8 和平に至る道は遠い
アルさんの腰にある剣を取り人質に取られた。オレ達は騙された!
アルさんの背後に立ち腕を抑え、剣を首筋に近づける。
「他の牢屋を開けるのだ!」
「ローランド!何をする!」
「クリスハルト様、王国の兵を騙して牢を開ける作戦、お見事です!この子供を王国騎士の人質にして牢屋の兵を開放し、この砦を占拠しましょう!」
「ローランド!何を考えている!私はそんな事考えておらん!すぐに子供を放せ!」
クリスハルトとローランドの会話を聞いている限りではローランドの独断のようだ。
「クリスハルト様、帝国兵として王国と和平など考えてはいけません!騙されて命を落としますぞ!早く牢屋を開けろ!」
「止めろ!止めてくれ!ローランド!」
悲痛な声で叫ぶクリスハルト。
ローランドを睨みつけるヴィッツさん。いつの間にかオレの前にいるケビンさん。
ケビンさんが後ろ手で合図する仕草をしている。だいたい理解した。
「止めろ!そんな事をしても無駄だぞ!」
ケビンさんがローランドの注意を引くように話しかける。オレはケビンさんの影に隠れながら土魔法の石礫を速度重視で放った。
剣を持っている腕に当たり、剣を落とす。
その隙を付いてケビンさんがローランドを殴りつけアルさんを解放する。
アルさんはヴィッツさんに抱きしめられている。怖かったのだろうか、アルさんが泣いている。
ローランドの無力化に成功したケビンさんを見ながらアーノルド様はクリスハルトに言った。
「近くにいる者が納得をしない。これでは平和は実現しないだろう。話し合いは後日にして牢屋に戻ってくれ」
クリスハルトと三人は牢に戻り、ローランドはケビンさんが牢に放り投げた。
「……私は何も見ていなかったのか。ローランドがこの様な事をするなんて」
「……戦争を終わらせる事は難しいと再確認できる内容だった」
「私は諦めない。絶対に!その為にはまずローランドの説得からはじめる!」
「……そうか」
「ローランドの無礼を許してほしい。すまなかった」
アルさんに土下座で謝るクリスハルト。ヴィッツさんが言う。
「貴方の謝罪は受け取ろう。しかしこの子は心に傷を負ってしまった。その積み重ねが敵国を憎む結果になっている。もしも平和を求めるのなら両国の憎悪を貴方は受け止めなければならないだろう」
「……両国の憎悪を受け止めよう。平和のために!私は必ず戦争を止める!」
クリスハルトの決意は固いな。
「では話し合いは後日だ。ローランドという者を説得できたならまた話そう。戻るぞ」
そう言ってオレ達は牢獄を出る。
「トルク!同胞を助けてくれて感謝する。この恩は一生忘れない」
「ありがとうございます」
「同胞が申し訳ありません」
「御恩は必ずお返しします」
……オレが牢獄で捕虜の傷を治したのが完璧にバレたな。
牢獄を出ると全員アーノルド様の執務室に向かった。その間誰も喋らなかった。
……沈黙が重い。
アーノルド様の執務室に居るのはオレとアーノルド様とヴィッツさんとケビンさん。
アルさんはヴィッツさんの指示で部屋に戻らせて休ませている。
「さて今回の騒動の件だが。昨日、アルーネからトルクが捕虜の牢獄に行ったという報告があり、ヴィッツとケビンと話した。ケビンによると数日前に牢獄に行ったときに捕虜の声、クリスハルトの声を聞いて同情して夜にトルクが牢獄で捕虜を癒した。そうだな?」
「はい、その通りです」
絶賛説教中。はい私が悪いのです。勝手な事をしてアルさんが人質になりました。
「お前が勝手に行動をして周りに迷惑をかけた事は理解しているか?」
「申し訳ありませんでした」
「どうして許可を取らなかった?」
「許可が出ないと思いました」
帝国の捕虜を癒すよりも王国の兵を癒せと言われそうだからな。
「……許可が出ないから勝手に癒したのか?」
「はい、その通りです」
ドン!と机を叩く音でオレはビクッとした。
「馬鹿者!勝手にする事ではないと分かっているだろう!お前は騎爵位を受け取っている者だぞ!」
「すみませんでした」
頭を下げて謝る。
アーノルド様が座りなおしてため息をつく。
「お前が帝国と密談していると聞いたときは何事かと思ったが、ケビンがお前の事だから帝国兵を哀れみ同情したのだろうと言っていたが、全くその通りだったな」
ケビンさんはオレの考えを良く分かっている様だ。
「回復魔法の回数を少なくして有事の際に使用する事を決めているのに、敵に魔法を使うとは。味方の者が知ったらどうなっていた事か分かっているのか?裏切り者と言われるのだぞ!」
だから隠れてコソコソ頑張っていました。
「トルクだけの問題ではない。お前の部隊も従者のアルーネも裏切り者扱いをされるのだ」
見つからないように注意していたけど二日目で見つかるとは思いませんでした。オレの隠密能力は低いという事が判明した。
「……反省しているようだから良い。しかし少しの間は牢獄に行くのを禁じる。私の許可が出るまで待て」
……行っていいの?あんな事が有ったのに?
「帝国のロックマイヤー公爵の子息がいるとは思わなかった。それも平和を願っているとは……。少し時間を置いてから一度話し合おうと思う」
「アーノルド様、では私がまず会いましょう。その後危険がないようなら後日に席を用意して会談をするべきです」
ヴィッツさんがまず話し合いをしてその後会談をする提案を出す。オレもその話し合いに居た方が良いと思ったので喋ろうと思ったが、
「ヴィッツよ、ケビンを護衛に付けて話し合いに臨め。ケビンよ、事を知る者が少ない方が良い。お前に護衛を頼むぞ」
「了解しました」
「牢獄に行く訳は帝国の情報を調査する為だ。その事も忘れるな。他の者には私から言っておく」
「了解しました」
「そして……」
カンカンカンと鐘の音が鳴り響いた。
「敵襲か。夜襲とは珍しいな」
「確かに」
「ヴィッツは先に城壁に行き指揮を取れ。私も後から行く!」
「では失礼します」
「トルクは病院に行き、怪我人の治療を頼んだぞ!」
「了解しました」
今回は何時間も説教を受けずにすんだよ。さてと、部屋で準備をしてから病院に行くか。
「部屋で準備をして急いで病院に行く。ケビンさんも準備をして病院で会おう」
「では部隊の者に護衛を頼み、私も準備します」
ケビンさんと別れて部屋に戻るとアルさんがオレの準備をしていた。
「準備は出来ています。騎士トルク!」
……人質になり刃物をむけられたけど大丈夫みたいだな。
お礼をして用意する。
よし!気合を入れなおして出発!病院に行くぞ!
部屋の外で待っていた部下とアルさんと一緒に病院に行く。
城壁からはかがり火が灯っていて明るく、怒声や悲鳴が聞こえる。
敵の数は?味方の数は?今の状況は?考えていると怪我人が来ると同時に城壁の怒声や悲鳴が聞こえず静かになっている。
不思議に思ったが先に怪我人を治療する。
怪我は……矢が三本ほど刺さっているな。矢を取って即座に回復魔法をかけて癒した。
他の怪我人は?
まだ来ていないようだな。城壁の方も静かだな?
不思議に思って部下を城壁に送り前線がどうなっているか確認をさせた。
少ししたら戻ってきたので聞いてみると、敵が攻撃を止めて撤退したらしい。
……嫌がらせの戦闘か?また少ししたら戦闘が始まるのか?
病院で待っているとヴィッツさんが来て説明をしてくれた。
再度敵が来るかもしれないから味方は待機させておくらしい。オレは何かあれば起こすから病院のベッドで休んでおくように言われた。
ヴィッツさんはアルさんを部屋で休ませるように指示をしている。
少し愚図っていたが説得をして部屋に戻った。
オレも病院のベッドで休憩をとる。
興奮して寝付けなかったが程なくして眠った。
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