証拠写真
私は廊下を全速力で走り、印刷室のドアを勢いよく開けた。目に入ってきたのは、シンと静まりかえった室内で一人コピー機の前に立っている中田先生だった。
「あら、渡瀬さんじゃないの。そんなに息を切らして、一体どうしたの」
「あの、田辺先生はいませんか?」
「いないけど」
「桜庭先生もいないんですか?」
「見ての通り、ここにいるのは私だけよ。桜庭先生がいなくてガッカリしたでしょ?」
「いいえ、そんな……。すいません、失礼しました」
重苦しい空気に耐えられず慌ててドアに手をかけた。そして、急いで廊下へ出ようとした瞬間、背後から鋭い声がピシャリと私を打った。
「待ちなさい。あなたを呼んだのは私よ。今すぐここに連れて来なさいって彩夏に頼んだの」
「そんな……」
「桜庭先生は最初からここにはいないわ」
「じゃあ、全部嘘だったんですか」
「クビになるって聞いて驚いたでしょ?」
中田先生は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ひどいです。私、本当にビックリして……」
「渡瀬さんを呼び出したのには、大事な理由があるの。彩夏から聞いたかもしれないけど、桜庭先生と私、付き合い始めたのよ。つい最近もね、翔太くんがうちに来て泊まっていったの」
「え?」
心拍数が一気に上がり、激しい動悸を感じた。
「一緒にお酒を飲んで、その後うちへ来たのよ」
「どうせまた嘘ですよね? この前、直接先生に中田先生とのことを聞いたんですよ。恋愛関係は一切ないって言ってましたけど」
「そんな話を信じたの? 渡瀬さんって純情なのね」
「私は桜庭先生を信じてますから」
「あなたって本当に子どもよね。大人の話をそのまま鵜呑みにしちゃダメでしょ。ここに動かぬ証拠があるっていうのに」
中田先生は、羽織っている白衣のポケットから一枚の写真を取り出した。そして、人差し指と中指で写真を挟み、見せつけるように私の目の高さまで持ってきた。
「翔太くんの言っていることは嘘で、こっちが真実よ」
目の前には、信じられない光景が広がっていた。ベッドの上で翔お兄ちゃんが上半身裸の状態で、その横にはぴったり寄り添うようにシーツに包まった中田先生が写っていたのだ。
「そんな……」
「私だって渡瀬さんを傷つける気はなかったのよ。でも、こういう証拠でも見せないと信じてくれないでしょ? まぁそういうことだから、もう渡瀬さんには邪魔されたくないのよ。翔太くんは優しから、きっとあなたの気持ちを拒否できないんでしょうね」
中田先生はポケットに写真をしまうと、目を細めてうっすらと笑った。そして、無言のままで印刷室を後にした。