第2話
つまらないかもしれませんか、暇なら見ていってください
唐揚げ3つを虚しく食べながら俺は、学校に向かっていた。
ちょうど、学校の校門に着いた時には、すでにチャイムがなっていた。
「やっべ。遅刻しちまう!」
俺はダッシュで教室に駆け込んだ。
「ギリギリセーフ!」
「アウトだ。廊下に立ってろ」
俺が教室に入った時には、すでにホームルームが始まっていた様だ。
「まじっすか?先生」
「まじだ。」
俺がトボトボ教室を出ると、教室の中では、笑い声がしていた。
くそっ。これじ恥曝しじゃねぇーか。
教室の中では、先生が何か話している。
退屈しながら、廊下から見える窓の外の空を眺めていると、やがで1人の女の子が、こちらに歩いてきた。
その女の子は、俺にペコリと小さく挨拶すると、俺のクラスに入っていった。
…?誰だ?今の女の子は。
「香度、教室に入ってこい」
そう言って先生は、教室の扉を開いた。
俺が、そそくさに席につくと、また教室に笑い声がした。
くそっ。そんなに笑う事じゃねぇーだろ。
薙咲は俺を馬鹿にしたような顔で見ている。
…。ムカつく。
ふと気付くと、さっきの女の子が先生の隣で静かに立っていた。
転校生かな?
その女の子は、日本では、珍しい青い髪で、見るからに、おとなしそうな感じだ。
「今日から、このクラスの一員になる、『幸土 千草』(コウヅチ チグサ)さんだ」
千草ねぇ。古くさい名前だな。
「幸土 千草です。ちなみに、私の髪が青いのは、染めているからです」
そう言うと幸土 千草は、軽くお辞儀をした。
教室中が笑い声で満ちた。
…なんなんだアイツは。
しかもクラスの奴等は、なぜ笑ってるんだ?
ウケる要素なんてあったか?
だいたいこの高校は、髪染めるのは、校則違反じゃないのか?
「そう言う事だ。仲良くしてやれよ」
先生がそう言うと幸土に席に着くように指示した。
納得いかねぇー。
「先生、髪を染めるのは、校則違反なんじゃないですか?」
俺が、先生に問い掛けると、先生は不思議そうな顔をして答えた。
「可愛いから許可した。校長先生の了承も得てある。ちなみに香度。お前が髪染めたら謹慎処分な。」
「な…、なんでですか!?」
また教室には、笑い声が響いた。
……。それでいいのか担任?それでいいのかクラスメートよ。
「ちなみに、幸土の席は、チサメ。お前の隣だ。まだ来たばかりで、教科書がないから見せてやれ」
「なんで俺がそんな事しなくちゃいけないんですか!」
「…。お前…逆らう気か?」
「……。いや、逆らいませんよ。この僕がそんな事するわけないじゃないですかぁ」
……脅しだ。今度仕返ししてやる…。
幸土は、俺の席の隣に座ると…。
寝始めた……。
な、なんなんだコイツは…。
「幸土さん、起きなよ。叱られるぞ」
俺は、小声で呼び掛けた。
「…。何か様?」
幸土は、無愛想な顔で、こちらを睨んでいる。
「何か様って、いきなり寝ちゃまずいだろ」
「……。ふーん」
そのまま幸土は、また寝る態勢に戻った。
…。なんなんだコイツは!
ふーん。ってなんだ!ふーん。って!
馬鹿にしてんのか!?
ここは俺が、ちゃんとルールを教えてやらなくちゃいけないな。
「幸土さん、ここは学校なの。寝る所じゃなくて、勉強するとこなんだよ。わかりますかぁ?」
フッ。皮肉たっぷりに言ってやったぜ。
「……うるさい。お前消えろ」
うつむいたまま幸土は答えた。
き、消えろ!?消えろってなんだ!?
いなくなれと!?
いなくなれイコール、死ねって言ってんのか!?
もう我慢ならん!
「先生!幸土さんが居眠りしています!」
ふん。廊下にでも立たされてしまえ。
そう考えていると先生からは、予想外の答えが返ってきた。
「可愛い寝顔じゃないか。そのままにしといてやれ」
えっ?なにそれ?
「先生…。じゃあ僕も寝ます!」
「チサメは可愛くないからダメ」
また教室の中が笑い声で満ちた。
…。なんじゃそりゃ。
ヒイキじゃないか。
……。もう幸土さんに構うのは止そう。
どうせ担任の野郎は、ヒイキするんだし…。
そうこう言ってる間に、1現目は終わってしまった。
「でわ、授業終わり。チサメ。千草ちゃんにイタズラするなよ」
そう言って先生は、教室を出ていった。
…。なんなんだ。アイツは。あれでも先生か?
だいたい『千草ちゃん』ってなんだよ。
なぜ『ちゃん』付けなんだ?
はぁ。なんか今日は疲れる日だな。
幸土は、まだ寝たままだ。
ため息をついていると、薙咲が歩み寄ってきた。
「お兄ちゃん何やってんのさ。みんな笑ってたよ」
薙咲は、軽く笑いながら話か掛けてくる。
「違う!断じて俺は、ウケを狙ってるわけじゃないぞ!」
「幸土さんにイタズラするからだよ」
薙咲は、まだ笑っている。
「イタズラなんかしてねぇ!コイツが悪いんだぞ!」
俺は、幸土さんを指で差した。
「指差さないで」
突然、幸土さんの声。
……。起きてるし。
「ごめんねぇ。お兄ちゃんデリカシーなくて」
薙咲は、俺の頭を軽く叩きながら幸土さんに言った。
「悪かったな。デリカシーなくて」
「幸土さん、私の名前は、香度 薙咲。これから薙咲って呼んでね」
「お前、いきなり何言ってんだ?」
「何って初めて会ったんだから自己紹介するのは、あたりまえでしょ」
「自己紹介ねぇ。どうせこんな無愛想な奴に自己紹介なんかしても意味ねぇーよ」
「私は幸土 千草。よろしくね。薙咲ちゃん」
ニコッと笑いながら幸土さんは自己紹介をした。
えっ!?
なにその態度の変わり様?
俺の時とは全然違うじゃん!
もしかして、ちゃんと話せば良い奴なのか?
俺も自己紹介してみるか。
「俺の名前は、香度 チサメ。薙咲の兄だ。幸土さん、よろしくな」
「だれも、お前の名前なんて聞いてない。気やすく話かけるな」
「お兄ちゃん嫌われてるし。千草ちゃん、仲良くしよーねぇ♪」
「うん」
なっ、なんだコイツ!
人が優しく声かけてやってんのに!
だいたい薙咲と俺への態度の違いは、なんだ!
「あっ、次の授業始まっちゃう!またね、千草ちゃん。それと、お兄ちゃん悪い人じゃないから仲良くしてあげてね♪」
「うん、またね。薙咲ちゃん♪」
そう言って幸土さんは、小さく手を振った。
その時、ちょうど先生が入ってきた。
「千草ちゃん、ちょっと来てくれ」
先生は、そう言って教室を出ていった。
ニヤリと笑いながら…。
幸土さんも、先生のあとを追うように教室から出ていってしまった。
……ん?授業は、どうなったんだ?
「お兄ちゃん、先生達どこ行ったんだろね?」
薙咲が、こちらに歩み寄りながら、そう言った
「お前、席についてないと先生に、叱られるぞ」
「何言ってんのよ。お兄ちゃんは、学校では、真面目君なんだね」
「あたりまえだろ。俺は、優等生なんだからな」
「えっ?なに?優等生?」
薙咲は笑いながら、聞き返す。
…。笑うなよ。
「先生達なにしてると思う?授業も、やらないで」
「転校してきたばかりだから、いろいろ話があるんじゃないか?」
「そーかな?もしかしたら…」
「もしかしたら?」
「先生と生徒の禁断の愛!とか」
「なんで、そーなるんだよ」
「だって先生、千草ちゃんの事、可愛いってヒイキしてたし」
薙咲は、口に手をあてて、クスクス笑いっている。
「そんな事あるわけねーだろ」
「コラッ!お前達なにやってるんだ!」
いきなり怒鳴り声が聞こえたかと思うと先生が、教室の扉の近くに立っていた。
「やばっ!先生だ!お兄ちゃんまたね!」
そう言って薙咲は、素早く席に戻った。
「薙咲とチサメ、今日、全授業が終わったら、残っててくれ」
「えぇ〜なんでぇ〜?」
薙咲が、いかにも嫌そうな顔をして答えた。
「大事な話があるんだ。必ず残るんだぞ」
「はぁーい。わかりましたよ〜。ところで先生、千草ちゃんは?」
薙咲が先生に問い掛けたが、先生は、ニヤリと笑って教室を出ていってしまった。
「何で無視すんだよ!」
薙咲が声を張り上げて言ったが、すでに先生には、聞こえていない様だ。
先生がいなくなってから薙咲は、ご機嫌ナナメだ。
先生返ってこねぇな。
なにやってんだ?
そんな事を考えてる内に、昼休みに、なってしまった。
「お兄ちゃん、弁当食べよ♪」
薙咲がニコニコしながら駆け寄ってきた。
コイツ怒ってたんじゃないのか?
「弁当ぐらい1人で食べろよ」
「え〜。だって1人で食べても、つまんないじゃん」
「だからって、わざわざ、俺の所に来なくていいだろ」
「だって千草ちゃんと食べようと思ったけど、千草ちゃん戻ってこないし。」
「葉月と食べればいいだろ」
「今日、葉月ちゃんは、休みだよ。気付いてなかったの?」
…。アイツ休んでたのか。
気付かなかった。どうりで静かなわけだ。アイツがいると、うるさくてかなわんからな。
「ねぇ、お兄ちゃん、何で千草ちゃん帰ってこないんだろね?」
「知らねーよ」
俺は、弁当を食べながら答えた。
「やっぱり禁断の愛なんじゃない?」
クスクス笑いながら、薙咲言った。
「1人で言ってろ」
「だって、ずっと戻ってこないんだよ。心配じゃん」
「心配なら見てくればいいだろ」
「見てきたよ」
「いつ?」
「昼休みの前にトイレ行った時。千草ちゃん達どこにも、いなかったもん」
「ちゃんと探したのか?」
「探したよ。職員室も保健室も会議室も校長部屋も。他の部屋も全部探したよ」
「ふーん」
「ちょっと、私の話ちゃんと聞いてんの?」
「聞いてるよ」
「はぁ、先生は何考えてるかわかんないね」
「そーだね」
俺は適当に薙咲の話を聞き流していた。
「なんか様子変だったし」
「ん?」
「だってさ、なんか気持ち悪い笑み浮かべてたじゃん」
……。そうだ。そういえば、何で先生は、あんな笑みを浮かべたんだろ?
まるで何か企んでる様な顔だった。
「それにさ、先生、私達に何の用事があるんだろうね?」
「先生が戻ってきたら解るさ」
「そーだね。じゃあ私そろそろ戻るね」
「あぁ。じゃあな」
休み時間が終わり、授業の時間になっても、先生と幸土さんは、戻ってこなかった。
次の授業の時間になっても……。
全授業が終わった。他の生徒達は、先生が居ない事を良い事に、皆、自由に帰宅し始めた。
……。とうとう戻ってこなかったな。
なにやってんだろ?
だいたい、俺達を残させてるが、先生は本当に来るのか?
「お兄ちゃん、先生遅いね」
「そーだな。もう6時半だぞ」
「私、早く帰りたいのに〜。楽しみにしてたテレビが7時から始まるんだよ〜」
「しょうがねぇーだろ」
「あぁ〜もう!私帰る!」
薙咲は、そう言って教室を出ようとした。
「遅くなってスマンな」
先生だ。
「先生遅すぎ!」
「悪かった。いろいろ準備に手間取ってな」
準備?
「用事があるなら早くしてよね!私7時から見たいテレビがあるんだから!」
「7時か。間に合わないかもしれんな」
先生は、ニヤリと笑って答えた。薄暗い教室の中、先生の笑い方が一層不気味に思えた。
「で、先生。用事は何なんですか?」
俺は先生に問い掛けた?
「用事か?クククッ。」
先生は、さらに不気味な笑い方をした。
なんだ?何笑ってるんだ?
「千草…。入ってこい…」
静に教室の扉が開くと、幸土さんか、ゆっくりと入ってきた。
「千草ちゃん…?だよね?」
戸惑いながら薙咲は、幸土さんに聞いた。
幸土さんは、黙ったままだ。
薙咲が戸惑いも無理はない。
今、俺達の目の前に居るのは、確かに幸土さんなのだが、何かが、明らかに違う。
幸土さんってこんな雰囲気だったか?
冷たい眼をしている。
幸土さんの眼を見ていると、そのまま吸い込まれそうだ。
「クククッ…。準備は、すべて整った…。この国は、我々の物だ!」
国?我々の物?
先生、何言ってんだ?