13 従者との別れ
話し合いの結果、アルさんの後釜にモリスという生意気でムカつく馬鹿貴族の子弟が従者になる事になった。
アルさんは王都に帰るまでは従者の仕事が出来る事を喜んでいる。
オレもアルさんが王都に帰るまで優先的に魔法の訓練をつける約束をした。
夕食も済んでまったりと部屋でくつろぎ明日に備えてベッドで横になる。
明日も今日と同じような事をするのだと考えながら眠りについた。
……のにどうしてお前がいる!光の精霊其の三!
周りを見渡すと白い空間にオレと其の三がいる。これは現実ではなく夢の中の出来事なのか?
「そのとおりだ!久しぶりだな!」
「夢の中まで何の用だ!ていうか夢の中まで干渉するな!」
「久しぶりにあったのに何て言い草だ!せっかく探していたのに!」
悪かったよ。他の二人はいないな?
「他の二人は夢の中には入れないぞ!光の精霊であるオレだけが出来る魔法だ!」
……ナチュラルにオレの心を読んでないか?
「夢の中だからな。その程度楽勝だ!」
しかしよくオレがここに居るって分かったな。
「館の木の精霊に砦の方向を教えてもらって、風の精霊に偵察をさせて探したがお前を見つけられなかった。だから壺の精霊に仲介してもらって他の壺達に教えてもらったんだ。この部屋の主がトルクだって」
いろいろツッコミ処があるんだが……。
「部屋の主が寝たところでオレが夢に入ってようやく見つけたんだぞ!」
「オレがわからなかった?見えなかったのか?」
「お前の魔力が薄くなっているんだ。だから見えなかったんだ」
魔力が薄い?初めて聞く言葉だな。どんな意味だ?
「知らん!」
「知っておけ!」
「精霊は魔力で人を見る。魔力が薄いとその人物を見つけられないんだよ」
知っているじゃないか!
「薄くなる原因は?」
「多分、魔法の使い過ぎだな。それにしても一般人並みの魔力の薄さだな。どんな事をしたらそこまで薄くなるんだ?」
この砦に来てから回復魔法を使い続けたからなそれが原因だろう。
「今のお前は精霊の姿も声も聞こえないレベルだ。夢でギリギリ会話できるくらいの魔力量だぞ」
そこまで低くなっているのか。でもお前達と会った時も魔法は使っていたぞ。
「魔力量も問題だが、一番の問題は魔力が薄い事だ」
「どうすれば解決する?」
「知らん!」
「だから知っておけ!」
それでどうしてオレに会いに来たんだ?用事でもあるのか?
「お前の生存の確認だ!館の木の精霊も気にしていたぞ!」
……ダジャレか?心配かけてすまん。なんとか頑張って生きているよ。
「木の精霊が腕輪を探しているか心配しているからな。それからダジャレじゃないぞ!」
……忘れてはいないよ。多分探しているよ。
「多分探していると伝えておく」
探すからその多分を抜かして伝えてくれ!
「分かった。しかしこの場所は酷いな。血と死の匂いがする」
血と死の匂いって……ここは戦場だからな。仕方がないだろう。
「オレ達は血の匂いは苦手だからな。……好きな精霊もいるが」
「苦手な場所まで来てくれてありがとう」
「気にするな!友達だろう!」
……良い友人を持ったものだ。
「だから部屋にあるお菓子は貰っていくからな。みんなで食べるんだ!」
……本当にツゴウノイイ友人を持ったものだ。
「照れる!」
……朝、目覚めてアンジェ様から貰ったお菓子が部屋にあるか確認した。
やはり光の精霊其の三が来たようでお菓子は無い。
夢ではなかったようだ。
しかし体が重い。寝た気がしない。
「騎士トルク!おはようございます。どうしました?目の下の隈が凄いですよ。寝てないのですか?」
「寝たけど寝た気がしなかった」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思う」
眠くて体がキツイのは夢に出て来た精霊の呪いか?
数日が過ぎ、ヴィッツさんとアルさんが王都に出発する日がやってきた。
アイローン砦に援軍として向かう者達と一緒に出発する。
人数は五百人くらいかな?その中にはオレと仲の良い騎士や兵達もいる。
「騎士トルク!今までありがとうございました!」
アルさんがオレに礼をする。従者の格好ではなく令嬢の格好をしている。こっちの方が似合っていると思う。
「騎士トルクの従者になり成長できたことを誇りに思います!」
でも喋り方は従者のときと同じだな。
「アルさん、いやアルーネ様。私の方こそ今までありがとうございました。来年は王都の学校に入学する予定なので今度は私が貴方に教えてもらう
立場です。再び出会うのを楽しみにしています」
騎士と子爵の令嬢じゃオレの方が立場は低いからな。
「はい!私も楽しみにしています。また剣術や魔法を教えてください」
「もちろん」
「王都の案内も任せてください!それから王都の学校も案内しますよ!」
案内か……。エイルド様達が率先して王都や学校を案内してくれそうだからな。でもみんなで一緒に案内すれば問題ないよね。
おや?ヴィッツさんがこっちに向かってくる。
「騎士トルク、バルム砦を頼んだぞ。そして娘に魔法を教えてもらい感謝する」
「アルーネ様には魔法の素質があったからです。私が教えなくてもきっと覚えたでしょう」
「どうだろう?アルーネの婚約者にならないか?」
何イテルンダ?コノ人ハ?(何を言っているんだ?この人は?)
「……私には婚約者がいるのですが」
「第二夫人でも良いぞ!」
自分の子供を日陰者にする気か?アルーネさんは母親や姉の為に騎士になるって豪語していたんだぞ!
「お父様!騎士トルクが困っています!」
「そうだな!今度ゆっくり話し合おう!」
顔を赤くして怒っている。怒っている顔も可愛いね。
そんなこんな、していると出発の時間の様だ。
「さようなら」
「さようなら騎士トルク。王都で必ず会いましょう!」
手を差し伸べられたので握手する。
「くすっ、私にも手紙をください。それから学校に入学したらお茶会に招待しますからね。貴方の婚約者様と一緒に!」
……最後まで明るい子だった。そして最後の笑顔は反則だ!見とれて意識を失いかけた。
アイローン砦に行く馬車が出発する。
この場所に男爵様夫婦がいたら絶対に何か言われただろう。
後ろでケビンさん達がニヤニヤしているような気がする。
これからの事を考えるよりも、今からの事を考えよう。
新しい従者の教育の開始だ!
……のはずが初日から遅刻。
訓練場には来ていない。呼んで来ようと部隊の者達が言っていたが止めた。
「……別に従者って必要なかったんだよね。アルさんは騎士ヴィッツに頼まれた感じだったし、居ないなら居ないでいいか」
その後、部隊のみんなと訓練をする。
部隊で唯一魔法を覚えたダヤンを優先的に指導する。回復魔法のコツを教えるがうまくいかない。教え方が悪いのかな?
人間の自然治癒力の促進する教え方が悪いのか、自分の魔力を生命力に転換する教え方が悪いのか。
訓練で怪我した部隊の仲間で試しているのだが上手くいかないな。
……精霊が言った魔力の濃さが関係あるのかな?
でも教えてもらった時はそんな事を言っていなかったから関係ないだろう?
生命力ってモノは形がないから分からないのかもしれない。
オレの場合はあるべき姿に治すって思いながら使っているし……。
「なあ、ダヤンさん。どんな事を思いながら回復魔法を使おうとしている?」
「……治れ!と念じています」
「傷を治れ!と思うのではなく、治った状態を考えながら、治す!と念じてみて」
再度、仲間の怪我を治してみる。
仲間から「傷がムズムズする」と言ったのを聞いて傷口を見ると少しずつ治っている。
回復魔法が使えている!
部隊の仲間たちから歓声の声をあげた!
ダヤンさんも喜んでいる!
後は回復量を上げるだけだ。
「トルク隊長!私が、私が、魔法を、回復魔法を、使える、なんて……」
泣きながら喜ぶダヤンさん。おめでとう!
「今日はダヤンさんを祝って打ち上げでもするか!」
部隊のみんなに言って今日は外で食べよう!たまにはみんなと食べても良いだろう!
前にゴランさん達と一緒に食事をした食堂で夕食を食べる。
今回はお酒を飲めるかな?誰か誘ってくれないかな?
……誘ってくれなかった。残念!
他の者は二次会に行って子供のオレは護衛のケビンさんと一緒に宿舎に戻る。
「今日は楽しかったですね」
「羽を伸ばせて楽しかったよ。ダヤンさんの念願の回復魔法を覚えたし」
「騎士トルクには感謝をしています。ダヤンが魔法を使えるように訓練をしてくださって」
ダヤンさんはケビンさんと同じ砦の町の孤児で親を知らずに育った。兵になり運よく生き残って伯爵家で働くまで大変だったらしい。
部隊の仲間も同じような生い立ちで帝国に洗脳された後に正気に戻った後、全員絶望して自殺を考えていた。
しかし名誉回復の機会を得て、オレの部下として砦に行き、魔法の訓練をしてくれる。
孤児や平民が魔法を覚える機会など少なく、才能が必要な魔法使いがこの部隊から出た。
それも回復魔法を覚えて、ダヤンの将来は明るい。王族に仕える王宮騎士にもなれる可能性が出て来た。
部隊の仲間も負けずと魔力を感じる訓練をする。魔法を覚えたら少なくとも上級兵に、騎士になる事だって夢ではない。
孤児出身の仲間達が明るい将来を語り合う事ができてケビンさんもうれしそうだった。
ケビンさんはオレを宿舎に送ると「他の者達が気になる」と言って町に戻った。
二次会に参加するのだろう?子供のオレが居ないから女の子がいる酒場に行くのだろう?
分かっている!羽目外すなよ!
ケビンさんに「明日に支障をきたさないように」と部下達に伝言を頼んで別れる。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




