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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
138/276

10 精霊と御使い② 

肉を食い損ねたが美味しいご飯だった。

食後のお茶を飲みながらまったりとした時間を過ごすのは何時ぶりだろうか。

穏やかに飲むルルーシャルさんと男性の精霊のジュゲムさん。小さい精霊のララーシャルは自分の顔よりも大きいお菓子を美味しそうに食べている。……お菓子の屑を落としながら食べているな。さっきご飯を食べたよな。精霊って人間と別の内臓を持っているのだろうな。きっと胃の大きさも違うのだろうな。その分心臓や肝臓や腎臓が小さいのだろう。


「何?どうかした?」

「何でもない」


お菓子を食べているララーシャルさんを見ていたら気づかれた。良く食べられると感心するよ、精霊の神秘だな。精霊は人よりも胃が大きいんだろう。オレの知っている精霊も食欲旺盛だったからな。


「あらためて紹介しましょうか。私の名前はルルーシャル、御使いと言われてジュゲム達と一緒にここで生活しているの」

「私はララーシャル!風と精神の精霊でルルーシャルに名前を付けてもらったの!いい名前でしょう!」

「私の名前はジュゲムジュゲム ゴコウノスリキレ カイジャリスイギョ イカリャクノトクガワヨシムネ ジアマリと言う。長いのでジュゲムで良い。……どうした?頭をテーブルにぶつけて?」


……頭をテーブルにぶつけたくなるよ!なんだよ!そのツッコミ処満載の名前は!


「何て名前だよ!誰が付けた名前だ!以下省略ってなんだよ!なんで最後に徳川吉宗字余りなんだ!どこが字余りだ!」

「……私に名前を付けてくれたのは初代だ。私の希望で長い名前が良いと言ったらこの名前にしてくれたのだが……。お前はこの名前の意味が解るのか?」

「意味はわかる。そして初代は日本人なのか?」


落語を知っている異世界人など居ないはずだ!……知らない日本人もいると思うけど。


「なるほど……。初代が言っていたが私の名前の意味が分かる者は同郷の者だと言っていた。初代と同郷の者か……」

「あら、初代様と同郷なの?貴方の名前にそんな事が隠されていたなんて知らなかったわ」

「では質問をしよう。最後のトクガワヨシムネとはなんだ?」

「歴史上の人物の名前で暴れん〇将軍だ」

「……ふむ、合っているようだな。初代と同郷の者だろう。しかしお前は若いな。初代は結構歳をとっていていつの間にかこの世界に来たと言っていたが……。お前はいつこの世界に来たのだ?」


……この世界に来た?どういう意味だ?オレは前世を思い出しただけだ。初代は神隠しにあってこの世界に来たのか?


「オレは六歳の時に前世の記憶を思い出した。前世は初代と同じ国で生まれて死んだはずだ。初代の様に日本からこの世界に来たわけではない」

「なるほど。初代とは少し違うようだな。だが初代と同郷の者であり、私達精霊と話せる子供よ。歓迎しよう。自己紹介の途中だったな、私は風と土と光の精霊だ。初代から今までの御使いと共に生きて来た。お前も私の事はジュゲムと呼んでくれ。私もトルクと呼ぼう」

「よろしくジュゲムさん」

「ジュゲムで良い。さんはいらん。敬語もいらぬ」

「……わかったよ。ジュゲム」

「私もララーシャルで良いわよ!さんはいらないわ!」


ララーシャルが話に加わってくる。オレが「わかったよ。ララーシャル」と言うと嬉しそうに笑った。でもお菓子を振り回しながら喜ぶのは止めようよ。お菓子の屑がテーブルに散らかるから。


「さて、トルクさん。貴方の事を教えてもらいますか?王国出身の貴方がどうして帝国領に居るのか?」


そうだな。この人達には今までの事を教えても良いだろう。オレは自分の生い立ちから今までの事を話した。王国の伯爵家の生まれで六歳の頃に母親と一緒に捨てられて前世の記憶を思い出した事から、村で精霊と出会い回復魔法を覚え、男爵家で使用人として生活をして、回復魔法の使い手として王国のバルム砦で怪我人を癒していたが砦が落とされて、オレを恨んでいた帝国兵に労働施設に連行されて、施設を占拠して手錠のカギを取りに行く為に町に向かっていたが帝国兵に殺されかけたが爺さんに助けてもらった事を話した。


「オレを帝国に連れて来た帝国人の名前はローランドとダニエル。ローランドは貴族でスレインという兄がいる。ダニエルの情報はわからない。ローランドはオレの部下を切りつけてオレを労働施設に送った。ダニエルは砦から施設までオレを殴り、切りつけ、目を潰して半殺しにしながら労働施設に連れて来た。この二人に因果応報の報いをくれてやる!」

「そうなの。貴方はその二人をどうするの?殺すの?」


お茶を飲みながら聞いてくるルルーシャルさん。出来れば殺してやりたい。部下を切りつけられ、オレ自身も死ぬような事をされた。殺してやりたい。


「難しいと思いますよ。ダニエルという者は知りませんがローランドという者は貴族でしょう?貴族を殺すとなると逆に貴方が殺されますよ」

「……でも、オレには魔法が使える。それを駆使すれば何とかなると思う!」

「仮に上級魔法が使えても貴族の権力は凄いわよ。貴族を殺せば貴方は報復されるでしょう」

「そうだとしてもやり方はいくらでも有る。オレと分からない方法で殺せば大丈夫だろう!」

「……それも難しいかもしれないわ」

「でも!」

「だったら私が手伝ってあげましょう!」


お菓子を食べ終わったララーシャルがオレの目の前まで飛び出して自信満々に言う。


「貴方を裏切った相手と半殺しにした相手に復讐するのね!私が協力してあげる!大丈夫よ!私ってとても強いのよ!」


オレの目の前でガッツポーズを取りながら飛ぶララーシャル。そしてジュゲムも言う。


「初代と同郷者の頼みだ。私もやぶさかではない。敵はローランドとダニエルとスレインという奴か?」


手伝う気満々の精霊の二人。俺が復讐する対象はローランドとダニエルだったが。そして部下をけしかけたスレイン。

スレインとローランドは兄弟だったなんて。だからローランド達の事を聞くと口を閉じたのか。そしてオレを殺すために部下にオレを殺害しろと命令をしたのだろう。

……騙されたよ。スレインとその部下達にも恨みを晴らしてやる。……施設で傷薬を貰った恩があるからスレインだけは半殺しの片腕切断で許してやる。

ララーシャルは戦力になるかわからないがジュゲムは戦力になるだろう。彼は強そうだし!

でもオレ個人の復讐に他人を、精霊を巻き込んでも良いのか?


「駄目よ、二人共。トルクさんは修行していないから精霊術は使えないわよ。それに彼は精霊が見えなかったりするらしいの。二人の協力は難しいわ」


……精霊術?なんだそれは?


「トルクさんは御使いになる素質はあるけど修行をしていないから魔力の制御が出来ないのでしょう。だから近い内に二人が見えなくなる可能性があるわ」

「……そうか。今まで魔封じの腕輪をはめていたせいか。今は魔力が濃ゆいようだが将来は薄くなるだろう」

「そうなの?じゃあ修行すればいいじゃない!」


……修行?なんで?そんな事をするの?……それよりも王国に帰りたいのだけど。その事を伝えるのだが。


「そうなの?でも精霊術を覚えたら精霊達が見えるし他の精霊達と仲良くなれるわよ」

「それよりも精霊術ってなんだ、ですか?」


いかんいかん。恩人にため口で話しそうになった。囚人のときの口調が癖になっているのかな?


「精霊術って言うのは……簡単に言うと精霊と友達になれる事ね。精霊を見る事や話しを聞く事が出来るし、お願いを聞いてもらう事もできるのよ」


……友達になる事が精霊術?なにそれ?子供だと思って興味を示す事しか言わないのか?オレの中身は子供じゃないぞ!


「貴方は精霊に好かれているから精霊の友となる御使いになる事をお勧めするわ。じゃないと精霊達から変な事をされるから」

「変な事って?」

「今のままでは精霊達からとんでもない事を依頼されたりするわ、姿が見えないで苦労したことがあるでしょう?それを解決する為にも精霊の姿が見えて話が出来る精霊術を覚えた方が良いわ」


……今のままでは精霊からとんでもない事を頼まれる。頼まれたのはバルム伯爵家の中庭の精霊から腕輪を探す事だが……。これは簡単な依頼だったのか?もっと酷い依頼があるのか?

でもその前に。


「オレは御使いになろうと思っていないので覚えなくても良いです」


そんなモノになるよりもオレにはする事がある。帝国のローランドとダニエル、王国のモリスにも復讐をする。……あとスレインや部下にも復讐する。スレインから貰った薬の恩は無い。……少し恩を感じるから半殺しで許すか。


「どうして!なんで!」


ララーシャルが近くに飛んできて叫ぶ!……主語が抜けているぞ。分かりやすく質問してくれ。


「精霊術は学ばないか。理由を聞かせてくれ」

「理由は……。御使いになろうと思っていないからかな?たぶん?」


ジュゲムの質問にあいまいに答えた。理由と言っても習おうと思っていないし、精霊術なんてものを習得しなくても別に生きていけるし。


「……なるほど。精霊術を覚えるという事か」

「待て!どうしてそうなる!精霊術を覚えるなんて言ってないぞ!」

「押すなよ!絶対に押すなよ!の精神だろう。否定しなくても良い」


誰がそんな事を言った!教えた!……初代しかいないか。精霊に何を教えているんだ!


「違う!オレは精霊術なんて教わろうと思っていない!」

「分かっている。私やルルーシャルが責任をもって教えよう」


全然分かっていない。どうしてあの言葉が「押すなよ!絶対に押すなよ」の意味になるんだ!意味が違うだろう!


「私も教えるわ!良いでしょう!」


だからオレは精霊術なんて教わりたくないって。


「分かっているわ、フリなんでしょう。大丈夫!大丈夫!」

「だから、オレは……」

「大丈夫!大丈夫!」

「だから……」

「大丈夫!大丈夫!大丈夫!」


……オレの話を聞いてくれよ。頼むから……。


「無理よ。こうなったら精霊は意地でも教えるわ」


ルルーシャル婆さんが精霊達のやる気に諦めている。婆さんも経験が有るのだろうか?


「それにこの森は魔獣が多いから武器無しで森から出るのは難しいわ。魔法を使っても難しいでしょうね」


森を出る為には精霊術を学ばないと駄目なのか?いや他に方法があるはずだ!

……町の場所も現在地も分からない。教えてもらえるのかな?……無理だろう。話を聞く限りでは森は危険が一杯だ。一人で森を出る事は無理だろう。爺さんに頼んでも教えてくれなさそうだ。


「森から出る為に精霊術を教えてあげるわ。才能がありそうだから直ぐに覚えるでしょう」

「そうだな。中々の才能だ。初代に匹敵するだろう」

「良かったわね。才能有るって!」


……才能が無ければ良かったのにと思う。才能が無ければこんな事にはならなかったのに……。でも才能がなければ死んでいただろう。


「……精霊術が使えると便利だから。二人も教えるって言っているからね。どんな事をしてでも意地でも教えるわよ。諦めなさい」


なにそれ?怖いんだけど……。


「そうと決まれば印を付けるか。……顔の印は完成されているかな。私は目に付けよう。目の色が変わるが問題無いだろう」

「じゃあ、私はその反対の目に付けるわ!」


なんだが印を付ける事になったようだ。婆さんを見るが二人の精霊を無視してお茶を飲んでいる。


「ルルーシャルさん。どうすれば良いの?」

「……諦めて頂戴」


……命の恩人?恩精霊だ。諦めて御使いの修行を受ける事を決めた。精霊術ってやつを覚えれば復讐の役に立つかな?復讐の為に精霊の力を使うのではなく、間接的に精霊の力を使って最後にオレの力で復讐すれば良い。


「ギャー!イテー!目が!目が痛い!」

「すまん、精霊の印を付ける為の痛み止めをするのを忘れていた」

「ごめんね~」


……諦めるのが早すぎた!もっと抵抗するべきだった!


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
復讐を完遂するなら修行して力を 付けるのも目的に近づくすべになるのでは? ただ修行を否定しているのにNPCの様に 修行しろしろと繰り返す御使いと御一行も ろくなもんじゃないですが
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