9話
「…という事で、明日は伊織の家に行く事になった」
情はその日の夜ご飯の時間に、アイガに友達の赤原伊織の事、伊織が飼っている犬の事、そして明日はその伊織の家に行く事を伝えた。
そしてその話を聞いたアイガからは意外な言葉が返ってきた。
「私も行きたい」と。
「伊織の家の犬は懐いていないらしいから、噛みつかれるかもしれねーぞ?」
「それでも良い」
「ほんとかよ?多分甘噛みとかのレベルじゃ無さそうだぞ?」
「うん。それでも大丈夫」
情は何がどう大丈夫なのか全く理解出来なかったが、そこまで言うのならと、アイガも一緒に行く事になった。
その旨を電話で伊織に伝えると軽くOKを貰えた。
「ウェルカムウェルカムー!じゃっ、明日待ってるぜ」
ピロリン♬、と電話が切れる。全く、相変わらず明るい奴だ。
伊織の家に行くと、確かに犬が居た。犬は大型犬で、白黒の特徴的な模様を見るに犬種はダルメシアンだろう。
犬は初めて見るアイガと情に警戒しているのか、ワンワンと口を開けてこちらに向かって庭から吠えている。
情はピンポーンとインターフォンを押す。
するとすぐにインターフォンから
「はいよー!今行くわー!」と、陽気な伊織の声が聞こえた。
インターフォンが切れてからほんの数秒で伊織が家から出てきた。
「休日なのに悪いなー情。で、この子がアイガちゃん?」
アイガは自分の名前を呼ばれて少しビクッとする。
「あっ、あぁ。俺のーっ……親戚だ」
アイガは親戚と言う情の言葉に少し戸惑ったが、家族でも友達でもないのだからその濁し方は適切だろう。
「へぇー、よろしく!アイガちゃん!」
「よろしくお願いします」
アイガはいつもの声のトーンで挨拶をする。
「で、今日の目的である犬は庭にいるあの子か?」
情は庭に視線を移して話す。つられてアイガももう一度庭に目を向ける。
「そうそう、まぁ入ってよ。リードは繋いでいるから」
そう言われアイガと情は伊織家の庭に入る。
犬は警戒心を解かず、前足と後ろ足の四本全てに力を入れてワンワンと吠え続ける。
「伊織、この子の名前は?」
「ディーだよ。DOGのDでディー」
「安直すぎないか?」
「そうか?でも猫に名前をつけなかった某昔の有名人よりはいいだろ。それに俺は気に入ってるぜ。響きがカッコイイだろ?」
「まぁ、確かに」
アイガはその会話には入らず、じっと犬を見続ける。
「伊織、試しにエサを持ってきてくれないか」
「了解ー」
そう言うと伊織は家からエサを持って来た。
情はそれを受け取り、恐る恐るディーにあげようとする。最悪エサが入っているお皿を持っている手が噛まれるかもしれないが仕方がない。
「ディー、ほら、エサだぞ」
情が少しずつ手を近づけるが、一定の距離を保つようにディーは情が進むに伴って後ろに下がっていく。
「うーん。確かに難しいな」
「だよなー、もう一度動物病院の先生に聞いてみるかなー」
伊織がそう話した所で、アイガが口を開いた。
「伊織さん。これ以外のエサはある?例えば味とか、入っている材料が違うもの」
「ん?あるけど、持ってこようか?」
「うん。持って来て」
アイガにそう言われると、伊織はまた家の中に入って行く。
「お前、何か分かったのか!?」
「多分。この子、このエサの味が好きじゃないみたい」
「なんで分かるんだ!?」
「……何となく……だよ」
アイガは何かを悟られないように誤魔化す。
「お待たせー!持って来たよー!」
そう言いながら伊織が持って来たエサはおそらく未開封の物だった。封を開けた形跡が無い。
「アイガちゃん、コレでいいかな?」
「うん。封を開けてもらえる?」
アイガに頼まれて伊織は封を開けて、その次に袋を開けた。やはり未開封だったのだろう。
「なぁ、伊織。さっきと全然ディーの様子が違くないか?」
「えっ!?本当だ」
ディーは尻尾をブンブンと振り、後ろ足を上手に使って飛び跳ねていた。吠える動作は一切無くなった。
「伊織さん。エサあげてみて」
「うん、分かった」
アイガに言われ、急に元気になったディーに戸惑いながらも伊織はエサをあげた。
するとディーは美味しそうにムシャムシャとエサを頬張り始めた。
「は、初めて見た…。ディー!美味しいか!美味いか!」
「おぉ、良かったじゃないか伊織。凄いなアイガも、お前の勘が当たったぞ!」
「うん。良かった」
ここに居るみんなが笑顔になる。ディーはエサを綺麗に食べ終えると元気にクルクルとその場を回り出す。
「おー!ディー!なるほど、このエサが好きだったのか!」
「確かに、人間も好き嫌いあるもんなー」
「アイガちゃんありがとなー!なぁ、せっかくだから二人とも家上がっていけよ!」
伊織にそう言われ、アイガと情は「お邪魔します」と、赤原家に入った。
アイガと情はまず家に入ってスリッパを履く。そして一歩踏み出してからリビングに着くまでに感じたのは、不自然に綺麗な家だなという事。




