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誤解

「その話は本当か?」

 突然ドアの方から、しわがれた低い声がとんできた。冷静だが、強い怒りを含んだ厳しい口調だった。

「あなた!」

 ひかるのお母さんは明らかにオロオロしている。

「先生、ひかるとはどういう関係なのかハッキリ説明してもらおうじゃないか」と、グレーの上下のスーツを着用したひかるの父親らしき人物が、ドスの利いた声で言い放った。まるでヤクザのような物の言い方と凄みの利いた目つきで、一歩一歩こちらに詰め寄ってくる。今にも取って食われそうな状況に、俺は完全に委縮し怖気づいていた。でも、今更さっきの発言を訂正することはできないし、何よりもひかるの親御さんに謝罪しなくてはいけないと思った。

「僕は、ひかるさんが八歳になるまで隣の家に住んでいました。その頃からひかるさんを妹のように思い、大事にしてきました。真剣にお付き合いをさせていただいています。でも、今回のことは僕の責任です。本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」

「え! じゃあ、あなたが桜庭さんのお宅の翔太くん? 同姓同名だとは思ったけど、まさかひかるの担任の先生だったなんて」と、ひかるのお母さんはかなり驚いた顔で言った。

「そうなんです。僕があの時の翔太です」

「まぁ、こんな偶然ってあるのかしら。ねぇ、あなた」となだめるような声で、ひかるのお母さんは隣に立っているひかるの父親に声をかけた。

「ふん、そんなもんはどうだっていいんだ。問題は、お前が教師のくせに生徒に手を出したってことだ」

「軽い気持ちではないんです。ひかるさんをとても大切に思っています。将来は結婚をかん……」と言いかけた瞬間、左頬に強い痛みが走った。どうやらひかるの父親に思いっきり殴られたらしい。反動で体が傾き、病室の片隅に置いてあった白いソファに倒れ込んだ。口の中に血の味がじわじわと広がる。もう一度殴りかかってきたところを、ひかるのお母さんが止めに入った。「あなた、やめて! やめて!」と恐怖に顔を引きつらせて叫んでいる。

「こんな奴、殺してやる! よくも……よくも嫁入り前の娘をキズモノにしてくれたな!」

「誤解です! ひかるさんとは一度も深い関係にはなってません」

「見え透いた嘘をつくな! 母親が母親なら子も子だな。高校生の分際で男を誘惑するとはな!」

 ひかるの父親はひどく興奮して顔を真っ赤にし、俺とひかるのお母さんをものすごい形相で睨んだ。

「僕たちは何も恥ずべきことはしていないんです。どうかわかってください……」

 恐怖と絶望感が同時に大波のように押し寄せてきた。全身が震えあがり、頭皮からつま先までの皮膚が粟立っているのを感じた。俺は、許しを乞うためにただ足元にひれ伏すことしかできなかった。

「この野郎! 出てけ! もう二度と顔を見せるな!」

 ひかるの父親は黒い革靴で、土下座をしたままの俺の頭を三回ほど強く蹴った。そして、足で俺の体をぐいぐい押してドアまで追いやり、目の前でバシンと力いっぱい戸を閉めたのだった。

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