6話
「おっはよー、情」
「はよーっ」
情が大学の講義室の席に座っていると、いつもの明るい声で情の背中を軽く叩きながら、髪を少し落ち着いた赤色に染めている友達の赤原 伊織が隣に座った。
「お前今日の朝飯もコンビニ弁当かー?いつか体壊すぞー?」
伊織は茶化すように言う。
「いや、今日は違——————」
「えっ!?はっ!?あの情が朝飯にコンビニ弁当じゃない物を食べただと!?」
ヤバい。口を滑らせた。間違いなく今この場で言うことじゃない。家で初対面の女の子と同棲生活を初めて、一緒の部屋で寝て、更にはその子に朝ごはんを作ってもらったなど……
とてもじゃないが言えない。というか、俺はコンビニ弁当しか食べれない動物じゃないので、そんなに驚かないでもらいたい。
「べ、弁当じゃなくてパ、パンだ。そう、今日の朝飯はコンビニのパンを食べたんだ」
情は急いで誤魔化す理由を作る。
「なんだー、そういう事かー。いやー焦った焦った。季節が逆転するかと思ったわー」
それは少し面白そうだが、この状況のコメントとしてはやめて頂きたい。
「そういや伊織、また昨日から絆創膏の数増えてんじゃねーの?」
「いやー、そうなんだよ。飼い始めてからまぁまぁ経つのに、一向に懐かないんだよなー。なぁ、なんでだ?」
「知るか」
伊織の家では犬を一匹飼っているのだが、凶暴で一向に家族全員誰一人にも懐かないらしい。そのため、いつも伊織の指や手などにはいくつもの絆創膏が貼られていた。
「なんで懐かないんだ?」と聞かれても、情は犬の専門家でもなんでもないので「知るか」と片手を軽く払うように振った。
そうこうしているうちに、教授が部屋に入って来て授業が始まる。情は勉強が好きな方ではないので、赤点が回避出来ればいいと思い半分は聞いて、もう半分は聞き流していた。
ちなみに高校生の頃は学費の関係で国立の大学を目指していたので、勉強は嫌でもそれなりに頑張っていた。
しかしもうその大学に入ったのだ。卒業さえ出来ればそれで良いだろう。情はクルクルと、窓から入る太陽の光に照らされるシャーペンを手の上でペン回しのように回転させる。
何となくで授業を受けているとあっという間に昼食の時間になり、情と伊織は学食を食べるため食堂に行く。食堂はいつも通り賑やかだ。
「情は何食べんのー?」
「一番安いやつ」
「いっつもそう答えるよなー、んで、いっつも同じやつ。飽きねーのかよ」
「飽きるけどよ、金が無いんだよ」
「ふーん。事情があって一人暮らしなのは知ってるけど、大変そうだな」
「あぁ、大変だよ」
そう話しながら、情はいつもと同じ一番安いカレーライスを。伊織は今日の気分でかき揚げうどんの食券を買い、料理を受け取り空いている席に着く。
「そういや、伊織が飼ってる犬って拾ったんだっけか?」
情は伊織の割り箸を持つ絆創膏だらけの指が目に入り、話題をふる。
「あぁ、去年ぶらぶらと学校から帰宅してたら偶然怪我した子犬が居てな。犬なんて飼ったこと無かったから、初めは申し訳ないが見過ごそうとしたんだ。だが、歩いても歩いてもピッタリ後ろに着いて来られちまったから、見過ごせなくなって、飼い始めた」
伊織は一度口にうどんを含み、飲み込んでからまた話し出す。
「でもよぉ、毎日エサは与えているのに懐かねーんだよ。懐いていないから、エサをあげる時も毎回吠えてきてヒヤヒヤする。だから散歩なんて一度も出来ていないんだよ。なんでだろうな」
情も動物は飼った経験が無いので分からない。エサを与えても懐く訳ではないのか。となると、他に何をすれば良いんだ……?んー、分からん。
「犬の飼い方については調べたのか?」
情は聞いた。
「そりゃ調べたさ、調べておもちゃも買った。だが、たいして遊ばないよ」
「じゃあ俺には分からん」
なんだか聞いておいて冷たい答えになってしまったが、仕方がない。だって、本当に分からないのだから。
午後の授業を終えて放課後になった。情は携帯でアイガにメールをする。
——大学終わった。これからバイト行く。賄い出るから、夜飯は勝手に食ってろ。テーブルに金は置いてあっただろ?
——バイトって、何の?
——ラーメン屋
——どれくらいの頻度で働いてるの?
——ほぼ毎日
——いらないって言って。賄い
——何でだよ?安く夜飯が食べられるんだぞ?断る理由なんて無いだろ
——うん。でも言って
——だから何でだよ
——言って。
——しゃーねーな。分かったよ
「ったく、何が言いたいんだ?あいつ」
情は頭をかきながら、アイガとのメッセージのやり取りが表示されている携帯を見つめる。
何故賄いをそこまでして断って欲しいと言うのか理解が出来なかった。俺は金が無い貧乏な大学生なんだぞ?




