仕掛けられた罠
目を覚ますと、俺は見慣れない部屋にいた。木製のダブルベッドにワインレッドのシーツ、そして同色の薄い掛け布団。八畳ほどの部屋の白い壁にはニューヨークらしき夜景の大きなポスターが飾ってある。ポスターの下には真っ白いチェストと鏡台が並んでおり、鏡台の上には所狭しと香水や化粧品の瓶などが並べられていた。
すぐに起き上がって自分の置かれている状況を確認しようとしたが、頭がひどく痛んで体も思うように動かない。喉もカラカラで声が思うように出なかった。俺は昨日の記憶を必死に思い出そうとしたが、覚えているのは恋愛話で盛り上がる田辺先生と中田先生に向かって怒鳴りつけたところまでで、それ以降の記憶はまったくなかった。
ここが中田先生の部屋ではありませんようにと祈りながら、片手で掛け布団をめくり、ベッドから起き上がろうとした。その瞬間、俺は「ウソだろ!」と上ずった声をあげてしまった。我が目を疑うような光景に愕然としたのだ。昨日着ていたはずの服が脱がされており、信じられないことに一糸まとわぬ姿で俺はベットに寝かされていた。あわてて立ち上がり廊下に出ると、突きあたりの白いドアの奥から水音が聞こえてきた。誰かがシャワーを浴びている。まさか本当に昨夜、何かあったんじゃ……?
リビングのソファーに放り投げてあった自分の服を手に取り、大急ぎでズボンを履き、ワイシャツのボタンをはめ、ネクタイをしめた。そして、俺は後ろを一度も振り返らず、逃げるようにしてその場を去った。ドアを閉める時に、後ろから「ちょっと! 待って!」と中田先生の声がしたが、足は止めなかった。裸のままベッドで寝ていたという事実は隠しようがなかったが、俺は自分に暗示をかけるように「何もなかった。何もしてないんだ」と心の中で繰り返し、必死に平静を装おうとしていた。