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妹になった日

 算数の授業をしていた夏のある日、急にひかるの顔色がおかしくなった。

「しょ……ちゃ……ん……い……たい……」

 蚊の鳴くような声で、お腹を押さえて倒れ込んでしまった。顔からは脂汗が流れ、顔は真っ青だ。あわててすぐにひかるの母親の携帯に電話をかけた。ところが、呼び出し音が鳴るだけでいっこうに出る気配はない。救急車だ! 震える手でダイヤルを押した。

「すみません、救急車をおねがいします。俺の……俺の妹が苦しんでるんです! 早く! 早く来てください!」

 思わず口から出た「妹」という言葉。無意識にひかるを家族の一員にしていた。俺にとってひかるは妹であり、大事な存在で絶対に失いたくなかった。救急車に乗っている時もずっと手を握っていた。そして名前を呼び続けた。意識はなかったけど、呼び続けないとどこか遠い所へ行ってしまいそうで怖かった。

 しばらくして、血相を変えたひかるのお母さんがやってきた。

「翔太くん! ひかるは?」

「こっちです。今手術が終わって眠っています」

「本当にありがとうね」とお母さんが涙をためて俺の手を握った。

「ひかるちゃんのご家族の方ですね。先生からお話があります」

 看護師さんの言葉にうながされ、お母さんは足早に病室を後にした。機械的な音が規則的に鳴り響く部屋で、酸素マスクをつけられ、点滴につながれたひかるが静かに眠っている。

 俺は、ひかるの手を握って必死に祈った。絶対に死なせない! もう一度目を開けてくれるなら、ひかるのしてほしいこと全部叶えてやる。だから、もう一度俺にあの笑顔を見せてくれ! 大切な人をこれ以上失いたくないんだ。

 しばらくして、少し元気を取り戻したお母さんが戻ってきた。

「ひかるはもう大丈夫よ。虫垂炎ですって。腹膜炎をおこしかけていたから、もう少し遅かったら危なかったって言われたわ。本当に翔太くんのおかげよ」

ひかるのお母さんは、ハンカチで目を押さえながら何度も「ありがとう」と頭を下げた。

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