1話
目を開くと知らない部屋の天井が見えた。
(ここは…何処だろう)
そう思いゆっくりと上半身を起こす。
手にふわりとしたベッドの感覚が伝わる。
「おい、大丈夫か…?」
突然人の声がした。ハッとして、驚きつつもそちらに顔を向けると、そこには見知らぬ男子大学生がいた。
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「はぁー、やっとテスト期間終わったー。長かったー!」
学校からの帰り道、自転車を漕ぎながら髪を揺らす涼しい風に当たりながら、無事にテストをやりきった達成感でテスト期間の緊張感を脱力させる男子大学生がいた。
彼の名は糸川 情。趣味無し、特技無し、彼女無し。いや、正確には一度だけ彼女がいた事はあったが、何故かすぐに恋愛感情が無くなってしまい、こちらから振っていた。
それか始めから恋愛感情など無く、周りが付き合い始めたから。とかの理由で、暇つぶしのように付き合っていただけなのかもしれない。そう長くも続かなかったし。
ちなみに別れた時に現在高校生の妹からは
「お兄ちゃんは愛という物を知らないからだよ~」
と、からかわれていた。
情はテストの点数も日常も、平凡が続くこの毎日に飽き飽きしていた。この自転車を漕ぐカラカラとした音にさえ飽きてきていた。
「ちぇっ、彼氏がいるからって兄をからかいやがって。あー、何かイレギュラーな事起きねーかなー」
そう言いながら帰りもいつもと同じ道を通る。校門を出て野球場のある公園の横を通り、もう少し進んだ所にあるケーキ屋が反対側に建つ細い路地の途中にアパートである情の自宅がある。
「さっ、この路地に入れば家だ。あ~疲れたー。
———っと、危ねぇ通り過ぎちまっ————————?」
そう思った時だった。細い路地の死角のような場所。表の店のゴミ箱などが置かれているような場所に居たのだ……一人の女の子が。しかし雰囲気が一般的な女の子とは違かった。
具体的にどう違うかと言うと、髪が白っぽい銀色で服はアニメのキャラクターのように色が鮮やかでSF風の近未来感がある白と水色の服で、パッと見た感じは『コスプレをしている女の子』という感じだった。
……でも何故ここに?全く意味が分からない。この辺りでコスプレイベントを開催された事など一度もないし、今日はそんなイベントのような雰囲気も全くもって無い。
それに服は少し汚れていて、多少体に怪我も見られる。横になって倒れ込んでいるような姿勢で意識があるかは分からなかったが、顔つきもやや苦しそうでとにかくこれはヤバいという危機感を感じざるおえなかった。
「イ、イレギュラーな事起きたけど……これはダメだろっ!」
情は女の子を抱き抱え、自転車をほおり投げるように雑に置いて走るように急いで家に帰った。考えるよりも先に体が動くとはこういう事なのだろう。
情の両親は幼い頃に亡くなっており、現在はアルバイトをしながら安いアパートで一人暮らし。妹は祖父母の家に住んでいて、そこから高校に通っている。そのため、勢いよくドアを開けても誰かに見つかる心配はない。
情も祖父母の家から大学に通う事は可能だが、幼い頃から祖父母は情よりも妹に話しかけ、可愛がり、愛情を注いでいた。
情はその空間に意心地の悪さを感じ、バイトが出来る高校生からは祖父母の家を出てこのアパートで一人暮らしをしていた。
アパートの少し錆びた鉄階段を駆け上がり、カンカンという足音が辺りに響く。狭く短い通路を通って家の玄関の前に来ると、情は女の子を一度壁に背を預けるようにゆっくりと座らせて、急いで鍵を使い扉を開ける。
情は部屋に入ると、とりあえず女の子をベッドに寝かせた。
情のアパートは1Kで、玄関を開けると細長い廊下があり、右側にキッチン左側に洗面所やトイレ、お風呂などがある。
廊下を進んでいくと扉があり、開けると決して広いとは言えないが、一人暮らしにはちょうどいい位の部屋が一つ。クローゼット付きであった。
「お、おい!大丈夫か?」
肩を揺すって声を掛けても全く反応がない。
「もしや、し、死んで…」
女の子を助けるにははすでに時遅かったかと思ったが、よく見ると呼吸はある様なので深く眠っていると信じ、少し待ってみる事にした。その間にスマホでこの服のアニメキャラクターがいるのか。はたまた、この辺りでコスプレイベントが開催されているのかなどを調べた。
調べ始めてから数分後。結果、情がスマホで調べた限りでは何の情報も得られなかった。「近所 コスプレイベント」や、「道端に倒れている女の子」それから、「銀髪の女の子」など、色々なキーワードで検索したが、どれにもヒットはしなかった。
「お、おい大丈夫か…?」
情は女の子の方を揺すって声をかけるが、やはり反応が無く女の子は目を閉じたまま動かない。
(やっぱ、天才な訳でもない平凡なこの俺では無理か…。仕方ない、心は傷むが元の場所に戻しておくか)
そう思い、もう一度女の子の体に近づいた時、女の子の瞼が少し動いた。
「うわっ!何だ!?びっくりし──」
「びっくりした」の「た」を言い終える前に女の子が目を開いた。
情はその目の色に驚いた。女の子がゆっくりと開いたその目は右目が青色。左目が緑色のいわゆるオッドアイの目をしていた。輝き方から見るに、カラコンなどではなさそうだった。この子は一体何なんだ……?
情は夢でも見ているのかという錯覚に陥る。




