2話
栗山直美は高校で授業を受けていた。
直美は現在、高校3年生。
共学校であるが、クラスに男は一人としていない。
1年生のときは男も何人かいた。
しかし、イジメや学校側の差別的な対応に耐え切れず、この学年最後の男子生徒も昨年末に退学していった。
「それではこれで授業を終わります。ホームルームの準備をしなさい」
担任の橋本瞳が言った。橋本は非常に厳しい教師である。とくに男子生徒がいた頃は…
「直美!帰ろ!」
話しかけてきたのは前田百合。家が近所で、小学校のときからの友だちだ。
「うん!」
直美は応じる。ちなみにこの2人の共通点は他にもある。2人とも男兄弟がいるのだ。直美には兄、百合には弟だ。
「最近、お兄さんどう?」
百合はきく。
「うーん、あんまり変わりないかな。今日も大学行ってるみたいだし」
「そっか…うちは相変わらず全然だわ…」
百合の弟の英樹は小学校時代のいじめに耐え切れず、14歳となった今は家に閉じこもったままである。
「そっか…それはそれで大変だよね…。でも兄貴見てるとこっちも辛くなるよ。よく外出ていけるなって思う」
ちなみに直美も百合も男兄弟に対して嫌悪感は抱いていない。家によっては男兄弟は姉や妹に嫌われ、家庭内でのイジメからDVにまで広がってしまうことも少なくない。
しかし直美は、がんばって生きていこうとしている直斗に対し、もう無理して外に出る必要はないのではないかと考えている。
「あ、あれ…」
百合がまっすぐ指差して言った。
「男のくせにフラフラ遊んでんじゃねーよ!」
「ホント、お前らみたいなゴミクズ消えてしまえよ!」
クラスメイトの前田有紀と坂本春海が中学生くらいの男の子2人を追い詰めていた。