。

「おう、トルク食ってるか?」

「はい、収穫祭は初めてだから楽しいです」

「そうか、今から男爵様にお前を紹介するから来てくれ」


え、男爵様?偉い人ですか?オレはまだ何もしてないよね。ゴランさんの後をついて行き、偉そうな人とレオナルドさんの前に行く。この人が領地を治める男爵様か。前世では見た事が無い青い髪の男性だ。歳は二十代後半から三十代前半かな?しかし地毛が青い髪って凄いな。


「お前がトルクか?お前の事はレオナルドとゴランから聞いている。なかなか見どころがあるそうだな」


見どころ?オレは下人だよ。何の力もない子供だよ。二人とも何を言っているんだよ。


「初めまして、ご紹介に預かりましたトルクと申します。農園の経験等はありませんが皆様にご指導・ご協力をいただきながら精一杯頑張っております。ご迷惑をおかけすることもあると思いますがよろしくお願いします」


営業トークで鍛えた自己紹介。貴族には目をつけられないようにしないと。


「良く教育をされているな、親から習ったのかな?」

「はい、母親や知人からいろいろと勉強をしました、まだ未熟ではありますがご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。」

「うむ、励むように」


よし、貴族様の挨拶はこれでいいかな。


「久しぶりだなトルク。元気でやっている様だな」

「お久しぶりです。レオナルド様もお変わりなく、お元気そうでなによりです」

「農園の仕事も慣れたようで何よりだ。お前を連れてきた甲斐があったぞ」


いやいや、オレは辺境の村でずっと生活したかったが貴族様の命令には逆らえないだろう。母親やマリーの為にオレは下人になったんだぞ。

全く貴族は平民の気持ちは分からないよな。そういえば母親やマリーはどうしているかな。手紙を出すと約束したが手紙を書く暇が無かったからな。近いうちに手紙を書いておこうかな。


「近いうちにお前の出身の村に行くが伝言はないか?」

「母親に手紙を出したいと思います。村に届けて頂ければ幸いです」

「分かった、手紙を書いたらゴランに渡しておけ」

「ありがとうございます、では急ぎ手紙の準備をします」


よし、渡りに船だ。急いで手紙を書こう。

急いで農園のオレが住んでいる長屋に戻って手紙を書こうとするが。


「……紙と書く物がここにはなかった」


みんなに文字を教えているが地面に文字を書いているのだ。紙は値段が高いしインクも此処には無い。

オレは農園の広場に戻りゴランさんを探す。男爵様の所にいる様だ。


「ゴランさん、少し時間をよろしいでしょうか?」

「おう、どうした。紙と書くものが欲しいのか?今、レオナルド様がここに持ってくるから少し待ってろ」


レオナルドさんに感謝。ありがとうレオナルドさん。


「トルク、すこし私の話し相手になってほしいが良いかな?」


げ、男爵様が話しかけてきた。男爵様の話し相手なんてどんな話を振られるんだ?


「トルクは計算が得意とレオナルドから聞いたが、私には子供がいるんだが勉強が苦手でね。トルクはどんな風に勉強をしたのか聞きたいのだが」


子供に勉強の方法なんか聞くなよ。子供の勉強法なんか知らんがな。貴族の子供がどんな生活をしているかわらないのに……。オレの場合は前世の記憶があったから勉強をする意味も理解があったし、この世界の事を知る為と生活の為に色んな知識を覚えたのだ。この世界の勉強法なんて知らないぞ。オレが言えるのは予習・復習しか答えられないぞ。


「申し訳ありません。私は貴族様の勉強法が良く分かりませんのでお答えが出来ません。ですが私の勉強法は習った事を何度も何度も繰り返し復習をして覚えました」

「それだけなのか?」

「はい、後は寝る前に習ったことを見直す事です」


当たりさわりのない答えを出した。


「計算の勉強法は出された問題を答えるだけではなく、物とかお金とかを使って計算をするとかはいかかでしょうか?それから計算式ですが1+1=2の問題ではなく、〇+1=〇とか1〇1=2とか少し計算のやり方を変えると良いのではないでしょうか」

「なるほど、面白い計算式だ。地理とか歴史はどうだ?」

「地理などはその場に行って教えるのが効率が良いと思います。その場所に行けない場合は町の成り立ちから教えて特産品や歴史を教えては如何でしょうか?喋っているだけでは聞き手も分かりにくいので地図や物を使ってみるのも良いかもしれません」

「礼儀作法はどうだ?」

「申し訳ありません、専門外です。他の人に聞いてください」

「そうか、礼儀作法も出来そうだがそれは無理か」

「無理です。私の礼儀作法は他の人の行動を見て真似をしているだけです。その場の作法の意味が分かりませんから」

「なら、礼儀作法を習ってみるかい?トルク。それから紙と書く物を持って来たぞ」


レオナルドさんが紙を持って戻ってきたようだ。ありがたいがこれ以上は体力も時間も足りません。


「農園の仕事がありますのでこれ以上は勘弁してください」

「そうか?私は出来ると思うが。農園の者に文字を教えているのだろう?時間は作れるのではないかな?」


なんでレオナルドさんが農園のみんなに文字を教えていることを知っている。ゴランさんが喋ったな!口が軽い人だ。


「それは良い考えだ。私の子供達と一緒に習わせてみるか。競争相手がいる方が良いかもしれないな。エイルドもやる気が出るかもしれない」


レオナルドさんが驚いている。なんか横から獲物を取られたような顔をしている。それ以前になんでオレが男爵様の子供と一緒に礼儀作法をしないといけない?何を言っている男爵様は。酒に酔っているのか?


「クレイン様、トルクは私の仕事を手伝わせる予定ですよ」


レオナルドさん、顔が引きつってますよ。何かあったのか?あとエイルド様って誰?ゴランさんにこそっと聞いてみると男爵様のお子様だそうだ。男爵家跡取りの子供か。

どんな子供かな?我儘で自分勝手で威張っていて暴力を振るう様なお子様だったら最悪手が出るかもしれない。そうなったら物理的に首が飛ぶかな?

いろいろ考え込んでいたら男爵様とレオナルドさんの話は終わったようだ。二人は何を話していたんだろう?聞き漏らした。


「ではレオナルド、ゴラン。後を頼むぞ。トルクまたな」


あ、男爵様おかえりですね、ばいばーい。


「はぁ、私は先に戻って準備をする。後の事は頼んだぞ、ゴラン」


今度はレオナルドさんがお帰りですね。肩を落としてため息をついている。何か疲れることがあったのかな?


「トルク、急いで支度をするぞ」

「なんの支度ですか?オレは今からこのテーブルの御馳走を食べる予定ですよ」

「お前は今日から男爵家で生活をするんだよ、頑張れ」


え?なんで?農園の畑仕事は?テーブルにある御馳走は?

ゴランさんに担がれて荷物が置いてある長屋に向かう。

待ってくれ!まだテーブルには御馳走が残っているんだぞ。これを今食べないで何時食べるんだ!ゴランさん少し待ってください。

あ!レオナルドさんから手紙用の紙と書く物をもらっていない。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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