喚びし者
三人が魔方陣に巻き込まれる少し前、とある異界のとある国のとある城に存在する石造りの部屋。
殺風景のこの部屋にはローブを纏った数人の人間と、中世ヨーロッパ時代に存在した王族のような服装に身を包んだ男性と少女が居た。
「お父様、伝承通りに魔方陣を構築しましたが上手に行くでしょうか?」
「さぁな。こればかりは私も何も言えないんだ。…信じるしかない」
二人は親子であり同時に国を預かる王族である。少女の名は【エストレーリャ・ミティオル】年齢は10代後半ほどで、綺麗な金色の髪をしており十人中十人が振り返る美少女と言える容姿をしている。父親は【レオガルド・ミティオル】年齢は30代後半位でダークブラウンの髪をしている。
「国王様、準備が整いました」
「…ご苦労だった。エスト」
「はい、お父様。この世界を護ってくれる勇者様、来てください!」
少女…エストが持っていたナイフで人差し指を軽く切る。人差し指に付けた切り傷から一滴の血が落ち、床に書かれた魔法陣が眩い光を発し部屋を包んだ。
◆◇◆◇◆◇
は、初めまして!私はエストレーリャ・ミティオルと、申します!年齢は18歳ですけど、この王国…ミティオル王国継承位三位第二王女として日々頑張ってます!
ですが、最近は周りに居る大臣の方々が魔王の復活などと言っているのを耳にしてしまいました。魔王と言うのは数百年前に魔物を率いて幾つもの国を破滅させた恐ろしい存在なのです。
そんなある日。執事とメイドを纏めているメイド長の【セラス・シーウォル】に連れられお父様が何時も居る書斎に来ました。
「エストも既に噂は耳にしているだろう」
「…魔王復活、ですか?」
「あぁ、最近になって魔物の行動が活発になり王都近郊以外の町や農村を管轄に入れているギルドや騎士団、宮廷魔道術師たちでさえも追いつかん」
お父様はこの状況を憂いていた。本当にどうかはお父様の胸の中だけど、瞳の中の色が悲しみの蒼色を抱えていました。
「…エスト、私は代々受け継がれてきた説話に書かれている勇者を喚ぼうかと思っている」
「ミスティア物語では確か、王族の一人が魔方陣に血を一滴落として召喚すると…」
出てきたミスティア物語は、このミティオル王国建国以来の事が御伽噺として絵本にされ王国内で有名な話の一つなんです。ただ、御伽噺や伝説と云う範囲内であり実際にあったかは分りません。
ミスティア物語の中で、お爺様から28代前の王様が危機に瀕した時、お城の中にある何も無い石造りの部屋…現在は召喚の間として使われています。話しを戻して、続けますね。その部屋で、準備をした後に血を一滴垂らした瞬間、光に包まれ魔法陣の上に黒髪の男性が居たそうなんです。喚ばれた彼は不思議な力を使いこの国を護りました、と云うお話です。
お父様は、このミスティア物語の魔方陣で勇者様を喚ぼうとしているらしいです。
「セラス、宮廷魔道術師たちを召集し魔方陣の構成をするよう伝えてくれ」
右斜め後ろに居たセラスは一回頷き部屋を出て行きました。そして、時間は進み私は人差し指を軽くナイフで切り血を垂らしました。すると、魔方陣は光り出し光が収まると其処には私と同い年くらいの男性が三人、女性が一人居ました。
「初めましてですね。私、桜城 和尊と言います。以後お見知りおきを」
一人意識のあった男性は落ち着きと余裕を持ち合わせた優雅な挨拶をしてきました。けど、お父様や宮廷魔道術師の皆様方は唖然としていて私が一歩前に出て挨拶をしました。
「初めまして、私はミティオル王国継承位三位第二王女のエストレーリャ・ミティオルです。ようこそ、ミティオル王国へ歓迎いたします。勇者様」
「歓迎、ありがとう御座います。エストレーリャ姫」
ニコッと彼は私に微笑み掛けたくれた。トクン、トクンと彼の微笑みを見た時に心が温かくなりモヤモヤが生まれました。この感情は一体何なのでしょうか?その答えは分らずお父様方の意識が戻るときまで一人悶々と考えていました。
そしてこの時、私はまだ知りませんでした。彼が私たちの国を、世界を大きく動かす鍵だという事を…