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精霊の友として  作者: 北杜
一章 村人編
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閑話 祖父の後悔2

長女が孫と一緒に帰ってきてから一年が経った。

去年の畑は小麦の実りが良かったが、今年は去年より実りが良く豊作だった。

来年も豊作であってほしい。

長女は体調を崩してベッドから起き上がれない。

見舞いに行きたいとばあさんが言うが村の事を考えて行かないでくれと説得をしている。

孫のトルクはサウルを捕っては村人に配っている。

サウルは畑の野菜を食べる動物だ。トルクがサウルを捕まえているので畑の被害も減っている。

村人達がそろそろ許してやって村の一員として扱ってやろうと言っているが貴族の事を考えるとまだ出来ない相談だ。

先日、領地を治めるあの貴族の文官が来て年貢の確認をしていた時に長女の話が出た。

「娘が帰ってきたのだろう、あいつには此処にしか戻る所がないからな」

長女がこの村にいる事はバレている。


「おぬしの娘はどうしておるか?」

「はい、娘は体を壊して寝込んでいます」

「そのようだな、やはり男爵様の言う通りか。あの女は村の為にはならない。村の役に立たない奴には手出しはするな。時間と労力の無駄だ」

「はい、何もしてはいません」


まだ、貴族は長女の事を気にしている様だ。


「まったく、村に帰っても住む場所が無いとはな」


貴族はワシ等平民で遊んでいるのか。悔しいが何も出来ない。

しかし、長女が此処にしか戻る場所がないと、貴族は言った。どういう意味だ?ワシにはわからない。

貴族は長女の事を聞くが孫のトルクの事は聞いていない。貴族にとってトルクはどうでもいい存在なのだろうか?

孫のトルクがワシの所に来てサウルを持ってきたときも無下に扱った。酷い祖父と認識してくれれば良い。ワシの事など考えなくていいから。

だが偶にサウルの料理が並ぶ。


「……このサウルはどうしたんじゃ」

「知り合いからもらったの」

「そうか……」


トルクがばあさんに渡したサウルだという事か。

冷徹な貴族の父親の血を引いていない、やさしいワシの娘の血を引いていると思うと目頭が熱くなる。




次男が魔物に襲われた。体中に怪我があり、血が流れている。

次男の前でマリーが泣いている所を見ると何も出来ない自分が情けなくなる。

そんな時にトルクが来た。

トルクが来ても何も出来ないし、次男の姿を見せたくない。

ワシがトルクを殴るとほかの村人がトルクを放り投げた。

放り投げた村人は悲しい顔をしていたがワシの思いに応えたようだ。

その後、またトルクが来たので殴り、放り投げる。

そのとき、次男の体から光が出て眩しくなる。

眩しさが無くなるとき次男の体から傷が無く血も止まっている。

混乱をしていると次男が目を覚ました。体調を聞くが何事も無かったように起きて体を動かしてる。


「奇跡だ」

「治ってるぞ」

「さっきの光か」

「お父さーん」


村人たちが騒ぐがまさかトルクが回復魔法を使って治したのか?

どうやって?

だがトルクは次男の所には来てないぞ?どうやって治ったんだ?

回復魔法の使い手はこの国に百人位しか居ないらしい。

トルクが回復魔法の使い手ならまた貴族が何かをしてくるだろう。

今回の事は村人には口止めをした。次男は怪我をしていない。魔獣に襲われていない。これを徹底させた。

その後、変な噂が流れたと他の村人から聞いた。なんでも辺境に魔法を使う子供がいるって噂が流れているらしい。

この村で魔法が使える子供はトルクとマリーだけだ。良からぬ事にならなければいいが。




季節が廻り春になった。

長女の体調が良くなっていると次男から聞いた。

トルクが回復魔法を長女に使っているのか?疑問に思うが周りには言わないでおこう。

回復魔法の使い手は少ないと聞いている。

この村に回復魔法の使い手がいると知った貴族は変な事を必ずしでかすから知らない振りをするのが賢明だろう。

今年も豊作になるように祈りながら小麦の種を撒く。

思えば長女と孫が帰ってきたら作物が上手い具合に実っている。

麦は豊作だし、村人たちも病気や怪我で死んだりしていない、次男が怪我をしたが治ったし、今この村は幸運に恵まれているようだ。

長女の体調も治ったようだしな。これを機に長女には村から出て行くことを勧めてみるか。この村ではなくて次女がいる所が良いだろう。

孫が村人達にサウルを渡して毛皮が売れて食事の時も肉が食べられ食卓も明るい。

長女や孫を許してあげようと村人達がワシを説得するが、あの貴族の事を考えたら少し早い気がする。

もう少しだけ待ってもらおう。

それに長女にはこの村を出て行ってもらうつもりだ。貴族には病で亡くなったと言えば大丈夫だろう。孫のトルクの事は知らないと言っておけば良いだろう。あの貴族はトルクの事をワシに聞いていないから大丈夫だと思う。

長女を次女の元に行かせる為にはどうすれば良いだろうか?次男に言ってもらうか。いやワシが言わないと駄目だな。嫌われる事はワシが全部する。長女が幸せになるならワシは何でもする。




今日、いきなり貴族様が来られた、初めて見る貴族様だ。前に来た貴族とは違うがどのような用件だ?


「私はバルム領ウィール男爵様に仕えるレオナルドだ。おまえがこの村の村長か?」


隣の領地、ウィール男爵領の文官様か。噂には聞いている、領民の事を考えている優しい領主様とか。


「はい、私がこの村の村長です、なにか御用でしょうか?」

「今後、私がこの村の管理を任された。あとはこの村に魔法を使う子供がいると噂で聞いたのでな、その子を引き取りたい」


マリーの事か、確かにマリーは魔法を使うがマリーは今年で六歳だ、それに次男の嫁の忘れ形見だ。どうにかして諦めさせないと……。


「どうした、魔法を使う子供はいないのか?」


魔法を使う子供は二人いる、マリーとトルクだ。

……トルク、すまない、許してくれ。


「魔法を使う男の子供がいます。今呼んできますのでしばらくお待ちください」


ばあさんが泣きそうな顔になるがマリーの為だ。

先に次男の家に行きマリーを家から出さないようにしないと。次男の家に行き貴族様が魔法を使える子供を他の町に連れていくからマリーを家から出すなと伝える。

しかし、マリーは長女の家に行っているそうだ。


「マリーの代わりにトルクを貴族様に渡すのか」

「マリーはまだ子供だ、トルクを貴族様に渡す」

「トルクもまだ子供だ!父さんの孫だろう。また姉さんを不幸にするのか」

「ワシだって辛い、リリアを貴族に渡さなければ村を滅ぼすと言われ、娘が村に帰ってきても何もするなと言われ、今度はお前とマリーが不幸になる。ワシだって辛い、あの貴族とて命令を聞かないとこの村が滅ぶかもしれない。平民には何も出来ない。ワシがトルクを説得するからお前はマリーを守ってくれ。マリーが帰ってきたら、マリーを家に隠してお前は貴族様の所に行くんだ」


泣きそうな顔で次男を説得して長女の家に向かう。マリーとトルクがこっちに向かって歩いている。


「マリー、トルクと話をするからお前は一人で帰りなさい」

「分かりました、おじいちゃん。トルクお兄ちゃんまたねー」

「ばいばい、マリー」


そういえばトルクと二人きりになるのは初めてか、それ以前に面を向かって話すのも初めてか。


「今日、ご領主様の文官様が来ているのは知っているか?」

「いえ、知りませんでした」

「文官様がこの村から下人を探しているから、お前が行ってくれないか?」


驚き、そして怒った顔をする。


「お前が下人になればお前達親子の無視を止めよう、家もワシの家の近くに住んでも良い」


怒った顔から今度は諦めた顔をした、トルクには事情が分かったのか?

この子は頭が良い、マリーの代わりだと分かったのだろう。


「分かったよ、いつこの村から出発をするんだよ」

「明日の朝だ」

「分かったよ、でも本当にオレが下人になれば母親は村の一員になれるか?」

「もちろんだ」


トルクは今まで母親の事を一番に考えていた、下人にならなければ母親が不幸になると考えたのだろう。


「叔父さんはこの事を知っているのか?」

「知っている」

「分かった、叔父さんに会いたいが良いか?」

「許可しよう」

「叔父さんは何処にいる?」

「ワシの家だ。文官様に紹介をするから一緒に来い」


村の為、次男の為、マリーの為にこの子には苦汁を飲んでもらわなければならない。

トルクと家に帰り貴族様に紹介をする。次男も来ている。


「ほう、こいつが魔法を使える子供か」

「はい、そうです。名前はトルクといいます」

「トルクか、明日の朝にこの村を出る。準備をしておけ」


貴族様が家をでるのでワシも貴族様について行く。


「申し訳ございません、一つよろしいでしょうか」

「なんだ」

「前任の貴族様はどうなりましたか?」

「今後はこの村の管理は私が担当する。前任の奴は罪を犯したのでこの村にはもう来ない」


長女をさらった貴族はこの村には来ない。それを聞いても何も思わない。長女を助ける事が出来るが代わりに孫がいなくなる。


「安心をしろ、お前の娘はもう大丈夫だ。孫にも酷いことはしない」

「ご存じなのですか」

「うむ、私なりに調べている。この村は私の管理になる。もう酷い事はしない」


長女をさらわれ、脅され、無理難題を言った貴族はもう来ない。そればかりか孫の事も良くしてくださるという。


「よろしくお願いします、ワシの初孫なのです」

「わかった」




次の日の朝。


「叔父さん、後の事はお願いします」

「トルク、すまない」

「村長、母さんの事をお願いします」

「わかった」


トルクが村を出ていく。見送りはワシと次男だけの寂しい別れになった。

貴族様とトルクが村から離れて行く。またこれからの事を村人に話さなければならない。

次男にも手伝ってもらおう。

今後の事を相談するため次男と一緒に帰る途中にリリアとマリーが向かってくる。


「お父さん、トルクお兄ちゃんはどこ?」

「朝起きたらトルクがいなくて、置手紙があったの」


手紙を見ると。


リリア母さんへ

僕が下人になる条件として母さんは村の一員となります。

後の事は叔父さんに任せます。

手紙を書くから心配しないで下さい。

母さんの息子 トルクより


トルクよ、親と相談をしなかったのか?大事なことをこんな置手紙で終わらすのか?

次男の方を見ると二人から責められる。

次の矛先はワシの方だな。

最後の最後でとんでもない事をした初孫の顔を思い出して頭を悩ませた。



誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通にクソ野郎ですね。 すぐには無理でも山奥にでも匿ってそれとなく支援すればいいのに。 まあ、話の都合上というのは分かるんですが、死にそうな娘をただ放置してる毒親の内情を吐露されてもなあ…と…
[良い点] この世界の貴族の恐ろしさとか、トルクが他の人からどう見えるのかが良く伝わってきました。 村長が中間管理職のように苦労してて同情します。村長頑張れ〜
[一言] 後悔するくらいならハナからするな
2021/07/23 12:16 退会済み
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