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暗血の闇  作者: 黄昏
7/7

第6話

……………………………。



…ん?ここは?


周りを見渡してみると、そこは、リビングだった。


俺は、リビングのソファーに横たわっている。

なぜ、こんなとこに居るのだろうか?


時計を見ると、12時を過ぎている。

リビングからは、眩しい光が注ぎ込んでいる。



…そうだ。

どうなったんだ?

薙咲は!?葉月は!?幸土さんは!?

どうなったんだ!?



だいたい俺は、なんで、こんな所で寝てんだ!?

あれからどうなったんだ!?




…葉月が、家に来て、怪我していた。

その後、神宮さんが来て…。

…神宮さんが葉月を襲ったんだ。

たぶん幸土さんも…。



…それからどうしたんだ?


思い出せない…。







「ただいま〜♪」

玄関の開く音と共に、薙咲の声が聞こえた。



「薙咲!」

俺は、玄関まで走った。


そこには、いつもと変わりない薙咲と幸土さんの姿があった。




「あっ、お兄ちゃん起きてたの?」


…よかった。2人とも無事だ。




薙咲は、リビングに行ってしまった。




「チサメ君、大丈夫?」


「えっ?なにが?」


「…昨日の事覚えてないの?」


「……うん」


幸土さんは、靴を脱ぎながら俺に昨日の事を説明してくれた。




昨日の夜、葉月が怪我して、家に来て、女の子に襲われそうになっていたそうだ。

女の子ってのは、神宮さんの事だろう。

そこまでは、覚えてる。



それから、突然、俺が叫び声を上げたかと思うと、神宮さんに、飛び掛かったそうだ。

でも神宮さんは、俺を避けて、そのまま、逃げていった。

葉月も無事だ。

と、幸土さんは、話してくれた。




俺が、神宮さんに飛び掛かった?

まったく覚えてない…。




「ねぇ♪チサメ君♪私達また出掛けるけど、チサメ君も一緒に行こ♪」


「えっ?あ、うん」


「ちょっと待ってて♪薙咲ちゃん手伝ってくるから」




そう行って幸土さんは、リビングに行ってしまった。

手伝うって、薙咲何やってんだ?


俺は、幸土さんの後を着いていった。




リビングに入ると、薙咲が、壁に、何かを貼っている。

幸土さんも、それを手伝ってるみたいだ。




「…何やってんだ?」


薙咲は、何かを貼るのを止めると、俺の前に立った。


「何って、誕生日の準備じゃん」


「誕生日?誰の?」


「はぁ!?忘れたの!?明日は、葉月ちゃんの誕生日じゃん!」


「あっ!葉月の誕生日ね!忘れるわけないだろ!」


…すっかり忘れてた。

ヤバいな。

プレゼントとか買ってないぞ。




「これ終わったら、プレゼント買いに行くけど、お兄ちゃんも来る?」


「あ、行く行く。買いたい物もあるし」

そう言えば幸土さんが言ってたな。

プレゼント買いに行くんだったのか。







「はい!終わりっ!」



終わったみたいだな。

ん?なんだ?




リビングの壁には、

『葉月ちゃん お誕生日おめでとう』

と書いた大きな紙が貼りつけてある。



…なにもそこまでしなくても。




「はいっ、プレゼント買いに行こー♪」




俺達は、ウザぃ位に、はしゃいでる薙咲と一緒に買い物に行った。

自分の誕生日じゃないのに、そこまで、はしゃぐなよ。






俺達は、街で一番大きなデパートに着いた。

このデパートは、大抵の物なら何でもそろってる。



薙咲達は、デパートに入ると、女の子用の小物や、アクセサリーの売っている場所に行った。




俺も付いていったのは、いいものの、回りは女の子ばかりで、明らかに場違いだ。



うーん。どうしよう。

薙咲達は、プレゼント選びに夢中になってるし。



そうだ。俺も買いたい物があるんだった。




「薙咲、俺ちょっと買い物してくるから」


「うん、じゃあ終わったら戻ってきてね」




俺は、薙咲達と別れると、目的の物がある場所に向かった。

目的の物とは、携帯だ。


このデパートには、携帯も売っている。



携帯も普及したな。

ちょっと前まで、もってる人少なかったのに、今じゃ、ほとんどの人が持ってるもんな。




携帯ショップに着いた俺は、店頭に並ぶ沢山の携帯に少し驚いた。


いろんな種類があるんだな。

どれが良いのか解んねぇや。


どうせ買うんだから、新しいの買いたいな。




「すいませーん。一番新しい携帯欲しいんですけど」


「一番新しい携帯は、いくつかありますけど、どれがいいですか?」

そう言って店員は、数個の携帯を並べた。



どれが良いかって聞かれてもなぁ。

べつにどれでもいいんだけど。




「こちらの携帯は、パソコン用のウェブサイトが観覧できるようになっています。そしてこちらの携帯は、今まで発売された携帯の中で一番軽いですよ」



たんたんと携帯の説明をする店員。



いろいろ説明されても解らねぇって。

電話さえ出来ればどれでもいいし。



「こちらの携帯なんかいかがでしょうか?男性の為に作られた携帯で、見た目も格好いいですよ」



おっ、たしかに格好いい。

この携帯にしよう。



「じゃあその携帯ください」


「この携帯ですね。解りました。じゃあこの用紙の、記入欄に、お名前、住所等を書いてください」


俺は、店員の言うがままに渡された紙に、書いた。

書き終わると、俺は、店員に用紙を渡した。



「では、先にお金の方を貰っておきますね」


「あ、はい。いくらですか?」


「全部で、ちょうど1万円です。それと新規申し込み料として、来月の携帯使用料金と共に、4千8百円を口座から引落しされますので」


「わかりました」

俺は、財布から1万円を取り出すと、店員に手渡した。



携帯って以外と安いんだな。

金、結構余っちゃったな。


そうだ!




………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………




俺は、携帯を受け取ると、薙咲達が、買い物をしてる場所に行った。




「お兄ちゃん遅ーい」


「ごめん、ちょっと時間かかってな」


薙咲達は、すでに買い物を終えて、俺を待っていたみたいだ。




「それで、お兄ちゃん何買ってきたの?」


「実は…携帯を買ったのさ!」

俺は、自慢気に携帯を取り出した。




「うそ!?この携帯最新のヤツじゃん!いいなぁ〜。」


薙咲は、俺の携帯を、羨ましそうに手に取り、なにやら、携帯をイジっている。




「それと、幸土さん」


「え?なに?」


「はい、これ使って」

俺は、幸土さんに携帯を差し出した。

実は、金が余ったから、俺のと一緒に、幸土さんの携帯も買った。安かったし。




「えっ!?こんなの貰えないよ!」


「いいから、いいから」


「でも…」


「せっかく買ったんだし、使わなかったら、もったいないからね」


「…本当にいいの?」


「うん。どれが良いか、解らなかったから気に入らないかもしれないけど」


「そんなことない…。嬉しい…。ありがとぉ♪」

幸土さんは、俺から携帯を受け取って、ニコニコ笑っている。




「うわっ!お兄ちゃん千草ちゃんに携帯買ってあげたの!?」


「まぁ、金が余ったしな」


「えぇ〜。普通そこまでする?まさか、お兄ちゃん本当に千草ちゃんの事が…」


「黙れ。勝手な解釈で、ものを言うな」


「……。じゃあ私にも新しい携帯買って」


「断る」


「なんでよ!いいじゃん!」


「何で俺が、お前の携帯買わなきゃいけないんだよ。それに、もう金がない」


「えっ?お金ないの?」


「ない」


「葉月ちゃんのプレゼントは?」




やっべぇ!買うの忘れてた!

どうしよう!?

今月もう金ねぇーぞ!




「…薙咲。金貸してくれ」


「…やだ」


「少しでいいから!お願い!」


「…千円だけね」


「千円…」


「なんか文句ある?」


「ないない!ありがと」

俺は、薙咲から、お金を取って、逃げるように、葉月のプレゼントを買いに行った。




「あっ!おにいちゃん!………。行っちゃった。もぅ!ムカつく!千草ちゃん帰ろ!」


「私、チサメ君待ってる♪」


「…もぉ〜!ムカつく!」




俺は、薙咲から借りた千円で葉月のプレゼントを買いに行った。


しかし、千円で何が買える?

せいぜい小さなアクセサリーくらいだろう。

俺は、千円で買えるアクセサリーを探し歩いた。

アクセサリーは、沢山売っているのだが、どれも千円以上する。




やっと見つけた千円以内のアクセサリーは、小さな天使の飾りが付いたネックレスだった。



これでいいや。

プレゼントは、心がこもっていれば、値段なんか関係ないんだし。




俺は、そのアクセサリーを買い、プレゼント用に包んでもらった。




さて、プレゼント買ったし薙咲達は、どこにいるかな?

電話してみるか。


携帯の電話帳には、まだ薙咲と幸土さんの番号しか入ってない。


せっかく携帯買ったのに、これだけじゃ淋しいな。




俺は、薙咲に電話を掛けた。




「はいはーい。誰ですかぁ?」


「俺だよ」


「は?俺じゃ解んないよ。もしかしてオレオレ詐欺?」


「ふざけてないで、今どこにいるのか教えてくれ?」


「今デパートの出入り口の所。お兄ちゃんの大好きな千草ちゃんもいるよ♪」


「………」




切ってやる。

俺は、薙咲達の居場所を確認すると、デパートの出入り口に向かった。



薙咲達の所に向かう途中、すれ違う人の中で見知った顔を見つけた。



…神宮さんだ。

幸土さんや、葉月を傷つけた神宮さんが、今目の前にいる。

神宮さんも、俺に気付いてるみたいだ。


神宮さんは、俺の方に歩いてきが、そのまま俺通り過ぎてしまった。



「おい!待てよ!」

俺は、神宮さんを呼び止めた。



「なんか用か?」


「ふざけんな!お前、昨日葉月に、何したか解ってんのか!?」


「解ってるさ。俺は、ただアイツを殺そうとしただけだ」


「…ぶざけんなよ。…許さない」


「許さないか。で、チサメは、俺に仕返しでもする気か?」


「あぁ…。やってやるよ」


「…そうか。じゃあ俺に付いてこい。ここじゃ他の人に迷惑だ」

神宮さんは、そう言って歩きだした。

俺も神宮さんに続いて歩く。

どこに行っているのだろうか?

神宮さんは、デパートの階段を、どんどん上って行く。




付いた所は、デパートの屋上だった。

屋上には、誰もいない。

まぁ、だいたい入っちゃいけないんだから、当たり前なんだが。




「さぁ、チサメどうする気だ?」


「お前が葉月や幸土さんに、したことを、そのまま仕返してやるよ」


「幸土?………まぁいい。チサメ、かかってこい」



…くそっ。なんなんだコイツ。

なんでこんなに平然としてるんだ…。

葉月や、幸土さんを傷つけて、なんとも思ってないのか?

そんな奴だったのか?

許さない…。

絶対に許さない!




「うぁぁぁぁぁぁ!」

俺は、神宮さんに、怒りをぶつける様に、殴りかかった。



「…しょうがないな」

神宮さんは、殴りかかって来た俺の腕を掴むと、そのまま、俺を投げ飛ばした。


俺は、地面に叩きつけられた。

神宮さんは、俺の倒れているすぐ近くに立っている。



「チサメ。これは、お前が仕掛けた喧嘩だ。チサメが本気で来るなら、俺も本気で行ってやる。まぁ、俺も一度お前の本気と闘ってみたかったし、ちょうどいい」



そう言って神宮さんは、ポケットから、折畳みナイフを取り出した。




ちょっと待て!ナイフは、反則だろ!

マヂで俺を殺す気なのか!?




「こうでもしないと、お前の本気と闘えないからな」



刺す気か?

そのナイフで俺を刺す気なのか!?




すると突然、神宮さんは、自分の手の平をナイフで切った。

手の平からは、血が流れ出て、俺の顔に数滴の血が落ちてきた。




うっ…。

気持ち悪い…。

体が熱い…。


神宮さんは、俺の眼をジッと見ている。




すると、今までの気分の悪さが、嘘の様に無くなった。




「よし、さぁチサメ。始めようか」





なんなんだよ…。

なにがしたいんだよ。

自分で自分の手を切るなんて。

おかしいんじゃねぇーのか?




「さぁ、チサメ。俺が憎いんだろ?もっと怒れよ」




俺は、怒るどころか、神宮さんが恐くてたまらない。



「ん?チサメ、どうした?仕返ししないのか?」




俺は、立ち上がって、その場から逃げ出そうとしたが、突然、右足に激痛が走った。


神宮さんに、投げ飛ばされた時に痛めたのだろうか。

俺は、激痛の走る右足を庇いながら立ち上がった。



「チサメ、どうした?」

俺の異変に気付いたのだろう。

神宮さんは、俺に近寄り足に手を延ばした。



「痛っ!」

神宮さんの手は、俺の足を軽く掴んだのだろう。

しかし、俺には、とてつもなく強い力で掴まれた様な感覚がした。



「ん〜。折れてるかもしれんな」

そう言って神宮さんは、俺と肩を組んだ。

そのまま、抵抗できない俺を連れて、神宮さんは屋上を出て、階段を降りていく。



「どこに連れていくつもりだ?」


「不思議な事を聞く奴だな。怪我したんだから病院に行くに決まってるだろ」




本当にわけの解らない人だ。

なにがしたいのか、まったく解らない。


本当に神宮さんが、葉月や、幸土さんを傷つけたのか。と疑いの気持ちがこみあがってくる。

それほど今の神宮さんは、とても人を傷つけるような人には見えない。




俺は、神宮さんに支えられ、デパートの出入口に着いた。

デパートの出入口では、薙咲と幸土さんが、会話を交わしている様だ。



「チサメ、妹と来てたのか?」


「悪いか?」


「べつに。ただ今の状況は、ヤバいと思うがな。チサメの妹が、物分かりのいい奴だと良いが」

そう言いつつ俺を支えた神宮さんは、薙咲達のいる、出入口の方に進んで行く。


すこし考えて『ヤバい』という言葉の意味が理解できた。

薙咲達は、昨日の夜の事を知っている。



俺は、薙咲達の方へ行くのを拒んだが、抵抗も虚しく神宮さんに、連れていかれた。




「お、お兄ちゃん!その人!」

俺達の存在に気付いた薙咲は、当然の反応をした。

しかし、幸土さんは、たいして慌てた様子もない。




「やぁ、チサメの妹の友達。元気か?」


チサメの妹の友達。

たぶん幸土さんの事だろう。


「…千草ちゃん知り合いなの?」

薙咲の問いに対し、幸土さんは、首を傾げた。



「あら、覚えてない?昨日逢ったでしょ?」

それを聞いた幸土さんは、すこし驚いた顔をした。



幸土さんの反応を見た神宮さんは、笑みを浮かべた。


「じゃあ、手伝ってくれるか?チサメ足怪我してるみたいだから、病院に連れていくんだが」


「あ、はい!」

そう言って幸土さんは、俺の体を支えた。

端から見れば、女2人と肩を組んだチャラ男みたいな姿に、なっている。


当然の様に、すれ違う人達は、俺達を見て行く。



俺は、恥ずかしい思いをしながら、そのまま病院まで2人に支えられながら連れていかれた。


その間、薙咲は、何が何だか理解できてないように、不思議そうな顔をしながら付いてきた。

そりゃそうだ。俺も理解できない。

2人は、知り合いなのか?




治療は、小一時間ほどで終わった。

どうやら、足首あたりにヒビが入っていたみたいだ。

病院の先生は、右足にギブスをして、松葉杖を1本渡してくれた。

一ヵ月ほどで治るらしい。


慣れない足取りで治療部屋を出ると、薙咲と幸土さんが待っていた。

そこには、神宮さんの姿は無い。




「チサメ君、大丈夫?」

俺の姿を見て、幸土さんが、心配そうに駆け寄ってきた。

薙咲はと言うと、今だに状況が理解できてないらしく、首を傾げながら考え込んでいる。




俺達は、家に帰ることにした。

家に帰る間ずっと幸土さんは、俺の事を心配していた。

家に着いた時は、すでに日は落ちかけている。


俺達は、リビングに入りテーブルを囲んで座った。



「ねぇ、ところでさぁ。千草ちゃんって、あの人と知り合いなの?」


唐突に薙咲が、口を開いた。


「えっと…、昨日の夜は、気付かなかったんだけど、思い出したの」


「なにを?」


「昨日、私が誰かに襲われた時に、あの人が助けてくれたの。あの人がいなかったら、私もっとひどいめにあわされてたかも」



ん?幸土さんを襲ったのは、神宮さんじゃないのか?

じゃあ誰が幸土さんを襲ったんだ?


そうだ。昨日の事も聞きたいし、葉月に電話してみるか。



俺は、買ったばかりの携帯で葉月の家に電話してみた。



「はーい、どちら様ですかぁ?」


「あ、葉月、今から会えるか?」


「あ…、チサメ。」

俺の声を聞いた途端、葉月のが変わった。


「ん?どうかした?」


「それより、家に行けばいいの?」


「あ、あぁ。そうしてくれると嬉しいんだけど」


「わかった…。じゃあ、すぐ行くね…」


そう言って葉月は、電話を切ってしまった。


葉月のヤツどうしたんだろ?

なんか元気が無いみたいだけど。

昨日の事を気にしてるのかな?






電話を掛けてから、もう1時間近くたっている。

普通なら、すぐに来るのに。

葉月は、まだ来ない。

2時間たっても、3時間たっても葉月は、来なかった。

時計の針は、すでに7時を指していた。




「お兄ちゃん、そろそろご飯食べようか?」


「うーん。俺ちょっと葉月の家に行ってみる」


「じゃあ、ご飯作って待ってるね」

薙咲は、そう言って夜ご飯の支度を始めた。


俺は、1度部屋に戻り、ダウンジャケットを着込み、出掛ける準備をした。

外は、寒いからな。これくらい着ていかないと。


俺は、階段を下りて、玄関で靴を履いていた。




ピンポーン




誰か着たみたいだ。

俺は、靴ひもを結び終えて、玄関を開けてみた。

そこには、うつむいたまま立っている葉月の姿があった。



「葉月!心配してたんだぞ」


葉月は、うつむいたまま何も言わなかった。



「葉月、どうかしたのか?」


「クククッ…」


「葉月?」

葉月は、うつむいたまま、笑っている。




「…遅れちゃって…………ゴメンねぇ!!」


葉月は、顔を上げたかと思うと、突然俺の首を掴み、壁に押しつけた。


「ぐっ…、葉月…」


「お前が居ると面倒だ。しばらく眠ってな」


葉月は、俺の首を掴んでいる手に、さらに力を入れた。



笑ってる…。なんなんだ…。

葉月…。どうしちゃったんだ…。


くそっ…。息が出来ない…。

…葉月………。







「チサメ!」

意識が飛びそうな中、俺を呼ぶ声が聞こえた。


すると同時に、俺の首を掴んでいた葉月の手が離れた。




「チッ…。またお前か。つくづく邪魔してくれる奴だな」


「わるいな。これが俺の使命なんだ」

そこに立っていたのは、神宮さんだった。

たぶん俺の名前を呼んだのも、神宮さんだろう。


俺は、息を調えながら、2人のやりとりを見ていた。




「使命?そうか…。クククッ…。お前が神楽だったのか」


「バーカ。気付くのが遅いんだよ」


「まだ覚醒してないみたいだな。気付かなかったよ…クククッ」


「今度は、逃がさない」


「逃がさない?クククッ…。笑わせてくれるな。その言葉は何度目だ?たしか50年前にも同じ事を言ってたな」


「…くそっ」


「それより、カグラを出したらどうだ?そのままじゃ、また私を逃がしてしまうぞ…」




…わからない。

2人の言ってる意味が、まったく解らない。

50年前にも葉月と神宮さんは、なんか関係があったのか?

ちょっと待てよ、50年前って、まだ2人は生まれてないじゃないか。

……。わからん。何を言ってるんだ?







「しょうがないな。そんなに会いたいなら、会わせてやるよ。50年前の友達にな!」


突然、もの凄い風が家の中に吹いた。

その風は、どこか懐かしく思える風だった。




「ハヅキ…。ひさしぶりですね」

風が止んだかと思うと、神宮さんの眼付きが変わった。




「生きててくれて嬉しいよ。またお前と殺し合える。クククッ…」


「そうですね。だが、今回は、昔のようには行きませんよ」


「昔も今回も同じだ。また殺してやるよ。クククッ…」


「相変わらずですね。ハヅキ、あなたは、バカですか?」


「…バカだと?それはお前の事だろ。お前は、私を殺せない。また昔の様に、私に殺されるんだ」


「はぁ、本当にバカなんですね。たしかに、僕はハヅキより力は劣ります。しかし、この状況気付いてますか?この家には、私を含めて4人の仲間がいるんですよ」


「…4人?なにを言っている?この時代に来れたのは、私とお前。そして血腐だけだろ」


「それが違ったんですよ。初めは僕も、そう思っていましたけどね。血咲と血醒も来てたんですよ」


「…そうか。じゃあ逃げなきゃな!」

そう言って葉月は、神宮さんを突き飛ばし、走り去った。



「ハヅキ!…………………はぁ、また逃がしてしまいました」


軽くため息をついた神宮さんは、静に俺に近づいてきた。



「血醒、久しぶりですね。いや、今は、チサメですね。初めまして。チサメ」

神宮さんは座り込んでいる俺に、そっ、と手を差し伸べた。




俺が腕を掴むと、神宮さんは、俺を起こしてくれた。



「さて、僕も久しぶりに出てきたんで、血醒と話がしたいのですが」


チサメ?チサメは、俺じゃないか。

神宮さんは、何を言ってるんだ?


俺が不思議そうに、神宮さんを見ていると、神宮さんは、何かに気付いた様に話てきた。


「まさか…。アナタは血醒の事気付いてないんですか?」


「あの…。さっきから言ってる意味が、さっぱり解らないんだけど」


「…。ニブイですねぇ。血醒にソックリです。では、じっくりと、お話しましょう」




そう言うと神宮さん、靴を脱ぎ、リビングに入っていった。



…なに勝手に上がってんだよ。


俺は、少しの間玄関に立ち尽くしていたが、神宮さんの跡を追い、リビングに行った。



「いまちいちですねぇ」

リビングには、椅子に腰掛けて、紅茶を飲んでいる神宮さんが居た。



薙咲と幸土さんは、なぜか床に倒れている。



「…お前。薙咲達に何した?」


「チサメを助けに行く前に気絶させておきました。チサメも薙咲達を危険な目には、会わせたくないでしょ」

そう言って神宮さんは、紅茶を一口飲んだ。




「………。それで、さっきの話って何なんだ?」


「その話ですか。薙咲達が起きてからにしましょう。僕も疲れましたし。明日話しますよ」


紅茶を飲み終わった神宮さんは、ティーカップをテーブルの上に置き、リビングを出ていってしまった。




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