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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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8 暗闇の森の中で

爺さんは暗闇の森の中でオレを抱っこしながら走る。

後ろからは敵は追ってこないようだ。

どのくらい走ったかは分からないが爺さんが息を切らしながら走っておりその表情は苦しそうだ。


「爺さん!オレを下ろせ!走るから!」

「もう少ししたら休憩できる所がある!それにお前は暗闇の森を走る事は出来んだろう!」


まだお姫様抱っこからは逃れられない様だ。人が見ていないとはいえ少し恥ずかしい……。

そして少ししたら水辺に着いた。そこで爺さんはオレを下ろして倒れこむ。


「爺さん!大丈夫か?」


爺さんの背中に光る物が見える。よく見ると爺さんの背中にナイフのような物が刺さっていた。刃物が刺さった状態でオレを抱えて走っていたのか!


「爺さん!刺されていたのか!大丈夫か!」

「投げ飛ばしたときに刺されたようだ。奴もなかなかやりおるわい……」

「そんな事よりも怪我の治療を!」


内臓に傷がついていなければ助かる可能性がある。改めて見ると血が流れる量が多い。これは回復魔法で治す方法しかない……。


「内臓をやられている……。回復魔法で治療しないと無理だ……」


……どうしてオレは魔封じの腕輪を付けている!これが無ければ魔法を使って回復できるのに!


「坊主……、この水辺の上流に行け。そこに小屋が有るはずだ……」

「分かった。爺さんオレの背に乗れ!一緒に行くぞ!」

「ワシは助からん……。お前だけで行くんだ……」


爺さんの言葉を無視して背負う。ナイフを取ったら血が吹き出るだろうからそのままにして傷口を触らないように背負った。


「爺さん、道案内をしてくれ。ここからどのくらいの距離だ?」

「……困った坊主だ。夜だから歩く速度は遅くなるが夜明けまでには着くだろう」


かなり歩く距離だな。子供の歩くスピードで考えるとそれ以上かかりそうだ……。

オレは川の上流へ歩き続けた。途中で休憩をして爺さんに飲み水を与えたりしながら歩き続けた。


「今から行く場所は、昔御使い様が住んでいた場所の一つだ。運が良ければ保存食があるだろう。鎖を切る道具も有れば良いのだが……」

「こんな辺鄙な場所に住んでいたのか?御使いは?」

「偶に人里離れた場所に数ヶ月住んでは旅をしていた。どうして森の中で生活するのか聞いてみたのだが「静かな場所で生活したいだけ」としか仰らなかった」

「世捨て人なのかな?」

「そんな生活をしていたな。しかし森での暮らしは楽しかった。偶に町にも食料を買いに行ったり、森の恵みを御使い様と一緒に頂いたり、御使い様も子供と遊んだりしてな……」

「その子供が次の御使い様で後宮に行ったんだったな」

「綺麗で優しい方でな、御使いになり帝都に行ったときに貴族のごたごたに巻き込まれて皇族の目に留まったのじゃ」


……運が悪い御使い様だ。偉い人、皇族の目に留まるなんて碌な事はないだろう。綺麗だから体目当てだったのだろう……。


「御使い様も皇族の姫を気に入り親友となったそうだ。二人は姉妹の様に仲良くなったと聞いている」


……御使い様よ、オレの穢れた心を救ってください。ごめんなさい、男性と勘違いしてました。


「帝都に住んでいたときに御使い様から手紙を貰って読んでみたら「姫様と街に遊びにいくから案内よろしく!」なんて書いてあったときは途方にくれたものだ」

「なかなか行動的な人だな。楽しかったか?」

「……楽しかったな。あの頃に戻りたい……」


爺さんの話を聞きながら歩き進める。まだ爺さんは大丈夫だ!話す体力がある!空が少し明るくなってきた!もう少しだ!

歩きながら爺さんと話をするが少しずつ喋り声に力が無くなってきた。


「爺さん!まだ着かないのか?」

「……もうすくだ……あの大きい樹があるだろう……あのふもとにある……」

「あの樹だな!意識をしっかり持てよ!もうすぐ着くからな!」


急げ!きつくても速度を上げて歩こうとするがオレの方が疲れて倒れそうだ。急いだら爺さんの傷にも負担がかかる。


「……御使い様……久しぶりです……」


ヤバい!意識が朦朧となって幻覚を見始めた!ここにはオレしかいないぞ!


「爺さん!もう少しで着くぞ!意識を保て!」

「おお!お初にお目にかかります!私の事を御存じで?嬉しいです」


マジでヤバい!急がないと!

樹を目指して歩いていると、いきなり後ろから衝撃が走った。地面に倒れて後ろを振り向くとオオカミ?魔獣?がうなり声をあげてオレを見下ろしている。

こんな時に魔獣かよ!魔法が使えない状態で武器もない、手足は鎖で縛られている状態だぞ!何考えている!爺さんの血の匂いを嗅ぎつけたのか?

立ち上がってオオカミみたいな魔獣を見る。こっちを見ながらうろうろしている。この状態で勝てるのか?森でのサバイバルでも武器を持って二人がかりで倒したんだぞ!

武器になりそうなモノ……手錠の鎖と爺さんに刺さっているナイフだけだ!爺さんに心の中で謝りながら刺さっているナイフを抜き取って構える。


魔獣が口を開けて襲ってきたので転がりながら躱す。そして体勢を立て直して魔獣を見ると再度オレに噛み殺そうと襲ってきた。

ナイフで横なぎに切りつけるけど、すんでの所で躱される。こっちが武器を持っているのに気づいて魔獣は少し距離を置いて周辺をうろつきはじめた。

早く魔獣をどうにかしないと爺さんが出血多量で死ぬ。爺さんは大丈夫か?

爺さんが倒れているが体が少し動いている。大丈夫!

目を放したときに魔獣がオレに襲ってきた。正面から衝撃が走って後ろに吹っ飛び爺さんの近くの木に当たってしまった。そのとき頭を酷く打ち付けて視界が暗くなる。

視界が悪い状態でも魔獣がオレに向かってきたからナイフを振り回していたが、ナイフを持っていた腕に噛み付かれて痛みでナイフを落としてしまった。そして噛まれたまま振り回されて吹っ飛び、再度木に当たって意識を失いかける。

魔獣がこちらにゆっくりと向かってくる。意識を失いかけながら見たのは、口を開けてオレを食べようとした魔獣と、その魔獣の首を爺さんが鎖で絞める姿……。




周りが暗い。オレは立っているのか?座っているのか?寝ているのか?それすらも分からないくらい感覚がない。

魔獣に食われて感覚がマヒしたのだろうか?体も動かない。目は開いているのだろうか?それすらもわからない。

なんだかフワフワしている。意識ははっきりしているのだろうか?オレの名前は?今まで何をしていた?

……分かる。オレの名前はトルクでさっきまで爺さんを背負っていたが魔獣に襲われて死ぬ寸前だったんだ……。

ではもう死んだのかな?これが死の世界なのか?

一回目は記憶がなかったからわからなかったが、これが死後の世界なんだな……。

この世界で前世の記憶を思い出して数年、若くして死んだな。

この世界は生き残る事が難しい世界だ。戦争で人が死に、魔獣に襲われて死に、悪意ある者達から襲われて死ぬ。

この世界は地獄ではないだろうか?周りに死が充満している地獄。

どうしてこんな世界に生まれて来たのだろうか?実の父親に捨てられ、妹と離れ、母親と二人で生きたが、周りから無視される。

知り合いも出来たがその人達からも離れて、誰も知らない所で魔獣に襲われて死ぬ。

……ひどい人生だった。前世や今世は徳を積んでいたと思っていたのだが無残にも若くして死んだのか……。

徳が足りなかったのかな?それとも前世の更に前世が悪かったのかな?それともこっちの世界では徳なんて関係なかったのかな?

ではどこが間違っていたのだろうか?

戦争に参加する為に砦に行ったから?

それともアンジェ様に回復魔法を使ったから?

男爵家の使用人になったから?

精霊から回復魔法を教わったから?

父親に捨てられたから?

……本当にどこが間違ったのか。

父親に捨てられなかったら……今頃は家族で仲良く暮らしていただろう。学校にも行ってエイルド様やポアラ様と仲良くできたかもしれない。

精霊が見えなかったら……マリーの父親の叔父さんは魔獣に襲われたときに死んでいただろう。でも結局、帝国の手先になった盗賊に殺されてしまったから死期が延びただけだ。

男爵家の使用人になっていなかったら……帝国の手先の盗賊に殺されたか、難民となっていただろう。

アンジェ様に回復魔法を使わなかったら……オレが嫌な気分になる!使って当然だ!

戦争に参加せず砦に行かなかったら……最悪砦は落とされて周りの領地が帝国領になっていただろう。でも結局は砦は帝国のモノになった。やはり戦争に参加するのが間違いだったか……。

戦争を甘く見ていたな。なによりもこの世界を甘く見ていた。

前世の世界はなんて安全だったのだろうか。

不当に逮捕されない。

盗賊の心配をしないくらいに治安が良い。

手持ちの金で食べ物が買えた。

なにより子供に優しい環境だった。

今と比べたら前世はなんて素晴らしい環境だったのだろうか……。

あの頃に戻りたいな……。

あれ?段々と周りが明るくなってきた。

それに暖かい……心地よい気分だ……。

……これが終わりの感覚なんだな。なんて気持ちいいんだ。まるで春の陽気の中で寝ている気分だ。

無意識に目が開いた。目の前には美しい男性がオレを見ている。

天使は女性と思っていたが男性だったか……待てよ男性の死神かな?


「誰が死神だ!」


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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