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どうしてここに来たのかは自分でもわからない。だが、気がつくと私はどんぐり公園でブランコに座っていた。翔お兄ちゃんの記憶がなくなってしまったのは私の責任だ。あんな男たちに絡まれたのは、自分に隙があったせいなのだから。私が電話で助けを求めたせいで、何の罪もない翔お兄ちゃんを巻き込んでしまった。それなのに、今私の心はこう叫んでいる「翔お兄ちゃん、私のことを忘れないで。あの気持ちを忘れないで」って。そう自覚すればするほど、ひどい自己嫌悪を感じる。――私ってどうしてこんなに自分勝手なんだろう。
その時、カバンの中に入った携帯電話から着信音が響いた。
「もしもし」
「ひかる、今どこ? 何も言わずに急にいなくなったからビックリしたよ」
「公園にいるよ。ごめんね、理香のこと置いてきちゃって。まだ病院にいるの?」
「いや、さっき出たところ。ひかる、先生は完全に記憶を失っているわけじゃなかったみたいだよ。話した感じだと、高校の先生をしていることは覚えていたし、家族のことも問題なく覚えているみたいだった。医者の話だと、外傷のほかに強いストレスが重なったことも記憶喪失の原因らしいよ。でも、一過性のものだから、回復する可能性も高いって言ってた。小さなきっかけで治ることもあるらしいよ」
「そっか、強いストレスもあったんだ……」
「気を落とさないで。ね?」
「うん、ありがと」
「ひかるが元気ないと、先生だって悲しいはずだよ」
「そうかな? 私のことなんて覚えてないみたいだったけど」
「大丈夫。すぐに思い出すよ」
翔お兄ちゃんが学校から姿を消してもうすでに十日が過ぎていた。クラスでの私の立場は相変わらず“目障りな存在”だったが、彩夏グループ以外の人間はたいして興味も関心もないようで、取り立てて大声で悪口を言われるような事もなくなっていた。そう、この日の朝までは――
「みんな聞いて! 担任がずっと休んでる理由、知りたくない?」
得意げな声の彩夏が、教壇の上に立ってクラスを仕切り始めた。教室で各々談笑をしていた女子たちは、一様に戸惑いを隠せないような表情を浮かべ、ヒソヒソとグループ内で「どうする?」などとささやき合っている。彩夏はタイミングを見計らったように、教室の後ろの方に固まっていた取り巻きたちに目配せをした。すると、「知りたい」とか「ここで言って」と取り巻きたちが口々に言い出し、クラスの女子たちもあっという間に同調する雰囲気になった。私は嫌な予感がしていた。彩夏と中田先生は繋がっているのだ。先生方しか知りえないような情報を握っていてもおかしくはない。
「うちのクラスのある人が、先生に怪我を負わせて入院させたんだよ。信じられないでしょ」
「やめなよ!」
理香が大きな声で彩夏を制する。だが、クラス中の目線は、私の味方をする理香にも冷たかった。彩夏は理香を一瞥しただけで、「勝手に彼女気取りになってイイ気になってんのがここにいるんだよね」と続けざまに言った。
「え、彼女って何それ」
腰まである長い髪の毛をポニーテールでまとめた学級委員の大滝さんが叫ぶように言って椅子から立ち上がった。
「詳しい話を聞きたい人、手あげて」
彩夏の声に女子が一人、また一人と手をあげた。
「多数決だと、過半数は超えてるよ」
彩夏の取り巻きの一人が、急かすように言った。
「では、今から裁判を始めます。教師を誘惑して大怪我を負わせ、入院までさせた犯人は、有罪でしょうか? それとも無罪でしょうか?」
急に彩夏の口調が変わった。さっきまでの馴れ馴れしい態度とは打って変わり、鋭い言い回しでクラス中を見まわしている。
「みんな! おかしいよ。こんなの間違ってる」
理香が必死に止めようとして、教壇の上に上がって大声を出した。だが、彩夏は再び無視をし、「もう犯人はわかっているのにね」と言ってニタっと笑った。
「ちょっと、それはやりすぎじゃない?」
大滝さんが、クラスの女子を見回して仕切るようにして言った。
「罪は償ってもらわなきゃ。そうでしょ? 大滝さん」
「え……」
「学級委員のくせに、クラスメイトの過ちを見て見ぬふり?」
「それは……」
「とにかく、犯人はみんなの前で自首するように。釈明があるならどうぞ。期限は、今から二十四時間です」
彩夏の発する一言一言が私の心に重くのしかかる。犯人というのは、まぎれもなく私のことだ。彩夏の指示通り、このまま名乗りをあげるべきなのか……私に残された時間は二十四時間しかない――。




