自信喪失
おぼつかない足取りで、何度か躓きそうになりながらもようやく家にたどり着いた。玄関に座り、いつものように靴を揃える。その時、突然背後から声が飛んできた。
「ひかる、大丈夫なの?」
振り返ると、お母さんがリビングルームからぬっと顔を出していた。
「さっき桜庭先生から連絡もらって、急いで会社から帰ってきたの。具合が悪いんだって?」
「具合が悪い? 先生がそう言ったの?」
「そうよ。家に帰って見てあげるように言われたわ」
「私、別に具合が悪くて早退したわけじゃないし」
「じゃあ、なんで帰ってきたの」
「色々あって……」
「お母さんには話せないことなの?」
「ねぇ、私って魅力ないのかな。女としてダメなのかな」
「突然何を言い出すかと思ったら、一体なんなの?」
私はお母さんの言葉を聞き流し、のそのそとリビングルームを出た。
「ちょっと! 一体どうしちゃったのよ!」
背中にお母さんの貼りつくような視線を感じながら、私は二階へ上がり、自分の部屋に入った。バタンとドアを閉めると、緊張が緩んだのかその場に座り込んでしまった。手足に力が入らず、制服を着たままで床に横たわる。フローリングのひんやりとした感触が頬に、腕に、足に伝わる。泣きたくなんかないのに、制御してもしきれない涙が頬を濡らした。
「ひかる? 入ってもいい?」
お母さんの声と共に、遠慮気味にドアがノックされた。
「学校で何があったの? 言いにくいことなの?」
返事をせずにいると、ドア越しにため息をつく音が聞こえた。
「落ち着いたら話してくれるわね?」
お母さんは心配そうな声で言い、「心療内科で処方してもらった薬をドアの前に置いておくね。お母さんのだけど、中に精神安定剤が入っているから。これを飲めば少しは落ち着くはずよ。夕食の時間になったら呼ぶから。いい?」
薬で楽になれるの……? それなら、飲みたい――。私はフラフラ状態の体で立ちあがり、静かにドアを開けた。そして、精神安定剤を手に乗せて口に含み、一気に水を飲み干した。