予期せぬ訪問
ベージュと茶系で統一された六畳ほどの自室。勉強机の上にカバンを放り投げる。キャスターのついた椅子の背もたれ部分に、脱いだ制服をそのまま畳まずに掛けた。濃い茶系のカーテンを一気に引き、壁側の窓の近くに置かれたシングルサイズのパイプベッドに横になった。淡いピンク色の掛け布団は私のお気に入りで、枕とおそろいの小花柄にしている。イルカの抱き枕にぎゅっと体を巻きつけた。
コンコン――。突然、ドアがノックされた。
「はい」
「ひかる? 担任の先生が来てくれたわよ。開けていい?」
先生が? 私のために来てくれたの? 半信半疑のまま机の上から素早く丸い手鏡を取り、乱れた髪の毛をさっと直した。そして、白いキャミソールの上に学校で着ている紺色のカーディガンも羽織る。上半身だけ起こして、ボタンは閉めなかった。
先生はひどく心配そうな顔で、「ひかる、倒れたんだってな。ひどい顔色じゃないか」と小さな声で言った。そして、私が横たわっているベットの上に座った。
「何があったのか話してくれ」
「大したことじゃなかったの。朝ご飯を食べなかったせいで倒れちゃった。私って弱すぎだよね。でも翔お兄ちゃんが来てくれて、すっごく元気になれた気がする」
「本当にそれだけなのか? 悩みがあったんじゃないのか?」
コンコン――。再びドアがノックされた。
「お茶でもどうぞ」
お母さんがドアを開けて、湯呑みをお盆ごと机の上に置いていった。ベッドで上半身だけ起こした私と、先生の座る位置があまりに近かったせいだろう。お母さんはちょっと驚いたような顔をしながらも、そそくさと出ていった。
「ねぇ、今のお母さんの顔見た?」
「あぁ」
「すっごい面喰ってなかった?」
「だな」
「バレちゃったかな?」
「大丈夫だろ」
「お母さん、先生が翔お兄ちゃんだってこと気づいてないよね?」
「今日顔合わせるのが初めてだしな」
「顔ちょっと変わったもんね。雰囲気も違うし」
「そうか?雰囲気が違うって?」
「今はなんていうか……エロオーラが出てる!」
翔お兄ちゃんはぷっと吹き出した。
「エロオーラ?」
「だってあのキス……」
「そんなにヤバかった?」
「私、初めてだったんだよ」
私は顔を赤らめて、うつむいた。