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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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閑話 帝国貴族の脱出計画②

子供がいなくなると部下達が騒ぎたてる。


「なんと無礼なガキだ!スレイン様のご命令を無視するとは!」

「上位の貴族の子弟だとしても爵位を持つスレイン様を無視するとは!」

「本当に貴族の子弟なのか?どこか妾の継承権のないガキなのではないか!」


……部下が騒ぎ立てる。子供を連れて来た者達は青い顔をして怯え、オレ達に謝罪をしている。子供の無礼の矛先が来るのを怯えているのだろうか?


「案内ご苦労であった。なかなか面白い子供だ。良くぞ会わせてくれたな」


オレの言葉に二人が驚く。許してもらえるとは思わなかったのだろう。貴族に逆らったらどうなるかこの二人は知っているようだ。その関係者も罰に遭うから二人とも怯えたのだろう。


「先に子供の所に行くが良い。オレも後から行く。勿論一人でな」


二人は頭を下げて逃げるように部屋を出る。さて、オレも子供の所に行くか。ご指名の通り一人で。


「一人で行くのは危険です!」

「危険?子供に会いに行くのが?それともここには危険な敵でも居るのか?お前達が居ると子供から信頼を得られん。私の部下になるかもしれん子供だ。お前達の同僚になる可能性があるのだぞ?」

「ですが!あの子供は貴族であるスレイン様を軽視しているのですぞ!そのような者が私達と同じ立場になるなんて!」

「そうです!あのガキは危険でしょう。寝首をかかれるかもしれません!そのような者を部下にするなんて!」

「待て!魔法を使える子供だぞ!利用価値はある!」

「そうだ!どこぞの貴族の子弟かもしれないぞ!ここは味方に付けるべきだ!」


……部下達は子供の事で言い争っている。敵とみなす者、味方につける者。だがオレはあの子供を味方に付けることを決めている。あの目が気に入った。友人と同じ目をした子供だ。もしかするとあの友人に一泡吹かせる事が出来るかもしれない。


「オレはあの子供を味方に付ける。その為にもう一度話を付けてくるからお前達は待機だ!」


部下達の返事を聞かずに部屋を出て子供がいる部屋に向かった。

部屋には子供を連れてきた二人が子供と言い争っている。何を言い争っているのか。聞こえてきたのは薬をくれた恩人の貴族になんて口をきいているのか?か。


「……聞いているよ。オレが悪かったよ。今度からはお前達が居ない場所でケンカを売ってやるから大丈夫だ」

「だからケンカ売るな!あの人達が薬を恵んでくれたからお前の怪我が治ったんだぞ!」

「……そうか。恩人だったのか。それを先に言えよ。恩ぐらいは返してやる。それ以上は干渉しない」


おや?子供がオレに恩を感じてくれたようだな。これなら話が転がって説得できるかな?


「だからどうしてお前は貴族に対してそんな態度を取っているんだ!お前も貴族なのか?それとも皇族か?」

「全くだ、ここまで貴族をコケに出来るとは……。お前は何者だ?」

「何の用だ?オレは忙しいんだぞ!」


寝ながらオレを見る子供……。そんな対応をされたのは生まれて初めてだな。部下達が居なくて良かった。居たら「無礼者!」とか「何様か!」とか五月蠅くなるからな。


「寝ながら言う言葉じゃないな。それでお前の名前は?」

「……トルク」

「どこの貴族だ?」

「どこでも良いだろう。こんな所にいるんだ。貴族なんて身分はどうでも良いだろう。それで何の用だ?」


答えないか……。どこかの貴族である事を知られたくないのか。それとも王国の者だから黙っているのか?ならオレが答えてやろう。


「お前の出身は王国だろう。バルム砦の事を聞いたとき少し違和感があった。矢に当たる者達は徴兵された平民だけで、貴族達は後ろの方で指揮をする。オレが矢に当たったという言葉に疑問を感じなかっただろう。帝国出身でバルム砦に行った者はなら疑問に思うはずだ。他にも帝国軍らしからぬ事を質問したのだぞ。王国出身の者にはわからないだろうが帝国兵なら平民でも知っている事だ。それで王国出身の子供がどうして辺境の労働施設にいる?亡命でもして失敗したか?」


その後言い訳をしていたが子供は自分の口から捕虜になった経緯を語った。


「……バルム砦が落ちて帝国貴族に目を付けられてこの場所に来た」


子供から聞いた話に耳を疑った。嘘を言っている様には見えない。本当にバルム砦が落ちたとは……。あいつはどんな方法で落としたんだ?


「王国のアイローン砦が落ちて王族や貴族が捕虜になり、その捕虜とアイローン砦を解放する条件が、バルム砦を所属する貴族や騎士達を含めて交換する事だった。それでバルム砦は帝国の物になった。オレはバルム砦で捕虜になりこの場所に来た」


……本当に落ちたのか。信じられん。奴の言う通りあの難攻不落の砦が落とされるなんて。しかしなんて絡め手だ。準備期間にいくら使ったのか?どうやってアイローン砦を落としたんだ?子供に聞こうと思ったのだが、逆に子供が質問してきた。


「少し質問がある。この計画を立てた人物だが、鎖を切らないと暴動を起こせないと言ったのか?」

「いや、鎖を切った方が生存率が上がるとは言ったが、必ず切れとは言っていない」

「どうして鎖を切るように指示した?」

「勿論、生存率を上げる為だ。それ以外に何がある?」

「切らなくても暴動は起こせるのだろう?どうして起こさなかった?」

「時期の問題だな。奴が言うには食料や物資等の問題。看守が交代する時期が良いと言っている。それにこれから寒くなる。温かくなったときに暴動を起こした方が良いらしい」


本当は不正を暴く為だ。決行はここに看守が集まり町の看守が少ない時期にと決まっている。後、数ヶ月の我慢だ。


「それで話を戻すが、お前はオレの部下にならないか?そうだな。自己紹介をしよう。オレの名前はスレイン。帝国貴族で政敵にハメられて罪人となりこの場所にいる。もともとは帝都の貴族でこのような姿だが爵位を受け継いでいた。しかし、オレの主が王国の捕虜になり助ける為に動いていたら罪を着せられてしまったのだ。オレの部下達と一緒にな」

「そうかい。それは災難だったな」


軽く言ってくれるな。本当にこの子供は何者だ?王国の子供は貴族にこんな態度を取る事が出来るのか?私にはそんな事は出来ないぞ。主や目上の者にそんな横柄な態度を取る事など出来ん。


「我が主、ロックマイヤー公爵の為に動いていたが力及ばず……」


私の言葉を聞いたときに子供は少し考えて言った。その言葉は衝撃的だった。


「……バルム砦で捕虜になっていた奴はクリスハルトと言う名前か?確かロックマイヤー公爵と聞いた事がある」

「お前、クリスハルト様の事を知っているのか?」


クリスハルト様の事を知っているのか?そうか!こいつはバルム砦に居たのだ!知っている可能性もあったのだった!


「知っている。アイツの願いでオレは怪我人の手当てをした」

「クリスハルト様は御無事か?」

「無事だ。バルム砦が落ちたから解放されただろう。その後のことは知らない」

「……そうか御無事か」


良かった!本当に良かった!では弟や友人も無事なのだろう!肩の荷が下りたような感じだ。後は不正を暴いてオレ達の身の潔白を証明するだけだ!


「ならば今後の為にオレも動かないといけないな。教えてくれて感謝する。そして改めて言おう。オレの部下になれ!」

「……あんたはオレの為に薬をくれたと偽善から聞いた。恩を返したいがオレにはやる事がある。だから部下になるのは難しい」

「やる事とはなんだ?オレが手伝えるのなら手伝おう」

「……クリスハルトの副官のローランドとダニエルと言う帝国人を探している。オレを地獄に落とした奴らだ。あいつ等の情報が欲しい」


……なんだと?ダニエルという者は知らないが、ローランドの事はよく知っている。この子を地獄に落とした?どういう意味だ?


「クリスハルト様の部下のローランドの事は知っている。アイツも王国の捕虜になっていた事も。お前はローランドに何をした?アイツは王国を憎んでいたが子供にまで危害を与えるとは考えられん」

「だがオレはローランドに憎まれてこの場所に来た。ダニエルと言う帝国人から目を潰され、腕を折られ、剣で切られた。この場所に来たときは死んでもおかしくない状態だった。オレはアイツらに復讐をする!それが出来るならオレはお前の部下になってもいい!」


ローランドの命令でお前はここに居るのか!ダニエルという者から殺されかけながらこの場所にいたのか?目を潰され腕を折られただと!なんという事をしているのだ!


「……お前がどうしてその二人を憎むのか最初から教えてくれ」

「オレは砦にいたとき、クリスハルトの叫び声を聞いた。「怪我人を助けてくれ」と。上司には内緒で帝国の捕虜たちの怪我を治した。ローランドはオレを人質にしようとしたがクリスハルトがローランドを殴り助けてくれた。その後、クリスハルトから戦争を終わらせる話などをしてオレの上司、砦の責任者のアーノルド様と話す事になったが、再びローランドがオレの従者を人質にした。撃退したのだか、その結果、和平の話と怪我人の治療が出来なくなり、ローランドは帝国の捕虜とクリスハルトから恨まれたらしい。そして砦が落ちたとき、オレは逃げようとしたがローランドに見つかって魔封じの腕輪をはめられた。オレもオレの部下も殴られ、切りつけられた。オレは捕虜として他のみんなと同じ捕虜施設に行くはずだったが、ローランドの命令だと言ってダニエルにここに連れてこられた。その道中は地獄だった。殴られ、蹴られ、切られた。飯は地面に落とされて犬の様に食べた。飲み物も泥水を飲み、馬に引きずられながら来た。目を潰され、腕を折られて本当に死ぬ寸前だった。全部ローランドとダニエルのせいでオレは地獄を味わった!分かっただろう?ローランドは子供や従者を人質にした結果、クリスハルトから信頼されなくなった。その腹いせにオレをこの場所に送り込んだ!」


……なんてことだ!この話が本当ならクリスハルト様の恩人だ。そしてオレの友人達の恩人でもある。そんな者がどうして!

ローランドよ!何を考えている!いやダニエルという者もどうして子供に地獄を見せるのだ!


「ローランドの居場所を知っているか?奴の家族や友人でも良い。アイツの事を知っている奴を教えてくれ!」

「……知ってどうする?復讐するのか?」

「復讐する!」


トルクの目が友人の目の様だ。敵を陥れる目。殺す覚悟をした目。何があってもやり遂げる目だ。それも目的のためなら手段を選ばない暗い目だ。

駄目だ。詰んだ!どうしよう!どんな言い訳しても必ずやり遂げるだろう。


「……少し待ってくれ。ローランドの事とダニエルの事だな。周りの者達にも聞いてみる」


トルクと別れて部屋に帰る最中に気づいた。トルクはローランドの家名を聞いていないのか?知らないのか?

立ち止まってトルクに聞きに行くか?駄目だ!トルクが変に思うかもしれない。

……トルクはローランドの家名を聞いていないのだろう。名前しか言っていないからトルクはローランドの家名を知らないのだ!だからオレの名前を聞いても関心が無かったのか!

そう自分に信じ込ませて部屋に戻り、オレは部下達と話し合いをする。


「バルム砦を帝国が占拠しクリスハルト様は御無事の様だ。後は不正を暴き、我々の身の潔白を証明するだけになった!」


みんなあっけにとられているな。難攻不落の砦が落ちて主が無事だったのだからな。ありえない事実にショックを受けた部下達が意識を取り戻しはじめた。


「それはあの子供が言ったのですか?」

「あの子供、トルクと言うがクリスハルト様の知り合いで恩人でもある。彼は王国兵であるが帝国の捕虜となった者達を助けてくれた。恩には恩を返さねば帝国貴族としての面子が立たん!トルクを恩人として接するぞ」

「ではクリスハルト様や弟君のローランド様も御無事なのですね!」

「ローランド様や皆も御無事とはなんと嬉しい事か!」

「トルク殿を恩人として接しましょう!」

「待て!本当のことなのか?ガキ、いや子供が嘘を言っている可能性は?」

「その可能性は低い。クリスハルト様の事やローランドの事を知っている」

「では部下にするのは?」

「部下の件は保留にする。それからローランドの事はトルクには話すな!トルクはローランドのせいでこの地獄に来た!トルクは弟のローランドを憎んでいる。我々はローランドとダニエルという者は知らない。これは絶対だ!喋った者は容赦しない!」


ローランド ルウ エディオン。クリスハルト様の副官をしているオレの弟。

弟のローランドがクリスハルト様と一緒に王国の捕虜になったときは二人の無事を毎日願った。

しかし我が主の恩人が我が弟を殺す気でいる。どうすれば良いのだろうか?先送りできる問題ではない。いずれは知る事になるだろう。そのとき私はどうすれば良いのか……。


「しかし、その子供の言葉は真実でしょうか?」


どういう事だ?オレはその言葉をつぶやいた部下に聞く。


「クリスハルト様やローランド様の無事を敵国の子供の発言から簡単に信じてよいのでしょうか?確かにあの子供の言葉を信じると御二人の恩人になるでしょう。しかしその恩人がどうしてこの場所にいるのか?ローランド様に嵌められたと言っていましたが、ローランド様がそんな事をするでしょうか?」

「まさか、あの子供が虚言を言っていたのか?」

「事実が半分、虚偽が半分……。どこまでが本当か嘘かは分かりませんがむやみに信じるのは危険ではないでしょうか?」

「確かに、ローランド様が子供をこんな場所に入れるとは考えられん。本当にローランド様の指示なのか?」

「それ以前にあの子供が本当にクリスハルト様の恩人なのか?恩人は他に居て子供がなりすましていた可能性も……」


話が拗れてきている。トルク殿がクリスハルト様の恩人ではなく、捕虜となったクリスハルト様やローランドの誇りを貶した罪人でトルクが本当の恩人の名を騙ったのではないか?と言う話になってきている。


「王国兵とローランド様とどちらを信じるのか!信じるのはローランド様ではないのか!」

「確かにそうだ!しかしそう決めつける事はないのではないか!」

「ローランド様が子供を此処によこした時点で罪人ではないのか?その罪人の言葉を鵜呑みにして良いのか!」


……詳しくはクリスハルト様やローランドの話を聞いてから判断しよう。それまでは危険だが近くに置いておこう。そして罪人であれば切り捨て、恩人であれば礼を尽くせばよい。

恩人であれ罪人であれトルクの事に関して手出しをしない事を部下に厳命した。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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