封筒の中の真実
何時間くらいたったのだろう。目が覚めると、私はベッドの上にいた。制服のまま横向きで小さく丸まって眠っていたようだ。セーラー服の下に着ているキャミソールが少し濡れている。悪い夢でも見たのか、背中にじっとりと汗をかいていた。異常なほどの喉の渇きを覚えた私は、階段を下りてキッチンへ向かった。
「お母さん? いないの?」
キッチンにもリビングルームにも浴室にもトイレにもお母さんの姿は見えない。急に不安な気持ちに襲われ、二階へ駆けあがった。両親が使っている主寝室のドアを開ける。ここにもお母さんはいない。私は、向かい側にあるお父さんの書斎のドアを開けた。この部屋に足を踏み入れるのは何年ぶりだろう。十年近く入ってない気がする。あまり父娘の会話がなかったこともあって、書斎に足を踏み入れることはなかったのだ。部屋は五畳ほどの広さで、黒い机、同色の椅子、そしてこげ茶の本棚が壁に沿って置かれている。まだ外は明るいというのに、窓にかかったベージュのカーテンは閉められたままになっていた。ふと白い壁を見ると、金色の額縁が目に入った。そこには「おとうさん ありがとう」と、くねくねした文字で書かれた絵が飾ってあった。似顔絵のようだが、私には描いた覚えがない。紙の下の方に「わたせひかる」と自筆サインがあることからも、きっと自分が幼稚園児の時に描いたものなんだろうけど……。
ガシャン! 突然の大きな音に驚いた。足元を見ると、グラスが真っ二つに割れている。どうやら、机の上にあったグラスを肘で押してしまったらしい。
(はぁ、本当に今日はツイてない……)
私は片付けようとして、慌ててその場にしゃがんだ。その時、机の下に置いてある黒いプラスチックのごみ箱が目に入った。中には、ぐしゃぐしゃになった封筒らしきものが一枚捨てられている。拾って手に取ってみると、A4サイズの封筒には「株式会社QAPA」という文字が書いてあり、中に厚めの紙が入っていた。人のものを勝手に見るのはモラル違反かなと少し迷ったが、私は素早く中の紙を取り出した。
その瞬間――自分の目を疑った。そこには、“DNA 鑑定結果: 親子関係 否定”と明記されていたのだ。
「嘘……こんなの嘘……!」
大声を上げた途端、ものすごいスピードで誰かが階段を上がってくる音が聞こえた。
「ひかる! どうしたの!」
お母さんが青ざめた顔で駆け寄ってきた。そして、私の目の前に落ちている鑑定書を手に取った。
「DNA……鑑定……書? これは……」
お母さんは目を見開いて口に手を当てると、膝から崩れ落ちるようにして、全身の力が抜けたようにその場に座り込んだ。