閑話 帝国貴族の脱出計画①
私の名はスレイン ルウ エディオン。
由緒正しい帝国貴族のエディオン家は、領地持ちの貴族である。
そして我が主、クリスハルト ルウ ロックマイヤー様の部下としてロックマイヤー公爵家に仕えている。
我がエディオン家は代々ロックマイヤー公爵に仕えており、父も私も弟もロックマイヤー公爵家に忠誠を尽くしている。
先の戦争でクリスハルト様が捕虜となった事を聞いたときは耳を疑った。
各所に伝令を出して事実を調べると、クリスハルト様は確かにバルム砦で捕虜になっていた。
私の知り合いも、弟も捕虜として捕まっているらしい。
なんとしてでもクリスハルト様を捕虜から解放する為に、帝都に赴き現状を知らせて助力を願う。
しかし何故か政敵からあらぬ疑いを掛けられ、罪を着せられ犯罪者となってしまった。
……ここまでスムーズに犯罪者に仕立て上げられるとは怒るよりも呆れてしまう。
エディオン家やロックマイヤー家とは関係ない罪状で、政敵の行なった公金横領の罪をなすり付けられたのだ。
部下達も連座で捕まってしまった。部下には悪い事をしてしまった。
しかし子爵家の者に酷い罰はないだろう。良くて謹慎、悪くても数ヶ月間の帝都の出入り禁止くらいだろうと思っていた。
……そこまでするか!政敵よ!地獄の労働施設に落とすとは!
辺境にある鉱山の労働施設。死刑以外の犯罪者たちが最後に行く場所。毎日死人が出る過酷な施設。
我が部下達よ。すまない!本当にすまない!
絶望し囚人用の馬車に乗りながらクリスハルト様の事を考え、今後の事を考えた。オレの代わりに誰がクリスハルト様を助ける事が出来るだろうか?それよりもオレ達を地獄から救い出してくれるのだろうか?
様々な事を考えていると……施設で思わぬ者に会った。
知り合いの軍人で敵からも味方からも嫌われている友人。
謀略が飯より好きで、人を陥れる事に喜びを感じ、敵を滅ぼす為には手段を選ばない。間接的に殺した敵の数は数万にも及び、味方もついでに殺す。性格は狂人・悪魔・鬼畜・加虐・外道と言われ様々な者達から死ぬと喜ばれる人間として嫌われている私の友人だ。
「そんな奴と友人になる気がしれんな」
「全くだ、だがその友人がどうしてここに居る?」
「知らなかったのか?部下の怠慢で作戦が失敗した責任を負ってこの場所にいる。それでお前は?」
「冤罪着せられてここに来た」
「無様だな」
「お前もな」
睨み合うがこんな奴と目を合わせても気持ち悪いだけだ。
「スレイン、お前はどうする?」
「こんな場所で朽ちるのは好みじゃない。王国で捕虜となったクリスハルト様を助けなければならん!」
「ロックマイヤー公爵の御子息が捕虜になったのか?」
「そうだ!助けようとしたのだが。失敗してこのような場所にいるが助け出さなければならん!」
「この状況で助ける事など出来んだろう。それに脱獄したら本当に犯罪者になり、周りの者に迷惑をかけるぞ」
「しかし!」
「だが方法はある」
流石は我が友人だ。何でもするぞ!言ってくれ!
「この施設を調べていたら鉄石の出荷量が帝都の資料と比べて量が少ない。鉄石を何処かで抜いて不正をしているのだろう。お前はこの不正を暴いてその恩赦でここから出る。それにこの場所の罪人たちをまとめ上げてお前達の部下にするのも良いだろう」
……なるほど。鉱山の不正を暴くのか。そんな事で無罪になるのか??
「調べたら貴族が介入している。お前を陥れた政敵ではないが政敵の敵でありお前の敵でもある。それを盾にして交渉すれば問題ないだろう。方法だがこの場所を占拠して看守達と不正の資料を手に入れる」
「占拠するのか!そこまでしたら反乱罪で今度は命が無くなるぞ!」
「大丈夫だ。占拠する事によって不正の書類が守られる。それにその後が大事だ。お前達の手錠のカギは他の町にある。そこにも不正の書類があるだろう。それを手に入れる為には此処を占拠して看守を逃がさない方が良い。占拠後に町に行って書類とカギを奪う」
……そこまでしないといけないのか。考えていたより大規模な事になってきた。
「作戦はこっちで立てた。まずは作戦開始日だがあと三、四ヶ月後に看守が町で待機している交代要員と入れ替る。そのときを狙って前日に暴動を起こす。看守達が居る場所までの扉の鍵は全部開けておくから大丈夫だ。占拠して、翌日に来た交代要員の看守も捕らえる。そして町に居る兵達と協力して不正している人間達を捕縛し、不正の証拠を手に入れる」
……看守達は武器を持っているぞ。こっちは丸腰だ。それに鎖もある。
「鎖を武器にして看守を無力化してその後に武器を使えば良いだろう。戦力は囚人の方が多い。囚人たちを集めて部下にすれば良い。それから仲間の囚人達を紹介する。リーダー格の者達だ」
そんな事までしているのか。味方は多い方が良いが大丈夫なのか?後ろから殺されるのは御免だぞ!
「問題無い。囚人達の生活環境を良くするように動いている。少しずつ環境が良くなっているから囚人達には信頼されているぞ。町で生活していた者達もいるから地理にも詳しいぞ」
……町に不正の書類とカギを取りに行く方法はどうする?町まではかなり遠いぞ?
「味方の看守も紹介する。後の看守達はお前が勧誘して部下にしろ。不正が明るみに出たら看守達も死罪だが、手伝ったら減刑させると言えば味方に付く。最後はお前をここに追いやった貴族と口合わせをして不正をした貴族を追い詰めて終わりだ。政敵と協力して他の政敵の不正を暴いたという事になれば他の者達の見る目も変わるだろう」
……本当にお前はオレの味方だよな?冤罪で捕まったがお前の指示ではないよな?
「当たり前だ。こんな所でそんな指示は出せん。それにエディオン家に恩を売っておくのも悪くない」
「お前とは一生の友人となりたいものだ」
「友人とはいえ裏切るときは裏切るぞ?それでも良いのか?」
「……そのときは敵にならないように動くさ」
本当にどうしてこんな奴と友人になったのだろうか?こいつと五分の付き合いが出来る人間を見てみたいものだ。
「そういえばお前が不正を見つけたのだろう。どうしてオレ達に手柄を譲る?」
「バルム砦を落とす作戦を立てた。オレは馬鹿に呼び出されて此処には居ない可能性がある。オレの代わりを探していたのだが丁度良くお前が来てくれて助かった」
「待て!難攻不落のバルム砦を落とすだと?そう簡単には落ちないだろう。捕まる前の話では王国の砦を攻め続けているぞ!」
「作戦の内だ。バルム砦は近い内に帝国のモノになる。そして帝国が王国を占領する日も遠くないだろう。後は帝国の無能達を粛清もしくは死刑にできれば良いのだがどんな方法が良いだろうか?」
……どうしてオレはこんな奴の友人になったのだろうか?本当に友人付き合いをしても良いのだろうか?悪事の大半はこいつが関与している可能性も否定できない。
その後に奴は本当に施設を離れる事になった。
「では頼んだぞ」
「分かった。今度は帝都で会おう」
「念のためにこれを渡しておく。魔封じの腕輪を開けるカギだ」
「魔法使いは他の施設に行くだろう。ここには来ないはずだ」
「念のためだ」
「後は頼んだぞ。それからロックマイヤー公爵の御子息の事も時間があれば調べておく」
「ありがとう。後の事は頼んだぞ!」
そう言って奴は此処からいなくなってしまった。
本当に此処からいなくなるとは……。
奴からリーダー格の人物を紹介されたり、味方の看守と会ったり、施設の地図から町までの地図まで貰い、作戦の指示書を貰った。
これらがあるのなら子供でも実行できるぞ。分かりやすいように色々と書いてある。
別れてオレは簡単な仕事をしつつ、リーダー格の面々と話し合い、脱獄を手伝ってくれる仲間を集める。
やはり手錠をどうにかしたいな……。どうにかして壊せないか……。せめて鎖が切れたら楽になるのだが……。
リーダー格の一人から急ぎの面会を求められた。
何事か聞くと先日入った子供が死にそうなので薬が欲しいとの事だ。
部下達は子供にやる薬はないと言っている。オレも薬を渡したいが量が少ない。味方の看守達から他の奴らの目を盗んで貰っている貴重な薬だ。そう簡単には渡せない。
しかし話を聞くと子供が魔封じの腕輪を付けている事を知った。
魔法を使えなくする魔鉄で作られた腕輪だ。それを付けると魔法が使えなくなる。この場所に魔法使いが来るとは。本来ならこのような場所ではなく他の場所に行くのだが……。それも子供が魔法を使えるのか……貴族の子供か?
分かった。貴重な薬をやろう!子供の事も気になる。傷が癒えたらオレの所に連れて来てくれ。
しかし魔封じの腕輪をはめている者がこの施設に来るとは。……奴の先見はどうなっているんだ?未来が見えるのか?見えていても奴なら納得しそうだな。
その後薬を飲んだ子供は生き残ったらしい。しかし片目が潰れてしまっているそうだ、なんでも此処に来る前には目が潰れていたらしい。
怪我が癒えた子供の事を聞く。魔封じの腕輪をはめているが魔法を使えるようだ。何故だ?
聞けば足の裏から水魔法を発動させて飲み水を供給しているそうだ。
魔封じの腕輪をはめて魔法が使える者など知らん。
どうやって使っているのか聞いたが足の裏から魔法を使っているそうだ。腕輪が腕にあるから足から魔法を使っている?
過去に前例がない!初めて聞いたぞ!足から魔法を使うなんて……。
普通は手から魔法を発動させるはずだ!足の裏から魔法を発動させる事など出来たのか?
その後、傷の癒えた魔法使いの子供に会った。
目を怪我しているのか片目を包帯で巻いている。片目でオレ達を睨んでいる。貴族のせいでこんな場所に来たのだろうか?オレ達を警戒している。
「おい小僧、お前の名前は?」
「ここじゃガキと言われている」
「あだ名じゃない!お前の名前だ」
「言う必要はあるのか?」
部下の一人が子供に名前を聞くがあからさまにオレ達を警戒している様だ。少し警戒を解く必要があるな。簡単な世間話でもするか。
「お前は何処から来た?」
「……バルム砦から来た」
バルム砦か……懐かしいものだ。オレの初陣もバルム砦だった。後方で徴兵された平民の指揮をするだけだったが……。
普段は矢傷を負うのは平民だけで貴族は矢の届かない所で指揮をする。
しかし大規模戦闘では敵が疲労したときに貴族や騎士達の主力部隊が攻め込む。クリスハルト様達は城壁を上りその場所で指揮をとっていたがあえなく失敗して敵の捕虜になったそうだ。
しかしこの子供はどうもおかしい。矢傷を負うのは平民だけだ。そんな事を知らないはずがない。
他にも帝国兵なら知っている事を知らない?どういう事だ?帝国の者ではない……王国兵なのか?そんな馬鹿なと思いたいが囚人の中には王国出身の者がいる事を思い出した。王国だろうが帝国だろうが懐柔すれば問題無い。もし王国の者なら情報を得る事が出来る。
「腕輪を外してここを出たらオレの部下になれ。魔法が使えるとはいえ子供が此処で生きていくのは難しいだろう。オレの配下になれば優遇してやるぞ」
「断る」
……即断されたな。あっけにとられていたら部下が子供を殴りつけ、倒れたところを襟を掴んで立たせた。すると今度は子供が反撃して部下を殴った。
子供が片目でオレ達を見る。まるで親の仇を見るような暗い眼だ。どんな経験をしたらこんな眼をする子供になるのだ?子供が大人に囲まれているのに表情を変えない、何か策があるのか?
……この子供の目は奴に似ている。あの友人の目だ!敵を殺す覚悟を決めた目だ!これはいかん!止めねば!
「お前達。勝手な事をするな!誰が子供を囲めと言った!」
「しかしこのガキが……」
「黙れ!それも子供を殴りつけるとは何事か!それでも騎士か!貴族として騎士として何たる事をしている!恥ずかしくはないのか!そもそも誰が子供を殴れと命じた!誰が子供を囲めと言った。魔法を使える子供だぞ!普通に考えれば高度な教育を受けている貴族だと思わないのか!子爵家よりも上位の貴族と考えなかったのか!」
部下達を怒っていると子供が出口に向かっている。ちょっと待て!勝手に帰るな!
子供を連れて来た者が引き留めようとする。
「こら!勝手に帰るな!」
「傷が痛くて休むと言ってくれ。用があるならお前が一人で来いと言ってやれ」
……見事なほどに信頼を得る事が出来なかった。
部下にするのは時間がかかりそうだな。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




