指輪
昨日、本小説「永遠の愛」をお気に入り登録してくれた方がいらっしゃいました^^本当にありがとうございます!感謝です♪
プリクラマシンを離れ、俺たちは手をつないだまま階段を一歩一歩上がっていった。ひかるの手の平から伝わってくる温かいぬくもりが心を和ませる。このまま時が止まってしまえばいいのにと思った。
硬貨を入れて、UFOキャッチャーの前にひかるを立たせた。腕は悪くない。でも、肝心なところでつかみかけたぬいぐるみを落としてしまう。何度も引っかかりそうになっては、するっと抜ける。八回ほどトライしたところで、ひかるは悔しそうにガンっとプラスチックの台を叩いた。「出てこないかなー」と言いながら、景品が出てくる穴をのぞきこむ。そして、泣きそうな顔で「取れないよ」と呟き、その場にしゃがみこんでしまった。
「……ったく、しょうがねぇな」
俺はレバーを握った。ウィーン――ガコン――。フレンチブルドックらしき潰れた顔のぬいぐるみが出てきた。全長七cmくらいで、頭と鼻の部分が異常に大きく、胴体は短く小さい。頭にはストラップらしきものもついている。
「翔お兄ちゃん、すっごい! 上手すぎるよ!」
パチパチと手を叩きながら横でひかるが大きな声を出した。
「お前もやってみろ。教えてやるから」
ひかるの手をレバーに置く。上から、自分の手をぴったり重ね、そのまま誘導した。ウィーン――ガコン――。
「うっそ! 一回で取れるなんてすごい!」
ひかるは大きな目をきらきらと輝かせて、本当に嬉しそうな顔をする。
「二つあるから、翔お兄ちゃんとおそろいだね! いろんな犬種のぬいぐるみがあるのに、フレンチブルが連続で取れるなんて不思議っ!」
まるで子どものように小躍りして喜ぶ姿を見ていると、あの頃――そう、八歳の頃のひかるが戻ってきたような気がした。
「これ、はい」
さっき取ったぬいぐるみをひかるが両方差し出す。
「いらないのか?」と聞くと、ひかるは首をぶんぶんと大きく横に振った。
「ちがう、本当は欲しいよ。でも、UFOキャッチャーで取るぬいぐるみはお礼って言ったでしょ? だから、これは翔お兄ちゃんの」
「でも、俺が二個持っててもしょうがないし。片方はお前が持ってろ」
「え? いいの? 本当に?」
ひかるの顔がぱっと明るくなる。昔からぬいぐるみ好きなところは変わってないんだな……。あの頃も俺が取ってきたUFOキャッチャーの景品を、胸に抱きしめて大事に飾っていた。
車に戻り、ひかるを助手席に乗せる。そして、俺は、同じシリーズのチワワのぬいぐるみをポケットから取り出した。
「これもお前にやる」
「チワワ! 飼いたいって言ってたの覚えててくれたの?」
ひかるは目を細めてぬいぐるみを撫でた。
「あれ? このチワワ、なんか縫い目が変」
やっぱりすぐに気づかれてしまった。ひかるは後頭部の縫い目に沿って指をあてている。本当はあとで驚かせるつもりだったけど、ここでバレちゃってもいいか……。
「そこ、開けてみて」
「開けるって、糸をほどいていいってこと?」
「そう」
俺は小さなハサミを取り出して渡した。ひかるは理解できないといった様子で、ゆっくりと糸を外す。かなり緩く縫ってあるせいか、簡単に中綿が露出した。予想通り、ひかるの反応はいつもストレートだ。顔に大きな疑問符がくっついている。
「中から指輪が出てきたけど? なんで……?」
少し考えてから、「もしかして、翔お兄ちゃんが……?」と言い、ゆっくり顔を上げた。俺は黙って頷いた。
昨日の夜も俺はここに来て、UFOキャッチャーでチワワを取った。そして後頭部の部分をほどいて、買っておいた指輪を入れ、ゆるく糸で縫いつけた。裁縫は、中学時代に家庭科でボタンの付け方を習って以来だった。やり方がわからなかったから、ネットで調べながら一時間くらいかけて仕上げたのだ。
驚きを隠せないといった表情で目をパチパチさせるひかるから、俺はそっとチワワを取り、中の指輪を抜いた。そして、ひかるの左手を取って甲を上にさせると、薬指に指輪をはめた。