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精霊の友として  作者: 北杜
五章 伯爵家騎士編
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閑話 バルム砦責任者の愚痴③

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


大規模戦争から五日目の昼に変化が起きた。

敵が戦闘を止めて撤退していく。何かの作戦かと思い注意深く帝国領を見る。

そのとき数十人の者達が砦に近づいてくる。半数は手を縛られているようだ。

戦争中に捕虜交換か?非公式のはずだぞ!何を考えている?

兵に弓矢を持たせてすぐに打てる準備だけはさせておく。


「何だ?敵は何を考えているのか?」


近くでムレオンが呟いている。独り言なのか、ワシに言っているのか分からなかった。

敵が近づくにつれて顔が見えて来た。

兄上ではないか!どうして兄上が帝国の領土から!

他にも見た事が有る貴族がいる。アイローン砦で戦っているはずだ!どうしてこの地に居るのだ!


「アイローン砦は帝国の手に落ちた。第二王子や貴族や騎士などは捕虜となっている。捕虜たちを返してほしければバルム砦と交換だ」


……アイローン砦が落ちただと!バルム砦よりも兵の数が多い砦が落ちたのか?何故だ!どうして?


「お前達!私は王族だ!私の命令に従え!この砦は私達と交換だ!」


砦の外でなにやら叫んでいる。王族と言っているが第二王子なのか?他の貴族達も何か言っている。

城壁にいる者達が騒いでいる。本当なのか嘘なのかワシの方を見る。

ワシも嘘と信じたい。だがあそこにいる捕虜は間違いなく兄上だ。兄上は喋れないように口を塞がれている。

どうすれば良いか迷っていると王都から使者が来た。

見知った相手だ。ワシが王宮にいた時の知り合いで王命により使者として来たと言っている。


「アイローン砦が落ち、第二王子や貴族達が捕虜になった。アイローン砦と王族・貴族・兵達は、バルム砦とそこにいる貴族・騎士・兵と交換する事で解放される」

「それは代わりにバルム砦が帝国に奪われ、ワシらが捕虜となるという事か!」

「アイローン砦の方が貴族も騎士も多い。少ない人員と辺境の砦で王族が助かるなら安いモノだ」

「何を言っている!この砦は帝国との戦いに必要な砦だぞ!それを簡単に交換とは!それにワシらが捕虜となるのか!今まで戦ってきた者達にどういうつもりだ!」

「王命だ!第二王子とその貴族達の為にお前達は捕虜とならなくてはならん。安心しろ、早めに身代金の用意をする」

「どうして!勝っているワシらが!負けた者の為に犠牲にならなくてはならん!こんな理不尽な事が有ってたまるか!」

「ならどうする?王都側にも軍隊を連れてきている。お前達を無力化して帝国と交渉する事も出来るぞ?」


無駄なのか……。ワシらが戦ってきた事は無駄だったのか。力が抜けていく。


「安心しろ、お前も交渉のテーブルについて良い。交渉はお前自身でしろ」


なんと悲しい事か……。負けてもいないのにこの砦を取られるとは……。


「だが!お前達がアイローン砦の者達の代わりに捕虜になる事は絶対だ!せいぜい人数を少なくするのだな。何をしている?負けを認めて降伏しろ!城門を開け!」


ムレオンに兵の武装解除を命じてワシは城門に降りる。

……城門に降りて門を開けるよう命令をする。ワシらは負けた。敵に負けたのではなく、無能な味方のせいで負けたのだ。

砦に帝国兵が入り武装を解除した兵達が一ヶ所に集められた。

ワシとムレオンは会議室に入り帝国と降伏の条件を話し合った。

内容は、町の者達と怪我人は捕虜にはならない。怪我をしていない貴族・騎士・兵・従者が捕虜になる事。

町の者と怪我人はワシらが捕虜として帝国に向かった後にアイローン砦の捕虜と一緒に解放する事。

そして王都側の軍隊も即座に撤退する事。

バルム砦の物資・食料は帝国の物になる。町人の財産はどうとでも良い。

バルム砦の捕虜と身代金の交換はバルム砦で行う事。

そして兄、サムデイル兄上と話をする事を希望した。

少ししたら兄が会議室に来る。口を塞がれたままだったがそれは解かれた。


「兄上……」

「アーノルドよ。すまぬ」


別室で兄と一緒に話した。どうしてこんな事になったのかを聞く為に。


「どうしてこの様な事に。アイローン砦で何があったのですか!」

「分からぬ。砦と砦の間で戦争をしていたのだが、アイローン砦がいつの間にか帝国に落とされてワシらは敵に囲まれて何も出来なかった。あっという間に第二王子や貴族達が捕虜となり、交渉の末、王族や貴族の解放条件がバルム砦とアイローン砦の交換で話が決まった。ワシは異議を唱えたのだが王命により何も出来ぬまま帝国領からこの砦に……」


なんて事だ!本当にアイローン砦が落ちるなんて。そしてバルム砦が帝国に奪われるとは……。


「トルクはどうなっている?アイツだけはどうにか出来ないか?あの子にもしもの事があったらワシは恩人に顔向けできない!」


……交渉してみましょう。

再度、会議室で帝国の使者と話し合う。兄も同席させた。


「一人、子供の騎士が居る。その子だけは解放してほしい」

「……それはトルクというものか?」

「そうだ!私の部下で回復魔法の使い手だ。その者だけは解放してほしい。可能な限り条件を飲む!」

「……その者はロックマイヤー様から聞いている。帝国兵を癒した回復魔法の使い手だな。ロックマイヤー様から助命されている。「我が恩人だから助けてほしい」と。アイローン砦の捕虜達と共に解放をする」

「感謝する」

「敵国の兵に回復魔法を使うとは変わっている子供だな。その子の待遇は保証しよう」


その後、話し合いは続き、一夜明けた。これからバルム砦の者達を説得しなければならない。


「我々の砦は奪われた。アイローン砦で捕虜となった者達の代わりに我々が捕虜になる事は王命により決定されている。砦の町に住む住人には危害を与えられない。砦にいる家族達と怪我をした兵達は解放される。無傷又は軽い怪我の貴族・騎士・兵達は帝国の捕虜収容施設に囚われる事になる。

王都の使者は私達を解放する為の身代金を払うとも言っている。だから皆よ!耐えてくれ!王国の為に!友の為に!家族の為に!」


無茶な事を言っているのは分かっている。だが他に方法はないのだ。バルム領主も帝国に捕まり、他の領主達も捕まっている。

王族や王都の貴族達のせいで私達は少ない戦力で帝国と戦ってきたのに、その結果がこの状況とは……。


「アーノルド様!サムデイル様も捕虜になっているのですか?」

「捕虜になっている」


この騎士はバルム領出身の騎士だったはずだ。

領主に忠誠を誓っている騎士や兵達ならワシの苦渋の決断がわかるはずだ。

その後、捕虜になる者達が帝国領に運ばれる。ワシが最後に出る。先に出たムレオンに騎士達の事を任せた。


「この度は苦渋の決断。感謝します」


王都の使者がワシに話しかけて来た。何の用だ?捕虜に話しかける暇があるのなら早く身代金を用意しろ!


「……派閥も変わるでしょうな。戦争派が減って中立派と和平派に流れるでしょう。戦争派の派閥内でも争いが起きるでしょう」

「それがどうした!ワシには関係ないだろう」

「王都では争いが起きるでしょう。責任が誰にあるのか?アイローン伯爵が責任を取る形になるでしょう」

「だからどうした?」

「……アイローン伯爵が帝国に寝返る可能性があります。その場合は砦が両方とも帝国の物になるでしょう」

「捕虜になるワシらには関係ないな」

「しかし情報を集める事は出来るでしょう。密偵を送ります。情報の交換をお願いしたい」

「……お主は」

「王族直属の密偵の一人です。この度の件は陛下も心を痛めています。私達は最悪の事を考えて行動していましたが、予想していたよりも最悪でした」


噂には聞いた事があるが本当にいたとは……。だが信用できるのか?


「信用できないと思いますが信じてくれとし言えません。私達の部下も数人捕虜の中に入っています。その者達を使ってください」

「……わかった」


陛下がワシ達の事を見捨てていないという事だけで嬉しくなる。


「アーノルド様の事も陛下はお忘れになっておりません。貴方の事を信頼してこの砦に送ったのですから」

「……後のことは頼んだ」

「任せてください」


数日後、ワシも捕虜収容施設に着いた。陛下から頼まれた仕事をするか……。密偵達と会って今後の事を決めなければ。それに信頼できるムレオンにも話した方がよかろう。

捕虜収容施設でトルクの部下達に会う。全員悲痛な表情だ。


「アーノルド様、騎士トルクを守る事が出来ませんでした」

「大丈夫だ。トルクはアイローン砦の捕虜達と一緒に解放される。今頃は兄上と一緒に居るだろう」

「違うのです!帝国の捕虜のローランド!あいつが騎士トルクを他の場所に移動させたのです!」


……あの者がトルクを他の場所に移動した?王国を毛嫌いしている者が!トルクを解放する訳がない!

帝国兵に頼み責任者を呼んでもらう!

駄目だ!取り次いでもらえん!ロックマイヤー殿に伝言を!駄目だ!話すら聞いてもらえん!

……密偵を使うべきなのか?しかしそんな事をすればリリア殿の事が明るみに出る!

そんな事を気にしている場合ではない!

密偵に頼んでトルクの居場所を探してもらうべきだ!王族に知られるが仕方がない。


「……騎士トルクは帝国領の奥深くに連れて行かれたようです。私達にはどうする事も出来ません」


密偵の言葉に絶望する。

どうすれば良い?ワシが最後まで見ていればこんな事には!

王国にいる兄上に手紙を……。

頼む手紙を兄に送ってくれ!後生だ!一生の願いだ!

頼む!


伯爵家騎士編終了です。

誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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