閑話 子爵家次女アルーネの砦生活⑥
数ヶ月経ち、私はもうすぐ謹慎が解けます。
砦の従者としての仕事が終わり、私は王都の学校に戻る日が近づいてきます。
この砦で学んだ事はためになりました。……最初の方は絶望しましたが、騎士トルクの従者になり砦での生活がもっと続いてくれたらどんなに嬉しいでしょう。
魔法の素質を騎士トルクから開花させてもらい、魔法を使えるようになりました。
訓練ではいろんな技を学び、他の兵達と互角に戦えるようになって王都の学校では出来ない事を学びました。
……目潰しとか、砂かけとか、毒霧とか、関節技とかえげつない技を教えてもらいましたが使うかどうか疑問です。騎士トルクに言わせるには「やられた時に対処が出来る」と言われ対処法を覚えました。
出来れば使われない事を願います。
私の後任の従者ですが騎士トルクが子供だから誰もやりたくないそうです。
私が引き続き従者をする事を希望しましたが却下されました。やはり学校で勉強をしないと駄目みたいです。
きっと従者のリーダー格のモリスが何か言ったのでしょう。アイツは粘着質の気持ち悪い男です。
私と決闘して負けて他の兵達に訓練を受けた事を根に持つ前から私に嫌がらせをしている心の狭い男です。
しかし私は騎士トルクの従者なので騎士や兵達には好かれています。理由は騎士トルクがみんなの怪我を治してくれたからです。貴重な回復魔法を使ってみんなの傷を癒した騎士トルクは命の恩人です。その従者にイジメを行っている事を知った人達は従者達を叱りつけました。
今ではモリスとその取り巻きが周りにバレないように嫌がらせをするくらいです。
男娼の分際で情けないイジメなんてするから周りの者達から逃げられるのですよ!
……そうでした!モリスは男娼でした!今まですっかり忘れていました!
最初に従者になった騎士と関係を持っていたのです!
しかし私にその騎士が手を出そうとしてきたのを撃退して砦を去り、関係を持っていたモリス達からイジメを受けたのです。
そうです!男娼になんかに騎士トルクの従者は駄目です!汚されます!
「ではその従者をアルーネの後任にするか。トルクよ、再教育しろ!」
……結局、モリス ルウ ヴォルグが従者に決まりましたが、モリスが男娼だという事をみんなに言った方が良いのでしょうか?
少し考えます……。私が耳年増のように思われないでしょうか?でも騎士トルクに言わないと餌食になるのでは……。
……きっと騎士トルクなら撃退するでしょう。婚約者もいる事ですし!
その後、騎士トルクがモリスを再教育する事になり笑っています。裏がありそうな笑顔です。
私が王都に出発するギリギリまで騎士トルクの従者をする事の許可を貰い楽しい時間を過ごしました。
本当はこの期間内にモリスと話し合いをして引き継ぎ作業をするのですがモリスが捕まらない。他の従者の者達にも聞いても知らない。
これでは引き継ぎ作業が出来ません。仕方がないので紙に書いておきました。騎士トルクの為に読んでほしいです。
王都に出発する日。
父上達と王都に出発します。
婦女子の格好をしています。最後なので綺麗な格好をして皆を驚かせました。
見送りに騎士トルクや部隊の人達が来てくれました。
「騎士トルク!今までありがとうございました!騎士トルクの従者になり成長できたことを誇りに思います!」
「アルさん、いやアルーネ様。私の方こそ今までありがとうございました。来年は王都の学校に入学する予定なので今度は私が貴方に教えてもらう立場です。再び出会うのを楽しみにしています」
騎士トルクが私を名前で初めて呼んでくれました!嬉しいです!いつもアルさんとしか言ってくれなかったのに。それに私の格好を見て少し顔が赤くなっています。とても嬉しいです!
私も王都で会えるときを楽しみにしています!そして剣の訓練や魔法の特訓の約束をしました。
それに王都の案内もしましょうか?王都の学校でも上級生だから学校の案内も出来ますよ!それから私達の派閥にも入りませんか?きっと楽しいですよ!
「騎士トルク、バルム砦を頼んだぞ。そして娘に魔法を教えてもらい感謝する」
父上が騎士トルクに最後の挨拶をします。魔法を使ったときは父上がとても喜んでくれた。本当に喜んでくれました。恥ずかしいくらいに。
「アルーネ様には魔法の素質があったからです。私が教えなくてもきっと覚えたでしょう」
「どうだろう?アルーネの婚約者にならないか?」
……なにを言っているのでしょうか?父上?
「……私には婚約者がいるのですが」
「第二夫人でも良いぞ!」
私が騎士トルクと婚約?
待ってください!騎士トルクにはれっきとした婚約者がいるのですよ!それを差し置いてなんて事を言うのですか!
ウィール男爵家に喧嘩を売っているのですか!分かりました!買いましょう!騎士トルクと一緒に父上と戦いましょう!
「お父様!騎士トルクが困っています!」
私なんかより騎士トルクには綺麗で優しい婚約者がいるのですよ!困らせるような事は駄目です!
「そうだな!今度ゆっくり話し合おう!」
笑いながら最後に父上が渾身の一撃を私達に与えました。恥ずかしくて騎士トルクの顔が見られません。
「騎士トルク、父上のお話ですか……」
「大丈夫ですよ。冗談の類いでしょう。アルーネ様が私としか話をしていなかったので、ヴィッツさんが嫉妬して変な事を言ったんですよ」
気にしていないようです。少し不機嫌になりましたが表情は変えません。
少しの間だけですが会えないです。でも気持ち良く別れたいのです。笑ってさようならしようと前から決めていたのです。
気持ちを持ち直して騎士トルクとお話したり、ケビンさん達とお話をしていたら出発の時間になりました。
「さようなら」
「さようなら騎士トルク。王都で必ず会いましょう!」
「くすっ、私にも手紙をください。それから学校に入学したらお茶会に招待しますからね。貴方の婚約者様と一緒に!」
握手をしてお別れをしました。砦には数ヶ月しか居ませんでしたが一年以上居た気分です。
「アルーネ、私は騎士トルクとの婚約だが真面目に考えている」
沈んだ気持ちで砦を離れ、父上と二人で馬車に乗っているときに急に言い出しました。
「出来れば第一夫人が良いのだが、ウィール男爵家と争いたくないからな。お前を第二夫人にしたいと考えている」
……本当に父上と戦う事になりそうですね。騎士トルクの為にも負けませんよ!
「騎士トルクは将来、バルム領主の義理の孫になる。伯爵家の継承権を持つ可能性があるのだ」
確か騎士トルクはバルム領主の孫娘と婚約しているのでしょう?義理の孫になりますよ。何を言っているのですか?
「騎士トルクの母親がサムデイル様の養女になる。だから騎士トルクは孫になるのだ」
「養女にならなくても結婚したら義理の孫になるでしょう。関係あるのですか?」
「……ウィール男爵家の長女、騎士トルクの婚約者なのだが、あまり評判が良くないのだ。魔法の才能があり子供の時から魔法を使って物を壊し、人に魔法を当てる。従者にも魔法を当てて怪我をさせて従者を希望する者がいなくなった」
……確かに良い御令嬢ではなさそうですね。魔法で物を壊したり、人に魔法を使ったりして傷つけるなんて。
「ウィール男爵家の長女、ポアラ殿というのだがこの子にも伯爵家の継承権は付いている。同年代の子供を持つ貴族や騎士達はポアラと自分の息子を婚約させようと躍起だったらしいが、魔法を当てられ怪我をさせられる者が増えて今では婚約騒動はない様だが、これから先はどうなるか分からない」
父上は何が言いたいのでしょうか?
「騎士トルクが継承権を持つのであれば将来、伯爵領主になるかもしれない。そのとき婚約者のポアラ殿ではなくて他の者だとしたら……」
「父上!なんて事を言うのですか!騎士トルクは婚約者を大切にしています。手紙を書いて仲が良いのですよ!それなのに何という事を!」
「……アルーネ、だから第二夫人だ。騎士トルクがポアラ殿と結婚しても第二夫人で問題ないし、ポアラ殿との結婚が出来なくても正妻になれば良いだけの事だ」
そんな不義理な事は出来ません!騎士トルクにも迷惑でしょう!
「お前の姉からの手紙で学校を留年したアルーネの事を悪く言う者がいるそうだ。乱暴者で暴力を振るった悪童などの噂が蔓延しているそうだ。勿論、アルーネの友人達は信じていないが王都の貴族達はそれを信じているらしい」
なんて事を、砦でのイジメと同じではないですか!信じられません!
「その結果、お前の婚約者候補は軒並み断りの返事が来た。それは問題ないがアルーネの婚約が進まないのは困る」
「問題ないって、それは問題だと思いますが……。だから騎士トルクを婚約者にしようとしたのですか?」
「お前も少なからず好意を持っている様だしな。騎士トルクなら信頼できるし、噂程度の事などで考えを変えないだろう。なんせポアラ殿の婚約者なのだから!」
……魔法を当てて従者や婚約者を無くしたポアラ様と暴力を振るって婚約者を無くした私が似ているから騎士トルクの婚約者にしたいのですか?
「その通りだ!」
「そんな事で婚約者を決めるなんて非常識です!私の事をなんだと思っているのですか!そんな考えで騎士トルクと結婚なんて!」
「だが騎士トルクに好意を抱いているだろう?」
それを言われると恥ずかしいです。確かにトルクさんは年下ですけど、優しいし、頼りがいが有るし、私より強いし、魔法が使えるし、頭も良いし、性格も温厚だし、皆に好かれているし……。
「……騎士トルクの事を考えているのか?顔が赤いぞ?」
「で、でも騎士トルクの気持ちは……。それにポアラ様の事だってあるし……」
「時間はまだある。今のうちにポアラ殿と仲良くなっておけば騎士トルクとの事を認めてもらえるかもしれん」
……私に出来るでしょうか?ポアラ様と仲良くなってトルクさんと結婚……。
「騎士トルクが来年王都の学校に来るまでにポアラ殿と仲良くなり、ウィール男爵家と仲が良くなれば大丈夫だろう。機を見て私からもそれとなくウィール男爵に言っておけば大丈夫だ!」
「私に出来るでしょうか?」
「大丈夫だ!私の娘だろう!騎士トルクとの生活を思い出せ!」
砦の生活を思い出しながら騎士トルクの事を考える。楽しい出来事で心が温かくなってきた。
その後、王都に着いて、久しぶりの家族達と再会を分かち合い学校に復学しました。
ポアラ様の事を姉から聞くと基本的に一人で図書館の本を読んでいるか、外で本を読んでいるそうです。
お茶会等にも参加せずに一人でいる事が多いと姉から聞きました。
友達が少なそうですね。では私が第一の友達になりましょう!
私がポアラ様を探していると外で座りながら本を読んでいます。
「初めまして、ポアラ様。貴方の事はトルクさんから聞いています。私はアルーネ ルウ デンキンスです。短い間でしたが騎士トルクの従者として働いていました。よろしければ私と友達になってくれませんか?」
自分でも上手く挨拶を出来たと思ったのですが……失敗したかしら?ポアラ様の眼つきが変わって怖くなりました。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




