新学期
★お知らせ★
ケータイからお越しの方へ
「魔法のiランド」様のサイトで、ケータイ小説版として行間を開けて読みやすくしたものを公開しています。
まだコピーしている途中ですが、もし良ければお立ち寄りください。
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「たとえば、この愛が永遠なら」
http://ip.tosp.co.jp/BK/TosBK100.asp?I=keikoasahi&BookId=1
※ケータイ小説版ですが、PCからでも読めます♪
あの時の約束――
幼い頃にしたあの他愛もない約束は私にとってガラス玉のように脆くて壊れやすくて。
誰かがふっと息を吹きかけたら、どこか遠くへ飛んで行ってしまいそうだった。
ずっと大切にしておきたいから、心の奥底に鍵をかけてしまっておいたの。
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いつものホームで電車を待つ。銀色に緑色の線が入った車両が目の前で止まり、プシューと音をたててドアが開く。待っていましたとばかりに、勢いよく人がなだれ込む。
午前七時台の電車ってオヤジばっかり。あーあ、ユウウツ……。
八つ目の桜中駅で下車すると、白色のセーラー服に身を包んだ女子高生がすでに何列かに連なって歩きながら、おしゃべりに夢中になっていた。
四月の東京は桜がとても綺麗だ。とくに、駅前からの桜並木は観光客がこぞって訪れるほどの人気のお花見スポットになっている。ひらひらと散る桜の花びらを見ながら、ふと今日から始まる新学期のことを考えた。ダラダラとした女子高生活も三年目に突入する。もともと社交的ではないから友達も少ない、そして彼氏もいない私にとって、毎日の生活は特に面白いものではなかった。何か目新しくて楽しいことが始まるような予感もしないまま、重い足取りで学校へ向かった。
始業式で、うちのクラスの新しい担任の先生が発表された。三月まではちょっとヒステリックな女教師だったが、産休に入るので一年休むそうだ。そして、今回新しく来た担任教師は、どこか王子様のような雰囲気を漂わせた風貌でソフトな笑顔を浮かべるイケメン先生だった。ちょっぴり茶色がかったサラサラの髪の毛に、ぱっちりした二重の目、すっきりと通った鼻筋に、少しぽてっとした下唇が印象的だ。筋肉はありそうだけど細身で、身長は一八〇センチくらいだろうか。女子たちが朝からキャーキャー騒いでいた理由が今やっとわかった。
教室で壇上に立つ先生が、眩しいほどに美しい。まさに美男子という言葉がぴったり当てはまる。黒板に「桜庭翔太」と素早く名前を書き、クルリと前を向いた。濃いグレーのスーツに白いワイシャツ、淡いピンクと白のチェック柄のネクタイ。肌の色が白いから、薄いピンク色がよく似合う。さわやかな笑顔を浮かべ、ハキハキした口調で挨拶をはじめた。
「おはよう! 今日からみんなの担任になった桜庭翔太です。これから一年間よろしくな」
想像していたより声は低い。でも、透き通るような感じでどこか甘めだった。
教室中がざわついている。女子たちがヒソヒソと「めっちゃイケメンだよね。何歳なんだろ? 彼女いるのかな」などと、興奮した様子で口々に話していた。
「お前ら、俺が話している時に私語はするな! 知りたいことがあるなら手を挙げろ」
微笑みながらも、語調は厳しかった。
「センセー、何歳ですか」
先陣を切って質問をしたのは、一番後ろの席に座る彩夏だった。小麦色に日焼けした肌に大きな二重の目。薄い唇からのぞく八重歯が目立つ。欧米風のハッキリした顔立ちで、ファッション誌のモデルのようにスタイルがいい。
「お、いきなり年齢か」
先生はちょっとためらった後で「二十三」と答えた。
「キャー! わか~い!」
女子の黄色い声が教室中に飛び交った。恐らく、ドアを閉めていても廊下中に響き渡っていることだろう。
私も目の前の美男子にいろいろ聞いてみたいことはあるけど、到底無理だ。引っ込み思案で恥ずかしがり屋の生徒なんて、きっと先生の目には最初から入っていないだろうし……。カッコいい人が目の前に現れたって、どうせ相手にされないんだから。
私は本気でそう思っていた。予想をはるかに超える出来事がすぐそこに迫っているとも知らずに。