4話
アイガは座布団に座ってベッドにもたれかかりながら、情は床に寝転びながら漫画を読んでいた時「♬~お風呂が湧きました」と、電子音がなった。
情は
「あー、あと一時間後に入るかー」
なんて、不器用な声掛けでアイガにお風呂を譲る。
「ありが……と」
情には聞こえるか聞こえないか際どい位の大きさの声で、漫画で口元を隠しながらアイガはお礼を言う。
そして漫画を閉じ、机の上に置いたアイガは立ち上がりスタスタとお風呂へと向かう。
傷に少しお湯が染みて痛かったが、それよりも温かいお湯にアイガは癒される。
少し前の情が洗面所に頭をぶつけたシーンを思い出すと、いつものお風呂に比べてお湯からは温もりも感じた。
『どうしてあの人は、私なんかに優しくしてくれるんだろう……』
アイガは疑問を抱いていた。見ず知らずの私なんかに……。お金もないし、親も居ないし家も無いと言うのに。普通の人だったら怖がって家から追い出すか、そもそも助けないかもしれない。
シーンと静まり、波を立てないお風呂のお湯をただじっと見つめて、答えの出ない質問を自問自答する。
「いつかは、明日は、この家を出て行かなきゃいけなくなる……かな…」
アイガは切なくなる気持ちでそう呟いた。
お風呂の扉を開けると、そこにはタオルと着替えがあった。このシワがついている服はおそらく情の物だろう。アイガがお風呂に入っている間、置いてくれていたのだ。
「置いてくれてたんだ……。ふふっ、ダメだよシワはアイロンかけなきゃ」
アイガは顔を綻ばせながらタオルで体を拭き、シャツと短パンに着替えて髪を乾かす。
「お風呂…出たよ」
包帯を新しく巻き直し、情の服(少し大きいTシャツと短パン)を着たアイガも不器用に「次、お風呂どうぞ」というニュアンスで情に伝える。
「ん!?あ、あー。じ、じゃあ、俺も入るか。あ、歯ブラシ洗面所にあるから水色の方使えよ」
「うん」
情は初めて見る何かに一瞬驚いたが、そそくさとお風呂へ向かって行った。
情は湯船に浸かると「んあーっ」と、大きく伸びをした。そして小さく呟く。
「俺の服を女の子が着ているの初めて見た……。なんか恥ずかしいな。シワだらけだったし…。もしかして俺、普段クシャクシャの服ばっか着てたりするのか…?」
そんな事を思いながらお風呂から出て歯を磨き、また少し漫画の続きを読んでいると、あっという間に時計は午前0時を表す。
「ん、もうこんな時間か。俺明日も大学あるから、電気消すけどいいか?」
「うん、良いよ。私も寝る」
そう言って二人はそれぞれ読んでいた漫画を閉じてアイガはベッドに、情はフローリングに敷いた友達用の敷布団にアラームをセットした携帯を起き、電気を消しに行く。
「電気消すぞー」
情はそう言ってカチッと部屋のスイッチを押す。その音と共に部屋は瞬時に夜を告げる。
情は布団に横になり、ふとアイガにこう質問した。
「なぁ、お前ってロボット……なのか?」
「分からない」
てっきり、「そうだよ」みたいな答えだと思っていただけに情は少し驚く。
「分からないって、自分の事だぞ…?」
「うん。でも、分からないの」
アイガは淡々と、でも何処か切なげに話す。
情は意味がよく分からなかった。オッドアイの目をしていて、ウィッグじゃなく地毛が銀髪で、耳からボールチェーンで揺れる先に、スイッチのような押せるボタンがあるピアスをしているのに自分がロボットかどうか分からないなんて。
もし自分がアイガの立場なら、自分はロボットなんだと思うと思う。明らかに一般的な人とは違う点が多い。…………それか、もしかして幼い頃から親に強制的にその服を着せられていたとか?だから、それが普通だと思って生きてきた。前にそんな内容の漫画を読んだ事があったような……?
「なぁ、お前って生まれた時からその服だっ───」
情がアイガに質問しようとした時、スゥスゥと静かな寝息がベッドから聞こえてきた。
「なんだ、もう寝ちまったか」
情は一度体を起こしてアイガが本当に寝た事を見ると、またゆっくりと布団に横になる。
「あいつ風呂で、明日は出ていかなきゃ……。とか言ってたよな……」
横になった後も色々とアイガについて考えたが結局、情はその日アイガの事は何一つ分からないまま眠りについた。




