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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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3 帝国の貴族①

数日過ぎ、オレは魔封じの腕輪を壊す為に魔法を使っている。

腕輪を数秒間、熱して水で冷やす。

熱した腕輪が腕を伝って熱くなり火傷しそうだったから腕と腕輪の間に布を巻いて熱さを和らげている。

腕輪はヒビ一つ付いていない。鉄より硬いと金属だからそう簡単には壊れないのだろう。他の方法を考えないといけないのだろうか?

根気よく腕輪を壊す努力をしているがこれで良いのか?続けていたら魔封じの腕輪は壊れるのか?


「どうした?」


腕輪を壊す方法を考えていると偽善と馬鹿力が近づいてきて話しかけてくる。何か用なのか?


「何考えている?腕輪はどうだ?」

「腕輪は傷一つ無い。本当に脆くなっているのか心配になってきた」

「……どれどれ……ふんぬ!」


いきなりオレの腕ごと腕輪を持って引っ張る。


「ゼイゼイ、もう少しだな。もう少しで破壊できそうだ!」

「本当か!」


……そんな訳ないだろう。そんな簡単に腕輪が壊れるか。熱膨張で腕輪を壊すのは無理だろう。衝撃を与えても変わらない。

再度、腕輪を熱して水で冷やしてもなにも変わらない。

やっぱりこの方法は駄目か。腕輪が十分熱くなる前にオレの腕が火傷しているからな。

他の方法を考えよう。


「会わせたい人達がいる。ついて来てくれ」

「……わかった」


オレは二人の後について行った。向かった先はある部屋の一角。正面に髭を生やした男が座っておりその周りには屈強な男達が立っている。どう見てもまともな人間じゃないな。囚人服を着たマフィア等のボスとその取り巻きだろう。


「その子供が魔法を使える子供か」

「はい」

「おい小僧、お前の名前は?」


取り巻きの一人がオレの名前を聞いてくる。はて?ここではあだ名を使うんじゃなかったのか?


「ここじゃガキと言われている」

「あだ名じゃない!お前の名前だ」

「言う必要はあるのか?」

「何だとこのガキが!無礼な!」

「黙れ!オレが話す」


偉い奴に一喝されて黙る取り巻き。何の用だよ。こっちは腕輪を壊すのに時間と魔力を使っているんだ。


「お前は何処から来た?」

「……バルム砦から来た」

「ほう、あの砦を奪う為に戦争に参加した魔法使いだったか。あの砦は難攻不落だから苦労しただろう。オレも若い頃にバルム砦に行った事がある。何度も上から矢を貰って傷だらけになったものだ」


……オレを帝国兵と勘違いしているな。別にいいけど。世間話から初めて相手の緊張を解くような事をしている。こんな所に居るがどこかの偉いボスに違いない。


「魔法使いと言うと何処の部隊だ?第二か?第三か?」


知らない帝国の軍事情を無視する。他にもいろんな事を聞いてきたが何も答えず黙っていた。そして最後の用件を口にした。


「腕輪を外してここを出たらオレの部下になれ。魔法が使えるとはいえ子供が此処で生きていくのは難しいだろう。オレの配下になれば優遇してやるぞ」

「断る」


そう言ってオレは背を向けて帰る。確かに此処で生き残るのは難しいがマフィアや犯罪者の取り巻きになるのは御免だ。


「貴様!子供の分際で貴族に逆らう気か!」


……貴族だったの?てっきり犯罪者と思っていたぞ!まあ貴族も犯罪者も関係ない。話は終わりだ、帰ろう。


「待て!」


取り巻きから肩を掴まれる。掴まれた腕をはねのけると、今度は殴られて倒れる。……痛てーな。何様だ。……貴族様だったな。襟を掴まれて立たされる。


「スレイン様がわざわざ貴様の為に時間を作っているのだぞ。頭を下げて拝領するのが当たり前だろう!」

「頼んでない」


足の甲を踏みつけて痛がって頭を下げる所に膝蹴りをお見舞いした。誰が帝国の貴族の命令なんて聞くか!この状況に陥っているのは帝国貴族のローランドのせいだ!誰が聞くか!


「貴様、逆らったな!」

「タダで済むと思うなよ」


取り巻きがオレを囲む。オレだけ囲んでどうする。こっちにはあと二人いるんだぞ。

その二人の馬鹿力と偽善は横の方でオロオロしている。オレと貴族達を見て何も出来ない様だ。あいつらはこいつらの手下だったのか?オレを連れて来たのは命令されたから?

魔法が使えたら楽なのに素手でこいつらと一人で戦わないといけないのか。多勢に無勢だな。逃げる手が一番だ。幸い囲みは不十分だ。持ち前?のスピードで相手の足元から逃げよう!

逃げようと思って行動しようと思ったが。


「お前達。勝手な事をするな!誰が子供を囲めと言った!」

「しかしこのガキが……」

「黙れ!それも子供を殴りつけるとは何事か!それでも騎士か!」


……勝手に説教していろ。囲いを潜り抜けて部屋を出る。

殴られたところが痛い。腕輪を壊して早く回復魔法で体を癒したいよ。目を治療出来れば良いんだけど。


「こら!勝手に帰るな!」

「スレイン様が呼んでいるぞ」

「殴られた所が痛くて休むと言ってくれ。用があるならお前が一人で来いと言ってやれ」


誰が帝国貴族なんかの命令を聞くか。無駄な時間を使ったよ。部屋に戻り、今はもう何もしたくないから横になる。

アイツらのせいでローランドやオレをここまで連れて来た奴の事を思い出す。

帝国貴族第一のローランドのせいでオレが此処で不自由な生活を味わっている。そしてアイツのせいでオレは地獄を見た。殴られ、蹴られ、切りつけられた。魔封じの腕輪で魔法が使えず、鎖で身動きが制限されて何も出来なかった。謝っても泣いても叫んでも笑いながら殴られ続けた。

飯や水も与えられず、地面に投げ捨てられた飯を犬の様に食べた。

逃げようにも鎖につながれ馬に引きずられながら何日も歩いた。

気の向くままオレを殴り、気の向くままオレで遊んだ。

町についても立ったまま柱に縛られ寝る事も出来ず、意識を失い気絶した。

アイツだけは許さない。奴の名前はダニエルと言った。ローランドとダニエルだけは殺す!絶対に!

くそ!早く腕輪を壊してここから出ないといけないのに……。どうすれば腕輪を壊せるんだ。

火魔法ではなくて他の魔法を使うしかないか……。

待てよ、両足を使ったらどうだ?利き足で魔法を使っていたが、両足から魔法を出せれば……。

前は両手から魔法を出せたんだ。両足からも出せるはずだ。

……集中集中。

これは慣れるまで時間がかかる。でも二ヶ所同時で魔法を使ったら鎖が切れるかもしれない。


「おい!何を考えている!」


魔法の訓練中に偽善がオレの前に来て言う。


「スレイン様にあのような事を言うなんて。お前は死にたいのか!あの人達は貴族だぞ!その人達に逆らうなんて。何を考えている!」

「何も考えていない。考えていることは腕輪を壊す方法だ」

「だからあの人達は貴族なんだぞ。貴族様達がいるからここでもなんとか生きていけるんだ!それなのにお前は!」


……偽善や馬鹿力達の立ち位置がわからん。貴族達の下にお前達が居るのか?脱獄計画はお前達が考えたんじゃないのか?


「お前達はあいつらの命令に従って暴動を起こそうとしているのか?それならそうと言えよ。参加なんてしなかったのに」

「貴族だぞ!分かっているのか!盾突いたってなにも良い事なんてない!殺されるぞ!」


……どこの貴族もやる事は同じか。力の無い者に対して暴力を振るう。王国の貴族の方が人格的に優れているぞ。レオナルド様やクレイン様達を見習えよ。

帝国貴族なんぞどうでも良い。オレは早くこの腕輪を壊して自由にならないといけないのに。


「聞いているのか!」

「……聞いているよ。オレが悪かったよ。今度からはお前達が居ない場所でケンカを売ってやるから大丈夫だ」

「だからケンカ売るな!あの人達が薬を恵んでくれたからお前の怪我が治ったんだぞ!」

「……そうか。恩人だったのか。それを先に言えよ。恩ぐらいは返してやる。それ以上は干渉しない」


偽善が薬をくれたから運よく生き延びたからな。その薬を貴族から頂戴したのなら、偽善は貴族達に頭を下げ続けてお願いし、同情を引いて薬を貰ったのだろう。どうせ貴族達は「平民などに薬は勿体ない!」とか「死にそうなガキに薬など無駄だ!」とか言ったのだろう。

だが、その薬で助かったのなら恩を返さないといけないか。大嫌いな帝国貴族にも。


「それで何の用だ?偽善。今度は話くらい聞いてやるぞ。薬をくれた恩人だからな」

「……お前を呼んでいる」

「殴られた箇所が痛くて寝込んでいると言ってくれ」

「だからどうしてお前は貴族に対してそんな態度を取っているんだ!お前も貴族なのか?それとも皇族か?」


そんな事どうでも良いだろう。ゴロンと横になった。今度は横になりながら瞑想をしてみよう。……寝てないよ。


「全くだ、ここまで貴族をコケに出来るとは……。お前は何者だ?」


本当に来たのか?確かスレインって呼ばれた貴族か。何の用だ!オレは忙しいんだぞ!


「寝ながら言う言葉じゃないな。それでお前の名前は?」

「……トルク」

「どこの貴族だ?」


……王国出身と言っても良いのかな。止めておこう、嫌な予感がする。


「どこでも良いだろう。こんな所にいるんだ。貴族なんて身分はどうでも良いだろう。それで何の用だ?」

「……お前の出身は王国だろう。バルム砦の事を聞いたとき少し違和感があった。矢に当たる者達は徴兵された平民だけで、貴族達は後ろの方で指揮をする。オレが矢に当たったという言葉に疑問を感じなかっただろう。帝国出身でバルム砦に行った者なら疑問に思うはずだ」

「……奇特な貴族が前線に行き矢に当たったという考えはどうだ?」

「そのような貴族もいるかもしれないが矢に当たる距離までは近づかない。バルム砦の矢合戦は嫌がらせの様なモノだ。そんなモノの為に怪我をする馬鹿な貴族や騎士はいない」


それだけでオレを王国出身と考えたのか?


「他にも帝国軍らしからぬ事を質問したのだぞ。王国出身の者にはわからないだろうが帝国兵なら平民でも知っている事だ。それで王国出身の子供がどうして辺境の労働施設にいる?亡命でもして失敗したか?」

「……バルム砦が落ちて帝国貴族の恨みを買ってこの場所に来た」


正直に言った。どうせそのうち知る事だ。今のオレにはバルム砦の事などどうでも良い。


「あの砦が落ちたのか?どうやって!難攻不落の砦だぞ」

「王国のアイローン砦が落ちて王族や貴族が捕虜になり、その捕虜とアイローン砦を解放する条件が、バルム砦を所属する貴族や騎士達ごと交換することだった。それでバルム砦は帝国の物になった。オレはバルム砦で捕虜になりこの場所に来た」

「……本当に落ちたのか。信じられん。奴の言う通り……」


どういう意味だ?誰かがバルム砦が落ちる事を予言でもしていたのか?


「……オレに暴動を起こす計画を立ててくれた奴が言ったのだ。「バルム砦は近い内に帝国のモノになる。そして帝国が王国を占領する日も遠くないだろう」と。それを聞いたときは半分冗談と思っていたが……」


バルム砦が落ちる事を考え、そしてこの暴動の計画を立てた人物か……。帝国には頭のキレる人物がいるようだな。それはどうでも良いが……。

待てよ、そんな人物がどうして鎖を切らないと暴動出来ない様な計画を立てた?普通はその事も考慮して計画を立てるはずだ。

中途半端な作戦だよな?どうして?


「少し質問がある。この計画を立てた人物だが、鎖を切らないと暴動を起こせないと言ったのか?」

「いや、鎖を切った方が生存率が上がるとは言ったが、必ず切れとは言っていない」

「どうして鎖を切るように指示した?」

「勿論、生存率を上げる為だ。それ以外に何がある?」


「切らなくても暴動は起こせるのだろう?どうして起こさなかった?」


一番の疑問だな。どうして暴動を起こさなかったのだろう?


「時期の問題だな。奴が言うには食料や物資等の問題。看守達が交代する時期が良いと言っている。それにこれから寒くなる。温かくなったときに暴動を起こした方が良いらしい」

「暴動を起こす日はいつだ?」

「三、四ヶ月後だ。その時期に看守が入れ替わり、物資が来る。その時期を狙って看守を無力化する。近くに村や町はないから援軍も来る確率は少ない。そしてオレ達は鎖のカギを手に入れる」


けっこう先の話だな。それまでに腕輪を壊すか。もしくは鎖を切る方法を考えないといけないな。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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