魚
確かに単語帳のショウケースでは、魚たちは規則正しく並んでいて、観察しやすい。
しかし、単語帳の魚は死んでいる。名札と見比べれば名前は覚えられるかもしれないが、もはや泳がない魚を見ただけでは、それを知ったとは言いがたい。
それを知ってか、例文集の生きた魚を見に行こうという人がいる。そう、例文集の例文の中では、魚たちは生きて泳ぎ回っている。
しかし、そこでは客に見せるべく環境が美しく整えられ、例文の中の流れは人為的な水流に過ぎない。
やはり、魚は自然の中で泳ぎ回ってこそなのだ。会話や物語の流れの中で、生き生きと泳ぐ魚たち。文脈に放たれた魚は身を翻し、生命感の溢れる体を躍らせながら、我々の眼前を輝き通り過ぎて行く。そのとき、まさにその瞬きほどの間に、彼らは真の美しさを閃かせるのだ。
目を瞠れ、息をひそめて耳を澄ませ。そら、跳ねたぞ──水音がした。