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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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閑話 帝国貴族の脱出計画③

あれから数日が経つ。部下の者達にはトルクに近づかないように指示をしているが本当に近づいていないか心配で、偶にトルクと話す事にしている。

何度かトルクが面会に来たが占領計画の指示や看守との話し合いの最中だったので断っていた。

トルクは部屋の端で目を瞑って座っている。前に何をしているのか聞いてみたが魔力の質を高める訓練だと言っていた。目を瞑って座っているだけで魔力の質が高まるのか?魔法を使えない私には分からないから相槌をするだけで終わった。


「調子はどうだ?鎖は外せそうか?」

「……難しい」


片目を開けて私を見るトルク。片目を此処に来る前に潰されて片目しか見えない。薄汚れているトルクの顔は知り合いの子供の様な目つきではない。

全てを恨んでいる憎しみがこもっている目だ。

こんな子供が世界を憎悪した悪人の様な目をするなんてどんな怨念がこの子の体に憑いているのだろうか。


「そうか……。近々、此処を占拠するのだが鎖を外す事は出来ないか」

「計画が早まったのか?」

「この前、魔鉄が発掘されたから看守の交代が早まったそうだ。オレ達はそのときを狙って暴動を起こす予定だ」

「手伝いはいるのか?」

「大丈夫だ!問題ない。お前は子供だから手伝わなくて良いぞ。大人のオレ達だけで大丈夫だ」


これ以上トルクが帝国を憎まなければ良いと思い戦闘には参加させない。参加するのは大人だけで十分だ。計画も十分練ったし大丈夫だ!


「それでローランドとダニエルの事を教えてもらいたいのだが」

「その件に関してはオレ達が自由になったら言おう。それまでお前はやるべき事をしてくれ」

トルクはローランドとダニエルの話になると殺気というか怒気の様なモノが体から出て恐怖を覚える。部下も身構えてトルクを見る。


私はトルクと別れ部下達の元に帰る。


「スレイン様、やはりあの子供は危険です!」


トルクを危険視する部下。確かに危険だと思う。子供が戦争経験のある騎士を身構えさせるのだ。今までどんな修羅場を潜り抜けたのだろうか?


「ローランド様を憎悪しています。私達に敵意を向ける事があるかもしれません」

「だからトルクにはローランドの関係を話していないだろう。それに魔封じの腕輪もついているし手錠もある。大丈夫だ」


大丈夫だ!トルクが敵意を向けても今は大丈夫だ!手錠も有るし魔法も下級レベル、しかも足の裏からしか発動できん。私の部下なら無力化する事は簡単だ!


「それにトルクの言っている事が事実ならクリスハルト様の恩人だ。その恩人を無碍にする事は出来ん……」


トルクの事で部下達は二つに分かれ言い争っている。トルク擁護派とトルク否定派だ。

擁護派はトルクを恩人として迎え入れて、ローランドを罰する事を止めて許してもらう。否定派はローランドを信じ、トルクの事も信じない者達でトルクを亡き者にすると言う者達。

私はクリスハルト様とローランドの話を聞いて判断する。それまでは近くに置いて速やかに対処できるようにする。


「スレイン様は魔封じの腕輪を外すカギをお持ちでしょう!万が一、子供の手に渡ったら!」

「その時は事情を話して戦力になるな!トルクの言葉を信じるなら中級レベルの魔法が使えるらしい」

「子供がそんな魔法を使えるはずありません!」

「もう、この話は終わりだ!今我々がすべき事は此処を占拠する事だ!」


部下との話を終わらせて、他の事を考える。

トルクが来てから頭を悩ませることが増えた。部下達はトルクの事で言い争い、捕虜のリーダー格の者達も魔鉄を発掘した際に起こった崩落と発掘で忙しいし、仲間の看守達も魔鉄の事で計画が早まり準備に忙しい。

いきなり忙しくなったような気がしてならない。こういう時は一つずつ問題を解決する。まずは崩落した現場を片付けて、仲間の看守達の仕事を助けるか。トルクの事は最後で良い。部下に命令して片付けが終わっていない崩落現場から片付けよう。

しかし、魔鉄が発掘されるとは思わなかった。

魔鉄は普通の鉄よりも固く魔法を阻害する性質を持つ。トルクが両腕にはめている魔封じの腕輪も魔鉄で作られている。魔鉄は希少な上、高値で取引がされる。この場所は皇族が管理するだろう。ここの領主が魔鉄の事を聞いたらどのような対応をするだろうか?

不正の件もある。オレの手に余る案件になってきた。どうにかしなくては……。




暴動前日の夜。

魔鉄の発掘で少し時期が早まった。味方の看守の話では明日には交代の看守達が施設に着くそうだ。

計画は上手くいっている。敵の看守は夕食時に体が痺れて数日間は動けない毒入りの晩飯を食べさせて牢獄に纏めて放り込んだ。

部下達は囚人のリーダー格の者達に指示をしたり、味方の看守と話している。これでこの砦の半分は占拠した。残りは明日の交代要員の看守を無力化する事だ。


「スレイン様、トルクと言う小僧はどうしますか?結局、鎖を外す事は出来ないとの事ですが」

「鎖を壊す事は出来ないか……。魔封じの腕輪をはめている者が魔法を使えるからもしかしたらと思ったが……。仕方がない、トルクには作戦は参加させん。だが町に行くときは同行させよう。奴がいるなら飲料水を水魔法で出せるだろうからな」

「了解しました」


部下が立ち去っていく。トルクの事が話題に出たので改めて思いふける。トルクが魔法で鎖を外せない事は考えていた。手元には魔封じの腕輪を外すカギはある。しかし本当に腕輪を外してよいのだろうか?

魔封じの腕輪をはめている者が魔法を使うこと自体がおかしい。聞いたときは、偽物の魔封じの腕輪を付けているだけではないかと疑ったが、残念ながら本物の腕輪だった。

足から魔法を発動させるという裏技を使い水魔法で飲料水を出した子供を見たときは衝撃を受けた。どうすればそんな事が出来るんだ!

トルクには驚かされる。子供ながらの思い付きで誰にもできない事をやっているのだ。

……今度、私が魔法使いを捕まえるときは腕と足とに魔封じの腕輪を付けよう。そう心に誓った!


「スレイン様、よろしいでしょうか?」


今度は味方の看守か。どうした?


「明日の準備が出来たようです。それと魔鉄の件ですが、専門家に聞いてみないと詳しくは分かりませんがかなりの量がある様です」

「そうか。近い将来、この場所は皇族の直轄地になりそうだな。魔鉄が発掘される場所となったから商人達も此処まで来るだろう。町になるかもしれんな」

「直轄地になった場合、私達看守はどうすれば良いのでしょうか?出来れば私はスレイン様の部下になりたいのですが」

「……分かった。希望者は私の領地に来い。こき使ってやるから覚悟しろよ!」

「ありがとうございます!こんな所よりもスレイン様の領地の方が働き甲斐があります!」


嬉しそうに去っていく看守。奴のおかげで我々も苦労せずにすんだ。性格も良く周りの事も気に掛ける者だ。良い者が配下に着く事が出来るのを喜ぼう。

話を戻そう。……トルクが腕輪を外したらどんな威力の魔法が使えるのだ?

外したら魔法を使って手錠を壊してくれるだろう。しかし脅威にならないだろうか?

弟のローランドによってこの施設に来て、その道中で半殺しに遭い、片目を潰された子供。

我々に恩を感じている様だがオレがローランドの兄と知ったなら恨みを持つだろうか?

部下の中にはトルクを殺した方が良いと思っている奴もいる。ローランドに罪を着せた王国兵としてトルクを罰する、と。

……本当にトルクの扱いには困る。

魔法が使える子供だから貴族の子弟だろう。その事を考えれば今後の戦争に役に立つのではないか?

それよりも恩を感じているのなら配下に置いて……駄目だ。トルクはローランドを殺すつもりだ。配下に置いたらローランドとの関係がバレる!

放逐するか?いや近くに居た方が奴の行動が把握できる。ローランドには私が罰を与えるとしてトルクには配下になってもらった方が良いのでは?

いや、まずは明日の看守の交代要員を倒す事を考えよう。

トルクの事は後で考えればよい。




次の日になり交代要員の看守達が来た。

人数が聞いていた数よりも多いな?どうしてだ?


「交代任務、お疲れ様です。人数が前よりも多いように思われますが……」

「魔鉄が出たからその確認の為だ」

「なるほど、了解しました。長旅お疲れさまでした。飲み物をどうぞ!」

「おう!ありがたい!」

「さあ!皆さまもどうぞ!」


……交代要員の看守達は飲み物を飲む。しかしその飲み物には……。


「……すまないが、トイレは何処だ?冷たい飲み物を急に飲んだから少し腹を下したようだ」


下剤入りの飲み物だ。それも即効性!

次々とトイレを所望する者達。そして囚人達が出てきて一斉に看守達に突撃する。

看守達は腹を抑えながら叫んでいる!「囚人がどうして!」「騙したのか!」「卑怯だぞ!」「出そう!」「頼む!降伏するからトイレに!」「頼む!尊厳を汚さないでくれ!」……どうして麻痺毒ではなくて下剤なんだ!


「麻痺毒は使い切ってしまって……。費用の関係で下剤しか取り寄せる事が出来なかったと言っていました」

「あいつが言ったのか?」

「はい。あの方が仕入れましたので」


……あいつは目的の為なら手段を選ばないといつも言っていたが、もう少し手段を選んでくれ!相手が可哀そうだ!

囚人達と看守達の戦いの末、捕まえた者達はトイレと一緒になっている牢屋に入れた。漏らした者も居たがそいつらには着替えを用意して囚人達に見張らせた。汚物が飛び散っている床を掃除させて明日の為に準備をする。

看守達を見張る者、町に行く者とに分かれる。私は部下と共に町に行く。囚人達のリーダー格は看守の見張りをしてもらう予定だ。トルクも町について来てもらう。魔法で飲料水を出してもらう予定だからな。


「スレイン様、トルクと言う子供の事で少しお話があります!」

「どうした?」

「あの子供をどうするのですか?ローランド様に恨みを持っている王国兵です。万が一の事があります、トルクは施設に置いておく方が良いのではないでしょうか?」

「しかし、アイツは魔法を使える。火を出せるし、水も出せるだろう。その分だけ荷物を減らせる」

「確かにそうですが……」

「やはりお前はトルクが害になると信じるのか?」

「……そうですね。ですがローランド様に恨みを持っています。それを考えると……」


本当に我が弟は何をしたのか。トルクの話を聞く限りでは逆恨みだろう。しかし公平に判断をするならローランドの言い分も聞かなければ。そしてクリスハルト様も関わっているから話を聞かなければなるまい。

指示を出していると部下がトルクを連れて来た。相変わらずムスッとした顔だ。片目を潰されているから見えている目を細めて私を見る。


「この場所は占拠した。次の作戦に入る。今度は看守達と協力して町で手錠のカギを入手する。お前も連れて行く予定だから準備しろ!」

「……どうしてオレも行くんだ?」

「魔法が使える人間はお前しかいない。何かあれば頼む事になる」

「魔封じの腕輪のせいで魔法がほとんど使えないぞ」

「火や水を出せるだろう。野営するときに楽でいいし、飲料水の心配をしないで済む」

「……わかった」


そう言って施設を出る為に用意をすると言ったが、周りの手伝いをしている。しかし子供だから背が小さい。「邪魔するな!」と言われ今度は大人しく座って作業を眺めている。

ふと思ったがトルクは本当に子供なのか?歳を誤魔化していないか?トルクの様な年齢にしては大人びている。きっと今までかなり苦労していたのだろう。こんな子供が大人びた考えをするまで苦労をするなんて……。

次の日、私達は労働施設を出て町に向かった。

前日の夜は解放されたので宴会となった。みんなが少ないが酒を飲み、肉の入った食事を食べた。私も久しぶりの酒に感動したものだ。

施設を出発したときに長年施設に居た囚人達は自由を満喫している。私も久しぶりの外に嬉しさを感じてしまう。トルクが「シャバの空気だ」と言っていたがシャバってなんだ?

馬車に揺れながらゆっくりと進む。町から労働施設に来る人間は居ないからまだ姿を隠さなくても大丈夫だろう。

野営地に着いて今日は此処で一泊する。トルクに飲み水の補充と火を熾してもらい夕食の準備を指示する。

そういえばトルクは年寄りの爺さんと話している事が多いな。見ていると祖父と孫だな。

私も食事をして早めに休むとしよう。

後もう少しで手錠を外せる。そして不正の書類を探し出して政敵と協力して不正を暴くか……。

本当に政敵と手を合わせる事が出来るのか?最悪の場合は政敵が裏切る可能性もあるからな。その場合はアイツの知恵を借りるか……。

今はどこに居るのか分からないが町に着いて用事が済んだらアイツに報告をするか。

アイツならオレよりも良い方法を思いつくだろう。

そんな事を考えながら眠りについた。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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