懺悔(ざんげ)
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シンとした静穏の中、電話がけたたましく鳴り響いた。電気をつけたまま着替えもせずに放心状態でソファに横たわっていた俺は、慌てて受話器を取った。
「はい、桜庭です」
壁にかかっている時計を見ると、夜中の一時半を回っていた。
「先生、娘が……娘が……!」
聞き覚えのあるひかるのお母さんの声だった。かなり狼狽した様子で受話器に向かって叫んでいる。
「どうしましたか?」
「手首を切って、今病院にいるんです。先生、どうしてうちの娘がこんなことに……」
「手首を切った?」
受話器を置く手が小刻みに震えた。病院の住所をメモした紙きれを握りしめ、車に飛び乗った。赤信号を無視し、更にアクセルを踏み込む。目の前の速度計が100を振り切っていた。病院に着くまでのおよそ十五分間、俺は完全に正気を失っていたように思う。ただひかるが無事でいて欲しいと祈っていた。
五階建ての大きな総合病院が見えてきた。正面玄関前のロータリーに車を急停止させたところに、ちょうど一台の救急車がサイレンを鳴らしながら到着した。二人の救急救命士が手早くストレッチャーを担ぎ出し、それを三人の看護師が慣れた手つきでドアの内部へ押しやった。俺も看護師の後に続いて、ドアのすき間に体を滑り込ませた。
「すみません! ここにさっき運ばれてきた渡瀬、渡瀬ひかるはどこですか!」
俺は、栗色に染めた髪の毛を頭の高い位置でお団子にしている若い看護師に声をかけた。看護師は俺の顔を一瞥し、向かい側のドアを指さした。焦慮する気持ちを抑え、音を立てないように白い引き戸のドアを慎重に開ける。目の前には、ベッドに寝かされている青白い顔をしたひかるの姿があった。今にも折れそうなほど小さくて細い体には、たくさんの管と線がつながれていた。そして、ピッピッと規則的に鳴る音だけが静寂な病室に響き渡っていた。
「ひかる、ごめんな。本当にごめんな」
ひかるの白くなった血の気のない頬をそっと指で撫でた。どんなに話しかけてみても、頬を撫でてみても、手をぎゅっと握ってみても、ひかるは何の反応も示さない。ただ、瞼を閉じて静かに眠り続けるだけだった。
――俺はなんて薄情で卑怯な男だったんだ。ひかるを愛してると言っておきながら、中田先生に握られた弱みに簡単に屈してしまった。「結局は保身だったんでしょ」と言われても、何も反論はできないだろう。俺にはもっと大切な守るべきものがあった。それなのに、結果的には俺の行動がひかるを深く深く傷つけてしまったんだ。
どんなに後悔してもしきれない。俺は自分の犯した間違いの大きさを改めて実感し、懺悔の気持ちで胸が押しつぶされそうだった。